第12話 相談と準備
私とレナード&ランス、ユーマの4人はバーの奥の部屋に移動し、話を続ける。他にお客はいなかったけど、さすがに『現界』絡みの話をするならね。
「俺たちの領地って、盆地の避暑地のような町ですよね。アレを、もうちょっとリアルにしたら、もっと人気が出るんじゃないかって」
「それで、モデルとなった町を見てみたいんだけど、ヨーロッパの内陸にある小さな都市国家で」
「とてもじゃないけど簡単には行けなくて、だからネットの情報だけであれこれ想像しようとしたんだけど、どうにも…」
「で、思いついたんですよね。ミリアナなら、すぐに行けるって!」
「えええ…」
いやまあ、行けるけどね? マップ指定して、さくっと現実世界の好きな場所にね。地球上どこでもどころか、位置情報が判明しているなら、それこそ月だろうが火星だろうが。実際、月面都市には行ったことがあるし。でもねえ。
「うーん…」
「ダメですかねえ。『緊急クエスト』でもない、かなり私的な使い方なのはわかってますけど」
「いえ、それは別にいいのよ。本人が負担じゃなくて、なおかつ、それこそ緊急クエストとかの優先度の高い先約がない限り」
それがダメなら、私は『調理』レシピモードその他料理に関わるあれやこれやのスキルが、自宅で使えなくなってしまう。定例の土曜日午前の『現界』生活も。
『フォークロア・コーポレーション』との最初の話し合いでも、犯罪や事故を起こすようなことでもない限りはOK、と確認はしている。実績データ作りのため、何に使ったかは逐次報告してるけど。そのための定例ミーティングでもある。
「じゃあ、他に問題が?」
「私やヘラルド、ユーマのようなドワーフやヒューマンならともかく、エルフにロードにドラゴニュートだよ? ふたりとも、偽装スキル身につけてる?」
「あー…」
「そっかあ。いや、俺たち、こういう目立つ種族を最初から選ぶだけあって、偽装してまで姿を隠す理由がなくて」
だよねー。隠す理由があるのは私くらいなものだ。
今回の話は、緊急クエストでぱっと行ってさっと片付けるとかじゃないから、『アバター現界』が長時間、人目に晒されることになる。なにしろ、やりたいことは観光みたいなものだ。どこぞの電気街ならコスプレでごまかせるかもしれないけど。
「あとはほら、『パスポート確認』とか言われたら?」
「あー…」
「なんだ、穴ばかりじゃないか、この計画」
そうだね。でも。
「ああ、時間があればなんとかなると思うよ?」
「「そうなんですか!?」」
「1週間くらい待ってもらえればね」
それだけの時間があれば、たくさん作れるし。
「それで、その国の視察はふたりだけ? 拓也…ヘラルドは?」
「街の内政担当は主に俺たちなんですよ。ヘラルドはギルマスだけに町長みたいなことやってて雑務があるし、他のギルメンは防衛に備えてライナちゃんやメイドさん達と戦闘訓練してるし」
「そう。ふたりも戦闘訓練してるの?」
「いえ、あんまり。ヘラルドもそうだけど、他のメンバーよりも既にかなりレベル上がってますからね。カンストには遠いけど」
なるほど。
「あ、ボクも行きたいってミリアナに伝えてくれないかな?」
「え、ユーマも? ただの観光みたいなものになると思うけど」
「アバターまるごとの『現界』は体験したことがないからね。『聖盾アイスフィールド』を生身で使うよりはよほど安全そうだし」
「なるほど…」
「それに、その国には行ったことがあるよ。少しは案内できると思う」
おお。さすが、資産家の御子息。
「それじゃあ、ミリアナに聞いてみて、OKなら準備するね。『神々の黄昏』ふたりとユーマ、そして…コナミ・サキの4人分を」
「「「え?」」」
言い間違いじゃないよ?
◇
以前、拓也の依頼で、現実世界の私本体を鑑定した時、拓也に隠した本当の結果は、次のようなものだった。
【氏名】ミリアナ・レインフォール
【生年月日】(鑑定対象外)
【HP】22009070/22100000
【MP】331149098/342049000
【スキル】現界、火炎魔法、氷結魔法、…
【装備】魔剣レインフォール、…
なぜにアバターの方のステータスが出たのか未だにわかっていないが、『現界』がスキル欄にあったのを見て、ピンときた。現界能力って、魔石や装備に付与できない?
早速、ユリシーズさん達技術スタッフと実験してみたところ、大成功。魔石の場合は使い捨てな上に、一回の付与で一回転移が限度だけど。発動するとパキッと割れてしまう。
ちなみに、実験成功後の技術スタッフ陣はやはり狂喜乱舞した。ある意味ようやく、『現界』能力の再現ができたからだ。つまりは。
「そ、それじゃあ、『聖盾アイスフィールド』にミリアナが『現界』スキルとして付与すれば、ボクも現実世界に転移できるようになるってことなの!?」
「そういうこと。もっとも、前島さん…ユーマであっても、一回転移するとMPの大半がもってかれるかな」
クールタイムとはまた意味が違うけど、もう一度使えるようになるまで時間がかかるということだ。
なお、ミリアナはなぜかMPを消費しない。どうやら、転移機能そのものに組み込まれているようだ。前島さんが現実世界で聖盾アンサイルを呼出す時と同じく。『あの言葉』が絡んでいるからかなあ。
「ゲームでのMP回復と同じかな。MPポーションも『現界』できるんだっけ?」
「できるよ。アイテムボックスが使えるから、私が作って放り込んであるものならいくらでも。そして…」
「『現界』スキルとして付与した魔石も、だね。現実世界の場所によっては、アイスフィールドは出しにくいだろうし、あえて魔石を使った方がいいこともありそうだ」
「と、いうことで」
ぶんっ
「ミリアナが現界スキルを付与した『聖盾アイスフィールド』がこちら」
「「「おおおお!」」」
「アイスフィールドをしばらく貸してくれっていうから何かと思ったけど、本当に…!」
「付与魔石もMPポーションもたくさん作ってきたからね。こちらは私が関わったから、ミリアナよりも充実してるよ」
と、ごまかしフォローも忘れない。
「そして今回のメイン、偽装スキルセットを付与した魔石です!」
「「おおおお!」」
「送ってもらったリアルの姿の映像を基に組合せ済だからね。キーワード『偽装』で発動するよ」
「俺のはこっちっすよね。間違えないようにしないと」
「だな」
ホントだよ。映像を見て、リアルの方の名前もちゃんと覚えてばかりなんだし!
早速、魔石を発動して偽装するふたり。あー、リアルの姿だけどアバターだし、呼びかけはレナード&ランスでいいよね。私も『コナミ・サキ』ということで。
「ボクたちのアバターはこのままでいいよね。…コナミは目立ちそうだけど」
「一応、人間の範疇に入ると思うので、見逃していただければ」
「そういう反応をしてくれるとボクも助かるよ」
あははは。はは。
「…今回の件、ヘラルド…拓也に知られないようにしないとな」
「ミリアナが一緒ってことにしとかないと、後で何言われるか…」
何か不穏な言葉が出てきたけど、気にしないでおこう、うん。
「それじゃ、ユーマ、早速お願い」
「うん。現実世界のマップ情報を使って転移先を設定して、装備スキルをオプションとして…できた!」
「じゃあ、みんなで手をつなごっか」
ぎゅっ
「…ますますヘラルドには話せないな」
「な」
「うふふふ」
さ、さあ、転移しましょ!




