第5話 クラスメートの女の子
100m走も滞りなく進み、午前の競技が順調に進んでいく。
え? 拓也の結果がどうだったかって? ぶっちぎりで一番だったに決まってるじゃない! やったね!
「くそう、俺もあんな姉がいたら…!」
「いや、俺はむしろダメだ。走る気すら失せる」
「なんでだよ?」
「お前、ログインガチャが毎度毎度SSRアイテムだったらどうする?」
「討伐も生産もしたくなくなるな。ああ、なるほど」
内容の半分も理解できない会話を繰り広げているのは、拓也といつも仲良くしているふたりだ。いや、ガチャとかSSRとかの単語はよく理解できるんだけどね? それらが組み合わさった文章がなんのことかさっぱり。いや、ホントに。
「あ、ふたりも一緒にお昼、どう?」
「「ゴチになります!!!」」
「「「え、私達は!?」」」
「あと、ボクは…」
「今日、日曜日だけど購買やってるって。ポイント精算端末もあるみたい」
「「「「しょぼんぬ」」」」
グラウンドの隅の大きな木の下にシートを敷き、私と拓也、お友達ふたり、残りの四人が座る。いやまあ、座るだけならね?
そして、満を持して、重箱を開けて…。
「あ、あの、霧雨くん!」
声がした方を振り向くと、体操着姿のままのひとりの女子生徒が立っていた。手には、小さくて可愛らしいお弁当袋が。
私も小柄だけど、この娘も小柄だ。でも、いかにも女子中学生って感じの、普通に可愛らしい女の子だ。いろんな意味で年齢とのバランスが悪い私とは大違いである。
「ん? ああ、並木か。どした?」
「い、一緒にお昼、食べませんか!?」
思い切ったような口調で、拓也にそんなことを提案する。
…こ、この娘は…。
もしかして…もしかして!?
「…拓也、この娘は?」
「ああ、クラスメートの並木…あれ、なんだっけ?」
「並木リナ、といいます! お姉さん! は、はじめまして!」
「は、はじめまして」
…うん、いい娘だね。いい娘だなあ。拓也が露骨に下の名前を忘れていたことを暴露しても不機嫌になってないよ。
「ねえ、拓也。せっかくだから、この娘も一緒にどう?」
「ん? ああ、まあ、姉さんがそういうなら」
「あ、ありがとう!」
ひょこん
「そ、それじゃあ失礼します…あれ、その重箱…」
「ああ、私が作ってきたの。…リナちゃんも、どう?」
「ふえっ!? え、でも、その…」
「おう、並木、ラッキーだな。姉さんのメシはうまいぞ!」
そうよ。とってもおいしいよ!
「じゃあ、はい。卵焼き、どうぞ」
「い、いただきます…」
…
「…ふ、ふわあああ…」
「な、うまいだろ、並木」
「おいしいです! ていうか、なんなんですか、これ!?」
「え、や、だから、卵焼き、だけど?」
「卵焼き…これが、卵焼き…。それなら、今まで食べてきた卵焼きって…」
やー、ここまでウケてくれると嬉しいなあ。『調理』レシピモードを何重にもかけて、更にマニュアルモードで丹念に微調整した甲斐があったというものだよ。なんか、調理というよりも錬成や調合に近いものを感じるけど。
「姉さんの料理って昔からうまかったけど、最近は特にすごいよな。なんで、そうめんがあんなにうまくなるんだっていう」
「あ、う、うん、ありがとう、拓也」
「…お、やっぱすっげえうめえ!」
ああ、そういえば、あのそうめんが、初めてのレシピモード活用だったなあ。まあ、気に入ってもらえてやっぱり嬉しいよ。
「…いいなあ」
「え? 並木、なんか言ったか?」
「ああ、うん…。霧雨くん、お姉さんの料理、すっごく素直に『うまい』って言うなあって」
「まあ、本当にうまいからな」
「普通、人前で家族の料理をここまで言う人はほとんどいないよ。あと、お姉さんも」
「え、私?」
「お姉さんも『ありがとう』って。なんか、いいなあって思って」
「いや、その、褒められたから、お礼を言っただけで…」
「え?」
「なに? 前島さん」
「…なんでも、ないです」
なにかな?
「ギルマスの高スペック口先、地に落ちる」
「後は転げ落ちるだけって、このことね」
「哀れ。だが、それがいい」




