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第52話 期待と嫉妬と

「…という話を、美奈子としたんだ」

「…そっか」

「で? どうなの?」

「どうって?」

「だから、お前はどう思っているのかと…」

「どうもこうもねえよ。これまでと同じだよ。何も変わっちゃいない」

「…美奈子の方は、そうでもないみたいだけど」

「あのさあ、母さん…姉さんは知らない(・・・・)んだろ? 知らないのにそういう反応(・・・・・・)ってことはさ、そういうことなんじゃねえのか?」

「…確かに、そうね」

「なあ、拓也。もう一度聞くが、お前は本当になんとも思っていないのか?」

「…そんなわけ、ないだろ。あの(・・)姉さんだぞ?」

「いや、お前、さっきは…拓也、もしかして、昔から(・・・)…なのか?」

「…気づいたのは、最近だけどな。俺もガキだったってことだよ」

「それじゃあ…どうするの?」

「どうするのか、だって? どうかするのは、父さんと母さんの方じゃないのか?」

「…すまない、まだわからない(・・・・・・・)んだ。不思議なほどに、な」

「…俺も、独自に調べてみる。あのゲームって、中学生の俺でも、びっくりするほどのすごい人脈ができるんだ」

「そうなの…。あ、ミリアナって娘は? あの凄い能力で、なんとかわからないものかしら?」

「いや、『現界』能力はそういうものじゃ…。前島の野郎の方が、まだアテになると思う」

「くれぐれも、美奈子には知られないようにな」

「わかってるよ。俺がもし姉さんと同じ状況だったら、すごく不安になるかもしれないから」

「拓也、あなた…」

「俺なりに、がんばってみるさ。たったひとりの姉さんだからな、美奈子(・・・)は」



 『ファラウェイ・ワールド・オンライン』エリア1『始まりの街』。私はひさしぶりに、『コナミ・サキ』としてひとりで散策している。


 いやあ、ちょっと反省しているんですよ。この間、前島さんの御家族を案内した時、そのバリエーションの低さにね。屋台とバーだけだったよ! 弟の優真(ゆうま)くんには、最上級のおもてなしができたけど。ただし、明後日の方向に。


 もし、ウチの両親も本格的に始めたいって時に同じ状況だったら、実際の親子だけに、あっさりバレてしまうかもしれない。頻繁にログインしているのに、本当にミリアナの支援だけなの? 他にも何か隠れてやってるのでは? それは、なに? …ま、まさか!? ってね。これまでの努力が水の泡だ。


 それに、両親にもだけど、拓也にも、今のところは知られたくない。せっかくまた仲良く話せるようになれたのに、気まずくなって逆戻りだ。ああでも、火山噴火の時みたいに『一緒に世界を駆け巡ろうぜ!』なんて言ってくれるかな? もしそうなら…う、嬉しいかも? …えへへ。


 どんっ


「あ、ごめんない…へ、ヘラルド!?」

「あれ、姉さんじゃんか。買い物?」

「ま、まあね。えっと、ひとり?…あっ」

「こんにちは、コナミ様」


 ユニークウェポン…いや、施設か、『天空城ミストライブラ』を守護する23人の戦闘メイドNPC。そのうちのひとりが、拓也…ヘラルドに付き添うように従っている。ミストライブラを所有するヘラルドが『御主人様』だからだ。


「こんにちは。…へえ、天空城のメイドさんって、買い物にも付き合ってくれるんだ」

「『神々の黄昏』の国家体制方針に従って分担させているだけだよ。特にこの『ファースト』には、ギルマスである俺の秘書みたいなことをやってもらってる」

「そ、そう。秘書、ね…」


 …うん、かわいいメイドさんだよね。ええ、とっても。


「それじゃあ、他のメイドさんは? 他のギルメンについているとか?」

「本当はそうしたかったんだけどな、こいつらみんな俺にしか従わねえんだよ。ギルメンが直接頼んでも『御主人様を通して下さい』って、テコでも動かねえ」


 ぴくっ


「ふ、ふーん。じゃあ、ヘラルドも大変ね、ひとりひとりに命令しなくちゃならなくて」

「そうなんだよなあ。何も指示を出さないと、じっと俺のことを見て待ってるんだよ。忠犬かっての」


 ぴくぴくっ


「そ、そう…。えっと、私もうログアウトするね? ほら、今日の夕食当番、私だし」

「ああ、そうだったっけ。今日のメニューは何?」

「…米」

「米? パンや麺じゃなくて、ご飯ってことか?」

「そう、米。なんか文句ある?」


 ないよね? あるとか言ったら、ご飯あげないよ?


「いや、ないけど…おかずは?」

「…これから、考える」

「えええ…大丈夫かよ?」

「…不満があるなら、メイドさんに作ってもらったら?」

「何言ってんだ? こっちで何食べたって、腹の足しにはならねえだろ」


 知ってるわよ、そんなこと。当たり前じゃない。


 …そうだ、当たり前だ。

 私…何言ってるんだろ?


「はあ…。なあ、姉さん。なんで姉さんは、城のメイド達がそんなに嫌いなんだ? 何度も言ってるけど、ただのNPCじゃねえか」

「だって、すごく頼もしそうだし…かわいいし…」

「わけわかんねえ。姉さんは生産職だろ? なんで戦闘メイドに嫉妬なんかするんだよ?」


 …え?


 拓也(・・)、今、なんて言ったの?


 嫉妬? 私が? メイドさん達に?


 私が?


「そ、それに、見た目で言ったら、姉さんの方がよっぽど…」

「…帰る」

「帰る? ログアウトするってことか?」

「そうよ! それじゃっ!」


 だっ


「お待ち下さい、コナミ様」

「…え?」


 私が逃げるように(・・・・・・)立ち去ろうとした時、メイドさん…『ファースト』が、私に声をかけた。


「御安心下さい。私達は、御主人様を全力でサポートしているに過ぎません。コナミ様のような役割は、私達には全く果たせません」

「え、でも…」

「納得できませんか? では、そうですね…」


 メイドさんは、少し考え込む(・・・・)ような仕草をする。


「御主人様、私は御主人様に、『ミリアナ・レインフォール』への宣戦布告を提案します」


「「…はい?」」

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