第53話 実態
私のアバター、『ミリアナ・レインフォール』のマイホーム。私はそこで、呼び出した『ユリシーズ・フォークロア』さんと話をする。
「連絡を受けて、ログを解析しました。…仰る通りでした。あの言葉は、我々が開発したAIプログラムからは生成されるはずのないものです」
「やっぱり、そうでしたか。ヘラルド…拓也も驚いていました。『自ら喋り出すなんて初めてだ』って。実際、あの後また命令待ちとなったとも」
「関係あるのでしょうか? あなたの『現界』絡みでワールドアナウンスに時々現れる、あの言葉の数々と」
「ある…と、思います。あの時の『ファースト』にも、私に向けた『意識』を感じましたし」
確証はない。でも、そう解釈するとスッキリする。だからと言って、全ての謎が解けたわけではない。むしろ、余計に謎が深まっている。
私の『現界』能力を祝福し、緊急クエスト後の私に労いの声をかけ、そして今回、私の不安を取り除くかのような提案をする。『神の領域』の現象にしては具体的過ぎる。現界能力が神の気まぐれで与えられたのだとしても、それとは別に、私を…私と私を取り巻く人々を見つめている、何かがいる。そう思えてならないのだが、それがさっぱりわからない。
「とりあえず、その時のNPCの提案を実行してみましょう。何かわかるかもしれません」
「あ、それはもうやりました。一応、ログを確認しておいて下さい。何も出てこないと思いますが」
「…はい?」
いや、現実の夕食に間に合わせたかったからさ、拓也…ヘラルドに言って超特急で用意させたのよ。私はミリアナをすぐ呼び出すとか言って。
結果は、ミリアナの圧勝。前衛の戦闘メイド集団、後衛の魔導士ギルド『神々の黄昏』ギルメン全員が攻め込んだのに、ミリアナには傷一つつけられなかった。理由は簡単。ミリアナが『転移』を駆使して、回避と不意打ちを繰り広げたから。チートではない。最終クエスト攻略後に、全アバターに付与されたスキルが転移能力である。もちろん、『ファラウェイ・ワールド・オンライン』限定だが。
「既に数多くこなしていた『緊急クエスト』が、多くの転移を伴うものばかりでした。それが、プレイヤースキルとしてのスキル制御で圧倒差を生み出したのでしょう」
実際、『神々の黄昏』ギルメンのひとりが転移を活用しようとしていたのだけれども、3回くらいの連続転移でへばっていた。MP消耗もさることながら、『転移酔い』を起こしまくったらしい。もしかして、現実の本体の三半規管に影響するのかな?
「わかりました。いずれにしても、私達の方でも確認してみましょう。それで、霧雨さん、『不安』はなくなりましたか?」
「…夕食の時の拓也との会話は、とても楽しかったです」
「それはそれは」
あ、なんかムカつく反応。
◇
エリア14の山岳地帯。盆地を模したその地域に、避暑地のイメージをもつ小さな町が作られている。現在、拓也…ヘラルド率いるギルド『神々の黄昏』が領地として獲得している町だ。『天空城ミストライブラ』が、認識阻害もさせずに町の上空に浮かんでいる。
「そっか、ヘラルドの好みはやっぱりそっちか」
「はい。現実世界でのそれと同じと考えていいでしょう」
「だよねー。あ、私はジンジャーエール」
「承知しております。では、何かありましたら、あらためてお申し付け下さい、コナミ様」
その天空城の大ホールで、多数の出席者を擁したパーティが行われている。給仕に歩き回るメイドさん達は忙しそうだ。
「それにしても、パーティが好きだよね、このギルド。ああ、ヘラルドが好きなだけか」
「まだ2回目だっての。国家システムが導入されてからこっち、いろいろあったからな。むしろまとめてやってるほどだ」
「あ、ヘラルド」
「しっかし、今回もミリアナは不参加か。町のNPC達も喜ぶから、今回は出てほしかったんだが」
今回のパーティの名目はいろいろだ。町を領地として獲得しました記念、それなりに人気のこの町を早速防衛しました記念、そして、この間ミリアナ・レインフォールにあっさり返り討ちにされました記念である。最後のは残念会の様相ではあるが。
…ん?
「ヘラルド、今、なんて言った?」
「え? 町のNPC達も喜ぶから…」
「NPCが、自ら喜んでるの?」
「…そういえば、変だな。運営があらかじめ組み込んでいるようなものじゃないな」
「どんな感じなの?」
「いや、町の市場とか歩くとさ、『ミリアナ様は参加されるのですか?』とか『こちらをミリアナ様にお持ち下さい』とかって、あちこちから声がかかるんだ」
「ふーん…」
「やっぱり、あの時と同じか? 運営が感知してないっていう」
「たぶん、ね…」
運営側の当面の説明は、NPCのAIが過剰反応しているという見解だ。もっとも、その反応が『ミリアナ・レインフォール』や『コナミ・サキ』に関する事柄しかないから、私の関係者だけに伝えられているのではあるが。関係者なら、『私』とミリアナが懇意にしていると思っているから、辻褄は合っている。あまりに合いすぎて、同一人物と気づかれても困るけど。
「姉さんも、メイド達とよく話すようになったよな」
「…ごめんね、ずっと変なこと言ってきて」
「それは、もう何度も聞いたさ。俺が、NPC達をどうとかしている変態じゃないことはよくわかっただろ?」
「『どうとか』? どうとかって、どんなこと?」
「どんなって…おい、またからかってるだろ?」
「むう、バレたか」
クスクスクス
「…ねえ、ヘラルドは…拓也は、誰か好きな女の子とかいないの?」
「ここで聞くことか? いないって。女は姉さんだけで手一杯だ。前島の野郎はギルメンとおかしなことになってるし…」
「ああ、前島さんね…って、それ関係あるの?」
「あるに決まってるだろ。…はあ、あいつが家に来た時はどうなるかと思ったけど」
ああ、映画行った時のことか。まだそれほど時間が経っていないのに、なんか妙になつかしい。今思うと、私も大胆だったよね。私の自室で前島さんとふたりきりになって、フルダイブのために…。うわあ、大胆どころじゃなかった! 今頃になって実感してきたよ!?
「えっと…ごめん。というか、今まで、ありがとう」
「なんだよ、さっきからいきなり、あれやこれやと」
「拓也は、その…私を守ってくれてたんだよね、いろいろと危機感のない、私を」
「…ようやくかよ。姉さんらしいといえばらしいけど」
「あはは…」
はー、なんかもう、拓也には頭が上がらないかも。お姉さんぶって世話焼いてた私がバカみたいだ。
「うん、そうだね。私も男の人はしばらく拓也だけでいいや」
「おい! だから、こんなところで言うことじゃないだろうが!」
「えー、いいじゃない。美しい姉弟愛ってことでさー」
ぎゅっ
「だあああ、腕を組むな! 離せよ!」
「もー、恥ずかしがっちゃってー。まだまだ子供だなあ」
「いいから離せ! 姉さんのはシャレになってねえから! やっぱりまだ全然わかってねえー!」
◇
「しかし、良かったよな、ヘラルドのやつ」
「ああ。俺達も、これであいつの悶々とした悩みを延々と聞かされることが少なくなるかもな」
「どうかな? 結局お姉さん、俺達のギルドに入るわけじゃなさそうだし」
「あの時は参ったよなあ。中学入って友達になった途端、『せっかくVRゲーム一緒に始めたのに姉がひとりでスローライフ始めた、どうしよう』とか言い出して」
「どんなシスコンだよと思ったけど、ゲームやリアルでお姉さん見て、ああなるほどと思って、それ正直に言ったら逆ギレされて」
「俺たちだけじゃ手に負えないと他のユーザにも声かけて、今のギルドができたんだよな」
「ギルド『神々の黄昏』、その実は、ヘラルド…霧雨拓也を慰める会、だな」
「実態としてどうよと思ったけど、どこぞのなんちゃらファンクラブよりはマシかって」
「あそこもなあ。中身女子高生率が高いところとはどうしても思えないよな。あれは引くわ」
「「「なんか言った?」」」
「うわ、出た!」
「おい、逃げるぞ!」
「待ちなさい! 今日こそは弟くんへの仲介をしてもらうよ!」
「家族にしかわからない、彼女のあれやこれや…」
「おはようからおやすみまで。私達の興味は尽きない」
「『新緑の騎士団』のギルマスはどこだ!? 変態共を野放しにしやがってー!」




