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第45話 自宅訪問

 家に、来てほしい。そう、前島さんに言われた。


『お詫びがしたいんだ。誘拐騒ぎに巻き込んだことのね』


 以前、私が行こうかって言った時は、ずいぶんと渋っていたのになあ。…うん、わかるよ? 今は、その意味が。渋っていたんじゃなくて、その、ええと…。


 そんなわけで、日曜日のお昼少し前。迎えを出すからというので、自宅のリビングで待っているという状況だ。


「…」

「ダメだからね? 拓也まで連れていけないから」

「わかってるよ。まあ、本当にお詫びみたいだし」

「ふーん…」

「な、なんだよ?」


 じっ


「ね、姉ちゃん?」

「『姉さん』、でもいいよ?」

「えっ…」

「拓也が、その方が呼びやすいなら、ね」


 『姉さん』。少し前、友達の前で拓也がうっかり言ってしまった、私を指す言葉。その時は、やんちゃなイメージの拓也に合わなくて違和感ありまくりだったけど、今は…ね。


 拓也って、本当はいつからこんなに落ち着いた感じになっていたんだろ。昔のように話ができれば…って思いながらあれこれ世話を焼いていたけど、それが拓也に無理をさせていたのかな。


「それじゃあ、『美奈子(みなこ)姉さん』」

「…えっ」

「嫌か?」

「そ、そんなこと、ない…けど…」


 名前呼びまでされるとは、思わなかった。嫌じゃない。嫌じゃないけど…なんか、びっくりした。びっくりし過ぎて…。


 ピンポーン


「迎えが来たみたいだな。玄関まで見送るよ、美奈子姉さん」

「う、うん…」


 あう、前島さんに会う前だというのに、すっかり拓也のペースにハマってしまった。なんという。…ん? もしかして拓也、『だからこそ』なの、かな?



 自宅に到着していた黒塗りのクルマに乗り、駅をまたいで数分の乗車の間に到着した、その場所。

 どこまでも続く壁に囲まれ、複数の建物と緑豊かな庭園が並ぶ広い敷地を有する、大邸宅。


「同じ市内だし、遠目には何度か見ていたけど、やっぱり大きいよね…」


 とうの昔にお気づきかとは思うが、前島さんちはお金持ちである。しかも、成金的やら会社経営的やらとは異なり、代々の資産家としての家柄である。そう、家柄があるのである。時代が時代なら、地元領主の貴族みたいな感じだろう。実際、地元企業のいくつかに投資しているみたいだし。


 そんなところの家の息子だから、こっちの地区出身のクラスメートとかは、冗談半分、皮肉半分で前島さんのことを『優希(ゆうき)様』と呼んだりするのである。まあ、あだ名みたいなものである。


「霧雨様、ようこそいらっしゃいました。リビングに御案内いたします」


 戦闘なんかに縁がなさそうな本物のメイドさんに迎えられ、洋風の本邸の玄関から続く広い廊下を、一緒に歩いていく。


 とてとてとて


 うーん、いつ到着するんだろう。もう、1分は経っているような。広いなあ。とにかく、広い。自宅というよりは、どこかのホテルか美術館のような公共施設みたいな趣だ。


「こちらです。どうぞお入り下さい」


 案内された部屋には、前島さん…はおらず、中年の男性と女性がソファに座っていた。


「おお、ようこそ、いらっしゃい。優希の父だ」

「母です。美奈子さんよね? さあ、こっちへ」

「は、はい、霧雨美奈子です」


 いきなり御両親に会って、御挨拶されてしまった。前島さんによく似た風貌、優しそうな表情。どちらも、前島さんを更に穏やかにしたような雰囲気。間違いなく、御両親である。


「いやあ、噂のお嬢さんに、一度会いたくてね。ようやくかなったよ!」

「そうね。話に聞くよりも、ずっとずっと可愛らしいわ」

「はあ…え、噂?」

「優希の友達がよく遊びに来るのだが、誰も彼もが君のことを語っていってね」

「VRゲームのリプレイ…だったかしら? ここのスクリーンに投影しながら、それはもう熱心に」


 リプレイ? 『コナミ・サキ』としての私は派手な討伐クエストをこなしているわけではないし、友達が『新緑の騎士団』ギルメンのことを指すにしても、何か一緒に活動するわけでもないし…。


「それが、面白いのよ。街で買い物をしているところとか、森でお花を摘んでいるところとか」

「この間は、優希のアバターにアクセサリを渡しているところだったか? とにかく、日常的な様子ばかりでね。ゲームのことなのに妙に微笑ましくて」


 おじさまおばさま、それ、リプレイとかではありません。ストーカー&盗撮っていうんです。えええ…。


 いや、ちょっと待って? 偽装アバターを切り替えているところとか、うっかり見られてないよね? ボタンひとつでできるようにはしているけど、必ずマイホームで変更するようにしてきたと思うし…。大丈夫だよね、もし見られていたら大騒ぎになっているはずだし。うん。


「スローライフ、だったか? ゆったりした雰囲気がとても良かったよ」

「ゲームといえば、戦ったり競ったりするものばかりかと思っていたのだけれども。あれなら、私も楽しめそうだわ」


 ごめんなさい、裏では誰よりも戦闘したり鍛冶したり転移しまくってたりしています。最近は、現実世界でも。そういえば拓也も、私がずっとスローライフやってると思ってたっけ。


 そっか、そういう意味でも、『新緑の騎士団』ギルメン達には、ミリアナとの関わりは知られない方が良かったのか。『コナミ・サキ』ののほほんイメージが定着していたのだとしたら、ミリアナとの差別化がうまくいってたってことなんだよね。惜しかったなあ。


「でも、不思議なのよね。森での様子が映ったと思ったら、その後すぐに学園のようなシーンで」

「ゲームでは制服も着れるのかね? 仮想世界なのだなら、なんでもできるとは思うのだが」

「お弁当がおいしそうだったわね。なぜか他のアバターは全く出てこなかったけど」

「えっ」


 うわあああ、リアルでも盗撮されてたああああ! それはさすがにやめてほしいなあ。しかし、どんな編集なんだろ、ゲームとリアルのシーンを混在させるなんて。


 ところで、さっきから私はほとんど発言してなくて、御両親ばかりがあれやこれやと喋りまくっている。悪くはないんだけど…うん、確かに前島さんの御両親だ。

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