第42話 あの時の女の子
「ミナ、たまには一緒に帰ろう! 今日こそお昼おごらせてよ!」
「え、あ…うん、今日は、大丈夫かな」
「ほんと!? やった!」
今日は土曜日だけど、拓也も朝、友達とお昼を一緒に食べると言っていた。私も午後の早いうちの帰宅で大丈夫だろう。現在の私が、『コナミ・サキ』として現界中のアバターだとしても。
実のところ、午前中の休み時間に自宅にひょいと転移して一度ログアウトし、用足しやら軽食やら水分補給やら背伸びやら…とにかく、お昼以降もしばらくログインし続けることができるようにしている。今度こそ帰りに街の図書館に行こうと思ってのことだったんだけど…また次の機会でいいよね。
「あ、やっぱりNPCは雇わないんだ」
「うん、『新緑の騎士団』はユーザアバターだけで全てを行うつもりだよ」
「団結力すごいもんね、前島さんのところのギルドって」
「あー、最近はそうでもないかなあ…いや、戦闘は大丈夫かな。むしろ暴れそうだ」
「?」
ファーストフード店に向かう道すがら、前島さんとそんな話をしながら歩いていく。
ぴたっ
くるっ
「? 前島さん、どうしたの? 後ろを振り向いて」
「…誰かが、後をつけているような気がして」
「え、そうなの!?」
私も振り返るが、その様子は感じない。周囲には他にも人がいるから、その人達の誰かがそうだったという可能性がなきにしもあらずなのだけれども。
「気のせいだったみたいだ。ごめん」
「ううん、いいよ別に」
そうして歩いているうちに、お目当ての店が見えてくる。
◇
「ギルマス、最近、本当に油断ならないわねえ…」
「おい、お前らギルメンなんだろ? なんで下校イベント阻止できないんだよ」
「ウチのギルマスは容姿だけでなく口先もスペック高いのよ! 知ってるでしょう?」
「ああ、まあ。でも、なんか急だよな。映画イベントは出し抜かれただけだけど」
「『ファラウェイ・ワールド・オンライン』の方で何かあったみたいなんだけど…ゲーム内で会っている様子はないのよね」
「おいおい、ギルドが抑止力になってねえじゃねえか。なんのための隠れ蓑なんだよ」
「ギルマスが名実共に乗っ取っちゃったのよ…。あの執行班、どうにかならないかしら」
「どんなとこなんだよ、『新緑の騎士団』って」
◇
「おいしかったねー。たまにはハンバーガーもいいかな」
「…ハンバーガー一個に、何杯ものジンジャーエールって…」
「あまりお腹空いてなくて」
「それならなおさら…別にいいんだけど」
だって、今の私は本体じゃないし。
「あ、こっちの道を通ろうか」
「あれ? この先って…」
「ああうん、ボクがとっさに『聖盾アイスフィールド』を現界しちゃった公園だね」
「あれから何日も経ってるし、大丈夫だよね…」
公園は比較的広く、それゆえに、中を通って反対側の道に出れば近道になるのだ。
「今日は、結構人がいるね」
「そうだね…あっ」
ある女の子が、前島さんと目が会う。
「あ、お父さん! あの人だよ!」
「おお、そうなのか…」
うわあ、遭遇しちゃったよ…あの子が、木の上で足を滑らせたっていう娘だよね。
って、前島さん? なんで落ち着いているのかな?
「やあ、こないだの。元気だった?」
「うん! あの時はありがとう!」
「ウチの娘を助けてくれたそうで…礼を言うよ」
「怪我がなくて良かったですよ」
ハラハラ
「ねえ、あの時のアレ、もう一度やって? お父さん、全然信じてくれないんだもん」
「ああ…ごめん、今は持ってないんだ。あの時はたまたまね」
「そうなんだ…残念」
「その、娘が言っていたんだが…」
ハラハラハラ
「ん? なんですか?」
「…いや、なんでもない。とにかく、あらためてありがとう。ほら、もう行くよ」
「じゃあ、またね!」
とてとてとて
「…なんとか、なったね」
「ハラハラしっぱなしだったよ…」
「でも、お父さんの方も、そんなに気にしてない感じだね。当然といえば当然だけど」
「そう、だね…」
『そんなことをする人を見たと言って、誰が信じるか』か…。名言だなあ。いや、迷言といった方がいいかな?




