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第41話 学校の風景

 ある平日の朝。いつものように、学校の教室に向かう。


「おはよー、ミナ!」

「…おはよう、前島(まえじま)さん」

「…なんか、元気ない?」


 うっ、前島さんに気づかれた? 昨日夜遅く『緊急クエスト』が入って、地球の裏側で戦闘したんだよね。しつこいテロリストだった…。


「そ、そんなこと、ないよ。…前島さんは、相変わらずだね」

「そう? ありがと!」


 前島さんとの身長差は、30cm以上。普通に立っていれば、大きく見上げないと、私からは顔をまともに見ることさえできない。


 でも。


 すっ


 ぴたっ


「ちょ、ちょっと、前島…さん…!?」

「…うん、熱はないみたいだね。気分が悪くなったらいつでも言ってね? 席も近いんだから」

「あ、ありがとう…」


 腰を落として、なんの躊躇もなく、額を合わせてくる、前島さん。


 …そんなことを、ただのクラスメートが簡単にしてくるはずもない。相手が同性であっても、少しは戸惑うだろう。ましてや、異性なら…。


 ひそひそひそひそひそひそひそひそ


 そして、囁きが飛び交う周囲。いつもの風景だ。

 でも、これまであえて雰囲気だけを感じ取っていた私は、実際にどんな言葉が交わされているかを、少し聞き取る。


優希(ゆうき)のやつ、今日もがんばってるなあ。霧雨さんも相変わらずだけど」

「すごいよな。自分に自信がなければ、あんなことできねえよ」

「でも、憧れるよね。いいなあ、前島くん」


 …ん? 『前島くん(・・・・)』…?



「霧雨さん! 今日の優希様はどうだった?」

「他の人から聞いたわよ、元気がなかった霧雨さんを心配したんでしょ? 熱があるか診てもらったり!」

「ね、優希様の額、どうだった? スベスベだった? 筋肉質だった? それとも…カサカサだった?」


 相変わらず、食堂で残念な質問(特に、最後)を繰り広げて下さる、自称・ギルマスに忠実なギルメン、そして、事実上の前島優希ファンクラブ会員との噂(・・・)の、三人娘。


「ね、熱はなかったし、特別なことは、何も…」

「…そ、そう。でも、元気がなかったのでしょう?」

「今はどうなの? 大丈夫?」

「無理しちゃダメだからね。何かあったら手を貸すよ? 足も貸すよ!」

「私は、大丈夫だよ。ありがとう、みんなも心配してくれて」


 そう言って、私は微笑む。心配してくれたのは、普通に嬉しい。うん、嬉しいよ。


 ぴしっ


 うん? 何かが固まったような音が聞こえたような。少なくとも、ラップ音などではないよね?


「き…霧雨さん、きょ、今日は、もう…」

「そ、そう、今日のところは、教室に戻るね! ほら、アンタも!」

「…はっ。え、なに、ここどこ? あっ、目の前に…天国に来たの?」

「ああっ、この娘ついにおかしく…ご、こめん、幻をみているみたいだから、保健室に連れて行くね!」

「それじゃ、またね!」


 ドドドドドドドドドドッ


 今日はまた一段と激しかったなあ。…でもまあ、ちょっと楽しかったかもしれない。あの娘達にいつも少し感じていたうっとおしさがなかったというか。いや、上から目線の感想だな、これは。反省しよう。



「これより、『新緑の騎士団』の定例ギルド会議を行います。順番に報告を」


「はい! 今日もミナちゃんは天使でした!」

「それはいつものことだから、いちいち報告する必要はないよ。あと、その呼び方は却下」

「なんでですか、ギルマス! 自分は『ミナ』って呼びまくってるのに!」

「はい、次」

「無視された!?」


「はい! 担任教諭を脅して情報を入手しました! 前回の定期試験も美奈子(みなこ)様がトップの成績だったそうです! さすがです!」

「そうか! あれだけ誰よりも真面目に学んでいて、成績が低いなどあり得ないと思っていたが…!」

「ウチは上位成績者の公開とかしませんからね。あらためて、教頭あたりを脅してみましょうか!」

「あの性格だからね、ミナが嫌がるかもしれない。我々がわかっていればいいんだよ」

「わかりました、ギルマス!」


「じゃあ、次」

「報告ではなく、告発します! ギルマスはギルドの規則を無視し、霧雨さんを独占し過ぎです!」

「何を言ってるかなあ。教室にいるボクは彼女の友達であって、ギルマスでもなんでもないんだよ?」

「詭弁です! それなら、私達を出し抜いて映画デートした一件はどうなんですか!」

「出し抜いたというなら、度重なる食堂の件はどうなんだい? またボクをダシにして話し込んだんだろう?」

「いいじゃないですか! 私達だって霧雨さんと話をしたいんです! 笑顔を見ていたいんです! 愛でたいんです! ペロペロしたいんです!」

「最後の言葉、ギルティ。執行班、ギルドホームの独房室に」

「「いえっさー」」

「横暴な権力には、屈しなーい!!」


「なあ、今日の書紀、お前じゃなかったっけ?」

「あ、やっべ。ノート機能、起動っと。えっと…『第532回霧雨美奈子ファンクラブ定例会議議事録』っと…」

「そこ、ちゃんとタイトル書き直して。うっかり流出して、ミナに見られたりでもしたら…」

「す、すみません、会長!」

「だから、会長じゃなくてギルマスだよ、ボクは」

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