第28話 秘密の共有
「持ってきたよー」
「ありがとう」
前島さんからジンジャーエールを受け取り、お弁当を広げて食べ始める。うーん、なんか最近、リアルで普通に作るよりも、『調理』レシピモードで作った方が美味しいような。調理スキルのレベルが上がってるのかな?
「それで…『聖盾アイスフィールド』のこと? 現実世界での」
「うん。実は、昨日の学校からの帰り道、とっさに使っちゃって」
「ごふっ」
「わ、ミナ、大丈夫?」
「ごほっごほっ…大丈夫じゃ、ない…んぐんぐ」
なにしてるの前島さん! あれから大して日数経ってないのにもう発覚!? そりゃあ、卵焼きが喉に詰まるよ! あー、ジンジャーエールが喉に染み渡る。
「ご、ごめん。たぶん、誰にもバレてないと思うけど、一応、ミナに言っとこうかと思って」
「バレてない?」
「うん、ボクが出したってことは」
「『現界』は見られたってことなの!?」
ああ、なんか前島さんが、拓也並のお気楽キャラに見えてきた。ファンの生徒達が聞いたら泣くよ、きっと。いや、聞かれたらマズいけど。
「通りがかった公園で、木から降りられなくなった女の子がいたんだよ。声をかけようとしたら、その子、足を滑らせて」
「それで、とっさにアイスフィールドを呼び出したの? 確かに、あの盾は、パッシブスキルで緩衝材のような役割も果たせるはずだけど」
「あ、やっぱりそうなんだ! とっさのことでよくわからなかったんだ。さすがミナ! ミリアナの…」
「しーっ…」
ここが学校の食堂ってこと忘れてませんか、前島さん。私が『ミリアナ・レインフォール』と大きく関わっていることは、まだしばらく公にしないって約束したよね? まあ、私にとっては優先度の低い『秘密』だけど。
「ごめんごめん。それで、もう夕方で暗くなっていたから、その娘にはたぶん、顔を見られていないと思う。周りには誰もいなかったし」
「そっか…」
今回は、その娘が大怪我しなかったことを喜ぶべきかな。それに…。
「『そんなことをする人を見たと言って、誰が信じるか』、か…」
「なにそれ?」
「以前、ユリシーズさんが言ってたの。『現界』なんて人智の及ばない現象、多少知られたところで広まらないものだって」
「確かに、そうかもね…」
天災がどうとかとも言ってたよね。忘れてないよ。
「あれ、でも、いつそんな話をユリシーズさんとしたの? こないだボクらと一緒に初めて会ったんだよね?」
「えっ…あ、ああ、うん。前島さんと拓也がユニークウェポン談義をしていた時に、そんな話をしたんだ。万が一知られたら大騒ぎになるんじゃないかって尋ねて」
「ああ、あの時ね。結局、他に心当たりなかったんだよね。運営側のユリシーズさんはもちろん教えてくれないし」
「そうだね…」
ふう、あせった。ユリシーズさんを昔なじみのように語ったらさすがに怪しまれるよね。もっとも、私も会ってまだ数週間なんだけど。リアル緊急クエストと称してあちこちに派遣されまくっているせいで、もう長いこと関わっている気分だ。
「じゃあ、ユリシーズさんにもメッセージで伝えておくよ。あと、ゲーム内で会う機会があったら、拓也くんにも」
「拓也はやめておいた方がいいと思う…」
また羨ましがりの嫉妬しまくりので、ケンカふっかけるんじゃないだろうか。PvPで済ませればいいのに、盾の性能を見極めるとか理由をつけて、同一クエストに挑ませるに違いない。拓也って、変なところがお約束だし。
「ごちそうさま。じゃあ、ボクはこれで」
「うん、飲み物ありがとう」
「どういたしまして。…ふふ」
「なに?」
「ん? ミナと話すきっかけが増えて嬉しいなあと思って」
「…そんなものなの?」
「そんなものだよ。じゃ、また」
そう言って、前島さんはトレイなどを返却して、先に教室に戻っていく。




