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第27話 ポイント

優希(ゆうき)、今日も狩りにいこうぜ! あの盾があれば、レイド級のクエストも攻略できるからな!」

「いや、それはさすがにどうだろ」

「『闇の王』討伐も間近かもなー。ミリアナが攻略してからこっち、誰も成功してないけど」


 今日の教室も、前島さんのユニークウェポン獲得の話題で盛り上がっている。なんかもう、クラスメートの半分以上がギルメンかのような雰囲気だ。実際は単にユーザというだけの生徒が多く、同じ世界ファラウェイ・ワールドを楽しんでいる仲間という感じだ。


 というか、前島さんってリアルとアバターが全く違うのに、割と積極的にリアバレしている。背が高くてスラッとしたリアルに、がっしりした青年剣士のアバター。話せばそうでもないけど、一見した雰囲気はまるで違う。リアバレ前提なら、アバターをリアルに近づけることが多いと思うけれども。私の『コナミ・サキ』のように。まあ、何か個人的な理由があるのだろう。深くは尋ねまい。


「前島、メシ行こうぜー」

「ごめん、今日はちょっとパス。また今度」

「なんだよ、珍しいな」


 たたたたた


「ミナ、一緒に学食でお昼食べない?」


 ざわっ


「え? わ、私、今日もお弁当だけど」

「それでもいいからさ。ちょっと話があるんだ。だから、一緒に」


 ああ、あのこととかあのこととかな。あのことしかないけど。


「わ、わかった。行こっか」

「うん」


 ひそひそひそひそひそひそ


 いや、みなさん、そんな奇異な目で見なくても。今日だけだと思うよ、前島さんと私が一緒にお昼なんて。たぶん。



 学食に来て、メニューを選ぶ前島さん。


「付き合ってもらったし、飲み物くらいおごるよ。何がいい?」

「え、悪いよ」

「大丈夫大丈夫、『ポイント』使うから」

「ああ…大手ギルドのギルマスなら、討伐報酬で結構稼いでるよね。映画の時も?」

「まあね」


 ここで言う『ポイント』とは、『ファラウェイ・ワールド・オンライン』内の通貨単位だ。ゲーム内物価的には、だいたい日本円と同じ。HP一割回復のポーションが500ポイントという相場である。


 このポイントは、ゲーム内通貨として使用するだけでなく、百分の一換算で現実の日本円の代わりとしても利用できる。支払端末で事前登録に基づく本人認証を行えば、自動的に換算して電子マネーとして消費できるのである。


 そんなことして、国の通貨制度大丈夫か? ゲーム内で無限にお金増やせてしまわない? と、この仕組みを初めて知った人は思うかもしれない。でも、そこはフォークロア・コーポレーション…というか、ゲーム内通貨を電子マネー連動している各運営会社がうまくやっている。


「じゃあ…ジンジャーエールで」

「おっけー。 でも、ミナも結構稼いでいるんじゃないの? ミリアナの装備は全て、ミナ…『コナミ・サキ』ブランドなんでしょ?」

「ミリアナ以外にはほとんど売ってないから…。それに、ポーションたくさん作ったとしても、たかがしれてるし」


 たとえば、500ポイントで売れるポーションを1000本作るには、『調合』スキルのレシピモードを駆使すれば一時間ほど、つまり、時給5000円換算である。でも、レシピモードはアバターのMPをかなり消費するので、『ミリアナ・レインフォール』のレベルであっても、続けて1000本も作ればMPがすっからかんになってしまう。休み休み作ったり、マニュアルモードで作ったりすれば何時間もかかってしまい、下手をすると時給500円未満にもなりかねない。しかも、1000本全てがすぐに売れるわけでもない。繰り返すが、トッププレイヤーである今のミリアナのレベルであっても、だ。


 そんな状況なので、ゲーム内の流通貨幣の総額は、各運営会社の資本や売上で十分賄えるのである。特に、歴史が長く大手でもあるフォークロア・コーポレーションは、約一千万円、ゲーム内で十億ポイント分を維持しているそうだ。そして実際は、電子マネーに戻される金額よりも、各ユーザが日本円でポイントを買う(課金する)方がはるかに多い。うまくできているものである。


「ジンジャーエールと、アイスコーヒーと、天丼っと。ここに手を置いて…『受諾せよ(アクセプト)、』」

「それはいいから」


 こないだ運営本社にふたりと行った時、受付の人がふたりにもお約束をかましてくれた。そしたら、ふたりともノリノリで、それから、機会あるごとにログイン認証時のキーフレーズを言うようになった。でも、前島さんはともかく、拓也(たくや)はアレ、からかわれたことに気づいてないよね。


 ピッ

 ピピッ


「注文おしまいっと。あ、残高が大台に乗ってる。そろそろ、ギルドホーム新しくできるかな」

「ギルマスひとりの稼ぎで改築できるなんて、すごいね」

「さすがに、ミリアナとは桁が違うと思うけどね。彼女、どれだけ稼いでるんだろ」


 大部屋しかないギルドホームを改築するだけでも、ゲーム内では数百万ほどかかる。つまり、前島さんのポイントがそれだけあるということだ。ただし、今回の残高表示は日本円なので、数万円程度である。高校生がすぐ使える金額としては多いけど、ゲーム内通貨を激減させてまでリアルで使おうとするユーザはほとんどいない。ギルマスなら特に。


「席とっといてくれる? ボクはカウンターからメニューを運ぶから」

「うん」


 席がまるまる空いている六人テーブルがあったので、そこに座って待つ。


 …なんとなく、携帯端末を取り出して専用アプリを起動し、私の『ファラウェイ・ワールド・オンライン』のゲーム内通貨の残高を確認してみる。


「うん、エリア1一等地に一戸建てが買えるだけの残高があるね…」


 もちろん、ゲーム内通貨の話である。

 でも、ひとりのユーザが流通貨幣の十分の一を溜め込んでいるのはまずいんじゃないだろうか…。

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