第23話 ミリアナの知り合い
前島さんのアバター、ヒューマンの剣士『ユーマ』は、ギルド『新緑の騎士団』のギルドマスター。
拓也のアバター、ヒューマンの魔導士『ヘラルド』は、ギルド『神々の黄昏』のギルドマスター。
いずれのギルドも『ファラウェイ・ワールド・オンライン』のユーザの間では有名で、そのギルマスであるふたりも、実力・容姿共にそこそこに知られた存在である。
…というのは、話しかけたユーザ達の弁。知らなかったよ! ふたりが大手ギルドのギルマスやってたなんて!
ああいや、ミリアナとしてはひたすらソロ活動だったし、コナミとしては拓也…ヘラルドとの話合わせ程度の関わりだったというか。前島さんのユーマにしても、拓也と簡単なクエストに向かう時にパーティと遭遇して話しかけられただけだし。『コナミ・サキ』の容姿は現実そのままだから、他のクラスメートからもよく話しかけられたりする。
「あっ、ああっ! このままじゃ…!」
「共闘ペナルティも発生してるんだろ? 何やってるんだか」
「ひとりずつなのにペナルティとか、アホだな」
共闘ペナルティとは、本来、ひとつのパーティしか相手にできない敵に、複数のパーティで臨んだ時に発生するステータス低下。今回の場合はふたりしかいないし、お互いに攻撃して三つ巴になっているわけでもないから、ますます意味がわからない。
「あ、死んだ」
「一緒にHPが0になるとか、実は仲良かったりしねえ?」
なんだかなあ。っていうか、私が恥ずかしい…。
◇
エリア1の酒場で、ユーマ(中の人:前島さん)とヘラルド(中の人:拓也)のふたりに話を聞く。ちなみに、酒場というのはあくまでも見た目の雰囲気だけで、飲んでいるのは3人とも紅茶だ。
「それで? なぜこんなことを?」
「えっと、もしかすると、リポップとはいえ『闇の王』を討伐すれば、ユニークウェポンがドロップするんじゃないかって話になって…」
「そこに至るまでの過程が検討つかないんだけど」
アバター設定はどうしたのよ。
「いや、こいつの痛覚設定見たら、ほぼゼロでさあ」
「ゼロ!?」
「そんな設定でも、精神に対するセーフティ機能は効いていたらしくて」
「それで、痛みの反応が不安定だったのね…」
痛みを100%再現するなどということは、このゲームでは想定していない。魔物と戦うことが多い剣士アバターでは特に。他のパラメータ設定と同じインタフェースだったのが問題だったか。いやでも、そんな設定にする人もいるかもしれないから、細かい項目ひとつひとつの設定機能も逐次調整しましょうって言うのもなかなか大変な話だ。運営の人達が泣くかも。
「初回ログイン時のステータス設定で、よくわからず全部ゼロにした欄があって…。痛みが不自然に発生するおかげで、回避スキルが大幅上昇したけど」
「で、大手ギルドのギルマスがそんなんじゃあ、いつまでもユニークウェポンなんて持てねえぞって教えてさしあげたわけだ」
「で、でも、それは拓也くん…ヘラルドも同じじゃないかってボクが言って」
「なら、ドロップの噂がある『闇の王』を攻略しようぜってことになって」
売り言葉に買い言葉かあ。
「前島さん…ユーマがそんな挑発に乗るって、珍しいね。少なくとも、リアルでは見ないよ」
「ああいや、ゲーム内では彼とはこれまでにもいろいろあってね。『神々の黄昏』は『新緑の騎士団』を何かとライバル視しているし」
「だってよう、『新緑の騎士団』って、半分以上が女性アバターだし…」
おい。
「三流冒険者のテンプレみたいなことしないでよ。っていうかヘラルド、あなたゲーム内で女の子にモテたいの?」
「モテたいよ!」
「あ、『新緑の騎士団』の女性アバターの半分以上は中身男性ですよ」
「それでもだよ!」
だめだこりゃ。
えっと、なんの話だっけ。ああ、そうそう、ユニークウェポンね。
「ヘラルドの趣味は置いといて、私もひとつ、ユニークウェポンがドロップするって噂を知ってるけど」
「趣味ってなんだよ! いや、それ本当か!? なんで姉ちゃんが知ってるんだよ?」
「『ミリアナ・レインフォール』に聞いたから」
「「…はい?」」
うん、いい機会だ。更なる差別化のために、『設定』を加えておこう。
「ミナ…コナミって、彼女と知り合いだったの!?」
「ログイン時間がほとんど合わないからあんまり話をしたことないけど、でも、知り合いといえば知り合いかな」
「ソロ一辺倒のミリアナと、どうやって!?」
「彼女が付けているHP上昇ピアス、私の作品だよ? 他にも、各種回復ポーションを定期的に売ってるし」
「「マジですか」」
嘘ではない。全くもって嘘ではない。ミリアナの装備は全部自作だ。
「姉ちゃんが、ゲーム内で金銭に困っている様子が全くない理由がようやくわかった…」
「ミリアナがたくさんの高精度アイテムを使っていることは有名だけど、売り手はずっと謎のままで…」
「ミリアナがまだ無名の頃に知り合ってね。それからずっとお得意様だよ。おかげで、私も生産レベルがうなぎのぼり」
「そういえば、姉ちゃんと俺が始めた頃に、ミリアナもこのゲーム始めたって聞いたことがあるな…」
ちなみに、『ファラウェイ・ワールド・オンライン』の歴史は意外と古い。フルダイブ型VRの実用化と共に生まれたというから、十年以上は軽く経っている。ユリシーズさんが、今では骨董品扱いの旧式フルダイブ装置をすぐに用意できたのはそういうことだ。
「なるほど、コナミはミリアナの装備生産を中心に活動していたんですね」
「姉ちゃん、俺ともほとんどパーティ組まないから、てっきりスローライフを満喫しているものとばかり…」
「ガチ勢ってわけじゃないからね? ログイン時間のほとんどを、ミリアナの装備生産に費やしているだけだから」
実際にはログイン時間の半分くらいなのだけれども、そこはそれ。ミリアナとしての地味なレベル上げの最中にレア素材を結構手に入れているから、鍛冶・調合スキルのレベルが上がりやすかったという話もある。
「さて、どうする? 私の話を信じるなら、これから行ってみる?」
「すぐ行けるのか!?」
「うん。だって、ふたりとも何度か行ってるし。エリア76のボス」
「あのブルードラゴン? ウチのギルドでも何度か倒しているけど」
「それの、単独討伐」
「「単独討伐!?」」
あのブルードラゴン、火力だけなら『闇の王』以上なんだよねえ。さて。




