第22話 リアルでの邂逅
「えっと…本当にいいのかな?」
「昼間は両親とも出かけているから、今は弟がいるだけだよ。もしかすると、ログイン中かもしれない。一度、ゲームの中で会ったよね」
「あの弟くんか…。い、いや、なら余計にマズイかもというか」
「そんなことないと思うけど…」
などと話をしつつも、結局ふたりして私の家にたどり着く。
玄関に鍵…はかかってないな。私が出かける時は閉めたのに。拓也がログインしてるかもしれないのに、不用心だなあ。
「それじゃあ、入って」
「お邪魔、します…」
ぱたぱたぱた
「姉ちゃん、早かったじゃん…って、その人…は?」
「今日、一緒にお出かけしたクラスメートの、前島さんだよ」
「えっ、今までこいつと二人きりだったのか!?」
「拓也、こいつとか失礼。あと、指差さない」
なんでいきなり敵視してるかな?
前島さんって、学校では男女問わず人気があるから、ここまでの反応を見るのは珍しい。
「とにかく、ゲームのアバター設定のことでちょっと寄ってもらったの。だから、これから私の部屋に…」
「ダメだ! フルダイブ装置持ってきて、リビングでやれよ!」
「なんで? 面倒じゃない」
「ミナ、ボクもリビングの方がいいと思う…」
ピクッ
「『ミナ』…? あんた、姉ちゃんのこと、いつもそう呼んでるのか?」
「え、ああいや、その…まあ…」
「ふーん…」
…
……
………
え、何この剣呑な雰囲気。
「わ、わかったよ。じゃあ、リビングで…」
「いや、それもダメだ! 父さんのフルダイブ装置を持ってくる。アバター設定とやらは、俺が一緒にログインして、そいつに教えるから!」
「え?」
なんでそうなるの? ていうか、そいつとか言わない。あと、指差さない。
◇
リビングの様子は、なかなかシュールだ。
それぞれフルダイブ装置を付けて横たわって眠っている、拓也と前島さん。テーブルを挟んだソファーふたつがそんな状態である。そして、その姿を眺める私。
「私は、どうしていればいいんだろう…」
私も自室からログインして『コナミ・サキ』としてふたりの様子を見に行くと、たぶん、中にいる拓也がうるさいと思う。かといって、『ミリアナ・レインフォール』としてふたりのアバターに近づく理由が見当たらない。むう。
「しかたない、今日は当番じゃないけど、夕飯の下ごしらえでもしておくか…。今日はカレーライスの予定だったよね」
日曜日の夕食はお父さんが当番だ。休みの日くらいは作りたいということで、さほど凝ってはいないもののよく作ってくれる。拓也も、見習って欲しい…。
「たまねぎを刻んで、じゃがいもとにんじん、お肉を一口サイズに切っておけばいいか。お父さん、一番手間がかかるはずのたまねぎを炒めるの好きなんだよね。味の決め手だって言って」
ということで、自室に戻って鍵をかけ、『ファラウェイ・ワールド・オンライン』にログインする。
マイルームで、すぐに偽装アバター『コナミ・サキ』を設定すると共に、オンライン通知がオフのままとなっていることを確認する。表向きのアバターである『コナミ・サキ』でログインしている時は、偽装ステータスのままでオンライン通知をオンにしていることが多い。今回みたいに、ログインしていることを知られると面倒そうな場合は、わざとオフのままにする。
そして、今や土曜日午前はおなじみとなった、長時間の『現界』時も同様だ。
【現実世界の『自宅・リビング』に転移します。よろしいですか? 〔はい/いいえ〕】
〔はい〕を、押す。
ひゅんっ
「…ふたりは、まだログアウトしていないよね。よしよし」
リビングの転移地点は一応、隅の目立ちにくいところに設定してある。見た目『霧雨美奈子』そのままの存在が転移してきたところを見られたら、まるで言い訳がきかない。
「さてと、材料は並べたから…『調理』マニュアルモード」
調理スキルを発動させながら、包丁でじゃがいもを切っていく。このモードで一度やればレシピとして記録されるから…。
「終わりっと。あ、お皿に乗せてラップをかけておくところまで記録しておこう」
そこまで済ませてから、にんじんとお肉をまな板に乗せて、同じように記録していく。一口サイズといっても、皮を向いたりするところが食材によって違うから、個々に記録していくしかない。次作る時にレシピモードで楽をするためだ。
「たまねぎは、マニュアルモードにしてから、皮を向いて…『ウィンドカッター』」
普通(?)の風魔法を発動して、皮なしのたまねぎを切り刻む。範囲限定の高密度な発動だ。これを、たまねぎ1個分のレシピとして記録し、他のたまねぎはレシピモードで自動みじん切り。全てのたまねぎが刻み終わり、鍋に放り込む。
「冷蔵庫には入れなくてもいいかな。今日は涼しいし。…って、まだふたりともログインしてるの!?」
スキルである程度手早くやったとはいえ、あれから1時間は経っている。アバター設定のためだけにしては時間がかかり過ぎる。
「さすがにこれだけ遅ければ、見に行っても文句言われないよね…。よし」
【エリア1『中央噴水前』に転移します。よろしいですか? 〔はい/いいえ〕】
〔はい〕を、押す。
◇
ガヤガヤガヤ
あれ、なんか騒がしい。えっと、私が見られているわけじゃないよね? 今は『コナミ・サキ』に偽装してるし。セレブ反応とやらは勘弁。
「うお、あともう少しだったのに!」
「ああっ、おしい!」
「そこ、そこにキマれば!」
周りのアバターのほとんどが、手元に中継スクリーンを表示させて何かを観戦している。
「あのう…何かあったんですか?」
「ああ、今ログインしてきたのか。いや、ふたつの大手ギルドのギルマスふたりが、最終クエストの『闇の王』に挑んでるんだよ!」
はあ。
「しかも、パーティ組まずに、どっちが先に討伐できるか競ってるんだと」
「相手に削るだけ削らせればいいのに、どっちも競うように『闇の王』に攻撃していてさ」
「剣士が前衛で魔導士が後衛って分担すればかなりいけそうなのに、アホだよなあ」
はあ。
って、剣士と魔導士!?
私も中継スクリーンを表示させ、戦っているアバターの情報を見る。
剣士『ユーマ』。前島さんのアバター名。
魔導士『ヘラルド』。拓也のアバター名。
なにしてんのよ、もう。




