第13話 偽装アバター
「んまんま」
「落ち着いて食べなさい」
「ただのそうめんなのに、めちゃくちゃうまい!」
なんか、拓也が幼児退行しているような。そうでもない? 調理スキルで作ったせいじゃないよね?
いずれにしても、中学生になってから、こうして一緒にお昼を食べることがほとんどなくなっていた。帰宅の時間が微妙にズレるから、私が作り置きして、あとは好きな時に食べてってことにしてきたし。
「姉ちゃん、今日は帰ってくるの早かったんだな」
「ま、まあね。だからこうして、一緒に食べてるんだけど」
「電車通学かあ。俺もしてみてえ」
「あんまりいいものじゃないわよ? うっかりラッシュ時に重なったりしたら、最悪」
だから、今日は通学が本当に楽だった。偽装アバターでいろいろ試してはみたけど、実のところ、これが一番嬉しかった。なにしろ、一瞬だからね。
「私は午後出かけるけど、拓也はどうするの?」
「もちろん、ゲームで狩りと冒険だぜ! 目指せ、第二のレインフォール! 俺も早くユニークウェポン手に入れたいぜ」
ミリアナが扱う魔剣、レインフォール。私が『ファラウェイ・ワールド・オンライン』を始め、最初のエリアボスを単独討伐した時にドロップした、ユニークウェポンだ。といっても、ドロップ時は武器レベル1。その後、経験値や追加素材を吸収させていくことによって、攻撃力やユニークスキルが付与されていく。
ドロップ当時は大騒ぎだった。ゲームを初めて間もない初心者エルフの魔法剣士が、最初のエリアボスとはいえあっさり単独討伐した上、レアドロップのユニークウェポンまで獲得したのだから。
【アバター名『ミリアナ』がエリア1の単独攻略に初めて成功しました。また、ユニークウェポン『魔剣レインフォール』をドロップしました】
…なんて、ワールドアナウンスされた時はガクブルものだった。私がミリアナであることを家族や知り合いに隠そうと思った瞬間である。ドロップした魔剣の名前にちなんで【ミリアナ・レインフォール】とアバター名を変えて他のアバターとの差別化を図りつつ、各種偽装スキルの獲得に奔走した。
こうして、偽装アバター【コナミ・サキ】が誕生した。顔や背格好を現実の本体とほとんど同じ見た目にする偽装セットを揃え、メニュー画面の特設謎ボタンひとつで付けたり外したりできるようにした。そこまでしてようやく、リアフレ達とあらためてゲーム内で会うようになった。
「でもよ、なんで姉ちゃんはアバターをリアルと同じにしてるんだ? 俺はわかりやすくていいけど」
「同じよ? リアルと同じなら余計なこと考えなくていいし、その分、鍛冶活動に専念できるでしょ」
「まあ、女ドワーフの基本造形を少しいじればいいだけだし…なんでもないです」
ふんだ。どうせ、大した特徴のないリアル造形ですよだ。こんな私でも、前島さんは…。
「あれ? 今のに姉ちゃんが恥ずかしがる要素あった?」
「うえ、や、な、なんでもない!」
「変な姉ちゃん。じゃあ俺、部屋でフルダイブしてるなー」
「あ、食器片付けていきなさいよ!」
はあ…。
えっと、私も出かける準備をしよう。
VRゲーム運営会社、『フォークロア・コーポレーション』に。




