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第11話 学校の授業

 土曜日である今日の授業は、現代社会に英会話、そして体育だ。…昨日起こったことにいろいろ絡んでくるかもしれない科目ラインナップなのは、気のせいだろうか。


「…というわけで、もし昨日のハイジャック事件が成功してしまっていたら、国際社会がますます混迷していたかもしれません。特に、今回の犯人達は以前とは全く異なる宗教の派閥で…」


 昨日のハイジャック事件は、一時はマスメディアやネットでだいぶ話題になったものの、数時間であっさり下火になってしまった。政治家や評論家は今でも激論を交わしているけど、世間一般としては落ち着いたものである。ハイジャック報道が事件解決後にまとめて行われたのが大きかったのだろう。


 では、今の各メディアは静かなのか? とんでもない。『ミリアナ・レインフォール』の件が再燃しまくっているのだ。ハイジャック事件をスピード解決したのが私であることが隠蔽されているにも関わらず、だ。


 『現界』は本当だったのか? 本当だとしたら、どんな仕組みなのか? ハイジャック事件にも関係しているというのはただの噂なのか? そんなことよりも最終クエストのクリアあらためて凄かった、そもそもミリアナ・レインフォールは誰なのか? などなど。あらゆる要素が絡み合って、当分下火になる様子がない。


「仮想世界技術の発展は、何もエンターテイメント分野だけに影響を与えているわけではありません。人々の普段のコミュニケーションに多大な変化をもたらしていることから、経済活動や国家間の関係にも大きな…」


 …もし、私だけでなく、誰もが仮想世界のアバターを『現界』できるようになったら、どんな世界になるんだろう? そういえば、大昔のSF映画でそんな話があったよね。本体は自宅のカプセルでずっと眠っていて、外に出るのは意識に連動して動くロボットのようなもので…だったっけ。『怪我とかの危険があっても、やっぱり血が通った体で交流すべきだよね』ってオチだったような記憶が。違ったっけ?



 2時間目の、英会話。


 うーん、テキストがすらすら読める。なんてこったい。いや、嬉しいことは嬉しいんだけど、本体の能力が向上しているわけではないから、素直に喜べないというか。ネットの翻訳機能を使いながら読んでるようなものだろうし。というか、それそのもの。授業で使うのはズルだよね。


「それでは…霧雨(きりさめ)さん、ここはどのように答えるべきだと思いますか?」

「は、はいっ。えっと、『You had better...』…いえ、『You should try to take a taxi.』でしょうか」

「はい、そうですね。『had better』は忠告や警告のニュアンスがありますので、単におすすめを伝える時は…」


 ネイティブの感覚で理解できるのは便利なんだけどね。でも、『ファラウェイ・ワールド・オンライン』の翻訳機能って、やっぱりここまでの性能はないような。ラノベとかで出てくる言語チートの方が近い。人外じみてきたなあ。今更だけど。



 3時間目、体育。今日は体育館でバスケットボールだ。


「霧雨さん、パス!」

「っ!! …んっ!」


 トスンッ


「また入った! すごいよ、霧雨さん!」

「た、たまたまだよ…」


 くっ、力のセーブがなかなか難しい! 『コナミ・サキ』の偽装で慣れていたつもりだったけど、そういえば、コナミの時は体を激しく動かすことはこれまでなかった。討伐クエスト参加の時は、メインジョブ・生産職の範囲で…という体裁の支援魔法くらいだったし。


 え? ちゃんとセーブできてるからシュートが決まってるんじゃないかって? 違う違う、動きの精度のコントロールが難しいってこと。魔法剣士としての補助魔法がパッシブスキルとしてさっきから発動しまくってるのよ。本当は、シュートの半分くらいは外すつもりでいるのに。でも、油断をしてたら、外すどころか、一歩も動かずにひょいひょいと適当に投げるだけで入りまくってしまう。というか、最初にそれをうっかりやってしまったので、今日はやたらとパスが回ってくるように。むう。


「おつかれー! 見てたよ! ミナ、すごいじゃん!」

「あの、前島さん、また顔が近い…」


 ひそひそひそひそひそひそひそひそ


 あう、またなんか周囲がひそひそし始めた。今は下手に注目されたくないんだけどなあ。


「ねーねー、学校終わったら、ボクと一緒に帰らない? お昼おごるよ!」

「え、おごってもらうなんて、そんな…い、一緒には帰ってもいいけど…あああ!」

「ど、どうしたの?」

「ごめんなさい、今日はまっすぐ帰らないといけないの。その…弟の、お昼を用意しないと」


 うん、すっかり頭から抜け落ちていた。私の本体、ずっと自室で寝たままだったじゃない! おかしいなあ、偽装アバターで現実世界を歩き回ってるという感覚はありまくりなのに。昨日の今日だし。


「そっか…。じゃあ、この週末に時間があったら『ファラウェイ・ワールド・オンライン』で落ち合おうよ。ひさしぶりに、『コナミ・サキ』としてのミナに会ってみたいし」

「う、うん、いいよ。でも、今の姿とほとんど同じアバターだよ?」


 ほとんどっていうか、この姿がそうなんだけど。


「それでもだよ! なんかアクセサリー作ってもらうかも。いいよね?」

「素材が、手に入れば…」


 相変わらず、ぐいぐい来る前島さん。まあ、最終クエストはクリアしたし、大幅アップデートがない限り、ミリアナ・レインフォールとしての活動はあまり必要ない。ゲーム内ではしばらく『コナミ・サキ』として偽装し続けていてもいいくらいだ。


 …むしろ、現実世界の方で活躍しそうなんだけど、ミリアナ・レインフォールとしては。緊急クエスト、また来そうだよなあ。うーん。

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