第10話 HR前の教室
思いもよらないことがあった、その翌日。
朝のHRまでまだ10分はあるかなという頃の教室で、元気よく話しかけられた。
「おはよー、ミナ!」
「おはよう、前島さん」
「相変わらず、硬いなあ。『ユッキー』って呼んでくれてもいいんだよ?」
「そ、それは、ちょっと…」
クラスメートの、前島優希さん。自分からあまり話しかけない私にも、積極的に話しかけてくれる。私が図書委員タイプなら、前島さんはクラス委員長タイプだ。真面目な方ではなく、イベント好きのリーダー気質の方だけど…って思うのは失礼かな。
「ま、いっか。…ん? なんか、嬉しそうだね。いいことあった?」
「…そう、見える?」
「うん! あ、もしかしなくても、『ファラウェイ・ワールド・オンライン』のこと? ミナもやってたよね。えっと確か…『コナミ・サキ』だっけ? リアルの姿そのまんまのアバターだったよね!」
「う、うん」
私の反応が鈍くても話がどんどん進んでいくのが、前島さんとの会話の特徴だ。まあ、これは私が相手でなくても、クラスの誰とでも同じ感じだ。男女問わず。私にはとても真似できないなあ。真似をするつもりもないけど。
「そういえば、弟くんとやってるんだっけ? ミナがドワーフの生産職で、弟くんがヒューマンの魔導士。仲いいよね!」
「い、いつも組んでいるわけじゃないけど…。ゆうべ、たまたま一緒にエリア76のボスに臨んで」
「あー、えげつないよねえ、あいつ! ボクもパーティ仲間と挑戦して、2回に1回成功するか否かって割合だよ!」
「そ、そうなんだ。私達も、結局昨日は失敗して」
「『ミリアナ』ほどじゃないけど、ボクもそれなりのレベルの剣士なんだけどね。んー、ヒューマンやめて、ロードでアバター作り直した方がいいかなあ」
『ファラウェイ・ワールド・オンライン』内で一度会ったけど、その時の前島さんのアバターは、がっしりした青年ヒューマンという感じだった。アレがロード…魔人型になるのはだいぶ違和感ありそう。もっとも、アバターはいくらでもいじれるから、作り込めばいいだけだけど。…課金さえすれば。
「だから…あれ?」
ガシガシと話しまくってた前島さんが、私の顔を見つめて、喋るのをふっとやめる。私の顔に顔を近づけ、そして…私の頬に、手を当てる。
「ま、前島さん!? いきなり、何!?」
「ミナ…綺麗に、なった」
「え!? え!? そ、そんなこと、ない…よ?」
「もともとかわいい顔だけど、なんか…より整った感じで」
どきっ
うーん、前島さんには違いがわかるのかな? ゆうべ、拓也とのブルードラゴン討伐クエストが終わって別れた後、何時間かかけて偽装にだいぶ手間暇かけてみたんだけど。
そう、今の私は、『ミリアナ・レインフォール』のアバターが現実世界に転移した姿だ。本体の私は、例によって自室のベッドで眠っている。今日が土曜日でお昼前には学校が終わるってことで、思い切って試してみたのだ。
でも、えっと…そろそろ、頬から手を離してほしいんだけど。あと、じっと見つめるのも。周囲のクラスメートが、こっちを見てひそひそ話し始めている。
「あの、前島さん…?」
「ああ、ごめんごめん。本当に、キレイだったからさ。あ、そろそろ先生が来るね。じゃあ、また!」
パタパタと自分の席に向かう前島さん。
はー、ドキドキしたー。まあでも、バレてないよね。アバターだってことがわからないよう、残りの討伐報酬を使って『コナミ・サキ』の造形を徹底的に偽装し直したんだけど。もしかすると、作り込みすぎたかな?
ひそひそひそひそひそひそひそひそ
…本当に、バレてないよね?




