旅立ち
2P目です。よろしくお願いします。
”世界魔法”
物語の中に存在し、誰も見つけられなかったその魔法は、もしかしたら、この世界のどこかに本当にあるのかもしれない。
フランが眠ったまま、4日が過ぎていた。
フランが目を覚まさなかったあの日に見た夢。確かに夢は夢で現実ではない。生物が眠りについた時に見る夢は自分にとっての理想や願望なんかが夢という形をとって現われただけだ。
だとしても、目覚めてなおはっきりと覚えていた夢の中で誰かがささやくように告げた言葉には、何か意味があるはずだ。
俺は工房へ戻り、ひとまず仕事を再開してるガハルドにあの日の夢の内容を相談することにした。
「なぁ、ちょっといいか?相談したいことがあるんだ。」
依頼品に刻まれている刻印の状態を確かめているガハルドに、俺はそう尋ねた。
ガハルドは俺のその声音から真剣な雰囲気を感じ取ったのか、依頼品を作業台に丁寧に置きこちらに体を向ける。
俺はガハルドの眼差しを受けて話を続けた。
「実は、あの日夢を見たんだ。とても不思議な、何かを予知したような、俺に何かを教えようとしているような、そんな夢だった。」
それから俺はゆっくりと改めて自分の考えを整理してくように、ガハルドにあの日見た夢の内容を伝えた。どこからともなく、ささやくように告げられたあの言葉を。そして、その日以来目を覚まさないフランと何か関係があるのではないか、と。
俺が話を終えるとガハルドはしばらく腕を組んで黙ったままだった。
何かを考えるように、何かを思い出すように。
そして告げられたのは、俺とフランがこの町にやってきたあの日のことだった。
「今お前の話を聞いて思い出したことがある。あの日の夜お前たち二人が俺の家にやってくる前の、丁度仕事がひと段落した昼過ぎのことだった。この工房でうたた寝していたんだが、その時奇妙な夢を見たんだ。」
そしてガハルドの口から語られた夢の内容は、告げられた言葉こそ違ったものの俺と似たような夢だった。
彼がその夢で何者かに告げられたのは、その日の夜更けに二人の兄妹が訪ねて来る事。彼らは自らの友人の子であり、その友人はすでにこの世にいない事。
ガハルドが告げられた内容は、すでに10年も前のことなので曖昧で断片的ではあるが、要約するとそういう事らしい。そしてその夢で告げられた通り、その日の夜更けに俺たち二人がやって来た為その時の夢はある意味天啓のようなものだったのでは無いかと思ったのだとか。
「それじゃあ、俺の夢ももしかすると・・・?」
「あぁ、同じ類のものなのかもしれん。ただ、世の理を統べる秘術ってのはいったい何の事なんだろうな・・・。」
それはきっと、
「きっと、世界魔法の事じゃないかとないかと思うんだ。」
もしかしたら、馬鹿にされるかもしれない。何故ならいい年した男が作り話に出てきた夢のような”魔法”が本当にあると思っているなんて。普通はそんな物あるはずがないと一蹴されて然るべき発言だった。
でも、直感的にそう感じてしまった自分の考えを彼に聞いて欲しかった。
出来るならば肯定してもらいたかったのだ。
俺の言葉を聞き、ガハルドはまたも静かに瞑目している。工房に時計の針が時を刻む音だけが聞こえる。
しばらくの沈黙の後、そして、ガハルドは俺の言葉を肯定した。
「確かに、俺自身”世界魔法”が存在した何て話は聞かないし、今まで信じてさえいなかった。だが今は、もしかするとこの世界のどこかに本当に存在する魔導書なのかも、そう思える。」
驚いた。だが期待していた言葉でもあったので、俺はそのまま続ける。
「だから俺は、”世界魔法”を探しに行こうと思う。どれくらいの時間がかかるのかもわからない。本当にそんな都合のいい魔法なんてものはないのかもしれない。でもこのまま待ち続ける事は俺にはできない。フランを置いていくのは心苦しいけれど、ガハルド、俺を行かせてくれないか。」
「わかった。それじゃあ旅立ちはいつにする?お前にとって初めての旅だ。俺はついて行ってやれないからな。準備くらいは手伝うぞ。」
今度こそ、本当に驚いた。驚きすぎてつい自分の頬をつねってみた程。夢か何かかと思った。
「いやいや!反対しないのか・・・?あるかもわからない、むしろ無い可能性のほうが高い代物を探しに行くって言ってるんだぞ?フランを置いて・・・。」
ガハルドは否定すると思っていた。危険だしいつ帰ってこられるのかもわからない。そんな旅を許してくれるなんて。
「じゃあ、お前は俺がやめろと言ったらその旅を諦めるのか?可能性を捨てて、この工房でフランがひょっこり起きてくるのを待ち続けるのか?ただただ無為に日々を過ごすつもりか?」
「そんなつもりはない!旅をすれば、もし”世界魔法”が見つからなくてもフランを治せる人がいるかもしれない。その可能性を捨てることは俺にはできない。だから、否定されればガハルドを説得するつもりだったんだ。」
俺はガハルドのその言葉に、被せる様に食い気味にその言葉を否定する。
「わかっているよ。だから尋ねただろ?いつにするか、とな。」
何ともあっさりとガハルドの了解を得ることができた俺は、その後、ガハルドと出立の日取りを決め旅に必要な荷物を確認していった。
だが、やはりというか大変だったのはその後だった。
日が傾き始め、夕食の買い出しから戻って来たメアリーさんに旅に出る事を告げると、それはまあ大層心配され引き留められた。
旅に出る事を思い至った時から、当然メアリーさんには引き留められる事は予想していたが、やはり涙ながらに俺とガハルドを説得するメアリーさんの顔を見るのは辛かった。だが、俺にはフランが助かる可能性を諦めるなんて出来そうにもない。
ガハルドと二人で何とかメアリーさんを説得した俺は旅の出発に向けて準備を進めていった。
翌日、旅の移動効率を考えて馬を使うことにした俺は、町の大通りを挟んで工房の間反対に位置する馬を育てている男のもとを訪ねた。
「おーい!誰かいないのかー?」
店の入り口から大声で呼びかけると店の裏側から男の、しかし大人の男にしては少し高めの声が返ってきた。
「今手が離せねぇーんだ!用事があるなら裏口から周ってきてくれ。」
俺は声を頼りに裏口へ周り込み馬小屋へと向かっていった。
馬小屋では小柄な男が馬の蹄鉄を変えている後ろ姿が見えた。
しばらく様子を眺めていると蹄鉄の交換を終えたらしい男がこちらを振り返り声をかけて来る。
「悪いな。わざわざ裏まで周ってもらって。それで今日はどうしたんだ、アラン。」
この小柄の男、ミトはもうすぐ40になるが昔から童顔だったらしく今でも見た目は20代後半といったところだ。
「いいんだ。どうせこちには来ることになっていた。」
「ん?つーことは今日は客かよ。何でまた馬が必要なんだ?」
彼の疑問はもっともだ。この町にいるだけなら基本的に馬は必要なく、馬を求めて彼のもとへやってくるのは町と町を移動する行商人や騎乗する兵隊がほとんどである。
「ちょっと旅に出る事になったんだ。長旅になるだろうから馬で移動をと思ってな。」
「旅、か。まあ大体想像はつくよ。俺も話は聞いてる。妹を助ける為なんだろ?すると今回は数日借りるんじゃなくて買いだな。そこで待ってな。ぴったりのいい馬がいる。」
そういって彼は馬小屋の奥にいた、一頭の栗毛色の馬を連れてきた。
「ほらこいつだ。お前にはもったいない美人だろ?」
馬の手綱を引きながらそんな事を言うミトに、俺は思わず苦笑する。
「ぴったりなのかもったいないのか、どっちなんだよ。」
正直俺からすると、馬の美醜何てよくわからないが確かにきれいな毛並みの馬だった。
「どっちもだよ。ところでお前、馬には乗ったことあるのか?」
「いや、子供の頃に少し乗せてもらった事があるくらいで、その時も近くを歩いただけだ。」
俺は馬なんてほぼ乗ったことが無いのだ。
「じゃあもろもろの練習が必要だな。出発はいつになるんだ?」
「十日後を予定している。」
「結構短いな。まー何とかしてやるよ。俺の特別講習でな。」
それからの日々は大変だった。
馬にほぼ乗ったことが無い俺には、騎乗の仕方以外にも馬の鞍の掛け方や世話の仕方などやる事は多く、覚えるのにいくらかかったが、何とか一人で蹄鉄の整備まで出来るようになり、振り落とされずに動けるようになった。
それから走れるようになるまでさらに4日もかかるなんて想像もしていなかったが、歩いて移動することに比べればよっぽどいい。
そして、すべての用意を終えた俺はついに明日町を出発する。
俺は旅に持っていく荷物の最終確認を行った後、フランの部屋を訪れる。
そこにあるは、やはりというか静かに眠ったままの妹の姿。
そして彼女の横たわるベットの周囲には、治癒師によって施された魔法陣が一面に刻まれている。
通常食事によって摂取される栄養素や魔力を治療用の魔法陣から時間をかけて供給されているのだ。
寝たきりで食事が摂取できない病人なんかに使用されるもので、この魔法陣があれば栄養、魔力不足で死んでしまうことはないだろう。
俺はフランの傍らに寄り添い彼女の額をそっと撫で、静かに声をかける。
「俺は明日から旅にでるよ。昔両親に連れられて旅をしていたとはいえ、あの時とは違い守ってくれる人もなくすべてのことを自分でしなくてはならない。道中魔物に襲われる事もあるだろう。だが、それでも俺は行かなくてはいけない。お前を置いていくのは辛いが、必ず”世界魔法”を見つけて戻ってくる。だからその時まで待っていてくれ。」
翌日、日が昇り切る前に家をでた俺はガハルドとメアリーさんとともに町の門の前に居た。
「ガハルド、メアリーさん。いや、父さん、母さん。俺をここまで育ててくれてありがとう。必ず、フランを助ける方法を見つけて帰ってくるよ。いつになるかはわからないけれど。それまで、フランをよろしく頼む。」
「お前が俺の事を父と呼んでくれるとはな。まぁなんだ。しっかりやってこい。フランは任せろ。」
そう、ガハルドはなんだか照れくさそうに笑いながら俺に声をかけてくれた。
メアリーさんはというと、目頭にわずかに涙を溜めながら俺に小さな麻の袋と首ひも付きのさらに小さな、麻より少し丈夫そうな袋を差し出した。
「簡単な物しか入っていないけど、お腹が空いたら食べなさい。それと、これを常に首から提げておいて。きっとあなたを守ってくれるわ。」
渡された小さな袋に入っているのは食事らしかった。このサイズならパンに何かを挟んだものだろう。 それと、首から下げるよう言われたのは、恐らくお守りのようなものだろう。
俺は、麻袋を馬の背に括り付けたカバンに仕舞い、お守りを首にかけながらメアリーさんへ言葉を掛ける。
「ありがとう。大切に食べるよ。それと、このお守りはずっと首から提げているよ。」
「あいつはまだ来ないのか?そろそろだと思うんだが・・・。」
ガハルドが町の中心にある大時計の時間を確認しながらつぶやいた。
すると少し離れたところから俺を呼ぶ声が聞こえたので方向へ首を傾ける。
「おーい!すまん、遅くなった!」
息を切らし気味に、手に何かを持って走りながらこちらに向かってやって来たのは、鍛冶屋の跡取り息子のクランだった。
「いやー、すまんすまん。ほら、これ。俺からお前に選別だ。お前が旅に出ると聞いて、俺が一から鍛えた剣だ。そんな武装じゃ心許なすぎるだろう?」
そういいながらクランが手渡してきたのは専用の鞘に入った、長さが俺の伸長の四分の三ほどある両手剣だった。気の利くことに肩から剣を提げられる様に吊紐もついいる。
確かに、俺が今身に着けていたのは革製の胸当てに暗い茶のロングコート。武器といえば短めの剣、といってもまだナイフと呼んでも差し支えない程度でしかない短剣のみだった。
「クラン、いいのか?こんなものもらってしまって。」
いつか、彼が言っていた。
「俺が初めて人に渡す剣はアラン、お前のものだ。…お前なら剣の出来がちょっとばかし悪くても気が付かないだろうしな!」
茶化すように言った彼の顔は冗談を言っている時のものであるし、何より彼がこと鍛冶に置いてそんな妥協をする人間でないのは、友である俺が一番よく知っていたから。
そういう俺にクランは軽く笑う。
「当たり前だろ。俺がお前にできる事はそれまでだからな。後はフランちゃんの様子を時々見に行くくらいだ。遠慮なんかせずにもらっておけ。」
「そうか。ありがとうな。この借りは必ず返す。俺が戻ってくるまでフランの事、頼んだぞ。」
クランは胸を叩きながら力ずよく返答する。
きっと、俺がこんな事言い出すずっと前から彼はこの剣を打っていたのだろう。
鍛冶の知識が無い俺だってこの剣がたった数日でつくられたものでない事くらいは見ればわかる。
「任せろ!その剣の礼がしたければ早くフランちゃんを助ける方法を見つけて帰ってこい。そして、元気になったフランちゃんと俺の店へその剣を鍛えなおしに来いよ。」
そんな、暖かい友人の声を聴きながら、俺は馬の背に跨り皆に別れの挨拶を告げる。
「必ず、無事に帰って来るよ。皆、行ってきます。行くぞ、ソフィア。はっ!」
そして俺が名付けたこれからの旅の友、ソフィアとともに草原を駆けて行った。
まず最初に向かうのは隣の町だ。
隣と行っても馬を丸2日走らせてようやくたどり着くような場所だ。夜は走れないし、休憩を挟みながら行かなければいけないので、実質4~5日程掛るだろう。
持ってきた食料は、日持ちの良い物もあるがそうはいっても持って移動できる荷物にも制限があるので、どこかで採取する必要もある。
それからゆったりと草原を走り、町をでて3時間ほどが経過した。今走っている道は、エーレに初めて来る時にもお世話になった小川が流れている為、道に迷うことはなく、また見晴らしの良いところなので、敵が目前まで迫ってようやく気が付くということもないだろう。
もっとも、本来であればこちらから見えるという事は、あちらからも丸見えなので身を隠したり野営するのには向いていない。
特に、俺のような一人旅の経験もない、剣術も魔術も並みの町人程度である俺にとっては避けたほうがいい場所だが、幸いにもこのあたりは魔物の出現も少なく盗賊もほとんど出たことが無いらしい。
「ソフィー、ここらで休憩しようか。」
そう旅の相棒に語り掛けながら手綱を操り減速させ、他より少し草の多いあたりまで行く。そして馬から降りた後、ちょうど自身の膝丈程の石の上に腰掛ける。
今日は朝から天気も良く、草原には頬をな撫でるような柔らかな風が吹ている。
春の陽光に照らされ、小川の水面がキラキラと光を反射させており、気分的にはさながらのんびりと散歩にでも来ているようだった。
ただ、目的がある旅の始まりなので多少の逸る気持ちもあり、そこまで気軽な気分にはなれなかったが。
俺は石の上に腰掛けたまま、腰に括り付けておいた簡易魔導書の束を確認する。
これは旅に出立する前に作成しておいたもので、幾種類の簡易魔導書を紐で繋いだだけのものだ。
その簡易魔導書の束には、比較的難易度低い4属性の魔術や俺が得意とする風雷術式を中心で入れてある。
他にも、旅をするのに便利な術式をいくつか入れてあるがまだ使用したことが無い術式の方が圧倒的だ。
とはいえ、一人旅である為、野営時の防衛にはできれば結界の術式を使用したいところである。しかし、現在確認されている結界術式は総じて難易度が高い術式が多く、当然今の俺では発動しても非常に不安定で、全く頼りにならない。というより、発動できたとしても寝たら絶対術が解けてしまう。
なので、結果術式の中でも難易度が低い外敵の接近を知らせる物をしばらくは頼りにせざるを得ないだろう。とはいえ、ずっと使えないままというわけにもいかないので、練習の為にも簡易魔導書の束に数枚入れてある。
そんな事を考えていたらすっかり長居してしまった。俺の悪い癖だ。
考え込むとすぐに時間を忘れてしまい周囲が見えていない時がある。比較的穏やかな土地柄故か、今はたまたま魔物が来ることも盗人が来なかったものの、今後旅を続けていくにあたって考えた方がいい癖だろう。
俺が考え事をしていた時間が余程長かったのか、暇を持て余したソフィアはさっきから馬らしからず蝶を追いかけている。
それから俺に相手にされず、すっかり拗ねてしまったソフィアを宥めながら出発の準備を行い、その場を後にし、再度次の町へ向けて歩き出した。
それからまたしばらく走ったのち、今度は川辺から少し離れた岩影に腰を下ろした。
日が沈み始め辺り西の空が茜色に染まり始め暗闇の訪れを告げている。
この日は少々早めではあったが日が完全に消えてしまう前に移動を中断し、寝床を確保することとした。
今日早めに休息をとる理由はいくつかある。
まず一つは初めての一人旅で自分が想像していた以上に疲労していること。疲労の原因については慣れない馬に長時間乗っていたこともあるだろう。
二つ目に結界術式の練習を行うためだ。今後魔物の出現率が高い地域に行くことにもなる事を考えると、いつまでもアラームのような結界だけでは安心できない。そんな場所へ行く前に、比較的安全なこの場所である程度使えるようになっておく必要があった。
三つめが最大の理由で、進行方向に微かに見えている緑の地平。そこには広大な森が存在しており、今回の旅で最初の難関だ。
強力な魔物が少ないとはいえ、居ないわけでもなく、また小型の比較的弱い魔物であったとしても夜行性の魔物は非常に攻撃的で獰猛な性格をしている。囲まれると簡単には逃れられないだろう。
その為今日のところ通常よりも早めに寝床の準備に取り掛かった。
睡眠場所を確保したのち、まずは警報を鳴らす結界魔術を発動させる。
”我に仇なす外敵を知らせよ 警告の円”
鈴のなるような小さな音を響かせ円形に広がっていった結界は半径約50メルト程まで広がった後、透けるように消えていった。
結界術式の特徴は自分、もしくは対象となる物体を中心とした結界を組み上げる事であり、用途や術者の個性によって形は様々だ。今回俺は円形の術式を選択した理由はもっともイメージが付きやすい形であり、用途としてもその他の形より圧倒的に効率がいい為である。
また、この魔法陣を組むに当たっては簡易魔導書からではなく地面に直接魔法陣を書き込んでいる。簡易魔導書を使わずに一から魔法陣を書き込んだ理由としては、魔法陣への条件付加が必要であったからと、朝までの間寝ながら魔法陣を維持するにはこの方が安定するからだ。
魔法陣への条件付加とは、魔法陣を書き込む際に必要となる術式の規模、形、術式の中心座標、保護対象物指定、警告対象物指定、それから術式持続時間の6項目だ。
結界術式以外の術式にも共通することではあるが、付加された条件によって必要とされる技量や魔力に違いがあり、より範囲が広くより強力な術式はそれだけ高い技量を要求され、消耗する魔力も多い。
また、結界術式は規模に関わらず総じて発動難易度の高い術式の為、戦闘では基本的に後衛の魔術師が使用することの多い術式で、俺のような前衛職は大抵簡易魔導書に持続時間5秒程度の結界を持っているか防具に刻印として結界術式を刻んでいるかに分かれる。
理由はもちろん、目まぐるしく戦況が変化していく戦場で毎回一から術式を組む余裕がないからである。
魔法陣を何かに書き込む猶予がないからである。
まあ、今は戦闘中ではないし十分な余裕がある。また朝までの間術式を維持させる必要があるため、より安定性の高い地面へ魔法陣を書き込んだのだ。地面に魔法陣を書き込むと安定する理由は研究者の中でも意見が割れており、術式大地に根付くから、大地に流れる星の力を取り込んでいるから、術式の起点座標を意識しやすいからなどいろいろと言われている。はっきり言って、まだ誰も明確な答えはわかっていないのだ。
ともあれ、警告用の結界が敷けたので次に防御用の結界の練習に取り掛かった。
その後、数回防御結界の練習を行ったが、成果はなんとも芳しくはなかった。今回の状況では戦闘や睡眠時の防衛に使用できないだろう。
なぜなら何とか結界を発動することは出来たもののどうも魔力消費が予測より多く、且発動時間が圧倒的に短い為だ。単純に魔術の3要素が不十分なのか、それとも純粋に俺自身に不向きな術式なのかはまだ不明だが、いろいろと試してみるしかないだろう。
あまり魔力を消費しすぎて襲われた時に抵抗出来なかったり、翌日に支障をきたしてもいけないので、残念ながら術式は成功しなかったがこの日の練習は仕舞いとした。
地面に書いた魔法陣を消しながら夕食の支度をする。
今日の夕食はメアリーさんが旅立ちの時に渡してくれた、パンに塩気のある羊肉を春の野菜と一緒に挟んだいわゆるサンドイッチだ。それに火にかけた小さな鍋に塩漬けした鳥の骨を煮て出汁をとり水辺に生えていた食べられる草を一緒に煮込んだスープだ。
相棒のソフィアには持って来ていたニンジンを上げたが量は少ない。不足分は周辺の草を食べるだろう。
初日の夕食はメアリーさんのパンのおかげで、旅の食事としては少々豪勢だったが今後はそうもいかないだろう。正直魔物が多い地域では料理の匂いで魔物が寄ってくる事もあるので食事がとれない事もある。そう考えれば、本当に贅沢な食事と言える。
食事を終えた後、鍋を軽く布でふき取ってから仕舞っておく。本当は水洗いまでしたいところだが、すでに日は完全に落ちておりこれから水辺に寄るのは非常に危険だ。
夕飯を終え寝支度を整えた後、火を消して就寝とした。
翌朝、日の入りとともに目覚めた俺は寝ぼけた頭を起こすべく川へと向かう。川でさっと体を洗う。
「うぅ。やっぱり暖かくなって来たとはいえ朝の川は長時間いるもんじゃないな……。」
と一人ごちる。
川から上がって体を拭き服を着た後、昨晩洗い残した鍋や食器、汚れた布を洗った。ついでに水袋の水を新鮮な川の水と入れ替えておく。
川で洗った食器類をカバンに仕舞い、朝食の塩漬けした干し肉をゆっくり噛みながら今日の移動工程を確認する。
「今日はまずあの森の攻略だな。生息する魔物は植物系と小型の動物のようなものが多いらしい。」
あの森は次の町へ行くにはかなり遠回りな道ではあるが、俺がエーレに来るときに通った道に比べると比較的安全な場所で、急がなければいけない用事が無い場合は基本的にこの道が使われる。
とはいえ、そもそも往来の激しい場所ではないので道だって何となく人が分け入ったような跡がみられる程度であり、道に迷えば日のあるうちに森を抜けることは出来ないだろう。
過去この森に入り行方知れずとなった者の数は数えれられない。
道に迷い、迷ううちに日も暮れ夜行性の獰猛な魔物に敢え無く食事とされてしまうのだ。
それを避けるためにも視界も悪い夜間の移動は避け、日が昇ってからの移動としたのだ。
森の中は草原と違って死角となる場所も多い。
出来るならば警告の円くらいは張っていきたいが、もし迷って夜になってしまった時のことを考えると、極力魔力の消耗は避けたいところだ。
地図で現在地と目指す出口までの道のりを確認し、道具類をカバンに仕舞いソフィアの背に乗せていく。
「ソフィー、今日もよろしくな。森の中ではあまり魔物を刺激しないようにゆっくり走っていこう。」
そう相棒に声を掛けながら、出発の準備を終えた俺はソフィアの背に跨る。
そして走り出す。
眼前に広がる広大なシキの森へと。
2P目!読んで頂きありがとうございます。
早速というか主人公アランが旅に出てしまいました。メインストーリーが旅メインで行くとはいえ、若干早まった気もしましたが・・・
物語中の時間や距離の単位などはまた後々。
今後もよろしくお願いします。




