序章
初めまして。幸野仁です。昔から小説読むのは好きだったんだすが、今回初めて書き手に挑戦します。
よかったら見ていってください。
”我求めるは雷 轟雷を呼び起こせ 雷撃!!”
詠唱文を唱え終えた時、一瞬地面に描いた魔法陣が輝き魔術は成功したかに思えたが、期待を裏切りその光はそのまま力なく消えていき、魔法陣に込めた魔力も空気中に散っていった。
……また失敗か。いったい何がいけなかったんだ?魔法陣は魔導書に書いてある通りだし、詠唱文にも間違いはない。それじゃあ体力か?いや、剣術鍛錬をしただけだ。ほぼ休憩無しで魔術訓練を始めたが消耗はほとんどない。じゃあ…
「おーい!アランお兄ちゃーん!ガハルドさんが呼んでるよー。」
「ああ!今行くよ、フラン。」
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この世界の名はクラフト。
魔法陣による魔術が発展したこの世界では、すべての生物に魔力が宿り魔術を行使する権利が与えられている。
人々は魔法陣魔術を刻印として、様々なものに刻み魔術によって生活している。例えば町の街灯。町のいたるところに設置され夜道を照らす街灯には、灯りの術式が使用されている。例えば各家庭に1台はある加熱用調理器具。その他建造物の強度補強や扉の鍵、武器に至るまで様々なものに使用されている。そして、その魔法陣を物に刻む技術者を魔術刻印技師と呼ぶ。魔術刻印技師はそのほとんどが工房を持っており、大抵はその工房で魔術の刻印を行う。また、技師の中には巨大な魔法陣によって家屋や町全体を刻印対象として魔術刻印を行う者もいる。
そんな魔術刻印技師を多く輩出してきたアーク大陸のはずれにある町、エーレ。
エーレは町の規模としてもさほど大きくはないが、昔から魔術刻印技師達によって支えられそこそこ豊かに暮らしてきた。
今年もエーレに春が訪れようとしている。
「いらっしゃいませ!魔術工房ハイトへようこそ。本日はどの様な魔術刻印をご希望ですか?」
工房の受付、つまり店のカウンターから魔術工房ハイトの看板娘として店主ガハルドとその妻であるメアリーの手伝いをする、フラン・フォードの元気な声が聞こえる。その声を隣接された工房で聞きながら、俺はガハルドの声に耳を傾ける。
「アラン、お前ももうすぐ18歳だ。18になれば成人として国から正式に職に就くことを認められる事はよくわかっていると思う。そこで、まあわかってはいるが、一応師としてお前に尋ねる。成人したらどうするつもりだ?」
「ガハルドもわかっているだろ?もちろん俺は魔術刻印技師になるよ。この工房で、正式に魔術刻印技師になれるのをずっと待っていたんだ。あの日から。」
お互いに、すでに決まっている事を形式的に尋ね、定型文のように返答する。
「そうか。わかった。それでは成人の儀が終了した後、魔術工房ハイトで正式な魔術刻印技師としてお前を雇おう。うむ。堅苦しいのはここまでにしてそろそろ仕事に戻るか。アラン、依頼品の包丁を持ってこい。」
「はいよ。」
そういって棚から本日の第1の依頼品、使い古されて切れが落ちてしまった包丁を棚から取り出し、作業台に用意された一枚の紙片に魔法陣を書き込んでるガハルドに手渡す。
「それじゃあ行くぞ。よく見ておけ。」
そういってガハルドは魔法陣を書き込んだテーブルに依頼品の包丁を置き、魔法陣へ手をついた。
”望むは魔術の刻印 陣をもって捧げる この包丁に研磨の術式を施せ 刻印”
淡い光がガハルドが書き込んだ魔法陣より放たれる。その光は数秒で弱まり包丁の柄に収束し、簡素な魔法陣が刻まれる。
「これで良し。ほれ、依頼主のところへもって行ってこい。」
「いつ見てもガハルドの刻印術式はきれいだな。何というか無駄がない。魔法陣への魔力供給から発動までの時間がいつも一定だ。魔術が発動する時の魔法陣の発効も強すぎない淡い光。なぁ、今更だけどこの魔法陣の光かたはその魔術の発動に丁度いい量の魔力が供給されている事を意味するんだよな?」
「その通りだ。と言ってもまだまだ俺の術式にも改善すべきところはいくつもある。お前は今術の発動が一定と言ったが微妙にも差がある。世の中の専門魔術師、所謂魔法陣魔術の専門家にして最先端の研究者だな。そんなやつらから言わせればまだまだといったところだ。魔術の道に終わりはない。」
「奥が深いなぁ、魔術ってのは。」
「お前が魔術に興味がある事は十分よく知っている。だから早く依頼品を依頼主に渡してこい。依頼主が待ってるぞ。」
「わかったよ。それじゃあ、いってきます。」
「おう。」
「えーと、確かこの辺だったと・・・おっ、あそこだな。」
ガンガン、と家の扉に備え付けられたドアノッカーを鳴らし家主が出てくるのを待つ。
「はーい。ちょっと待ってねー。今行きますよー。」
そうなんとも間延びした返事をしながら扉から出てきたのは、40歳前後の女性。エプロンを首から掛け袖を捲り、わずかに手は湿っている。家の掃除か、あるいは時間的にも昼食の準備か。
「刻印工房ハイトから依頼品をお届けに参りました。こちらご依頼頂いた包丁です。研磨の刻印を施しています。」
「ご苦労様!ありがとう。この包丁は母から譲り受けた大切な物なの。最近切れ味が落ちてきていて。砥石で砥ぐのも限界があってね。ガハルドさんにお願いしたの。」
「ええ、伺っております。今回施した魔術刻印もいずれ効力が弱くなってまいりますので、その時はまたご贔屓に。それでは失礼します。」
工房への帰り道、町のメイン通りを歩きながらランチタイムの準備に勤しむ料理店や呼び込みをしている屋台など。数々の店から料理のいい香りがして、なんとも食欲を誘う。
「もうすぐ昼か。そういえばメアリーさんに昼食用のパンを買ってくるよう頼まれていたな。」
アランは近くにあるパン屋でライ麦のパンを購入し、工房へ戻る。
「ただいま、メアリーさん。頼まれていたパン、買って来たよ。」
「あら、お帰りなさいアラン。それじゃあ昼食にしましょうか。ガハルドとフランを呼んできて。フランはさっき部屋に戻っていたから2階にいると思うわ。」
「了解。」
フランの階段を上って2階の部屋は突き当りだそこからは町がよく見える。
「フラン。メアリーさんがお昼にしようって。」
「はーい。お兄ちゃん一緒に行こう!」
二人で階段を下りダイニングへ向かうとウサギ肉と根菜を香草と一緒に煮込んだ、メアリー特製スープのいい香りがした。この地域では香草で臭みをとった獣の肉を煮込んだ料理が多く、メアリーの特製スープもそれだ。俺が先ほど買って来たパンも、軽く火で炙ってあるようだ。4人で談笑しながら昼食をとり、その後はいつも通りそれぞれの行動に移っていった。
「よし、朝は失敗したからな。もう一度雷撃を練習だ。」
この場所は町の外にある草原だ。町からそれほど離れてなく、遮蔽物もほとんどない。多少町から近いが派手な魔法を使わなければ問題ないだろう。そもそもそんなに派手な魔法は使えない。雷撃も音のでる魔術ではあるが、この時間は人通りも少ないし誰かの迷惑になることもないだろう。
いざ再挑戦。
”我求めるは雷 轟雷を呼び起こせ 雷撃!”
流れるのは沈黙であり、今回も魔術が発動する気配は見られなかった。
「……やっぱりダメか。」
「やっぱりダメか、じゃねえだろ。」
「うおっ。ガハルド、こんな所でどうしたんだ?」
「依頼品がだいぶ片付いてな。お前の様子をわざわざ見に来てやったんだよ。それで、朝も失敗していたようだが何が悪いのかわからないのか?」
「ああ。魔法陣も詠唱文にも間違いはない。体力もある。魔術の発動条件はそろているはずなんだが。」
「では聞くが、魔術の発動に必要な事はなんだ?」
ガハルドはそう尋ねる。そんな事は魔術と共に生きるこの町の人間なら誰でも知っている。魔術を使用する時、一番初めに習うことだ。
「1つ目は術式の理解だ。魔法陣に書かれた言葉の意味を理解し、正確に魔法陣を書くこと。2つ目は体力。魔術の発動には多少なりとも体力を必要とする。それは効果の大きな魔術になればなるほど消耗は大きくなる。雷撃を使用する程度であれば軽く腕立て伏せをやるくらいの体力しか消費しない。3つ目は魔術を扱うのに必要な心。精神力ともいえる。」
これくらいは難なく答えられる。伊達に魔術刻印技師を目指しているわけじゃない。
「よくわかってるじゃないか。その中で足りていない物はなんだ?」
「1つ目と2つ目には自信がある。とすると3つめの心か?」
「確かに得手不得手はあるが、お前の得意魔術は風系統の風雷術式だろ?雷撃程度ならそんなに難しい術じゃないはずだが。」
魔術にもいくつか種類がある。基本の4属性と呼ばれる炎系統、水系統、土系統、風系統。それに特殊属性の光系統、闇系統、無系統がある。発動に必要な3つの条件がそろっていれば、誰でも扱えるのが魔術だ。もちろん得手不得手はあるので、個人の適正によって得意な系統が分かれる。
また、7系統にはそれぞれ派生術式があり、その中で俺のが得意としている魔術は、風系統の派生属性である風雷術式。その中でも雷系の術式だ。
現に一番最初に扱えるようになったのは雷光、小さな電気の球体を作り周囲を照らす魔術だ。
とても便利な魔術で今でも多用している。
「お前は何故その魔術を求める?どんな魔術であれ、魔術を行使するにはそれを求める理由が必要だ。例えば、午前中に工房でお前に見せた包丁へ自動で刃を研ぐ術式の刻印。俺がこの魔術に求めたのは依頼主の願いを叶えたいから。俺がその魔術に込めた思いはそれだけだ。だが、ただそれだけの思いが魔術を行使する理由になる。その思いを糧にして魔術は発動する。」
「……」
「もう一度聞く。お前は何のために魔術を求める。」
「……俺は、魔術刻印技師として家庭用品だけじゃなく町を守れるような術式を作りたい。この町や町に住む人たちを守れるような技師になりたい。それにはもっと大きな術式を扱えるだけの力がいる。だから……いや、確かにそれはずっと思っていた事だ。だが、この雷撃を選んだのは魔導書を何となく眺めていたら行使出来そうな魔術だったからだ。思いが足りなかった。だから魔術は発動しなかった。」
俺はそんな初歩的な、だが魔術を行使するうえで最も大切な事を忘れていた。いくらやっても発動しないわけだ。
「そこまでわかったなら、次は成功させてみろ。」
俺はゆっくりと息を吸い込み肺に空気を送り込む。呼吸をしながら自分の背後にある町や町の皆、血の繋がったたった一人の妹を思い浮かべる。彼らを守れるだけの力がいる。そして想いを心に刻みながら、言葉に魔力を乗せて詠唱する。
”我求めるは雷 轟雷を呼び起こせ 雷撃!!”
ガアァァァァン!
轟音を立てて魔法陣から稲妻が草原を真っ直ぐ走る。稲妻は50m程進んだ所で徐々に弱まりやがて消滅した。雷撃の奔った後には草がわずかに焼け、黒く燻っている。
「やった!見たかガハルド!魔術が発動したぞ!!」
「やればできるじゃねえか。まあ、正直言って威力はまだまだだし、距離も出てない割に音ばっかりでかいな。」
ガハルドは豪快に笑いながら俺の背中をたたく。
可愛い弟子が魔術を成功させたんだ。もう少し褒めてくれてもいいのに。だが、ガハルドの言うことはもっともだ。発動はしたが自分の納得するレベルではなかったからな。
「それじゃあそろそろ戻るぞ。メアリーが待ってる。」
「ただいま。」
「お帰りなさい。もう夕食出来てるわよ。フランがスプーンを持って待ってるわ。」
「そうか。待たせてすまないな。」
今日の夕食は白いパンに、焼いた羊肉の横に茹でた野菜が転がっている。そしてスープはメアリー特製スープだ。なんだかいつもより豪華な気がする。
「メアリーさん。なんだか今日の夕食は豪華だね。」
「当然よ。明日はあなたの成人の儀があるでしょ。今日はそのお祝いなんだから腕によりを掛けたわ。冷めないうちに食べてちょうだい。」
「そうか。ありがとう!それじゃあ早速、いただきます。」
白いパンもどうやら焼いてからそんなに時間がたってないらしい。まだほのかに暖かかった。羊肉もたっぷりと肉汁があふれ出してくる。香草のスープも採れたての野菜がごろごろ入っていて、うまい。
「それにしても、あの小さな少年が立派になって。明日には成人の儀を迎えるのね。ガハルド、二人がここにやってきた時を思い出すわね。」
「……もうあの日から10年になるのか。」
俺と、妹のフランは10年前のあの日両親を亡くした。
両親は俺と幼いフランを連れて、行商をしながら町と町を繋ぐ旅をしていたが、とある町へ荷馬車を使って移動している時突然の暴風雨に見舞われた。
「あめやまないなーフラン。」「あうー!」
「アラン!フラン!馬車の中に入っていなさい。ぬぐぅ。なかなか車輪がぬかるみから抜けん……。」
「あなたー!もう少しよー!」
「うおぉぉぉしゃー!……はぁはぁ、やっと抜けられた。」
その時だった。どこからともなく鋭い遠吠えを上げながら近づく、奴らの存在に気が付いたのは。
「ァオーーーーン。」
雨でぬかるんだ地面をものともせず掛けてくるのは5匹のウルフ種。ウルフ種は森や草原の他、暗い谷などにも生息しており非常に獰猛で狡猾な生物だった。
「まずい!囲まれちまう。せめてこの子達だけでも・・・!」
ウルフ種に追われながら母親が二人に言い聞かせる。
「アラン。この道を真っ直ぐ進めば草原に出るわ。草原に出たら川が見えるわ。手綱を引いて川沿いを進むの。そうすれば町があるからそこで魔術刻印技師のガハルド・ハイトを探しなさい。……大丈夫よ!お母さんもお父さんもすぐに追いつくから。フランを守ってあげて。フラン、また後でね。」
「アラン!フラン!愛しているよ。」
俺は子供ながら何となくではあったが両親との最後の時であることを理解した。俺は、今でもその時の両親の後ろ姿を忘れることは決してないだろう。
その後、母の言う通りに川沿いを進み、このエーレにたどり着いた。ガハルドとメアリーは何も聞かづに優しく迎え入れてくれた。しばらくは両親を探しぐずっていたフランも次第に落ち着いていき、今では町にもすっかり溶け込んでいる。将来は光系統魔術を極めて治癒師となる事らしい。俺は俺でガハルドに弟子入りし剣術や魔法陣魔法、魔術刻印を学び、将来は俺たち兄妹を育ててくれたハイト夫妻やこの町を守れるような魔術刻印技師になることが夢だ。その夢の第一歩が目前に迫っている。
「ごちそうさま。今日も美味しかったよメアリーさん。」
「お粗末様でした。アラン、明日は早いからね。今日は早く寝るのよ。」
「うん。そうするよ。おやすみなさい。」
自室に戻った俺は明日の準備を済ませ(といっても明日の儀式に来ていく礼服を確認する程度だが)早々に眠りについた。
チチチッ
窓から差し込む光と鳥の鳴き声に目を覚ましたアランは眠気を堪えながら着替えを済ませ、1階に降りていく。
「くぁーふ。」
「あら、おはようアラン。よく似合ってるわよ。」
「ありがとうメアリーさん。」
成人の儀に着用する礼服はこの地域では特有の民族衣装を着る。アランの服は暗めの紺を基調とした首から足元まで伸びる服でところどころに淡い緑色の刺繍が光っている。
一歩間違えればただの大きなテルテル坊主だが、メアリーの言う通り平均的な男子の伸長より少し高めのアランにはよく似合っている。妹のフランの見立てのおかげだろう。
「朝食、食べていきなさい。今日は私たちも見に行くから。」
朝食を取り、その後町の中央へ出かける。人だかりの間を縫って広場へ向かうとすでに自分以外の主役たちがそろっているらしかった。成人の儀は1年に1度行われ、その年の新成人のお祝いを町全体で行ういわゆるお祭りだ。
「よぉアラン。その衣装よく似合ってるぜ。流石フランちゃんだ。」
「なんだクランか。お前はそんなに似合ってないな。無駄に派手だし。」
「なんだとは何だ。カッコいいだろ?やっぱ男は情熱の赤!だよなー。」
クランは隣の区画に住む鍛冶師の息子だ。剣を振るい戦う才能には生まれなかったが、得意の炎系統術式を使用し、鍛冶師として父親の跡を継ぐらしい。職業柄幼いころから互いの店に通いよく一緒につるんでいた。似合ってないとは言ったものの、クランは顔もよいがとても気のいい奴なので昔からよくモテる。実際、今も遠巻きにやつを眺めて頬を朱色に染めているやつが、えー1、2、3……6人もいる。また増えてんじゃねぇか。
「おっ。そろそろ始まるぞ。」
それからしばらくは、この町の領主様や町のお偉方の長い話が続いた。皆一様に似たようなことを言っている。まあ式典なんてこんなものだろう。
挨拶が終わった後は新成人による魔術演武だ。魔術演武では、それぞれの得意な魔術を、できるだけ派手に放ち自らの成長を示すものだ。
「それでは新成人となった諸君、順番に魔術を行使し今日まで自らが積んできた研鑽を皆に見せつけてやれ!」
『ワァーーーー!』
”氷結せよ 氷蕾!”
”怒れ 大地の精 土杭”
奥にいた一人によってあたり一面に氷の蕾が咲き乱れ、その蕾を砕くように次の一人によって地面から杭が飛び出す。砕かれ空気中に散った氷が、陽光を反射しキラキラと幻想的に光る。
「よーしっ。俺も負けてられねえ。行ってくる!」
”顕現せよ 炎を掲げし者 炎馬!!”
クランが唱えたのは赤く燃える炎の馬を召還する術式だ。威力はさして大きくないが召還した炎の馬をある程度自由に動かせるので、攻撃魔法としては非常に汎用性が高い。広場を駆ける馬は飛び出た杭は踏みつけ均し、空中に残った氷を蒸発させていく。
俺もそろそろ行くか。今回の魔術演武では見に来た人々を楽しませる目的もあるので、事前に魔法陣を地面に書き込みネタ晴らしをすることはなく、紙に書いた魔法陣をつづった簡易の魔導書を使用する。これはあらかじめ、魔法陣を書いた数枚の紙を束にして詠唱とともに簡易魔導書から目的の魔法陣が書かれた紙を引き抜き投げる。すると魔法陣を書いた紙が燃える代わりに唱えた魔術が発動するという仕組みだ。使い切りになるが一から魔法陣を書く手間が省ける。ほとんどの参加者がこの簡易魔法陣を使用している。
「それじゃあ俺もそろそろ。」
そうつぶやきながらさ先ほどクランが召還し、いまだ広場を駆けまわっている炎馬へ近づく。
アランは服の裏に仕舞っていた練習用の木剣を引き抜き、周囲に愛想を振りまいているなんとも人間味のある炎馬を正眼捉え、木剣の柄に刻まれた術式を呼び起こす。
”発動”
短い詠唱だった。その言葉とともに木剣の柄に刻印された魔法陣が輝き、弾ける雷の魔術が行使される。
発動された魔術は木剣を起点にアランの全身を包み込むように広がった。
そして、雷をまとったアランが走り出したかと思えば、いつのまにかアランは炎馬の後方で抜き身の態勢で静止していた。そして炎馬は雷をまとったアランの木剣によって3分割され、徐々に姿を揺らがせ霧散していった。
そのスピードの反応に遅れた人々に少しの間沈黙が流れたものの、次第に沈黙は歓声へと変わっていった。
アランは姿勢を正し大仰に大衆に向かってお辞儀をする。
「どうぞ、今後とも刻印工房ハイトをよろしく!」
ついでとばかりに我が就職先である刻印工房ハイトの宣伝もしておく。
「一人で全部持っていきやがって。ちゃっかり店の宣伝までしてんなよなー。」
「いやー、そうむくれるなよクラン。お前はいつでも目立っているんだ。俺もたまには目立ちたいのさ。」
二人が軽口をたたきあっている間も残りの新成人による演武が続き、演武が終わる頃には町全体が喧噪につつまれ、もうお祭り騒ぎだ。
あちこちで大人たちは酒をあおり、子供は屋台の食べ物に目を輝かせている。その後も夜が更けるまで お祭り騒ぎは続き、アランもその日は友人たちを遅くまで遊んでいた。
帰宅後、ベットに真っ直ぐ戻り服を脱ぐと、布団に潜り込みそのまま眠ってしまった。
……
求めよ。この世のあらゆる法を。自身の大切な者の為に。
求めよ。それを成し遂げる力を。自身を信じる者の為に。
求めよ。世の理を統べる秘術を。自身の愛する妹の為に。
……
「んぐっ。何だったんだ?今のは。フランに何かあるのか?」
これから何かが起こるような、そんな気がした。何か大事なことが。
「夢は夢だ。考えったて仕方ないだろ。顔でも洗って朝食前に鍛錬しに行くか。」
そうつぶやき、表へでる。工房のちょうど裏側に置かれた瓶に柄杓を入れ、溜めた水をすくい顔を洗う。
「ふぅ。まだ朝は少し冷えるな。鍛錬にはちょうどいいだろう。」
その後、小一時間程木剣を振るい朝食を取りに家に戻り…違和感を感じた。
なんだ?何かがおかしい気がする。
今朝の夢のせいであろうか?いつもの光景であるはずが、何かが欠けているような物足りなさを感じる。
電気もつかずわずかに窓から日が差す部屋の中。家具の配置に変わりはない。では何か。
『自身の愛する妹の為に。』
「フラン!」
アランが家に戻って最初に感じた違和感の正体はそれだった。いつもであれば、この時間はフランが台所で調理をしているころだ。それは年を取り朝が苦手になってきていたメアリーに代わり、フランが朝食を担当しだした2年前の日から毎日、フランはこの時間には台所に立っていたはずだ。
急ぎ足で階段を駆け上がり2階の奥、フランの部屋へ向かう。
コンコン
「フラン。朝からすまない。起きているか?」
フランからの返事はない。
「開けるぞ。」
部屋に入り、アランの目に飛び込んで来たのは今だぐっすりと眠る妹の姿。
「…よかった。そこにいてくれた。昨日はフランも結構はしゃいでいたからな。疲れが出たんだろう。」
「…?」
また感じた。感じた違和感の正体はその妹の眠ったままの姿、というより顔にうっすらと浮き上がる何か。
ドクン、と心臓が跳ね心に警鐘を鳴らすような感覚。
「なんだ、この痣。魔法陣の一部のように見えなくもない…。フラン!起きてくれ。」
「…。」
返ってくるのは沈黙。その後アランはしばらくあらゆる手段でフランを起こそうとしてみたがしかし、 フランが目覚める気配は見られないない。
「どうしたんだ?フランが何かあったのか?」
俺の後ろにある部屋の扉からガハルドの太く低い声が掛けられる。
「ガハルド……。さっきから起こそうとしているんだが、フランが全く起きないんだ。顔に右端にうっすらと模様も見えるし。」
「顔に模様だと?ちょっと見せてみろ。」
アランは一歩身を引き、ガハルドがフランの顔の正面に来る。
「これは、魔法陣のように見える。」
「やっぱりそうだよな…。何かわかるか?もしかしてフランが何度起こしても目を覚まさないのはこれが原因じゃ…」
「いや、俺も長いこといろんな魔法陣を見てきたがこんな配列の魔法陣は初めてだ。アラン、町へ行って魔法陣に詳しい治癒師を連れてこい。それと、町の図書館には古い魔導書も数多くある。何かヒントがあるやもしれん。」
「あ、あぁ。すぐに行ってくるよ。」
それから俺は石畳の路地にあふれるような人込みをかき分け、町を駆け抜け数人の治癒師に声をかけていった。家に連れ帰った治癒師に眠ったままのフランを診せるが、いずれもフランの顔に現れた魔法陣を知るものはいなかった。
俺はそれから連日図書館に籠り切りで正体不明の魔法陣を調べ続け、エーレの図書館にあるすべての魔導書を読み終えようとしていたが、成果は芳しくない。疲労からか魔導書を読みながら、うとうととしていた時どこか遠くから再び声が聞こえた。
それは、二つ隣のテーブルで絵本を読み聞かせる親子の声。もちろんここは図書館なので大きな声でお会話が禁止されている為、ささやくような小さな声であったにも関わらず少し離れた俺の机にまでよく聞こえてきた。
聞こえてくるその物語は、この国の誰もが知っている仲の良い兄妹の物語。
確か、生まれついて体の弱かった妹がある時突然原因不明の病によって倒れ、妹を救うためあらゆる願いを叶える魔導書を求めて世界を旅するという、所謂冒険物語だ。兄が旅の終わりに願いを叶える魔法陣を記した古の魔導書を見つけ、その魔法陣を使って妹の病を治し、その後二人仲良く暮らしたというよくあるお話。物語の途中で主人公の兄は魔物に囲まれたり夜盗に襲われたりと何度も死にそうな目にあったが、その胆力と行動力で困難を逃れる。
幼い時によく母が俺と妹に読み聞かせてくれた物語でもある。特にフランは幼子ながらこのお話が好きだったようで、よく母にねだっていた。まだ幼く1歳になろうかという年齢であったが、夜になるとぐずりだし、母がお話しを語りだすと自然と静かになる子だったフラン。そういえば誰もが知っている物語だが、著者名がいまだにわかっていないんだよな。
子供の頃はその魔法陣を探し、家族全員ででずっと仲良く暮らせますようになんて願いを本気で叶えてもらうつもりだった。結局、両親を亡くして妹のフランを守るのに精いっぱいだった俺は、いつしか大好きだった物語を忘れてしまい、今親子の声を聴きようやく思い出したほどだった。
その物語に出てくる魔導書と、その魔導書に書かれた願いを叶える魔法陣。それはどの属性にも当てはまらず、この世の理を変える力をも持つといわれた幻の秘術。
当然そんな都合のいい代物は、お話しの中でしか存在しえない。
世界の理を変える魔術なんて、もし悪人が手に入れたりしたらたまったもんじゃない。
だが、中には真剣に夢を追いかけ魔導書を探すものやその魔法陣の開発に取り組んだ研究者もいたらしいが、結局は見つからなかったそうだ。
そして、その物語でも名を持たなかった魔法陣は、いつしか人々からはその魔術のもつ力からか、こう呼ばれるようになった。
”世界魔法”と。
書くのって難しい。
台本書きとか会話文多いとか、風景描写とか心理描写とか。気を付けないといけないこと多くて、語彙も勉強しないとですね。
ご感想、アドバイス等頂けましたら幸いです。




