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第六十三話「戀国出発」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇注意!◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 本編の中盤以降、後半部分において残酷orグロテスク(?)な表現があります。

 元々この作品の目次欄に〔残酷描写〕が含まれていると書かれてあるのですが、今回は今までのよりも若干酷いかな? と作者は思いましたので、これを書かせていただきました。

 それらの表現が苦手な方は、『・・・・・・・・・。』←この部分が見えたら次の『 ◇ 』まで読まずにお進みください。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇注意!◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 時間が経つのは早いもので、気が付けばフィアナード王国へと出発する日になっていた。ということで学校に出発―――する前に、修理を頼んでいたものを受け取りにマリーさんの店に来ていた。

 もちろん、綾香、オルスレッド、美永瀬も一緒に。

 この三人、この一週間毎日俺の家に来ていた。といっても、ずっと一緒にいるわけでもなく、朝会ってから別々に行動することもあった。ただまあ、概ね一緒にいたのは事実だが。

「マリーさん、受け取りに来たけど・・・マリーさん!」

 カウンター越しから廊下の奥に向かって呼びかけると、トコトコと足音が聞こえて来た。さらには「うんしょ、よいしょ」と掛け声のような声まで小さく聞こえる。

「待たせてしまってすいません、桜華様」

 そう言って俺達の前に現れたのは耐熱用の分厚い服に帽子、手袋に靴まで履いた十歳程の男の子が礼儀正しく頭を下げる。

 名を『風蘭(フウラン)』といい、見た目は人間だが実はこの子、マリーさんが造った()に宿った意思をマリーさんが霊術で人の姿へと変えた存在―――まあ、いわゆる付喪神の一種である。

 ちなみに、使用した霊術から式神の部類に入る。

「風蘭じゃないか。マリーさんは?」

「マスターは工房で酒瓶を手に寝ています。起きる気配がなかったので、僕たちが代わりに持って来ました」

 風蘭の後ろから同じような耐熱用の服を着た子供達が現れる。ある女の子は抱きかかえるように布に包まれた鎌槍剣を、ある男の子は鞘に納められた『炎姫の涙剣(パイロ・クイーン)』を両手で持ちながら頭上に掲げ、またある女の子はまるで国宝を扱うかのように『氷扇・蒼海の舞』が乗せられた供物台を丁寧に持っていた。

 そして最後に、三人の子供がまるで担ぐように『雄絶の炎剣(レーヴァティン)』を持って来た。

「先ずは、綾香様の。既に付加されている霊術に変わりはありませんが、使用されている鉱石や術式を少しばかり弄ったとの事です」

 男の子に手渡された炎姫の涙剣を一度鞘から抜いた綾香は目を見開いて驚愕していた。

「続いてオルスレッド様のは、随分と面白い機能を御搭載の様でして、そちらの方を弄ったとの事です。申し訳ありませんが、流石のマスターでも刀身自体に手を加えることは出来ないようでした」

 身体能力にいたっては人間を遥かに超える設定の三人が、汗を大量に流しながら担いできた雄絶の炎剣を軽々とオルスレッドは持ち上げる。

 現在()の人には及ばぬ域の代物故に古代武器(エンシェント・アーツ)なのだ。

 いくらマリーさんでもこればっかりは無理だったようだ。

「加菜恵様のはこちらです。元々マスターがお造りになった子ですので、これと言って追加された機能はありません。各機能のチェックだけをしました。ただ、マスターから伝言があります。『次に詩う(・・)ようであれば、使え』との事です」

 風蘭の目が真剣な物になる。

 その目を見た美永瀬はその言葉の真意を理解したのか、小さく頷いてから氷扇を受け取った。

「最後に桜華様のです」

 前に出て来た女の子から鎌槍剣を受け取り、包んである布を取ると、その内側から見たことも無い色の輝きを持つ鎌槍剣が出て来た。いや、色自体は『黒色』だ。だが、本来の黒色にはない輝きを持っていた。

 その輝きを例えるならば、『銀』。黒と銀の色を併せ持つような色だった。

 刀身の形が以前と比べて変わっていた。前は試作段階という事もあってシンプルなデザインだったが、今回は手の込んだ形になっていた。

 そしてこの色。不思議な色だなと思い直接触れてみると、

「っ!?」

 霊力が吸収された。しかもほんの一時的なものではなく、常時吸い続けている。

 別段そこまで大量に吸われているわけではないが、霊力を吸収するという事が問題だ。

 つまり、これは・・・。

「お気づきになられましたか。今回、桜華様のはマスターが一から創り直しました。素材は前回同様、黒曜石を使っていますが、今回はもう一つ―――『稀少銀(ミスリル)』を使用しました。マスターはその色を黒銀色と呼んでいました」

「ミ、ミスリルだって!?」

 ミスリルという言葉に一番喰いついたのはオルスレッドだった。


 稀少銀―――またの名を、ミスリル。

 鉱石の中には、霊力を保有した霊石なるものが存在する。硬度は通常の鉱石を超え、霊術などを使う際などに補助媒体としても使われる霊石。

 しかし、そんな中でも霊石とは全く違う性質の鉱石が存在する。それがミスリルだ。

 その特徴の一つが霊力を吸収する(・・・・・・・)事。

 この性質上非常に霊力が伝わりやすく、タクティカルアーツなどに使われる事が多いが、いかんせんその採掘量が絶対的に少ないのだ。しかも、他の鉱石、金属とは駆け合せる事が不可能と言われるまでに難しい。


「黒曜石とミスリル、その両方の特徴を併せ持っています。その他の機能は以前と同様のを付加していますが、いくつか新しい機能を追加しています。一皮剥けた桜華様へのお祝いにとの事です」

 全てお見通しと言う訳か。

 まあ恐らく父さん辺りから聞いたのだろう。知られたくなかった人に知られたのはどうにも恥ずかしいが、ここは感謝しておこう。

「マリーさんにはお礼を言っておいてくれ」

「わかりました。あ、それと、四人のお代は結構との事です」

 最後にさらりと凄い事を言ったが、こうなればとことんお言葉に甘えさせて貰うことにした。

 自分のタクティカルアーツを受け取った俺達はマリーさんの店を後にし、戀国、蓮桜学園へと向かった。


                  ◇


 蓮桜学園のグラウンドには何十台もの馬車がずらりと並んでいた。

 馬車と言っても形からすれば箱馬車だ。だが、大きさが通常のに比べてデカい。天井は大の大人が立っても大丈夫なほど高く、中は若干狭いものの真ん中を通る通路を挟んで二段ベットが一つと備え付けのテーブルと椅子、クローゼット、小さいがキッチンまで付いているという箱馬車にしては豪華な馬車だった。

 四頭立ての大型四輪馬車で、『コーチ』と呼ばれる部類のものだ。

 それが全部で、えぇ~と・・・七十台程あった。

 参加人数102名。一つの馬車を二人で使うとすると単純計算で51台あれば十分なはずなのだが・・・。

 そう思っていると奇妙な人の集まりを見つけた。

 いや、別に奇妙な人が集まっているのではない。ただ、集合場所と思わしき先生方と生徒がいる場所とは別に、生徒が密集している場所があるのだ。しかも、皆手には自分のタクティカルアーツを持ってだ。

 いったい何の集まりなのだろうと思いその集団の奥を覗いてみると、

「・・・おい、なんで父さんが学園(ここ)にいる?」

 マリーさんの店を出た後、人目の付かない場所で転移霊術を使って学園まで移動した俺が、目の当たりにした光景に対して放った第一声がこれだった。

 集団の奥には、他にも数名の科学者らしき人と一緒に生徒のタクティカルアーツを調整している俺の父さん、天ヶ咲 隆二の姿があった。傍らには母さんの天ヶ咲 静奈。そしてニーナまでいる始末である。

 何が何だか分からないでいると、ニーナが俺の事を見つけて突っ込んで来た。

「お兄ちゃん!」

「ぐふっ!」

 猛烈な頭突きが腹部を襲い、肺の酸素もろとも中身が出るかと思った。

「ん? お、ようやく来たのか。悪いな、少し席を外す」

 父さんも俺に気づいて作業を中断した。そしてついて来いと言いたげな視線を投げかけて来る。俺はそれに黙って頷いた。ニーナはどうしようかと思っていたが、既にニーナは父さんの後を歩く母さんの横を一緒に歩いていた。

 生徒達から幾分か離れた場所まで来ると振り返った父さんは唐突に話を切り出した。

「桜華。今回の遠出だがな、ニーナも連れて行け」

「え、いきなりなんで」

 今回のフィアナード王国行きに際して、ニーナをどうするかという問題は既に、マースティアにある実家で父さん達が預かるという話で纏まっていたはずだ。

「昨日渡した書類に書いてあるが、ここ最近妙な事が立て続けに起こっていてな。どうやら、もう少し本気で調査しないといけない状態になった。数日程度なら問題はないが、何時終わるのか分からなくてな。母さんは付いて来ると言ったが、さすがに小さな子を連れて行くには危険な場所だ。それならお前と一緒に行った方がいいだろうという話だ」

「いや、そんな急に言われても・・・」

 無理に断る気はないが色々と問題が・・・、

「天上院家の娘には既に了承を得ている。理事長に学園長もだ。何も問題はあるまい」

 それは既にどうにもならない決定事項で俺に決定権ないですよね、父さんよ。いや、元々命令系ではあったけど。

 ここで反対しても意味はないのだが、本人の意思もあるだろうと思い、ニーナに尋ねる。

「ニーナはそれでいいのか?」

「お兄ちゃんと一緒なら大丈夫。それに、お姉ちゃん達も一緒なんだよね?」

「ニーナちゃんをお願いね、桜華。それと、気を付けて」

 どうやらニーナはニーナでついてくる気満々のようだった。

 だったら俺が口を挟む事もあるまい。そう思って俺はニーナの同行を受けいれた。


 その後、父さんは生徒のタクティカルアーツ調整に戻って行った。どうやら数名の部下の同行許可を交渉しに来たついでに、ボランティアでタクティカルアーツの調整をしているようだった。

 向こうに行って不測の事態や恥をかかないための保険と言ったところか。

 どうやら残りの二十台は教師と部下の人、御者の人が交代で休むための馬車のようだった。

「は~い、全員ちゅうも~く!」

 時間になり学園長が生徒の前に立ち、挨拶が始まる。珍しく(?)生徒の前に現れた天蘭院 志恵那から激励の言葉を受けたり、父さんからの一言。生徒会長の綾香に生徒理事会会長の姉さんからの言葉。

 一通り済んだ後、再び学園長が一歩前に出た。

「ん~、皆良い顔してるわね。既にさんざん言われてて何回も聞くのは飽きたかもしれないけど、これで最後だからちゃんと聞いてね。今ここにいる102名は参加希望者271名の中から選ばれた登校の代表者です。緊張は当然、責任感も感じるでしょう。ですが、何も私たちは戦争に行くのではありません。友国との絆を深めるために行くのです。言い換えればこれはお祭りです。皆お祭りは好きよね? 普段学園でしているように、今回も目一杯暴れちゃいましょう!♪」

 学園長である篠宮 涼華の高く上げられた拳と語尾の弾んだ声を聞いて、生徒達も男女問わず「イヨッシャァァー!」と声を上げる。お祭り好きもここまで来ると呆れて来る。

 いや、まあお祭りには変わりないがここまで言って良いのだろうかと思ったが、不安だらけのなか出発するよりはいいかもしれない。

「よ~し、それじゃあ自分の馬車に乗ってください。同車の相手を確認し終えたら御者の方に報告を忘れないように。全員の乗車を確認でき次第出発します」

 全員自分の馬車へと向かう。

 やがて全員の乗車が確認されたのか、校門に一番近い馬車から順に出発していった。先頭には姉さんと天城臣先輩が、中程には天津神と紅快天、そして最後尾には俺と綾香の乗る馬車がそれぞれ位置している。

 五日間の馬車旅が始まった。

 校門から次々と馬車が出て行く。ようやく最後尾の俺達の番になり校門を出て街中に入ると、街はお祭り騒ぎだった。

 まるで人波をかき分けるように馬車が進んでいく。

 窓から外を見れば、沢山の人がこちらに手を振っていた。

 姉さん辺りやノリのいい奴は手を振りそうな程に賑わう中を馬車が進んで行った。


                  ◇


 ・・・・・・・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・。

 暗い。

 (くろ)(くら)い、底知れぬ闇の世界が、白銀に輝く月の下で静かなる時間(とき)を支配する中、唐突にその闇に石が投げ込まれた。

 それは小さな悲鳴だった。

 いや、そもそも悲鳴かどうかも分からないような小さな悲鳴(こえ)

 だが水面(みなも)に起つ波紋の如く、その悲鳴(こえ)は次なる連鎖を生み出し、徐々に拡がっていく。一つ、二つ、三つ四つ五つ・・・・・・やがて悲鳴は静かなる夜の眠りを人から引き離す。

 目覚めた者がまず目にするのは自分が寝ていた場所。何の異変もないように見えたが、異様な光がその場を照らしていた。

 赤く、紅い、(あか)い光。

 月の光しかない夜を我が色で染めるかの如く、紅蓮の炎が辺りを包み込む。

 地が熱し家が焼け、空気が焦げる臭いが充満する中を気がつけば俺は歩いていた。


―――・・・ここは、どこだ?


 見に覚えのない光景。見たことのない場所。

 ここがどこかもわからない、燃え盛る炎の中を俺はただ歩いていた。

 そんな時、不意に異臭を感じた。鼻がひん曲がる程に強く、嘔吐しそうになりそうな不快な臭い。それは何かが焼ける臭い。

 人が焼ける臭い。


―――う、そ・・・だろ?


 振り向いた先には地獄のような光景があった。

 俺が歩いて来た道を示すかのように転がる、人の死体。手足がない、上半身がない下半身がない・・・首がない。首しかない。そして明らかに人ではないものの死体まで。

 老若男女、人間妖怪半妖問わずに転がる死体。


 死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体。


―――いったい誰がこんなことをっ!


 気が狂いそうになる程だった。

 この事態を引き起こした奴を見つけ出してブッ殺してやる! そう怒りが芽生え、走り出そうとするが体が動かなかった。ただ、歩く事は出来たのでゆっくりとした足取りで進んで行く。

 どうやらここはどこかの村のようだった。家が木製で簡素だった。

 火の海と化した村をゆっくりと歩く。

 ・・・ガタッ

 小さな物音がした。

 音の出所を探ると、そこには小さな女の子がいた。転んだのか所々に擦り傷があり、顔や服も少し煤で汚れているが、何より特徴的なのはその半身だった。

 その少女には脚がなかった。

 切断された訳ではない。ただ脚というものが少女の種族には存在しないのだ。

 『蛇女』。それがこの少女の妖怪内での分類だ。

 近くに寄ると少女はこちらの存在に気がついた。

 「大丈夫だよ」そう言おうとした。しかし少女の反応があまりにも予想外だったため、言えなかった。

 少女の瞳は恐怖で一杯だった。特に色濃いのが裏切りによる絶望感。そんな少女の視線(ひとみ)が俺の顔と手を何度も往復していた。

 手には恐怖、顔を見た時には絶望。

 いったい何に恐怖しているのか。視線を落とすと―――


―――えっ・・・?


 右手には刀が握られていた。

 一般的なごく普通の刀。

 だがその刀身が赤黒くなる程に血で染まりきっていた。


―――なん、で・・・


 いつから持っていた? 何故ここまで血で染まっている? 俺はいったい何を斬った?

 わからない。何もわからなかった。

 ただ俺の視線が刀と少女を行き来する。そして・・・、


―――嘘だろ


 刀を持った手が上に上げられる。少女が身を震わせたのがわかった。


―――そんな、やめろ・・・やめろやめろやめろっ!


 腕に力がこもったのがわかった。その腕が、少女目掛けて降り下ろされたのも。

 ザシュッ、と肉を裂き、骨を断つ。二の腕から先がなくなり、少女が悲鳴をあげるが直ぐにあまりの痛さに声をあげる事が出来なくなって左腕を押さえて蹲る。


―――斬っ・・・た、のか? 俺が? この子を? じゃあ、さっきの奴らも、俺が?


 殺した。無抵抗な奴らを。俺が殺した。

 今まで一度たりともしなかった―――否、しないと決めていた事をしてしまった。ユエラと約束した守るべき存在を殺してしまった。

『・・・・・・』

 後悔と懺悔の念に沈みかけたが、そんなものに気を向けてはいられない事態が起こった。いや、既に起こっていた。

 降り下ろされた腕が持ち上げられ、再び降り下ろされ。また振り上げ、また降り下ろす。

『―――お・・・ん』

 何度も、何度も何度も少女を斬りつける。

 刃は既にこびりついていた血液と油で刃毀れを起こし、刀特有の切れ味は失われ始めていた。よって、刀は肉を引きちぎり骨を砕く結果になった。


―――もう・・・やめてくれ。今なら、今ならまだ間に合う。だから・・・


 既に少女は虫の息だった。その目からは涙があふれ、虚ろな表情をしていた。

『お・・・か、くん』

 ようやく止まったかと思っていた腕は、最後と言わんばかり大きく持ち上げられる。ぐっと力強く柄を握り降り下ろす。その軌道は少女の首へと―――


―――やめろおおおおおぉぉっ!


 喉が枯れるのも気にせず叫び、


「桜華君!」


「―――ハッ!」

 目を開けると同時に俺は飛び起きた。


                  ◇


 飛び起きたせいなのか、はたまた他に原因があるのか分からなかったが、身体が物凄く熱かった。汗だくでTシャツが肌に張り付き、息も荒い。おまけに酷く身体が怠くて座っているのも億劫になり身体を後ろに倒した。

 目を閉じ、大きく息を吸う。

「・・・大丈夫?」

「え?」

 すぐ近くで声が聞こえたので目を開けると、目の前に人の顔があった。

 炎のように紅い髪、切れ目がちの目に整った顔立ちをした少女が俺の顔を覗きこむように顔を近づけていた。いくらポニーテールにしていると言っても髪は重力に引かれて下に垂れるものであるため、俺の顔に髪が掛かっていた。

「・・・綾香、顔が近い」

「ふぇ? あ、ごご、ごめんなさいっ」

 顔が離れて視界が広がったため、綾香の他にも二人いるのに気が付いた。

「大丈夫かい?」

「さっきから大丈夫かって訊くが、何がだ?」

「桜華君、何だか物凄くうなされてたんだよ? 何度もやめろやめろ、て叫びながら。覚えてない?」

 言われてみればそんな気がして来た。ただ、どんな夢を見ていたのかはさっぱり覚えていない。心配される程に酷い夢を見ていた程なのだが。

 今は全身から力を抜き、横になっていたおかげか大分と楽にはなっていた。

「あ、あの・・・それでね? 桜華君。そろそろ・・・あの、はなし―――」

「ちょっと~、起きたんなら早くご飯にしようよぉ。せっかくニーナが作ってくれたんだし」

 綾香が何か言い掛けていたのだが声が小さくて聞き取れず、おまけにいつの間にか席についている美永瀬の声で余計に聞き取れなかった。

 時計を見れば朝食には丁度いい時間だった。

 出来れば先に体を拭きたいなと思いながら再び体を起こすと、左手が何かを掴んでいるのに気が付いた。さらさらとした触り心地に、温かく、同時にいつまでも掴んでいたくなるような柔らかいもの。

 何だろう? と持ち上げると、

「あ・・・う、あぅ~~~・・・」

 何やら可愛い声を出しながら顔を真っ赤にする綾香の手を握っていた。しかも、指を絡める恋人繋ぎの状態で。

「あ、悪い。いつの間に・・・全然気づかなかった」

「う、ううん。私は大丈夫」

 大丈夫なわけがない。

 手を離す時に一瞬だけ見えたが、綾香の手には俺の手の跡がくっきりと残っていた。相当強く握っていたはずだ。治すことは簡単だが、後でお詫びの一つでもしないと申し訳がない。

 ただ、そこまで強く握ってしまう程にうなされていたと言う事が気になった。

 しかもその内容をまったくと言って良い程に覚えていない事も。

 いったい、俺はどんな夢を・・・。

「早くぅ~」

「もう、加菜恵ったら。ほら、桜華君も起きて」

「あ、ああ」

 綾香に手を引かれてベッドから降りてテーブルに着く。

 二人乗り用に設計されているはずのこの馬車。テーブルは向かい合う様にしか座れない形になっているのだが、何故か片方に二人並んで座っても―――つまり四人が座っても狭くないような造りになっていた。おかげで、通路側に椅子を置けば全員が一緒に朝食が取れた。

 俺、オルスレッド、綾香、美永瀬、そしてニーナ。

 この五人で今日も一緒に朝食を取る。

 現在馬車は停止中。

 もうしばらくすれば本日の移動を開始するだろう。


 フィアナード王国の招待を受けた俺達は、戀国を出発してから三日目の朝を迎えていた。


お久しぶりです、アリッサです。


二月中に更新する予定だったのですが、今日まで遅れてしまいました。

ごめんなさい。


と言う事でですね、はい。ようやく戀国を出発しました。

・・・おかしい。第四章に入ってまだ戀国にいる(汗) どうしよう(涙)

ここまで長くなる予定はなかったのに、いったい何がどうしてこうなったんでしょうか。心機一転したいのに出来ないこの状況。いったいどうすれば・・・っ。

ただ書き進めればいいだけなんですけどね。


なのでこれからも頑張って書いて行きたいと思いますんで、よろしくです。

ではでは、次話でお会いしましょう。

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