第五十七話「桜華&ユエラ VS タウロス」
おひさしぶりです、アリッサです。
現実の都合上更新が遅くなりましたが、第五十七話です。
なんとか更新できたんですけど、まだまだ忙しいのでなかなか更新できないかもしれませんが、合間合間に書いて頑張って更新できるよう頑張ります。
それでは、二人の戦いをどうぞ。
それからは朝の時間をユエラと霊術陣を描く時間に使った。三時間近く製作していたにも関わらず全くと言って良い程進まなかった。
お母さんに呼ばれてお昼ご飯を食べた後、戦闘用の服に着替える。
僕の服はお父さんから貰った物だ。なんでも特注品らしく、縦と横に何本も青いラインが入った上下共に黒い服。上は服というよりもコートといった方がしっくりくる造りで脚がすっぽりと隠れそうな程だ。
対してユエラは初めて会った時と同じ格好だ。
白い布地に花びらが描かれていて、お腹の部分がくり抜かれている。肩が露出していて、袖口は広がっている。腰から膝にかけてドレスのように広がっている純白のスカートは、何層にも重なって下から出ている。
これが僕とユエラの戦闘時の服装だ。
裏庭に出るとお父さんが待っていた。何故かお母さんが日傘をさしてベンチに座っていた。
「来たか。・・・タウロス」
『うむ』
僕たちが来たのを見てお父さんがタウロスを呼び出す。
どこからともなく聞こえた声の後、黄土色の霊術陣が展開する。その中心からタウロスが姿を現す。無詠唱、しかも真名呼びですらない召喚。この方法で呼び出されると力は半減する。それでもタウロスは二メートル程の巨躯をしていた。
「準備はいいな、二人とも」
「「はい」」
「任せたぞ、タウロス」
『御意』
「「お願いします」」
タウロスに挨拶をしてからお互い十メートル程離れる。
これはあくまでテストだけど勝つ必要がない。いくら力が半分になっているからといっても相手は十二天族の切り札的存在の黄道十二神霊だ。勝てるはずがないのだ。
でもただやられるようなことは嫌だ。その為にいくつも計画を用意はしてある。そのどれを使っても勝てる気はしないが、せめて一泡吹かせてやる。
目を閉じ、大きく深呼吸をする。
隣でユエラも同じように深呼吸をする気配が伝わって来た。
吸った息を吸った時よりも時間をかけてゆっくり吐き出す。それを数回繰り返した後、目を開き、異空間ストレージから武器を取り出し構える。
お母さんの生まれた国特有の武器。
刀という武器らしく、天津神家が好んで使う武器でもある。刀身の幅は五センチもなく、厚さもこの国の剣と比べると薄い。独特の反りを持っていて容易に人を真っ二つに出来る程の切れ味を誇る刀を両手に一本ずつ握って構える。
対するユエラもどこからともなく現れたレイピアと片刃の片手剣を既に握って構えていた。
ユエラが持つこの世に唯一無二の固有霊術―――『万物創造』
物質創造の能力は少ないが存在する。その中でもユエラのだけは別格だった。なんせ、創り出した物は術者が消さない限り永遠に存在し続けられるし、いろいろと定義を変えることが出来る。
最強の創造霊術なのだ。
僕たちが構えたのを見てお父さんが開始の合図を告げる。
「始め!」
プランその1。『小細工なし。最初から、全力で!』
「―――<炎獄刃・八翼の舞!>」
ユエラの背中で若干黒色が交ざった炎が生まれる。左右対称四対、計八枚の炎の翼が現れる。
「―――<氷獄刃・六翼の舞!>」
今度は僕の背中で冷気と氷を纏った風が渦巻き、左右対称三対、計六枚の氷の翼が形を成す。こちらも、ユエラの炎と同じで、少しだけ黒色が交ざっている。
今の僕には六翼までが限界だった。
翼を大きく広げ前に倒れ込むようにジャンプする。重力に引かれてそのまま地面に落ちることはなく、地面すれすれを僕とユエラはタウロスに向かって飛んでくい。
タウロスがバトルアックスを握りしめる。
ユエラの背に生える炎の翼が一枚だけ淡い光を帯びると同時。タウロスの足元から炎の翼と同じ少し黒色の交ざった炎がタウロスの身体を包み込む。『獄炎柱』。それが無詠唱無発言で放たれたのだ。
詠唱と発言をして発動した霊術に比べ、無詠唱の場合はその七割、さらに無発言の場合だと五割程度しか威力がない。しかし、この『翼刃』を使えば詠唱と発言をした時と同等以上の威力を無詠唱無発言で行えるのだ。
いくつもの霊術を翼として形成することにより、霊術発動のタイムラグをほぼ0にすることが出来る。
それがこの『翼刃の舞』。通称、翼刃だ。
発想的にはいくつもの霊術の常時発動と同じだが、この霊術のメリットは何の霊術が発動しているのか相手にはわからないという点にある。
翼が増えるごとに使える霊術がさらに増え、威力も格段に強くなる。
ただし、この霊術はこの地獄の三柱でしか使えない。
『獄炎柱』が発動したのを見て僕も霊術を発動する。
背中の翼が光る気配を感じた僕はユエラと頷き合って左右に別れる。
直後にタウロスが『獄炎柱』を切り裂いて真っ直ぐに向かって来るが、タウロスは誰も居ない場所に向かってバトルアックスを振り下ろした。
―――バキィンッ
振り下ろされたバトルアックスが薄い膜のように張られた氷を砕く。
『氷幻鏡』。
氷で造りだした鏡のようなものに自分の姿を映しだし、あたかもそこにいるかのように見せる氷属性幻惑霊術。
効果は単純だがその分気づきにくい使用になっている。
タウロスは自分の見ていたものが偽物だったことに少し驚いていた。
その隙を突くべく方向転換してタウロスへと向かい、ユエラと同じ霊術が発動する。
刀に冷気と氷が纏わりつき、それを斬撃として放つ『氷獄尖刃』と、同じく炎を纏い斬撃として放つ『炎獄尖刃』が殺到する。
『ぬぅっ』
左右から炎と氷の斬撃が襲い掛かってきたのを見てタウロスは避けることを諦め防御すべく霊術陣を展開し、対霊術障壁を張るが。
炎の斬撃は障壁を焼き消し、氷の斬撃は障壁を氷の如く砕いた。
『なッ・・・』
驚愕するタウロス。炎と氷の斬撃が襲う中、さらなる攻撃を仕掛ける。
炎がタウロスを包み込み、氷の槍が放たれ、炎球が襲い掛かり、炎と氷が交ざり合い水蒸気爆発を起こし、刃がタウロスを切り裂く。
タウロスの周りを出来るだけ不規則に動き回り、霊術を次々に発動していく。
半分以上光っていた翼が全て光り出す。
「黒き地の底にて 罪を焼き尽くせ 地獄の炎柱―――<嘆きの獄柱!>」
「黒き地の底にて 罪よ凍てつけ 地獄の氷柱―――<最果ての獄柱!>」
赤黒い炎が爆炎と共に蜷局を巻き、黒色の交じった氷が凍結と破砕を繰り返す。
炎は自らの炎を巻き込んで激しさを増し、その炎を一瞬にして凍りつかせるほどの冷気が中と外で牙をむく。外から見れば炎と氷が入り混じっていて地獄のような風景だった。
中心部では灼熱の熱波と極寒の冷気、加えて爆炎の衝撃と砕け散った氷片が絶え間なくタウロスを襲う。
『ぬっ、ぐおおおぉぉ・・・!』
炎と氷の二重攻撃をタウロスは自分の身体を領域干渉で追い、持ち前の防御力で防いでいた。簡単かつ信頼性が高く、より安全に攻撃を防げる障壁を使わなかったのはいい判断だった。
この地獄の三柱の攻撃は、どんな障壁でも防ぐことは出来ない。より正確に言うならばこの力は霊術陣そのものを破壊するのだ。障壁なんかはそれ自体が霊術陣だし、より強力な霊術を使うにも、詠唱霊術にも霊術陣は付き物だ。
炎獄の炎が、氷獄の氷が、雷獄の雷がほんの少しでも触れるだけで、そういった霊術陣などは効力を失い、破壊される。
全ての霊術陣を無に帰す力。それが地獄の三柱の真の力。
「やった!?」
小細工無しのつもりだったけど、少し不意打ちがましかったかな。
物量で押し切るにしても当たらなければ意味がない。炎獄や氷獄といったもので意表を突く。小規模霊術をどんどん使って隙を見て大きいのをお見舞いする。
それが僕とユエラの考えたプランの一つだ。言っておくが、これも立派な戦法の一つである。
翼を折りたたんで地面に降り立つ。ユエラも僕の隣に降り立った。
「なんか、失礼なことした気分だね」
「だね。でも実戦だとそうも言って・・・」
―――ズシャァッ!
「「っ!」」
突然炎と氷が縦に真っ二つに割れ、中からタウロスがこちらに突っ込んできた。
『ふんんんっ!』
「しま・・・っ!」
とっさに翼を広げて霊術を発動。目の前に氷の壁が現れる。
しかし氷壁は一瞬にして砕け散った。
「危ない!」
氷壁の向こうにタウロスの姿が見えたと思ったら今度はユエラに突き飛ばされる。驚いてユエラの方を見れば、僕を突き飛ばしたユエラがタウロスの拳を受けて殴り飛ばされていた。
「っ、ユエラ! この・・・」
『甘い』
横薙ぎにきたバトルアックスを地面に這いつくばるようにして避ける。
同時に大量の水蒸気を作る。さらにそれを凝結させて濃い霧へと変え、タウロスから離れるために下がる。タウロスが仕掛けてきた時の事を考えて真後ろにではなく斜め後ろへと下がる。
翼を広げ、いくつもの霊術を同時発動しようとその時、
『はっ!』
地面が揺れた。
「っ!?」
タウロスの攻撃かと思って構えるが、
「桜華、上!」
ユエラの声に従って上を向くと、ちょうど霧の中からタウロスが跳んで出てきたところだった。さっきの揺れはタウロスが地面を蹴った時の揺れだった。
タウロスは僕を視界に移すと身体を捻って態勢を変え、足場も何もない空中を・・・蹴った。
「空中ジャンプ!?」
しかもただの空中ジャンプではなかった。
直線的な移動しか出来ない疾駆などといった、近接戦闘において重要な移動術。
その疾駆を使った何もない空中での移動ではなく、初動無し、たった一歩で相手の背後などに回り込むことが出来る高等術の瞬動。それを用いての『虚空瞬動』だ。
タウロスの姿が一瞬で視界から消えて後ろに気配を感じた。
『勢いと選択は見事。だが・・・』
「うわっ」
『まだまだ詰めが甘い!』
タックルをどうにかガードするが、勢いは防げず吹き飛ばされる。
「大丈夫!?」
「なんとか」
空中でユエラに抱きとめられる。
ユエラの腕から離れてタウロスを改めてみると、僅かな煤と擦り傷くらいでダメージらしいダメージを受けているようには見えなかった。
『攻撃が甘い。威力はそこそこあるが、雑すぎる。キレがない。霊術自体に頼るな。もっと意識して効果と威力を最大限にするんだ。こんなふうに・・・な!』
バトルアックスを地面に突きつけて霊術がくる―――と思った瞬間、下から地面を突き破って石柱が現れる。
ユエラは横に避け、僕は石柱を切り裂く。
『―――<束縛の石像>』
切り裂いた石柱の断面から人型の石像が現れ、左右から身体を抱きしめられた。
「桜華!」
『小僧の心配よりも自分の心配をしろ、小娘―――<奈落の石柱>』
「きゃああ!」
巨大な六角柱の石柱が現れユエラを押し潰す。
『さあ、次はどうする』
そう言いながらタウロスがバトルアックスを地面へと叩き付けると、『大地の衝撃』が地面を引き裂き、石柱を伝って衝撃が僕の身体を貫いた。
「ぁっが!」
身体を拘束していた石像が壊れる。一瞬意識をもっていかれそうになるがどうにか堪える。しかし飛ぶだけの余力が残っておらず、地面に落ちる。
負けた。
全身が痛みで悲鳴をあげている。おまけに今にも意識が飛びそうだった。
ユエラは石柱の下。抜け出してきそうな気配は感じられない。タウロスは僕たちがどうするのかただ見ているだけだった。
視界の端に映ったお父さんを見る。
何も言わず、黙ってこちらを見ていた。しかしその眼は諦めるなと、立てと言っていた。
無理だ。そう心の中で答える。
その気になって無理をすれば身体の怪我を無理やり治し、立ってもう一度タウロスに挑むことは出来る。しかしユエラはそうもいかないはずだ。いくら霊だからといっても限度がある。ましてや『地獄の石柱』で押し潰されたのだ。早くしないと手遅れになるかもしれない。
そしてなにより、僕一人で挑んでも勝ち目はほぼないと言う事だ。
いくつも考えたプランはそのどれも僕とユエラ、二人でないと意味がない。
目を閉じ、諦めかけたその時。
(私は・・・諦めないっ)
ユエラのイヤリングと見えない回路で繋がっているネックレスを通してユエラの声が聞こえた。どうやら、僕が諦めかけていた心の声がユエラに聞こえていたらしい。
(見てて、桜華―――<炎獄刃終翼・ムスペルヘイムの舞!>)
目を開ければ辺り一面は炎の海とかし、さっきまで『地獄の石柱』があった場所には翼と表現するのを躊躇う程の、物凄い勢いで燃え盛る片翼の炎を纏ったユエラの姿。
頭を上げるとユエラと視線が合い、ユエラは一度だけ頷くように首を縦に振る。
ユエラが何を言いたいのかわかった。
だから僕は立ち上がってもタウロスに仕掛けることをせず視ている事にした。
『良い眼だ、小娘。さあ、来い!』
「はっ!」
駆け出したユエラはタウロスが動いた瞬間にその場で回転する。
本当ならまったくの無意味な行動だが、ユエラの背中には膨大に燃え盛る炎の翼があるのだ。回転の勢いを利用して翼本体をタウロスに叩き付ける。
『ぬぅぅっ』
予想以上の熱量と威力にタウロスの動きが止まる。
その隙を付くべく再び駆け出したユエラの翼が淡い光を帯びると同時に、タウロスの周囲に爆発が起きた。ユエラは爆炎を気にすることなく向かって行った。
そこからに数分間は、僕にとっては物凄く長い時間に感じられた。
ユエラがタウロスの攻撃を受ける度に叫んで助けに行こうとするのを我慢し、なによりユエラの心配よりもタウロスの観察を優先しないといけない事に自分自身、怒りを覚えていた。
出来る事なら今すぐ加勢したかった。
でも今ユエラが必死に頑張っているのを無駄には出来ない。僕の役目は対象の観察(情報収集)なのだから。
『ぬぅんっ・・・せい!』
幾つもの霊術を防ぐということをせずにタウロスがカウンターを入れた。
「きゃっ」
ユエラの身体が宙を舞う。ここで初めて二人の戦闘に少しの間が出来る。
もう―――十分だ。
待ちに待ったと言わんばかりに足が動き、走り出す。ユエラも僕に気が付いたのか、空中で身体を捻りこちらに向かって飛んで来る。
「ユエラ!」
右手を伸ばす。
「桜華」
ユエラも左手を伸ばし、指を絡めるようにして手を握る。
「―――<幻影陽炎>」
この数分間の成果をイメージし、
「―――<幻華万華鏡っ>」
そのイメージを具現化する。
幻影と幻想が交ざり合う。幻影が形を成し、幻想が現実となって実態を持ち、この世に顕現する。
「「―――<夢幻幻術!>」」
僕とユエラが同時に発動した霊術が一つの霊術となる。
目を瞑ってしまう程の光がこの場を包み込む。その光から結果が見るまでもなくわかった。
―――ズゥン
何かが地面に落ちる音が聞こえる。
光が止み、目を開ければそこには、タウロスの後ろ姿が見えた。そしてその向かいには、
『・・・俺、だと・・・?』
後ろ姿を見せるタウロスと向き合う、タウロスの姿があった。




