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第五十五話「十二天族会議」

読者のみなさん、お久しぶりです。アリッサです

この章のタイトルが side story となっていますが、正確にはこれから少しの間、本編の話と時間がほとんど進まないのでこのような形にさせていただきました。

いわゆる閑話と言うものですかね(無駄話にするつもりはありませんが)。

気長に読んでくれると嬉しいです。


―――コツン、コツン、コツン・・・

 薄暗い部屋に響く、杖を突く音。

 どこからともなく現れたその人物は、部屋を薄く照らしている青白く光る霊石が置かれている台。それを囲むような円卓の傍に立ち、視線を巡らせる。

 その視線の先には、約二十人程の男女が立っていた

「急に集まって貰ってすまんな・・・ふむ。どうやら全員来ているようじゃな。では、先ほど使いの者が知らせたと思うが、十二天族緊急会議を始めようかのう」

 杖を机に立てかけながら席に腰掛ける老人。

 歳は八十代後半なはずなのに、年齢不相応なまでに現役を彷彿とさせる身体つき。胸元まである長く白い髭。髪の毛も白く、それでいて老いによる影響などまったく見せない。灰色の半纏の下には紺の袴を着ていた。

 その斜め後ろに五十歳ぐらいに見える中老。ピシっとした黒いスーツをきっちりと着こなし、直立不動で立ち尽くす。

 その老人が座ると立っていた皆が頭を下げ、その内の半数―――十一人が椅子に座る。

 円卓に座る、十二人の人物。

 その後ろには誰かがまるで付き添うように立っていた。

 座っている者は、皆がその名に『天』の名を持つ十二天族の元当主であり、その後ろに立っているのはその従者。あるいは自らの夫ないし妻などだ。

「ではさっそく本題に入ろうか」

 『天麟』と書かれたネームプレートの席に座る老人。

 この老人こそが、十二天族の中でも現役最長であり、その歳でなお現在も最強の名を持つ、天麟家当主の天麟(てんりん) 匝嶄(そうぜん)。その人である。

「隆二や。この報告書には、お前さんと志恵那の印が記されているが、ここに書かれている内容は―――お前さんら二人が書いた内容は(まこと)か?」

 目を細め、鋭い視線を斜向かいに向ける。

 視線の先には、『天ヶ咲』と書かれた席に座る、天ヶ咲家当主の天ヶ咲 隆二。その右隣には『天蘭院』と書かれた席に座る、天蘭院家当主の天蘭院 志恵那が座っていた。

 隆二の後ろに立っているのは隆二の妻の天ヶ咲 静奈。薄暗い部屋の中でもはっきりと目に映る純白の服を着て、静かに佇んでいる。

 対する志恵那の後ろには、メイド服を着たショートヘアーの女性が立っていた。

「・・・・・・」

「ええ、間違いないわ」

 黙って頷く隆二と、短く答える志恵那。

 報告書というのは、隆二の息子である天ヶ咲 桜華がこの緊急会議が行われている本日の朝起こった事についての報告書だ。

 幼い頃に大切な人を殺された桜華の復讐。

 この緊急会議はこの事に関しての会議なのだ。

「ふむふむ・・・いやぁ~、実に面白い。愛する者を殺された事に対する復讐か。若者はこうでなくては」

「匝嶄殿っ!」

 報告書を再度流し読みしていた匝嶄が楽しげな声を出すが、それをかき消すように、隆二らの向かいに座っていた一人の人物が声を上げる。

 三十後半から四十代半ばで体型がややぽっちゃりしている人物。

 名は天地嚥(あまちの) 悠麻(ゆうま)。天地嚥家の当主だ。

「そのような感想よりも、もっと重要な事があるはずです」

「む、そうじゃったな。隆二よ。いくら最愛の一人息子だからといって、素性を偽ってまでこんなことをせんでも―――」

「だからそういう事ではありません!」

 ドンっ、と天地嚥が机を叩き、苛立たしげな顔をしながら席から立ち上がる。

「だから、今そんなことはどうでもいいでしょう!」

「どうでもいいわけないじゃろう。これは十二天族の汚名にも関わることじゃぞ。それにしても天地嚥よ。お前さんは何に対してそんなに腹を立てているんじゃ」

 それはもっともだった。

 桜華が素性を偽り、あまつさえ同じ十二天族の者を殺そうとしたことはあまりにも重い。下手をすれば天ヶ咲家が十二天族落ちになってもおかしくない事だ。

 それを『どうでもいい』と、それよりも重要な事があると言い切った。

 匝嶄は天地嚥が何に対して腹を立てているのかを理解していた。それでもあえて聞いたのは、遠回しに『それ』には触れるな。今ここで本当に言うつもりなのか。その後の事を考えているのかと念を押しているのだ。

 それでも天地嚥は躊躇わなかった。

 天地嚥は匝嶄から迎いに座る隆二へと視線を向ける。

「おい隆二。貴様、どうして今まで黙っていた」

「・・・何をだ」

「惚けるな。貴様の息子―――天ヶ咲 桜華が『霊核剥離』であることをだ」

 天地嚥の言葉に匝嶄と隆二、静奈に志恵那の四人以外が息を呑んだ。

 知らなかったわけではない。資料として報告は全員がついさっき(・・・・・)受けていた。それなのに息を呑んだのは、あまりにも直球だったからだ。

 匝嶄の言葉を遮り、霊核剥離である桜華の親の前で堂々と。

「何故報告しなかった」

「する必要があるか?」

「あるに決まっているだろう! 霊核剥離だぞ。貴様ならその重要性を十分に理解しているはずだ。霊核剥離特有の黎明力を用いた超広範に及ぶ強力な隔離結界。これにより、結界内での|霊と妖怪(奴ら)の動きを抑制でき、外部からの侵入を防ぐことが出来る」

「・・・天地嚥や」

「それだけじゃない。最近西の方の国で不穏な動きがあると報告を受けている。交易はあるものの、昔からあまり友好的ではない国だ。もし奴らが何か仕掛けて来るとしたらこの隔離結界はかなり役に立つ」

 匝嶄の言葉が聞こえていないのか、天地嚥は喋りつづける。

 隆二は何もじゃべらず、ただ黙っていた。

 確かに霊核剥離は特異な存在で、その重要性は十分に理解できる。しかし、ここまで露骨に、しかも必死になっているのに理解しがたいものがある。

「貴様の事だ。もっと前から霊核剥離の事に気づいていたはずだ。それなのに報告しなかったのは何故だ」

「もうよせ、天地嚥」

「気づいた時に報告をしていれば、霊や妖怪の手から救えた命がたくさんあったのだぞ」

 本人は気が付いていなかった。

 自分が発する言葉が、自分の首を絞めているとことを。自らの命が終わらされようとしている事に。

「貴様の息子を差し出していれば、この国はもっと平和になっていたのだぞ。貴様は自分のエゴで十二天族としての立場を忘れ、この国に少なからずの危険を―――」

「それ以上喋れば首が飛ぶぞ、天地嚥よ」

「っ!」

 匝嶄が発した殺気とドスの効いた声でようやく天地嚥は喋ることを止めた。

 しかし匝嶄の言葉の意味がわからないようで、ゆっくりと匝嶄の方へと首を向ける。

「・・・首が飛ぶとは、いったいどういう・・・」

「そのままじゃよ」

「何を言って―――」

 『いるんだ』という言葉は次に聞こえて来た声によって出て来なくなった。


「あらあら、もうお喋りは終わりなんですか?」


 おっとりとした声と共に、スッ、と天地嚥の首に添えられる冷たい感触。

 天地嚥が首だけで振り向いた先には、

「・・・なっ!」

 いつの間にかそこには、左手を頬に当て、まるで聖母のような笑顔を天地嚥に向ける静奈がいた。ただし、右手には得物が握られていた。

 全長150cm。刀身の幅は5cmもなく、片刃で反りのある刀。

 野太刀や大太刀と呼ばれる刀で、戀国から見て東方に位置する国特有の武器で、十二天族の天津神家が好んで使う武器の一つでもある。

 しかし、静奈が持つ刀は異様な雰囲気(オーラ)を纏っていた。

 金属特有の光沢がないのだ。

 (つか)も、鍔も、刀身も・・・、全てが漆黒に染まっていた。唯一違う色は握り手の部分に赤黒いひし形が連なった(がら)と、柄尻から垂れる同じく赤黒い紐ぐらいだ。

 それを見て天地嚥は嫌な汗が垂れるのを覚えた。

「き、貴様。いったい何のつもりだ。それと、耕治(こうじ)の奴はどうした」

「彼なら少しの間だけ、あちらで眠ってもらってます。いい息子さんをお持ちですね。まさか私の接近に気付くとは思っていませんでしたよ?」

 そう言う静奈の後ろ―――部屋の壁際では一人の青年が壁に背を預けて眠っていた。

「何のつもりだと言われれば、私達の息子をまるで道具のようにお考えの(やから)がいましてね? 親としては許せるものではないので少しばかり成敗しようかと」

「そ、そんな事をすれば、貴様らの立場が危うくなるのだぞ。最悪、一家もろとも極刑に」

「あら、別にいいんですよ? 今この場で私が持つ権限を復活させても」

 さすがの静奈の言葉に、天地嚥は黙らざるを得なかった。

 天地嚥としては―――いや、この場にいる者全員にとって『それ』は何としてでも避けたい事態だった。

「静奈姫や。それくらいにしてはいただけぬかの」

「姫なんて止めてください。今はただの母親ですよ。まあそれに、匝嶄さんがそう言うのなら」

 天地嚥の首から刀を離し、鞘に納める。チンッと刀が鞘に収まりきった音がしたかと思うと、天地嚥の前から静奈の姿が消えていた。向かい側を視れば、隆二の後ろに何事もなかったかのように静奈が立っていた。

 漆黒の大太刀はどこにもなかった。

 静奈が戻って来たのを感じて隆二はようやく口を開いた。

「悠麻。お前の言いたいことは分からんでもない」

「だったら・・・」

「だからといって、自分の息子をまるで生贄にするかのように差し出すわけがないだろう。ましてや、貴様のように霊核剥離を使って人体実験をしようなどと考えている者がいると、なおさらだろう」

「っ!」

 今度こそ悠麻は顔から血の気が失せ、完全に沈黙してしまう。

 隆二が言い放った事に多少なりとも驚きを示したものが何人かいた。その者たちは、悠麻のように隠していたことを言い当てられた驚きではなく、そんな事をしようとしていたのかという驚きだった。

 その中には、匝嶄も含まれていた。

「その件については後で話し合おうか、天地嚥よ」

「・・・はい」

 俯きながら短く返した天地嚥はそのまま腰を下ろした。

「まあ、確かに霊核剥離は我々としても見逃せんが、だからと言って拉致するような真似はいかん。幸いにもこの者は霊核剥離特有の黎明力をいかにしてか普通の霊力へと隠しておる。そこでじゃ」

 匝嶄は振り返り、自分の後ろに立っている中老の人物に目だけで合図する。中老の人物は軽く会釈し、どこからか取り出したプリントを皆に配り始める。

 配られにプリントに目を通した者全員が驚愕の声を出す。

 そんな中、匝嶄と隆二だけが意地の悪い笑みを浮かべていた。

「此度の件―――素性を偽り、禁止されている十二天族同士で争い、あまつさえその命を奪おうとした天ヶ咲 桜華には罰を与えなくてはいかんの~。そこで、以前より決めかねていた『これ』を使う・・・この者にとって少なからず縁もあるようだしの」

「本気ですか、匝嶄殿」

「そうです。いくらなんでも唐突すぎます。それに、これだと罰になってません」

「今年の十二校対抗戦はどうなさるおつもりですか。学園一つを不参加にでもするおつもりですか」

「しかたあるまいて。今回優先すべきはこっちじゃ。さすがに大学の成人らは行かせられんじゃろ。向うの年齢と合わせれば、高等学校が適任じゃて」

「確かにそうですが」

 何人かが不満を表すが、匝嶄は気にも留めなかった。

 彼らもこの程度で匝嶄の決定を覆すことができるとは思っていない。それでも言わずにはいられなかった。

 何故なら、匝嶄がしようとしている事は、これからの国家間の関係に少なからず影響を及ぼすことだからだ。

「巻き添えを食う形になるが・・・志恵那よ。問題ないか?」

 志恵那に向かってそう問うた匝嶄だったが、想定外の方向から答えが返ってきた。


「問題ありませんよ、匝嶄さん」


 声のした方を向く。

 当主の後ろに立っていた付添いの人物が一歩前に出て来ていた。

「お主は・・・」

「言い方が失礼かもしれませんが、私が育ててきた学園です。ご希望に添えられる結果を出せるはずです」

 そう自信満々に言い張る少女。

 女子にしては背が高く、高等学校に通えるくらいの年齢の少女だった。

「彼女はそう言っているが、志恵那よ。お前さんはどうじゃ?」

「問題ないでしょう。むしろ、私の方からお願いしたいくらいです」

「皆もそれで異論はないな」

 その問いかけに誰も異論を唱えなかった。

「ふむ。それではこの件、まかせたぞ」

「ありがとうございます!」

 そう言ってその少女は軽快にお辞儀をする。頭の右側に結ったサイドテールが軽やかに跳ね、その顔は実に嬉しそうで、彼女が着る朱色のコートの左胸には、ピンク色の桜と、紺色の蓮の花が重なったイラストが描かれていた。

「それではこれにて十二天族緊急会議を終了とする。なお、此度の件は十二天族および十一貴族の者しか知らない事実とする。以上、解散」


                ◇


「隆二よ」

 緊急会議が終わり、他の十二天族の当主たちが帰ったのを見てから隆二も席わ立ち、部屋を出ようとしたところで隆二は呼び止められた。

 振り返れば静奈と改めて挨拶をしている匝嶄がいた。

「歩きながらで構わん。少し話さんか」

「いいですよ」

 そういって二人並んで歩き出す。その後ろを二人の付添いである静奈と中老の人物がついて歩き出す。

「とうとうバレてしもうたの。お前さんらとしてはよかったのか? 下手をすれば、狙われかねんのだぞ」

「それくらいの危機を乗り越えられない桜華ではないです」

「ふむ。お主らも成長したの」

 桜華が幼い時を知っている匝嶄は、この二人のあまりにも過保護な時と今を思い比べていた。

 生まれつき身体の弱かった桜華にあまり無理をさせまいと、十二天族があつまる会議やパーティーには出席させなかったし、子供の霊を傍においてやろうとしたくらいだ。

 そう思うと、今回の騒動は匝嶄にとって大変興味を注がれるものだった。

「やはり、志恵那があの子を滅したというのは、真であったか」

「・・・・・・」

 隆二は何も答えなかった。

 後ろでは静奈も静かに目を伏せていた。

 それを見て匝嶄は、桜華がまだ諦め切れていないのと同じように、この二人もまだ完全には諦め切れていないことを察する。

 重い沈黙になる前に、別の話を振ることにした。

「此度の件、任せて大丈夫か?」

 『何の』と言うまでもなかった。

 ある国から来た、ある行事に関する事だと隆二はすぐに理解した。

「問題ないでしょう」

「それはよかった。しかし、あの国も急な事を言って来るもんじゃ。もう少し早う知らせをくれれば、全校から人選出来たんじゃが」

「それだと高等学校に在学中の十二天族全員が行く羽目になります。それはさすがに無茶です。それに、あの国も必死なのでしょう。あの事件から既に十年程立ちますし、国を取り戻して数年になる。むこうとしてはようやく軌道に乗ってきたんです。この機を逃すわけにはいかないのでしょう」

「それもそうじゃな」

 一度潰れたと言っても過言ではない状態だったのだ。それをこの数年で立て直すことが出来たのはある意味奇跡と言える。

 だからここで今まで交易があった国とより一層強い結びを持とうとするのも頷ける。

 加えて戀国としても向うとそうなることはどちらかと言うと好ましい。国的にも政治的にも世間的にもだ。

 ただ匝嶄が言う様に急な感が否めないが。

「おお、そうじゃ。一つ聞き忘れておった。黒堂寺の娘の件について聞こうと思っておったんじゃ」

「黒堂寺の娘と言うと、黒堂寺(こくどうじ) 陽香(ようか)ですか? となると、例のゴーレム暴走の件ですか」

「うむ。その後の調査で何かわかったか?」

「あの召喚霊術陣が外部からの干渉を受けたことは間違いありません。ですが、もしそうだというのならその者は相当の手練れです。SS障壁の対霊術障壁をすり抜けて干渉したという事になりますから」

「となるとそこまで出来る者はかなり限られるの」

 匝嶄は髭を撫でながら視線を少し上げる。

 しばらく二人が考え込んでいると廊下が二手に分かれ、ちょうどそこで四人が立ち止まった。

「それではな。儂はこれから上に報告しにいく。もう一つ言い忘れておったが、此度の件には戀国(うち)彼の国(むこう)以外にもう一か国、天地嚥の言っていた国も参加することになっておる。あそこは『連合』の者がようけおる。気を付けるように言っておいてくれ」

「わかりました」

 軽く頭を下げて匝嶄を見送る隆二。

 匝嶄が振り返って歩き出してからしばらくして隆二も静奈を連れてこの場を去って行った。


本編の時間の話はこれでいったん終わりです。この後の話(いまのところ数話ほどを予定しています)は、ちょっとした過去話です。

過去話というともちろん主人公の。つまりは例のあの子(一章以降登場していない本作品のメインヒロイン)が・・・!






みなさんに一つ(わかっていたらごめんなさい)。

綾香は確かにヒロインですが、メインヒロインは別にいるんです!

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