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第五十二話「追憶の記憶」

「ここは・・・天ヶ咲君の記憶の中だ」

 辺りを見回す。

 戀国の造りではない真っ白な壁の家が三方を囲っていて、ここはその中庭のようだった。噴水には色とりどりの花が植えられた花壇。家の大きさからしてここは天ヶ咲家の本家だろうか?

 そうなるとここはマースティアだろうか。それにしては緑が多いような気がする。

 そこまで考えて場所は今関係ないことを思い出す。

 問題はどうして天ヶ咲君の記憶の中にいるかだ。こうなる前の最後に起こったことを思い出す。たしか天ヶ咲君の武器と打ち合って、そこで光が・・・。

「・・・霊力の共鳴が起こったんだ。それで私との間で何かが繋がって、それで天ヶ咲君の記憶を見てるんだ」

 霊力の共鳴は珍しい現象ではない。

 二人で霊術を組み上げる時もお互いの霊術は共鳴しているし、念話とかその他でも霊力を共鳴することはある。それでも、相手の記憶を見るまで強い共鳴はなかなかない。加えて天ヶ咲君は心を閉ざしているはずだ。それでも見れていると言う事は・・・。

 天ヶ咲君の心のどこかに、綻びがある。

 もしそうならまだ間に合う。天ヶ咲君の心を開かせることが出来れば間に合う。ならこれを好機と思わないと。

 私は天ヶ咲君の過去を知らない。『読心』である程度は読んだけど詳しくは知らない。ここで天ヶ咲君の心を開かせることが出来る何かを掴まないと。

 よし、と意気込んでいると二人がいなくなっている事に気が付いた。

 慌てて探すと、少し離れた所で遊んでいた。見失わないようにと近づこうと数歩踏み出した時二人の姿がスゥーッと消えたので驚いてその場所に行こうとした時、後ろから声が聞こえた。

「待って! 私に、言わせて」

 突然呼び止められたのかと思って振り返ると、いつの間にかそこに天ヶ咲君とユエラちゃんが二人並んで座っていた。さっきまでの楽しそうな表情ではなかった。

 いったい何が・・・。

「桜華の言おうとした通り、私は人じゃない。魂だけの存在・・・幽霊なの」

「っ!」

 突然の告白。

 わかってはいた。いたけど本人の口から聞くと本当なんだなと思った。

 『読心』で心を読んだ時、お母さんが天ヶ咲君にとって大切な人であるユエラちゃんを『滅した』と読み取った。『滅した』。そんな言葉を使うのは霊に対してだけだ。

 だから・・・。

「・・・ユエラが幽霊だということは分かる。それならさ、僕は何なの。幽霊を見て、幽霊と話が出来て、しかも普通は触れることが出来ない幽霊に触れる僕は・・・いったい、何なの?」

 そうこう考えている内にまたしても大事な会話になっていた。

「落ち着いて聞いてね、桜華」

「うん」

 ついつい私も頷いてしまった。

 それほどまでにも今のこの状況は緊張を招く。例えそれが過去の記憶だとしても。

「桜華は・・・『霊核剥離』なの」

 静かだけど、脳の奥にまで届いてくるような声。

 霊核剥離。

 その存在が確認されてから数百年以上も経っている。戀国が建国してからの書物だけで数百年前なのだ。それ以前も考えれば千年単位で存在していてもおかしくない。

 それなのに霊核剥離について何もわかっていない。

 どうして霊心の殻がないのか。どうして黎明力と言う名の気力が、生命力が駄々漏れなのにも関わらず無事なのか。その他もろもろの本当の意味など何もわかってはいない。

 わかっているのは私達人間が考え、自分勝手に解釈したものだ。

 子供に分かるはずがない。

「霊核剥離・・・って、何?」

 案の定と言うべきか、子供の天ヶ咲君は分かっていなかった。むしろ知っていたユエラちゃんの方が凄い。

 ユエラちゃんはどう説明したらいいのか分からないようで難しい顔をする。やがてきっぱりと「上手く言葉に出来ない」と言った。

 そして「分からないのなら、調べればいいんだ」と言って天ヶ咲君はユエラちゃんの手を取って立ち上がりそのまま駆け出した。

 見失わないように歩き出すと二人の姿がスゥーッと消える。慌てて辺りを探すと家の中に入ろうとしているところだった。

「追いかけなきゃ」

 この手の人の記憶を見ている現象の場合、行きたい場所、時間などを念じればその場所または時間に移動する事が出来る。言わば記憶を思い出す様なものだ。

 そっと目を閉じる。

 天ヶ咲君がこれから行く場所と時間へと望む。そして目を開ければさっきまでいた中庭じゃなく、どこかの部屋にいた。

 少し薄暗く部屋の左右の壁一面を本棚があり、そこに本がビッシリと詰まっていた。その本棚の前に二人の子供が寄り添うように並んで本を読んでいた。

 二人がいなくならないことを祈って近寄り、読んでいる本を除き込む。


『理を乱すもの~霊核剥離について~』


 そう書かれていた。そして、私が知っている知識と同じことも書かれていた。

 霊核剥離の霊心の状態。そこから溢れる力―――黎明力。それは本人以外の人には感じる事が出来ないこと。人には強すぎる事。通常では考えられない影響を及ぼす事。そして、霊と人間が血眼になって探している事も。

 霊の手に霊核剥離の霊心が渡れば本物の妖怪に変化し災厄が訪れ、人の手に渡れば世の為人の為にその力を使われることも。


 そして霊に、本来持たないはずの肉体を与え、新たな命をこの世に与えられるとも書かれていた。


 暫くして本を読み終わったのか、本を閉じて元の場所に戻した。

 それから何故か十二天族の話になったので少し時間を進めるべく再び念じる。この後の重要な場面まで時間を進める。

 念じ終えると、まださっきの部屋にいた。

 目の前では何やら二人の間に只ならぬ空気が漂っていたかと思った瞬間、

「ねえ、ユエラ・・・僕とずっと一緒にいて!」

 そんな言葉が聞こえ、

「「・・・え、えええぇぇ!?」」

 突然の天ヶ咲君の宣言に、ユエラちゃんと同時に声を上げてしまった。

 い、いきなり「僕とずっと一緒にいて」発言だなんて・・・っ! きゃぁー! 天ヶ咲君、大・胆っ!

 などと頭の中で叫びながら実際に言われたユエラちゃんよりも興奮してしまっていた自分に気が付つき、タコも顔負けなくらいに顔が赤くなってしまった。

 気を落ち着かせて二人の会話を聞く。

 どうやら天ヶ咲君はユエラちゃんにもう一度命を、新しい命をあげたいとのこと。

 ユエラちゃんはその返事は明日まで待ってと言って二人は書斎を出て行った。


                ◇


 そこからは重要なところだけを見るために時間を進め、場所へと進める。

 翌日にユエラちゃんが昨日の天ヶ咲君の申し出に「いいよ」と返事したこと。桜華のお父さんがユエラちゃんの存在に気が付いて二人と話をしたこと。そこで天ヶ咲君の気持ちの本気を知ることが出来た。もちろん、ユエラちゃんも。

 そして・・・、


『リンゲージ』


 契約の石を使ってお互いの霊心を繋ぐことで黎明力が直接ユエラちゃんに流れるようにし、よりお互いを繋いだ。まあ、その契約の時にユエラちゃんがした事に関して少し嫉妬したことは誰にも言わないでおこう。


                ◇


 ・・・。

 ・・・・・・。

 目の前を凄い速さで時間が過ぎていく。

 二人が過ごした日々。起こった出来事。会話・・・それら全ての天ヶ咲君の記憶が過ぎて行く。それでもしっかりと伝わって来る。

 中には二人の思いも混じっており、それはもう―――私自身の心の気持ちが揺らぐほどに二人はお互いの事を思っていた。

 それを知るたびに、私の心の奥が縛り付けられるような痛みを覚えた。

「こんなの・・・最初っから私が付け込む余地なんて、ないじゃない」

 そう呟くと頬を何か温かい物が伝う。それが涙だと気がつくのに少し時間がかかった。

 天ヶ咲君は本当にユエラちゃんのことが好きだったんだ。私が天ヶ咲に抱いているのと同じ・・・いや、それ以上の感情をユエラちゃんに抱いている。

 そしてユエラちゃんも・・・。

 だから天ヶ咲君はユエラちゃんが殺されて、復讐に身を投じたのだ。

 それなら私がどれだけ力をつけても彼を止められない。止める事なんて、救う事なんて出来ない。

 自分の無力さに打ちひしがれていると、


「私はね、桜華。誰かを護るための力が欲しいの」


 その言葉にハッとなって振り向く。

 いつの間にか森の中にいた。辺りは暗く、焚火の光に照らされて二人よりも大きな霊獣が倒れている。その傍で二人は霊獣の肉を食べていた。

「力を求め、その為に頑張れば誰だって力を得られる。でもただ力を得るだけじゃ駄目だって私が生きていた時に教わったの。自分以外の誰かを・・・心から護りたいと思える人を護るための力が私は欲しいの」

 その言葉は沈みきった私の心に深く突き刺さった。

 誰かを護るための力。それは奇しくも私が力を求めていた時と全く同じだった。あの時、初めて会った時から・・・。

 その時、時間を進めようと思っていなかったのに視界がグニャンと歪み、暗かった視界か明るくなる。そこはどこかの室内だった。部屋―――にしては広い一室の至る所には食器や家具、少ないが刃物類にフルプレートの防具。そして壁や棚の中、上には色鮮やかな細工が施されたアクセサリーが置かれていた。

 それを見てここがどこかのお店であると分かった。そしてどこかで見たことがあるような気がした。

 カーテンが開かれていると言うのにどこか薄暗い店内。一見埃っぽく、床の絨毯も汚れているように見えるけど、その実塵一つついていない超高級絨毯。壁の石も汚く見えるがその素材は大理石だった。

 このように見た目と内側が釣り合っていない店は私の知る限り一つだけ。

 戀国の南西に位置する町―――アクティナにあるお店で一級細工師の資格を持つマリーさんが経営しているお店だ。

 今ここでこのお店を映し出したと言う事は・・・。

 自分の記憶と照らし合わせながら振り向くとそこには、


「どうして売ってくれないんですか!?」


 いた。

 腰まである炎のように真っ赤な長髪を垂らし、白のTシャツの上から薄水色で通気性の良さそうなジャケット。加えてそれよりも濃い青色のタイトスカートを穿いた女の子が店主らしき女性と話していた。

 はっきりとした目元。健康的な肌の色。誰もが認める可愛い女の子だ。

 見間違えるはずもない―――その女の子の名前は『天蘭院 綾香』 私自身なのだから。


                ◇


 私はこの時の事を目の前の光景と重ね合わせながら思い出していた。

 明らかに不満な顔をしながら幼い私は目の前の店主―――マリーさんと話をしていた。

 確かこの時、私はこのお店にタクティカルアーツの装備品なんかが売っていると聞いて何か良いのがないか見に来ていた。そこで私はある物を見つけた。


 それは翠色をした宝石のような不思議な輝きを放つ六角形の鉱石だった。


 なかなか世に出ない鉱石で、ある手順と方法で加工、精製すれば天然の霊石よりも数段強力な霊石にすることが出来る。しかも鉱石自体が宿している属性が炎属性だから直の事欲しかった。

 でもそれをマリーさんは売ってはくれなかった。

 粘りに粘っていると、

―――カラカ~ン

「マリーさん、いる~?」

 お店の扉が開いて鈴の音がなり、一人の少年が入って来た。

 歳は幼い私と同じくらいの少年。少し幼さの残る顔つきで首からは不思議な形をした銀色のネックレス。

 その少年は言い争っていた幼い私とマリーさんの傍に来て私たちの遣り取りを聞き、私と一緒にマリーさんを説得してくれた。しかしそれでもマリーさんはなかなか売ってはくれなかった。すると少年はどこからともなく半透明な酒瓶を取り出し、それを上げる代わりにその鉱石を買うと言いだした。

 人が買おうとしていている物を横から奪うなんて! ・・・とこの時思ったが、少年がマリーさんと話を終え、何か小さな小包を受け取って幼い私を外に連れ出され、

「はい」

 そう言って少年は綺麗にラッピングされた箱を渡してきた。

 幼い私は少し不機嫌な顔をしながらそれを受け取って蓋を開けると、そこには幼い私が買おうとしていた鉱石が入っていた。

「・・・っ! これ、どうしてっ」

「君へのプレゼント!」

 少年は純真無垢で屈託のない笑顔でそう言った。

 この時私は少年を警戒していた。初対面なのに馴れ馴れしく接せられ、いきなりプレゼントと言われては誰だってそうなる。

 幼い私は目の前の少年を軽く上目づかいで睨んでいた。

 この時の私は少々周りに対して警戒心が強く、見た目に反してほんの少し、本当にほんの少しだけ気性も荒くどっちかと言うと好戦的だった。理由は私が十二天族。しかも天蘭院家の子供だからだ。


 この頃―――七年程前か、戀国とそれなりに貿易をし、仲も良かった国で少しばかり争いが起きていた。

 争いといっても、その国の王家や貴族達が自らの国を取り戻すための反乱者達との戦争だ。その戦いには他の十二天族も参戦していた。

 その結果、戀国内部の治安が多少悪くなっていた。

 戦争に巻き込まれた村や町から逃げて来た者。それらに紛れ込んだ賊。または反乱者側の逃亡者などなど。加えて十二天族の子供と言う事もあって拉致監禁の危険性が増していた。

 そんな事もあってこの頃の私は自分にも周りにも厳しかった。


 睨まれているのにも関わらず少年は平気な顔で話を続ける。

「さっきの人はマリーさん、て言うんだけど、性格が結構捻くれているから素直に売ろうとしないんだよ。さっきのマリーさんを見る限り君のことは嫌いじゃなさそうだったから、多分君の反応が面白くてからかってただけだと思うよ」

「からかってただけって・・・。て言うかよくそんなこと知ってるね」

「マリーさんとは結構付き合い長いからね」

 交際の意味の方ではないとは分かっているが少年の言葉はそっちの意味にも聞こえなくもなかった。

 それから貰うのはなんだか気が引けるから私が少年から買うと言ったが、少年はプレゼントと言い張ってなかなか話が進まなかった。

 そして、

「じゃあ、君と僕が初めて出会ったお祝いのプレゼントとって事で。これも何かの縁だと思ってさ、ね。」

「っ!」

 その言葉は当時の私にはある意味効果覿面だった。


 私の家は普段の生活習慣に作法はもちろんのこと勉学、十二天族としてその名に恥じぬ力をつけるための訓練、加えて他家との社交性に他にもいろいろ。一言で言えば何から何まで厳しかった。教わったことは出来て当たり前。上手く出来たからと言って褒められることはない。むしろ駄目な点を指摘されそれを改善するのに必死。

 家族との団欒がないわけではない。むしろ盛大に、愛情深く行っていた。

 その愛情ゆえに厳しかった。


「それに、これは僕が持っているよりは君みたいな可愛い子が持っている方が断然いいよ」

 か、可愛い!?

 そんな言葉、家族以外の、しかも同年代の子供に言われたのは初めてだった。

 だからそんな甘く優しい言葉を言われた私は―――こんなにも簡単に、好きになってしまったのだ。

 私がそのことに気が付いたのは後になってからだった。

 その少年は何か用があったのか、その後すぐに別れた。名前を聞こうとしたけれど呼び止める間もなくどこかへ行ってしまった。

 後になって何回かその町を訪れたけれど、それっきりその少年と会う事はなかった。


                ◇


 それから約五年後。

 私は戀国の中心都市―――アトラントにあるエクソシスト育成第一高校の蓮桜流蘭学園に入学した。

 そこで私は、生まれて初めて『運命』と言う名の奇跡と出会った。

「名前は天ヶ咲 桜華。属性霊術はあまり得意ではなく、属性外霊術が得意です」

 彼を見た瞬間分かった。

 目つきはきつくなっているが、間違いなくあの時の男の子だった。首にはあの不思議な形をした銀色のネックレスもつけていた。

「十二天族の天ヶ咲 桜華とは同姓同名なだけで、十二天族の天ヶ咲家とも全く関係はないので、勘違いしないように」

 この時には既に記憶を封鎖され、偽の記憶をすり込まされていたので、なんの疑いもなくその言葉を信じてしまった。それに、その時の私はそんな事よりも彼に会えたことに対する喜びのほうが大きかった。

 ここからはごく最近の出来事だ。

 何故か彼の性格は打って変ったように冷たかった。特に私とはまともに口を利いてはくれなかった。

 それでも私の気持ちは変わらなかった。

 何故なら、周りの皆が彼の見た目から抱くほど冷たくない事を知ったからだった。

 初めて天ヶ咲君とあった町、アクティナに行った時、そこでは天ヶ咲君は学園では普段見せない楽しそうな顔をして町の人と接しているのを見た。他にも小さな子供に優しくしたり老人の頼みを聞いていたりしていた。

 そしてなによりも、人も霊も半妖も妖怪も関係なく、救いの手を差し伸べていた。

 いくら見た目がきつくなろうと、心は―――本心は変わってはいなかった。

 それを知ったからこそ、私は彼の事を好きでいられた。


 そして時間が流れて、今に至ったのだ。


                ◇


 気が付くと真っ白な世界にいた。

 さっきまでの場所とは違う。身体の感覚がはっきりとしていた。もうすぐこの現象が終わるのだろう。

「凄いね、天ヶ咲君は。私なら、こんなの耐えられないよ」

 私は今見たことを思い出しながら胸の前に両手を重ねる。

「ねえ、天ヶ咲君」

 小さく呟く。

 この戦いにも、自分の気持ちにもと強く念じる。そして自分の思いを―――全ての思いと言葉を込めて、聞いているかもわからない彼に話しかける。

「私は・・・負けない」。

 天ヶ咲君がユエラちゃんのことを好きだとしても、私のこの気持ちは変わらない。何があっても変わらない。

 記憶を見て、私の中に流れ込んで来た天ヶ咲君の感情―――あれは、『寂しさ』や『孤独』だった。

 言いたい。あなたに直接この気持ちを言いたい。

 天ヶ咲君は一人じゃないよと。

 たとえ鬱陶しがられようとも、私はあなたの傍にいると。絶対にいると。だから・・・、

「私は負けないよ・・・天ヶ咲君!」

 高らかに声を上げた時、


『―――』


 声が聞こえた。

 それは彼の声。まるで助けを求めるような内容の言葉。

 もうさっきまでのように彼から恐怖を感じられなかった。復讐心も、怒りも、怨みも感じない。ただただ、彼自身の心が救いを望んでいる。そんな風に感じられた。


 私はそっと、両手を軽く握りながら上へとあげた。


                ◇


 キィィィィ―――ッン


 酷い耳鳴りと立ち眩みのような感覚が襲ってくる。

 天蘭院の繰り出した炎を纏った剣での一閃と、俺が繰り出した闇属性の霊力を纏った鎌槍剣の一閃がぶつかり合った直後・・・視界が真っ白に包まれた。

 そして、まるで昔に戻ったかのように眼前に現れ、過ぎていく俺自身の過去の記憶。

 時々俺の知らない記憶が紛れ込んでいたが大半が俺の過去に起きた事だった。ユエラとの出会いから突然訪れた最悪の別れ。復讐に費やした日々。

 そして現在に至るまで。

 それら全ての俺の過去の記憶が過ぎ去っていく。

 懐かしき日の思い出。

 幸せだった頃の温もり。

 それを感じると共に、それらが失った―――否、奪われたことを改めて思い知らされる。

 奪われた・・・。

 そうだ。奪われたんだっ。

 ユエラとの日常を、温もりをっ、幸せを!

 全てあいつが―――天蘭院 志恵那が奪っていったんだ!

 だから俺は復讐を誓った。そしてそれを行動に移した。そうだ、行動に移したんだ。正体がバレ、天蘭院 志恵那が現れ、その娘の天蘭院 綾香に襲いかかり、そして・・・。


『―――』


 その時。

 再び真っ白になった世界の中で何か聞こえた気がした。

 声なのか、はたまた何かの音だったのか。

 もしかしたら幻聴かもしれない。

 しかし、俺にはそれが誰かの声だと理解出来た。そしてその声の主がわかるような気がした。


『・・・あま、が―――くん』


 朧気だった身体の感覚が戻ってくる。

 同時になんとも言えない感覚が胸の中に現れ、俺の心を揺るがす。なんだ・・・? この感覚は。

 どうして、どうして俺は・・・。


『わたしは、ま―――け、ない』


 今度は今までよりかなりはっきりと声が聞こえた。

 優しくもあり、心強く包容力のある声。

 この声は確か・・・。

 そんな力強い声と共に、俺の中に現れたのと同じ感覚が俺を包み込む。温かく、思わず安心してしまいそうで居心地のよい、懐かしいような感覚。

 それは、かつて俺が失ったもの。二度と戻ってこないであろう、『幸せ』と言う名の感情。

 どうして俺はそんな感情を懐かしいと感じるのか。

 何故この声を聞くと安心してしまうのか。

 いったい何故、俺の心はこんなにも揺らぐのか。

 答えは単純。


 ユエラがいなくなってから俺は―――寂しかったのだ。


 天蘭院 志恵那が現れたあの日。

 ユエラが滅され、リルまでも失った俺は再び一人になった。

 落ち込んで塞ぎきった俺を父さんと母さんが必死に慰めたりしてくれたが効果はなかった。

 そんな時に俺は寂しさや孤独を紛らわす為にそれらを怒りや憎しみ、恨みへと変え、天蘭院 志恵那に復讐することを決めた。

 そして力をつけ、天蘭院 志恵那に復讐を―――俺がされたことを、受けた思いをそっくりそのまま仕返しすべく、あいつが理事長をしている蓮桜学園に入学した。

 全ては天蘭院 志恵那への復讐の為。

 それはまったくの無意味で、まったくの的外れなことだと言うことはわかっている。

 どれだけ相手を憎もうが、どれだけ復讐をしようがユエラは戻って来ない。いくら幽霊でも、その中心核たる『魂』が破壊されれば死に至る。

 霊の身体が霊素でできているからといっても、自らの身体を構成できなくなるまで魂を破壊されれば、治癒霊術の最上級霊術―――蘇生霊術の、しかも禁忌の部類の霊術でもない限り復活はほぼ不可能だ。


『私は負けないよ・・・天ヶ咲君!』


 あいつの声が意識を引き戻す。

 足の爪先から指先まで、朧気だった全ての身体の感覚が戻る。両手には何かを握っている感覚を覚える。

 そして、今こうしている直前のことを思い出す。

「はっ」

 自然と笑みが漏れる。

 ついさっきまでの、復讐と言う名の感情が嘘のように消え去り、楽しさが、嬉しさが次第に込み上げて来る。

「負けない、か。なあ、天蘭院よ。俺に勝ちたいなら・・・俺を救いたいと思うのならっ、俺に・・・俺自身に、心を開かせてみろ!」

 聞こえるはずがないとわかっていながら天蘭院に話しかける。

 そして両手に力を込めた。


大変長らくお待たせしました!

霊核剥離 第五十二話話です!


活動報告のところにも書かせていただきましたが、PCを没収されていました。

でも、いきなりPCが使えなくなるのはいろいろと困ると両親に言い、

どうにか交渉して一日一時間~二時間ほどの使用許可を得ました。


その短い時間の中でちょくちょく執筆をしていたのですが、

模試やら試験やら多々あり、なかなか執筆に時間を割くことが出来ず、

ようやく一話分書けたころには最後の投稿日から約二カ月も経っていましたw


学期末試験が終われば落ち着いて執筆出来る・・・かな?

来年度から受験生なので、そうほいほいと更新することが出来なくなりますが、

なんとか書いていきます


これからも霊核剥離をよろしくお願いします

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