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第四十九話「黄道十二神霊」

 志恵那が何か答えたかと思ったら急に天蘭院が制服の首元を引っ張り第一、第二ボタンが外れる。いったいこの状況下で何をしているのかと、一瞬天蘭院の頭を心配したが、今まで服で隠れていた左鎖骨部分に描かれている物を見た瞬間にそんな考えは吹き飛んだ。

 藍色で描かれた『蘭』の花。

 入れ墨かと思ったが、何やらその絵事態が霊力を帯びていたので違う。それが何なのかを考えていると、天蘭院は少し頬を赤く染めながらその蘭の絵に右手の人差し指と中指を添える。

「・・・拘束解除」

 そう言って添えていた指で絵を撫でると、スゥーっと絵が消えていく。そして完全に消え去ると同時に霊力の嵐が起きた。

 物理的干渉が一切出来ないはずの霊力の嵐。

 精神に直接影響を与えるかのように、濃く、大量の霊力が吹き荒れる。赤く、紅い、まるで炎のような霊力。猛火の中にいる気分だ。

「まさか、霊力を抑えていた・・・?」

 俺の問いに答えず、天蘭院は手に持つ長剣を空高く掲げる。


「闇夜の空に輝く 彼の地を護りし 十二の星々」


 静かな声で言葉を紡ぎ始める天蘭院。

 この期に及んで詠唱霊術と来たか。だがいくら威力が増すからと言って通じるわけがない。通じるわけがないのだが・・・何だ? この嫌な予感は。


「彼らは偉大にして強者なり 彼女らは聡明にして弱者なり―――黄道に集いし六番目の星よ 今ここに来たりて汝の天命を語れ」


 ・・・ちょっと待て。天蘭院は何をしようとしている?

 そう思った時には天蘭院が発した詠唱の中に含まれていたいくつものキーワードが脳内を駆け巡った。『十二の星々』『偉大』『聡明』『黄道』『六番目』・・・。

 まさか・・・まさかまさかまさかっ。

 嘘だ。ありえない。終わらせたと言うのか。たった数日で、継承式を終わらせたのか?! ここに来てようやく天蘭院がやろうとしている事に気が付いた。

「しまった・・・フェンリル! あの詠唱を止めろ! 今すぐにだ!」

『何をそんなに焦っている。たかが詠唱霊術だぞ』


「汝の座は処女宮 乙女の心にて 我が願いを聞け」


 詠唱を阻止しようとしないフェンリルに舌打ちしながら霊術を発動する。

 天蘭院の四方に氷柱が現れるが詠唱の傍らに操る炎で氷柱は溶かされ、地面を砕いて足元を崩しにかかったが領域干渉で防がれる。炎は天蘭院の炎に飲み込まれ、衝撃波も防御障壁で防がれた。


「三女神の一柱にて 星乙女の名の下に 天へと昇りて神となれ!」


 五節の詠唱が―――すなわち詠唱霊術最強の『召喚』の儀式が終わりを告げる。後は召喚する精霊なり神霊の名を呼べば完了だ。

 何としてでもそれだけは避けたかった。

 天蘭院が召喚しようとしているのは戀国でも最強に位置する神霊。今の俺の状態では危険な存在だ。

「―――<降臨せし爆炎(デスコンド・フレイム)!>」

 先程俺に放たれたのと同じく、天蘭院の頭上に紅く光り輝く光球現れる。

 しかしそれは天蘭院に当たることはなかった。


「―――<天界の星乙女(アストライアス)!>」


 空を覆っていた雷雲の隙間から光がさし、その光は光球に当たると跡形もなくかき消した。続いてその光は天蘭院を照らす。

 胸の前で長剣を握りしめるその姿は見とれる程美しかった。

 しかし、その美しさをも超える存在が天から降りてきた。


 真っ白い翼を持ち、純白の服に身を包み、薄紫色の長い髪をたなびかせながらそれが―――女神と言う名の、天使が降臨した。


                ◇


「ちっ、しくじった」

 本物の天使さながら天から降りて来る神霊を見ながら舌打ちをする。まさか本当に継承式を終わらせていたとは。

『何がそんなに不満だ。たかが一体の神霊如き・・・』

「ただの神霊じゃない。『世界の守護者』『天を護りし星の化身』などの名を持つ最強の神霊―――黄道十二神霊の一体、『天界の星乙女(アストライアス)』だ」

『ほう・・・あれがそうか』

 フェンリルは天蘭院の後ろに舞い降りたアストライアスを食い入るような目で見つめていた。


『黄道十二神霊』

 それは神霊の中でも最強の部類に属する十二の神霊。

 十二天族の一族ずつに一体の神霊が契約している。人と契約するのではなく家―――もっと正確にはその家の『血』と契約しているので、契約家の血を持つ者ならば継承式を終わらせれば自由に使役する事が出来る。

 『白羊宮』『金牛宮』『双児宮』『巨蟹宮』『獅子宮』『処女宮』『天秤宮』『天蠍宮』『人馬宮』『磨羯宮』『宝瓶宮』『双魚宮』の計十二あり、黄道十二神霊と呼ばれている。高齢の人や昔の人は黄道十二星霊とも読んでいた。

 最強と呼ばれているだけあって、他の神霊とは霊力も力も比べものにならないくらい強い。なんせこの十二神霊の一体だけで他国の軍事勢力が傾くほどだ。これが十二神霊を召喚さえたくなかった理由の一つだ。

 本来のフェンリルなら負けるような事はないだろうが、いろいろと混じってしまっている今の状態では本来の力を出せないらしい。

 それに、十二神霊には同じ十二神霊でないと対抗できないとも父さんから聞いた事がある。生憎俺は諸々の事情で継承式を終わらせていない。

 よって、目の前で天蘭院と何やら話しているアストライアスと遣り合うのは避けたいのだが・・・。

『なるほど。あれが話に聞く神霊か・・・確かに強いな』

「・・・だからと言って、挑もうとするなよ」

 フェンリルの眼が興奮の色に変わり、口元が吊り上っていた・・・無理だろうな。

『なぁに、心配するな。今の所向うはこちらと遣り合う気は・・・』

 そう言って肩を竦めるフェンリルを見上げる。

 ・・・ん? さっきよりも見上げる時の首の傾きが大きいような気がした。それもそのはず、フェンリルの身体が大きくなっていた。

 高さ三メートルから五メートルへ。全長は尻尾もいれれば四メートル程にまで大きくなっていた。

「やる気満々じゃな・・・っ!?」

 突然背筋に冷たい物が走った。

 な、なんだ!? なにか物凄く妬みや恨み、怒りと言った感情の視線が送られているような感じだ。

 視線を感じた方へとゆっくり顔を向けると、そこには・・・、

『小僧・・・貴様いったい何をしたんだ? あの神霊が貴様の事を殺す眼で睨んでおるぞ?』

 フェンリルが溜息交じりに呟く。

 そう、何故か俺はアストライアスに物凄い形相で睨まれていたのだ。え、しかもなんすか・・・見た目は天使や女神なのに後ろからドス黒いオーラが見えるんですけど。

 良く見れば額に青筋らしきものまで立っているし。

 俺・・・何かしたか?

 いや、思い当たる節はいくらでもあるが、ここまで露骨に殺意を向けられるほどの事をした覚えは・・・無きにしも非ずな訳で。

 どうやってあの殺気満載のアストライアスを避けるか考えながらこちらも睨み返した。


                ◇


 時はほんの少し―――天蘭院がアストライアスを召喚した時間まで遡る。


 天蘭院家が契約している黄道十二神霊である処女宮の『天界の星乙女(アストライアス)』を召喚した天蘭院は、自分の後ろに舞い降りたアストライアスを見ずに話しかける。

「いきなりで悪いんだけど、アストライアス・・・私に力を貸して」

『争いは何も生みませんよ、綾香』

 アストライアスは開口一番気の抜ける発言をする。

 神霊にも自我はある。争いが好きな者もいれば嫌いな者もいる。だがこの状況で契約主の命令を遠回りに断るような神霊はなかなか―――というか、ほとんどいない。

 だが天蘭院はアストライアスのそんな言葉を無視する。

「お願い、力を貸して」

 そう強く懇願するも天蘭院の眼は桜華を見ていた。

 アストライアスもそれに釣られて自分の正面にいる蓮桜学園指定の朱色のコートに身を包み、見るからに禍々しい得物を持ち、真っ黒な狼の傍にいる桜華へと視線を向ける。

 その顔にアストライアスはどこか見覚えがあるような感じがした。

 暫く考えてようやくわかった。その顔は確かにアストライアスの知る顔―――いや、正確には自分が継承式で契約した綾香の幼い時の記憶に出て来る少年だった。多少目つきがきつくなり、憎悪の念が瞳に込められているが。

『綾香、あの少年はもしかして・・・』

「説明するから受け取って」

 そう言って天蘭院は自分の右の蟀谷あたりに右手の人差し指と中指を添えて触れる。すると、指先が薄水色に光り出す。その光を後ろにいるアストライアスへと投げ渡す。

 光を受け取ったアストライアスは手の平でそれを目を瞑りながら優しく握りつぶす。

 ほんの数秒してから目を開くと、そこにはさっきまでとは違う悲しみの色が感じとれた。

『そう、あの少年が天ヶ咲家の・・・それに、あの時の子だったのね』

「お願いアストライアス。私、彼を助けたいの。彼の復讐を止めて、怒りや憎しみの闇なんかじゃなくて、幸せや喜びなんかの光を見せてあげたいの。だからお願い、私に彼を救えるだけの力を貸して!」

『・・・・・・』

 今までずっと桜華の事を見ていたい天蘭院がアストライアスの顔を見て強く願い出す。

 アストライアスは小さく溜息を付いた。

『はぁ~。綾香、あなた・・・どうしてあの少年のためにそこまで出来るの? 同じ十二天族とはいえ他人なんだか・・・』

「アストライアス」

『何?』

 天蘭院がアストライアスの言葉を途中で遮って言葉を挟む。

 しばし俯いてから頬を微妙に染めながら微笑んだ。

「女ってね、純粋に接せられて褒められるだけで惚れちゃうような・・・・単純な生き物なのよ♪」

 どこか恥ずかしそうな、加えてたのしそうに答えた天蘭院を見てアストライアスは一瞬ポカンとした後、声を上げて笑い始めた。

 それを見てさらに余計に恥ずかしさを増した天蘭院は耳まで真っ赤にして顔を伏せてしまった。

『いいわね、それ。気に入ったわ。力を貸して・・・あれ、綾香。あなたその胸の傷・・・』

「あ・・・これは、その・・・ね。いろいろあって・・・」

 どこかそわそわしながら話を逸らそうとする天蘭院の制服の左胸部分が赤く染まっている事にアストライアスは気が付いた。無理もない。傷一つない天蘭院の肌と服装に、一か所だけ傷があれば、しかもそれが結構な傷であれば誰だって気が付く。

 それを隠そうとしているのを見てアストライアスは眼だけで天蘭院を大人しくさせてその部分に触れる。途端にアストライアスが真剣な目付きなった。

「あ、あのねアストライアス。これは、違うの・・・あ、天ヶ咲君は決して悪気があったわけじゃ・・・」

 両手を左右に振って慌てて釈明しだすが、もはやアストライアスの耳には届いていなかった。

『ふ、ふふ、フフフフフ・・・』

 さっきまでの穏やかな声とは別物の、不気味な笑い声を出す。ついでにどこからかドス黒いオーラが漂い出した。

『そう・・・恋する乙女の気持ちを踏み躙っただけでなく、傷物にするなんて・・・フフフ、あの少年、どうしてくれようかしら』

 どこか意味深な事をいいながら、舌なめずりをし出しそうな妖艶な笑みを浮かべてアストライアスは桜華を睨みつける。

 その視線に気が付いて桜華がこちらを見る。

『・・・構えなさい、綾香』

 突然の言葉に天蘭院は慌てるも地面に突き刺していた『炎姫の涙剣』を引き抜いて構える。そして、柄に一番近い刀身部分に填っている翠色で宝石のような輝きを放つ六角形の鉱石に触れる。

 霊力を放ち、天蘭院とアストライアスは同時に言葉を発した。


「『連結開始(コネクション・スタート)!』」


 二人の体を、紅と翠の光が包み込む。

 そして光に包まれるや否やアストライアスは何故か大きさが増した黒き神霊に向かって一気に疾駆(ソニック)で駆けて行った。


                ◇


 霊力が一気に跳ね上がったかと思えば、天蘭院とアストライアスの身体が紅色と翠色の霊力に包み込まれた。

『来るぞ、気を抜く・・・』

 フェンリルが言うと同時に鎌槍剣を握り直した直後、視界の左端に映っていたフェンリルの姿が―――消えた。

 何の冗談かと思って今までフェンリルがいた場所を向いて俺は息を呑んだ。

 そこには、指を前へ向け手の平を上へ向けた状態で腕を高く上げているアストライアスがいた。

 いつのまに・・・。

 さっきまで二十メートルほど離れていたのに、一瞬にして距離を詰められていた。アストライアスの腕の延長線上には腹を突き上げられて宙を舞っているフェンリルの姿。ありえない。あのフェンリルが、まったく反応出来なかっただと・・・?

 同様するも脳内を駆け巡る警報を振り払う。

 余計な思考は判断と行動を鈍らせる。

 瞬時に頭を切り替え、フェンリルを突き上げた態勢で止まっているアストライアス目掛けて鎌槍剣を振るう。

―――ガキィンッ

 だが割り込んで来た天蘭院に鎌槍剣を弾かれる。

「ちぃ・・・っ」

 跳ね上げられた鎌槍剣を再び振り下ろそうとするが、天蘭院が間髪入れずに斬りかかって来る。

 突き、斬り払い、斬り上げ、斬り下ろし、とそれぞれの大振り小振りを使い分けてくる。しかもそれぞれの攻撃の繋ぎが滑らか過ぎる。加えてこちらの攻撃をかわし、受け流しながら攻めてくるそれはまるで舞のようだった。

 さらにはスピードと威力がさっきまでと段違いだ。

 押さえていた霊力を開放したとはいえ、これほどまでに変わるものなのか。それに、鎌槍剣と霊術の死角からの攻撃がことごとく防がれている。まるで、後ろに目があるような―――否、自分の死角が見えているような。

「コネクション・・・連結・・・まさか!」

「気づかれたっ」

 そう言って悔しそうな顔をしつつ天蘭院は霊力を練る。

 長剣から炎が噴き出し、龍の頭部を模した炎がいくつも襲い掛かって来る。

「―――<爆龍炎舞(サラマンドラ・ウェーブ)!>」

 襲い来る龍炎と炎を纏った長剣をかわすが別の龍炎がかわした場所に先回する。天蘭院の死角に逃げ込んでも長剣が斬りかかって来る。

「やはり、アストライアスとの視覚連結かっ」

 舌打ちしながら空中でフェンリルと戦っているはずのアストライアスを横目で見た瞬間、俺は再び息を呑んだ。

 俺の視線の先、そこには今までで数度しか見たことがない光景があった。


『ぐぅ・・・ガハッ』


 苦しそうな呻き声を上げるフェンリル。

 その真っ黒い毛が覆う身体をいくつもの剣や槍等が突き刺さっていた。

 炎を纏った両刃の長剣。冷気を帯びた長槍。電撃を纏った二対の短剣。風を纏った無数の矢がフェンリルの体に深く突き刺さっていた。

 そこから真っ赤な液体が大量に滴り落ちる。

「嘘・・・だろ」

 今までフェンリルに攻撃を食らわせたことのある奴は数える程だ。いくら十二神霊だからと言ってもここまで明確な実力差があるとは思ってもみなかった。

 対するアストライアスは掠り傷程度の怪我しか負っていなかった。

 そしてそのアストライアスが右手を上げる。

『―――<風絶の鎖抗>』

 白い大きな杭が四本、空中に現れる。同時にフェンリルの体に杭から出てきた鎖が巻き付き、フェンリルは杭ごと地面に縛り付けられた。

「ちくしょ・・・だから召喚させたくなかったんだよ」

 愚痴を言いながらこれからどうしようか考え出した時、

『天は地に 地は天に 開闢かいびゃくの時まで遡れ』

 フェンリルを行動不能にしたアストライアスがこちらを向いて詠唱を始めた。

「これ以上好きにはさせないっ」

 しつこく迫ってくる天蘭院を一時的に足止めし、疾駆で跳んでアストライアスに斬りかかる。発動しようとしている霊術は霊力の量からしても少なくても三節。最悪で四節。どうにかして詠唱を阻止しないと・・・、

「光と闇と無を集めよ 全ての空を地へと落とせ」

 今度はアストライアスではなく天蘭院が詠唱を始めた。しかも二人で一つの霊術を組み上げるべく詠唱をしていた。

『幻想の世 夢の中 偽りの世界を想像せよ!』

「偽りの世界は現実へ 夢は夢でありながら 全ての想像を実現せよ!」

 押し潰されそうな程の霊力。その莫大な霊力を使って霊術が放たれ・・・、


「『―――<天地瞑落!>』」


 空が―――落ちてきた。


更新が遅くなってしまいました

すみません


全然、話が進んでいないような気が・・・(汗)

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