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第三十四話「剣士と侍」

 隼美先輩が出て行った後、頭の傷と体全体の傷を完全に治した。霊力を消耗し過ぎたのか、上手く治癒出来なさそうだったのでポーチから治癒用の霊石を取り出してそれで怪我を治す。

 腕から針を抜いて医務室を後にした。


 観客席に戻ると丁度四年生のペア戦が終わったところだった。

 ちなみに隼美先輩は準決勝で天城臣先輩に負けている。結構いいところまで行っていたのだが、天城臣先輩は持ち前のタフさで隼美先輩の攻撃を凌いでカウンターで勝利した。

 あれを耐えるとは相当なタフさだ。陸属性の障壁をも破壊する攻撃に耐えたのを見た時には思わず呆れてしまった程だ。


 どこか座れる場所がないか探していると、こちらを向いて手を振っている生徒を発見した。

 良く見るとオルスレッドだった。師匠に連絡は済んだようだな。

 隣には天蘭院と美永瀬もいて、二人も俺に気が付いて手を振り始めた。そこまで仲良くした覚えはないのだが、他に座る所も見当たらなかったのでしぶしぶそこに向かった。

「怪我の具合はどう? 天ヶ咲君。ちゃんと治療してもらった?」

 席に着いて真っ先に天蘭院が俺に怪我の具合を心配してきた。どうしてこう、こいつはこんなんなのだろうか最近考えることが多くなってきているような気がする。

 俺、何かこいつにしたか?

 答えなくても良かったのだが、何時まで経ってもこちらから視線を逸らそうとしない天蘭院が気になって答えることにした。

「治療は受けたさ」

「それなら良かった。さっき加菜恵とオルスレッド君とで天ヶ咲君が治療を受けてるか受けてないかって話になってね。ちょっと心配だったの。壁に頭から強く打って血が結構出ていたから」

「・・・さいでっか」

 オルスレッドは俺が治療を受けたか受けなかったか知っていたはずだがそれを言わなかったようだ。

 楽しんでやがったな。

「天ヶ咲、最後に使ったあの雷の龍の霊術。あれっていったいどうやったの?」

 天蘭院の向こうから頭をひょいっと出して美永瀬が訊いてくる。

 まったくどいつもこいつも。公にされていない霊術を詮索するのはマナー違反だぞ。わかっているのかこいつらは。

 俺のそんな考えが聞こえるはずもなく、隣でオルスレッドと美永瀬―――ではなく、天蘭院と美永瀬が興味深々と言った顔でこちらを見ていた。どうやらマナー違反者がもう一人いたらしい。しかも美永瀬を普段止める役の天蘭院だった。

 隣でいつもの笑顔をオルスレッドを横目で睨みながら溜息を付く。

「マナー違反なのは知ってるよな?」

 あえて『何が』の部分を飛ばしたが二人には伝わったはずだ。

「この際そんな細かいことは気にしないの」

「・・・・・・」

 知られていない霊術に関して話すのは正直気が引けるが、そもそもあんなでたらめな霊術はそう使わないだろうから話しても別にいいだろう。

「霊術コンビネーションだよ」

「霊術コンビネーション? え、それってコンビネーション霊術じゃなくて?」

 二人が頭の上に「?」が見えそうなほど首を傾げる。

 この二つは「霊術」と「コンビネーション」の単語を入れ替えただけなのだが、意味が少しばかり違う。

 一人でするか、二人以上でするかの違いだ。

 コンビネーション霊術の方は小規模の霊術を一人で複数使用して大きな効果を出す方法。

 対して霊術コンビネーションは一人ではなかなか連発出来ない中規模から大規模の霊術を二人以上で発動し、お互いの霊術よりもより大きな効果を持った霊術を行う方法だ。

 他には術者の意思ではなく霊術が勝手により大きな効果を得ようとする働きの違いとも言われているが、両者にそこまでの違いはない。

 故にこの知識のない者は両方同じと考える奴もいる。

「その二つの違いは知っているな」

「ええ、もちろん」

「ならそこの説明は省くぞ。今回は水柱をオルスレッドの霊術で急激に冷やして氷にした」

「あれは凄かったね」

 美永瀬は思い出しただけで身震いをした。

 どうやら観客席まで相当な冷気が流れたようだ。あの真っ只中にいた俺はよく無事でいたものだ。下手をすれば傷口が氷りついて、挙句の果てには凍傷になる所だった。

 当の本人は呑気に一年生個人戦の決勝戦を見てる。

 どうやらあの紅快天が決勝戦に出ているらしく、さっきからフェニックスの『火炎榴弾』の熱気が漂って来てただでさえ暑いのに更に熱くなってきた。

「それで、あの水柱はその内部にどうしても空気が入ってしまう。それが氷柱になんか変わったら内部の空気が逃げれなくなる。そこで、その空気を外部から熱するとどうなる?」

「あの爆炎ね。えっと・・・空気が熱せられて膨張する?」

 俺が何を言っているのか理解できていない美永瀬の代わりに天蘭院が答える。

「炎によって氷自体も溶かされて氷柱が脆くなっていたため、膨張した空気が氷柱を内側から圧力を掛けて氷にひびが入る。そこを振動系の霊術で一気に破壊する」

「あの狼の咆哮ね。あれはうるさかった」

 美永瀬が何か言いたげな緯線を送って来るが無視する。

「氷は水が凝固した物。水は電気を良く通す。溶けかけの氷片が空中に隙間なく広がれば・・・わかるな?」

「雷撃単体なら防がれたり避けられたり出来るけど、その氷片が全体に広がれば四方八方死角なしに雷撃が襲って来る・・・ね。広範囲殲滅攻撃は雷属性の特徴でもあるけれど、その分霊力を大幅に消耗する。でも小規模霊術でそんなことが出来れば霊力温存にもなるし少ない霊力で一度に広範囲を攻撃できるってことね」

「その通りだ」

 流石は学年二位。

 これぐらいの事は分かるか。

「でも、最後の・・・私には『霆の雷矢』を撃ったようにしか見えなかったのに、雷の龍に見えたあれは? それに、そんな霊術聞いたことないよ」

「風属性の霊術で気流を操作して多少雷撃を誘導した。名前がないのは当たり前だ。霊術集書には載っていない、オリジナルだからな」

「・・・・・・」

 二人は目を丸くして固まった。

 そんな二人を見てオルスレッドは笑うのを我慢していた。

 この二人が言いたいことはわかる。ようは新たな霊術を編み出したことがこの二人にとっては信じがたいことなのだ。

 一般的に知られている霊術は十二天族が集めている『霊術集書』に名前と詳細が記載されている。それを俺達生徒は授業で学び、実技で試してみて習得する。中にはもともと出来る奴もいる。

 だが、その集書に書かれていない霊術は当たり前だが存在する。

 霊術は日々進化していく。

 ある霊術を十人に教え、そこからアレンジさせれば十人とも別のアレンジをするように、新たな霊術が日々誕生している。

 俺の父さんなんかが新しい霊術を開発中だったりする。あの人の仕事はいったい幾つあるのだろうか。この間なんかは霊石のもっと有効的な使い方を研究したし、その前は霊獣の解剖なんかもしていた。

 自分の父親ながら分からない事だらけだ。


 話がそれたが、つまりこの二人は信じがたいことを目の前で言った俺に対して驚いているのだ。別にオリジナルの霊術くらいお前らだって持っているはずだが、何をそんなに驚く。

「アンタ・・・筆記は確かに賢いけど、まさかオリジナルの霊術を編み出すまで賢いなんて。そんなに賢いなら何で紘矢谷に行かなかったの? まさか、同姓同名がいるから・・・って理由じゃないよね」

 ようやく硬直から解放されたらしい美永瀬が頭を振る。

「・・・こっちでやる事があるんだよ」

「ふ、ふ~ん。そうなんだ」

 それっきり会話は停まった。

 誰も話を振ろうとはしなくなった。

 何故なら、フィールドでは一年生の個人戦を紅快天が優勝し、続いて二年の個人戦決勝戦が行われようとしているからだ。


 二年、神童と言われた天津神(あまつかみ) 真志(しんじ)と、対するは、前回惜しくも天津神に敗れはしたものの、二年実力第二位の庚申(こうしん) 正剛(せいごう)の試合が始まろうとしていた。


                ◇


―――ビィィィィィィ!

 試合開始を告げるブザーが鳴り響き、


―――キィィィンッ!


「「「きゃっ!」」」

 耳が痛くなるほどの金属同士がぶつかりあう音が会場全体に響く。

 女子生徒の大半が耳を塞いでいた。

 開始直後に二人が剣を打ち合う。あまりにもスタートダッシュが速すぎて一瞬姿は見失いかけた。それほどの速さで二人は激しい剣戟を繰り広げる。打ち合う剣は火花を散らす。

「うっわ~。相変わらずとんでもない速さ。良くあんなんで戦えるよね」

「二人とも生粋の剣士だもんね」

「・・・庚申は剣士だが、天津神はどちらかと言うと剣士とは言わないと思うぞ」

「僕もそう思うよ」

「「・・・え?」」

 俺とオルスレッドの言った言葉が理解出来なかったのか、それとも信じられなかったのかお互いフィールドで戦う二人を見る。

 二人とも剣を持ってこれほどの戦いを繰り広げれば剣士と言っても違和感はないのだが、知っている奴が天津神の姿を見れば剣士とは言わないだろう。

 学校指定の制服に朱色のコートではない。

「天津神が来ている服。あれは確か、遥か東方の国の衣服でそこの国の兵士―――武士と言ったか。昔来ていた服らしい。いろいろ種類があったはずだから具体的には分からないがな。それと、あいつの持っている剣を良く見てみろ」

 二人が目を凝らし天津神の持っている剣を凝視する。

 刀身の長さが一メートル程ある長剣で、刀身の幅が狭すぎる。その剣は庚申の片手用直剣と相対すれば折れてしまいそうに思う。だがそれは折れることはなかった。しかも良く見れば刃が片方にしかついておらず、刃を外にして滑らかにカーブしている。その刃には波のような刃文が描かれている。

 そう、天津神が持つのは剣ではなく遥か東方の国で武士が持つ刀―――『日本刀』と呼ばれている物だ。

「何・・・あの剣。片方にしか刃がないじゃない。しかも、なんか曲がってるし」

「剣ではなく、刀。さらに言えば東方の国特有の『日本刀』だ。あの細さで人を真っ二つにすることが出来る。俺達の国で造る剣とは切れ味が大違いだ」

「真っ二つ・・・」

 天蘭院と美永瀬が息を呑む。

「あいつにふさわしい呼び名を付けるなら『武士』―――または『侍』だな」

 フィールドでは剣戟の応酬が続いていたが、そこに霊術が加わってもはやフィールドは烈属性の風撃と氷属性の氷撃で攻防の嵐と化していた。目に見えない風撃を庚申は全て剣で防ぎ、硬質な氷撃を天津神は目にも留まらない速さで刀を振って破壊する。

 小規模な攻撃を放ち続け、少しでも隙があれば全力で叩き込む。

 この攻防で相手の攻撃を捌ききれなくなった方が負けるのは確実だ。連続技で体勢を完全に崩され、止めの一撃を受けて終了となる。


 そんな小さなミスも許されない状態が三十分近く続いた。

 驚くべきことに一瞬も気を緩めることを許されない状況を三十分も続けていると言うのに二人の剣筋は衰えた様子はなく、逆に鋭さが増していた。

 そして、その応酬が不意に止んだ。

 二人とも距離を置いて向かい合う。その目は今までより一層獲物を狩る眼だ。

「来るね」

「・・・ああ、決めにな」

 その言葉の通り二人の霊力が高まる。

 天津神の周りで風が逆巻き鋭い鎌鼬となり、庚申の周りに氷の剣が何本も現れる。

 二人が剣と刀を構え―――一直線に走り出す。

 距離が近づき、天津神は刀を真横に振ろうと刀を横に構え、庚申は大きく振りかぶり氷の剣計八本が八方に位置する。お互いの距離が二メートルになった瞬間、二人が剣を振るう。一本対九本の刀と剣がぶつかり合い・・・、

―――バキィィン!

 破砕音が聞こえてくる。

―――ドォンッ!

 続いて庚申が勢いよく吹き飛ばされ、壁に激突する音が聞こえて来た。

「え・・・?」

「・・・嘘だろ」

 今、目の前で信じがたい光景が起こった。

 庚申の造り出した氷の剣八本が、天津神の刀の一撃で全て砕け散った―――のならまだわかる。刀に鎌鼬を纏わせ、振ると同時に鎌鼬を放って氷の剣を破壊したと言うのならまだわかる。しかし刀は鎌鼬を纏ってすらいなかった。

 もっと言えば、氷の剣を破壊したのは一撃だけではなかった。

 右から左に振った刀はまず氷の剣二本を破壊した―――と思った瞬間、他の六本も天津神が持つ刀によって同時に破壊された。

 そう、まったく動じと言っていい程の時間差で破壊されたのだ。その差0,0001秒程のタイムラグくらいはあるだろうが、一振りに付き二本、計四回の攻撃はあまりにも速すぎる剣筋で一度に四つの刀が見えたほどだ。

 その直後に圧縮し、止められていた鎌鼬が空気砲よろしくの勢いで庚申目掛けて放たれ、吹き飛ばしたのだ。

 流石のこれには庚申は驚愕の表情を一瞬浮かべていたし、俺はその無茶苦茶な速さの剣筋を見たのにも変わらず未だに信じられなかった。人間にあれほどの動きが可能なのか。

 これが十二天族の中でも神童と言われた天津神 真志の実力か。

「でたらめな速さだね。刀が四つに見えたよ」

 どうやらオルスレッドにも見えていたらしい。その横の天蘭院も見えていたのか驚いていた。美永瀬にいたっては何が起こったのか理解していないようだった。


―――ビィィィィィィ!

『今回もでたらめな速さの攻防を見させてもらいました! そんな神速の剣戟を征したのは今回も天津神選手だ!』

 会場が拍手と感激の音で包まれる。

 恐らく、天津神がこの学園で最速の剣戟の持ち主だろう。剣じゃなく刀だが。

『さあ、続いては・・・三年、天蘭院選手と黒堂寺選手の試合だ!』

 宇津木先輩の威勢の良いコールによって次の試合の選手が呼ばれる。

「よし、行って来るね」

「頑張って来なさいよ、綾香」

「応援してるよ、天蘭院さん」

「・・・・・・」

 オルスレッドと美永瀬が天蘭院に応援の言葉を贈る。

 俺は別に贈る言葉もないしそんな事をする仲でもなかったので黙っていたら二人から物凄くきつい視線が送られてくる。

「アンタも何か言いなさいよ」

「何か言ってあげなよ、桜華」

「・・・負けんなよ」

 俺の復讐の為に他の奴に負けるなよと言う意味を込める。だがそれを知らない天蘭院は無邪気にも返事を返す。

「うん♪」

 満面の笑顔で答えて控室へと向かった。

 その後で二人にいろいろとからかわれたが全て無視していると、俺達に近づいて来る気配を感じた。そしてその気配は俺の横にドサッ、と腰を下ろす。

「よぉ、何だか楽しそうだな」

「おろ、天月じゃん」

「やあ、天月君。どうしたの?」

 俺の横に座ったのは天月 圭悟だった。

 高校生離れした体つきとどうどうたる態度は天城臣先輩に似ている。事実、こいつは天城臣先輩の弟子のような立場で、次の部活長は十中八九こいつだろう。

「体の方はどう?」

「なんのこれしき、気合でどうにかなるさ。天蘭院の決勝戦を見に来たんだが、相手はあの黒堂寺か」

 その姿からは想像しにくい性格でいつの間にか馴染んでいた。

 こいつは準決勝で天蘭院と当たり、決勝で戦うと言う願いは叶えられなかったが、それでも戦う事は出来、結果死闘の末負けてしまった。

 最後に油断したこいつが悪いのだが、誰もが天月の勝利と思った状況を天蘭院はどうにかひっくり返し、逆転勝利したのだ。あれには俺も驚かされた。あの天蘭院が純粋な力技に持ち込んだのを見た時には意表を突かれた。

「お前らの試合も見たぞ。まさかあの二人に勝つとはな。今度俺ともやろうじゃないか」

 それだけは御免蒙りたい。

 ただでさえこんな試合で沸々とやる気が起きてしまっていたのに、お前となんかやれば本気で戦ってしまいかねない。

 正体を隠している身であるのでやりたくはない。

 このままこいつといれば少し面倒なことになるような気がしたので少し席を立つことにした。

「どこへ行く気だ、天ヶ咲」

「・・・トイレだ」

 適当な理由をでっち挙げてその場を離れる。

 会場の一番上の通路まで移動し、そこでこれから始まる天蘭院と黒堂寺の試合を見ることにした。


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