第三十二話「封印されし剣」
霞む視界の中、オルスレッドと関上の様子を見てどうにか会話を聞き取る。
上津は俺を鎖で縛りあげたまま同じく二人の事を見ていた。
封印されし『大地の鋼剣』―――<アルマラス>。確かに関上はそう言った。それが本当ならばかなり厄介だ。
タクティカルアーツの中には属性持ちの剣が存在する。あまり珍しいものではないが、ランクの低い物でも少し値は張るが武具店でも買える。五源属性と五冠属性が一般的で、五臨属性はかなり希少で数える程しかない。
だが、オルスレッドが持っている『雄絶の炎剣』と関上の持つ『大地の鋼剣』はその限りではない。
何故なら、それらは人の作りし物ではないからだ。
稀に迷宮の奥で封印されている宝がある。その迷宮の主がいる所よりも更に奥、深淵部に隠された部屋に。宝石やらタクティカルアーツの材料になりうる物や、中には呪われた道具―――呪具などもある。
そんな宝の中で『古代武器』と言われている剣がある。
天照一族が持つ古文書にそのことが書かれていて、全部で『炎』、『氷』、『霆』、『地』、『烈』の五冠属性を持つ剣に加え『光』と『闇』の計七つあると言われている。『闇』と『光』は存在するが実体がないとも言われている。
その内俺が見たことがあるのはオルスレッドの剣と氷属性の剣。そしてあともう一つの計三つだけだったが、ようやく四つ目を見ることが出来た。
だがこんな形で見ることになるとは。
「ちょっとそれは厄介だな」
そう言って剣を構えたオルスレッドの姿が消え、関上の後ろに現れ剣を振り下ろす。
「無駄だ」
―――キィィン
関上は後ろを見ることもせずに『大地の鋼剣』で防ぐ。
そこから右足を軸に体を回転させて斬り払う。それをオルスレッドは霊術を使って距離を取るが、関上は移動先の位置を知っていたかのように地面を蹴り、オルスレッドの目の前まで移動する。
「なっ」
驚きの表情のオルスレッドを横なぎに斬り飛ばす。
どうにか剣で防ぐが、受け身を取れずに地面を転がる。
「いって~。それよりまさか・・・」
「ああ、お前の霊術は見破ったぞ。名前までは知らんがな」
早すぎる。
今までの試合で使っていたからと言って、能力を見抜いて対処するにはいくらなんでも早すぎる。
確かにオルスレッドの霊術のデメリットには移動後の位置を掴まれやすいと言うことはあるものの、それに気がついても位置を気づかれないように隠蔽霊術を掛けてあるからそう簡単には見つからないようになっている。
それを、この短時間で見抜いたと言うのか。
「関上! こいつはどうするんだ!?」
上津が痺れを切らせたように叫ぶ。
「もう少し待て」
「ちっ・・・早くしてくれよ」
地面を蹴りながら苛立つ上津。
今この隙に左手に握ったままのFM F2000で攻撃してもいいのだが、動くのが面倒だった。いくらオルスレッドの師匠が厳しい人だからと言って『古代武器』が出てくればこの試合の事はカウントにはいれないだろう。
本来の力を出せない状態のオルスレッドが勝てる見込みは殆どない―――使い手にもよるが関上なら『大地の鋼剣』の力を存分に引き出せるだろう。
それならこちらに勝機はない。
「少し答え合わせの時間としようじゃないか、オルスレッド」
「・・・是非君の答えを聞こうか」
片膝をついたまま笑って見せるオルスレッド。その表情にいつもの余裕は感じ取れなかった。
しかも横目でどうにかして、と目配せを送ってくる始末。
今の俺にどうしろと言うんだ。
「そうだな・・・まずお前の霊術は恐らく領域干渉と空間系の二つの系統の複合、もしくは融合霊術だろう」
巨剣を肩に担いで得意そうに話し出す。
「空間系霊術はまず、自分の身体を造り出した空間で覆い、同じ大きさ、同じ形のものを別の場所に設置してその空間内の物体を入れ替える霊術だろう。一見『詭計の部屋』に似ているがお前のは初期動作がなく、気配と音を完全に消して移動できるから少し違う」
確かにオルスレッドの空間系霊術だけを見れば『詭計の部屋』が一番似ている。
だが空間内の物体を移動させる霊術は他にもたくさんある。その中からそれだけを特定するには判断材料が少なすぎるぞ。
オルスレッドはただ黙って聞いているだけだった。
「次に領域干渉系霊術だが、この空間系霊術の形を作っていると言っていいだろう。この場合はお前を対象として身につけている物、持っている物の周りを覆う様に空間を指定している。そしてその空間を造る際に次元をずらして造っているから誰も気づかない。その場で向きが変わっても、別の場所に移動しても」
その通り。
いくら別次元に空間を造っているとは言え、所在がバレテしまう可能性もある。だから造る範囲を極力小さくし、見た目ではオルスレッドの姿とかぶっているようにしている。しかも製造時間は一瞬で、造った瞬間に移動しているのでわからない・・・はずだった。
だがこいつはそれを見破って見せた。
天蘭院は恐らく術発動時の状態から推測を立てたのだろうが、関上は別だ。
実際に術を見破っている。これは相当な手練れがいたものだ。
「そして、これは推測だが・・・」
「まだ何かあるの?」
嫌な予感がしたのか、オルスレッドの顔から笑みが消えて行く。これには俺も同意せざるをえなかった。
「この二つの霊術は・・・どちらも固有霊術と俺は見ている」
「・・・・・・っ」
やはり。
感にしろ確証があるにしろ、これは非常にヤバい。
このままではオルスレッドの秘密が知られてしまう。通常、固有霊術は一人に一つと決まっている。
だが、関上が言った通りオルスレッドは二つの固有霊術を持っている。
この真実に辿り着き、その意味を理解すれば・・・。
「どうだ? 当たってるか?」
「・・・・・・」
俯いた状態でオルスレッドは身動き一つしなかった。
「おい関上。もういいだろ!」
「ああ、好きにしろ」
二人の会話に割って入った上津は了承を得て嬉しそうに笑い、俺を縛り付けている鎖とは反対の方の鎖を頭の上で振り回す。
あれを無防備な状態で食らえば最低でも骨は折れるな。Aランク判定は・・・恐らく出ないだろうな。先ほども出なかったことだし。
「終わりだ、天ヶ咲。ちったぁ楽しめたぜ」
更に鎖を振り回す速さを上げる。
あれを受けて気絶・・・なんて言うのもありだな、と考えていた時、不意に頭の中で誰かの声がする。
『もう終わりか。これからが楽しくなる所だと言うのに、貴様はもう諦めるのか』
普通、誰しも頭の中で声が聞こえればパニックになるだろうが、俺には既に馴れたこと。なんの迷いもなくその声の主に答える。
―――もともとここまで戦う気はなかったんだ。久しぶりに運動しただけでもいいだろう。
『ふん、なら儂に遊ばせろ』
声の主は鼻で笑ってそんな事を言い出した。
冗談じゃない。お前なんかを出したらエライ事になる。
―――出すわけがないだろう。あいつらの鍵が外れたらどうするつもりだ。
『そう簡単に外れるようなものではない。それに、儂は腹が減っておる』
これはどうやら何を言っても聞かなさそうだな。
内心でやれやれと溜息を付きながら霊力を高める。
―――殺すなよ。
『はっ、霊力を喰うだけに決まっておろうが』
俺の中のものと話を付けて前を見ると、上津の鎖が微妙に光っていた。恐らく霊力を流して打撃時の威力を高めているのだろう。
そんな上津を無視して目を閉じる。
―――聖なる鎖に繋がれ 地獄に縛られる 災いを齎す者―――
心の中で詠唱を始める。
詠唱なしでも呼び出すことは出来るが、それだとかなり霊力を持っていかれるし召喚が不安定になってしまう。
―――空を見下ろし 地を踏みしめ 天地に君臨する神よ―――
あの時感じた、何かの存在が俺の中で大きくなっていくような感覚。
閉じた瞼の中に見えるのは天を仰ぐ獣の姿。
―――その瞳には大焔を 四肢には壮絶なる爪を―――
―――口には絶大なる牙を その身体には漆黒の憎しみを宿せ―――
銀色の鎖をつけた大きな獣が天に向かって叫び、その口を大きく開く。
それは、いつしか世界を飲み込むほどに大きくなる口だ。
―――世界を抉り 貪り喰らえ 地の底に生きる飢えし狼よ―――
目を開くと、ちょうど上津が俺に向かって鎖を振ったところだった。その顔には俺の骨が折れ、苦痛の声を出すのを今か今かと待っている顔だった。
だが、その声を上津は聞く事はないだろう。何故なら・・・その鎖が俺に届くことはないからだ。
「<奈落の獄狼!>」
大きく息を吸い込み、俯いたまま叫ぶ。
近くにいた上津と、フィールドの壁の上で試合を見ていた生徒は何事かとこちらを向く。関上も驚いてこちらを向いていた。
『召喚』
五節による詠唱霊術の最高霊術。
自らが契約した精霊または神獣を呼び出すための儀式。
中にはアクセサリーやタクティカルアーツなどに精霊や神獣を宿す者もいるが、大抵は自らの身体に宿すことが多い。
一直線に迫り来る鎖と俺の間に黒い渦が現れる。
だんだんと大きくなっていき、直径二メートル程で拡大が止まり、鎖を弾き返す。
「なん、だよ・・・それ」
黒い渦の中で光る紅い光を見た上津は驚きの顔をする。
『グルルルッ』
その中から高さ二メートル、全長三メートル以上の巨躯を持った狼が姿を現せ。
首と四肢には銀色に輝く鎖が首輪のようについており、身体を覆う漆黒の毛は闇そのものを思わせるほど鮮やかな黒。得物を見据える眼は炎のように真っ赤な色をしている。
七年前。
あの時俺が手にした復讐のための力。契約により得た強力な力、精霊と神獣を超えた存在―――神霊。
溢れ出す殺気は相手をそれだけで飲み込むほどのものだ。
「精霊・・・いや、神獣持ちだったのかよ、貴様」
傍から見れば神獣にも見えるが、正確には神霊だ。しかし、こいつにそれを言ってもその違いは分かるまい。
ゆっくりと出てきたフェンリルは辺りを見回し、上津を睨みつける。
『そこの鎖使い。貴様の言う通り楽しませてやる。その代わり・・・儂も楽しませてもらうがな!』
―――ドォン!
勢いよく地面を蹴り、上津に突進する。
それを両方の鎖で迎撃しようとするが、フェンリルはその巨躯からは想像できない速さで地面を駆けて避ける。
フェンリルが駆けた後には紅い軌跡が尾を引いて描かれる。
後ろに回り込んで前足を振り上げ、振り下ろせば地面が一メートル程陥没していた。
「なっ・・・じょ、冗談じゃない。なんなんだよこいつ」
予想以上の強さに上津は頬を引き攣らせる。そこにはさっきまでの余裕の気配は全く感じられなかった。
『どんどん行くぞ―――<黒狼弾!>』
大きく息を吸うかのような動作をすると、喰いしばった歯の隙間から濃く圧縮された黒い煙のように霊力が漏れる。
それを上津目掛けて吐き出す。
―――ボッボボ、ボ!
一度に四つの黒い霊力の塊が放たれ上津目掛けて襲い掛かる。
それを迎撃しようと鎖を振るうが、『黒狼弾』に当たった鎖は逆に弾き返される。
「嘘・・・だろ」
『爆ぜぇ!』
フェンリルが叫ぶと同時に『黒狼弾』がまるで爆弾のように爆ぜる。
―――ズドォォン!
地面を抉り、凄まじい爆発が起こる。
爆発のせいで地面が揺れる。いったいどれだけの威力なんだか我ながら呆れてしまう。
「がっ・・・は!」
爆風によって上津は空高く吹き飛ばされる。
どうやら『黒狼弾』の直撃を喰らったようでかなり高く飛ばされている。
「オルスレッド! いつまでそうやってるつもりだ! 同じ『古代武器』持ちに負けて何も思わないのか!」
いつまでも俯いて動こうとしないオルスレッドに若干苛立ちを覚えて大きな声で叫ぶ。
俺の言葉にようやくオルスレッドの顔が上がる。
「何も思わない・・・訳ないでしょ!」
巨剣をしっかりと両手で握り、未だ硬直状態から戻っていない関上に斬りかかる。
それに気が付いてようやく硬直が解けた関上はオルスレッドの巨剣に自らの巨剣で迎え撃つ。本来なら同じ巨剣同士。振るう速さは同じなのだが、いろいろと規格外なオルスレッドにはその常識は通用しない。
「『雄絶の炎剣!』」
―――ドォン!
右下からアッパーカットのように振り上げていた『雄絶の炎剣』の峰の部分のフレームから爆発するように炎が吹き出て、鈍重な一撃が不意に加速する。
「なっ!」
その加速に関上は付いて行けず、自らが展開した障壁を破壊され、Sランク障壁に阻まれながらも空中へと吹き飛ばされる。
かなりのダメージを与えたはずだが、まだ安心出来ない。なにせあいつらは嫌になる程しつこい。徹底的にしないと永遠に向かって来るだろう。
「青の弾丸―――二重装填」
落ちていたもう片方のFM F2000を拾い、装填していた弾丸を入れ替える。
そして、フィールド全体の地面に向けて撃つ。
―――ガガガガガガガガガガガガガガガガ・・・
次々に放たれた『水冷榴弾』は、着弾すると水柱が発生する。
それが周りの水柱と合体していき、いくつかの大きな水柱へと変化する。フィールドは既に地面から吹き出す水柱によって視界が殆ど閉ざされていた。
上を向くと、吹き飛ばされた関上と上津が運よく―――あいつらにとっては悪く―――衝突していた。さらに下から吹き出ている水柱によってなかなか下に落ちないでいた。
二人ともダメージによって動けないようだ。
それならば今がチャンス。
「オルスレッド!」
「分かってる」
俺の意図を察していたオルスレッドは、再び剣を地面に突き刺す。そして大気が解放した霊力によって重くなる。
「『雄絶の炎剣』―――<形式、氷靭演武!>」
大気が―――凍った。
一瞬そう思えた。
良く見るとオルスレッドの『雄絶の炎剣』の紅いフレームが蒼白色へと変化していた。突き刺した地面との部分が氷で覆われている。炎属性しか持たないはずの『雄絶の炎剣』に、今回オルスレッドが追加した機能。
それが、他種属性使用機能だ。
今やオルスレッドの剣は、炎属性ではなく完全に氷属性となっている。
「氷れる意志持ち 凍結せよ 命の華よ―――<氷棟零華!>」
―――パキンッ
空気中の水分が凝縮し、氷の華が辺りに咲く。
そして、オルスレッドの巨剣から吹き出た氷の礫とぶつかると勢いよく弾け、その破片が水柱に触れた瞬間、物凄い速さで水柱が氷っていく。
―――パキパキパキパキパキッ
次々に氷りながら水柱が氷柱へと変化する。
ついには水柱全体が氷る。
上空ではようやく動き出した二人がどうにか氷から脱出しようと足掻いている。
「オルスレッド!」
肩で息をしているオルスレッドにもう一度叫ぶ。
「まったく。人使いが荒いんだからっ」
そう言いつつもう一度霊力を開放する。
流石に立て続けに解放するのは疲れるのか、霊力が溢れる勢いが弱まって来ていた。
「『雄絶の炎剣』―――<形式、爆炎演武> 炎を纏い 燃え盛れ 命の華よ―――<炎上命華!>」
炎の華が芽吹き、紅蓮の炎が燃え盛る。
最初の時より華の数が少ないが、それでもフィールド全体を炎が包み込む。燃えていたのはほんの十数秒程だ。それだけでも十分だ。
氷柱を見るとそこかしこにひび割れの箇所があった。
これなら・・・いける。
「フェンリル―――<激声の遠吠え!>」
技の支持を出し、その直後・・・、
『ヮオォォォォォォォォォォォ・・・!』
鼓膜が破れるかと思うほどの遠吠えが響く。
それにより大気が震え、地面が揺れ、そして氷柱が砕き散った。
―――バキィンッ!
破砕音とともに氷の破片が宙に無数に舞う。それだけを見れば氷の破片は太陽の光を反射させて輝いており、幻想的な光景だ。
「なんだかわからんが、俺達を開放したこと後悔するなよっ」
上空では関上と上津が砕けた大きな氷片を足場に降りて来ていた。
あいつらはまだ戦う気だろうが、それももう終わり。この一撃が最後だからだ。
両手に持っていたFM F2000を放すと、その下に霊術陣が展開してその中に消えていく。空いた両手を後ろ腰に回し、H&K USP Matchを二丁取り出す。
それを降りて来る二人に向ける。
「黄銅の弾丸―――二重装填」
スライドが黄銅色へと変化する。
真鍮色とも言われているそれは、黒色の本体と奇妙な組み合わせだ。
「上津、あいつの攻撃は任せたぞ」
「全弾防いでやらぁ」
鎖を構えて防御態勢に入るが、それは全く以て無意味である。
何故なら・・・、
―――パァン、パンパン、パァン・・・バチ、バチバチバチバチッ!
撃ち出された雷撃は氷の破片を伝って広範囲に広がり、全方位から二人に襲い掛かる。
放たれた技は五冠属性の一つ―――霆属性の基本技、『霆の雷矢』だ。『電撃榴弾』よりも麻痺効果が高く、被弾するとほとんどの者が霊術を発動しにくくなる。
しかも内部から電撃を浴びせるのでかなりダメージを受ける。
全弾打ち終わると、全ての『霆の雷矢』は氷片を伝って一つに纏まり、その姿はさながら―――一つの、いや・・・一匹の大きな雷龍へと姿を変えていた。
翼を持たず、長い胴体を持つ龍。
それはまるで蛇の如く空中をのたうち回るように体をくねらせる。
「な、何なんだよ・・・これ」
『霆の雷矢』の集合体が、あまりにも放たれた数が多かったせいでどこからどう見ても竜の姿になっていた。多少は風属性の魔法で大気を捜査操作しているが、ここまで来ればそんなこと誰にもわからないだろう。
そんな二人の抗議も空しく、雷撃は二人を飲み込むかのごとく襲い掛かる。雷撃がスパークする音は龍の咆哮にも聞こえ、襲う雷撃は今度こそ二人の意識を完全に刈り取った。
長かった・・・
本当に長かったです
なんだかいろいろと説明を書いていたらここまで長くなってしまいました
正直この後も説明だらけで(たぶん)
これでいいのかとつくづく思います
たまにはのんびりとした話を書いてみたいです
(それはいったいいつ書けるのでしょうかw)




