第三十話「最終試合」
二人の試合が終わり、次の試合に呼ばれるのを待っていたが、今日は昼から開始して時間が短かったので二試合目は呼ばれなかった。
今年の始業式から何気に俺が関わった生徒は皆勝っていた。当たり前だが。
隼美先輩は相変わらず霊術と体術を組み合わせた非常に珍しい戦い方で相手を投げ飛ばしていたし、天上院先輩は美永瀬と同じように相手を氷漬けにしていた。天城臣先輩は十二天族ではないものの、その巨躯からは想像も出来ないスピードで相手を翻弄し、見た目通りの攻撃力で相手をねじ伏せていた。
今年の三年生は決して弱くはないが、この三人の実力が突出しているのだ。
これには一年生はあまりのすばらしさに感激し、二年生は自らの実力を上げる為に真剣な表情で見ていた。
三年生はもはやその凄さに呆れていた。
どれだけ練習を積んでも、実績を積んでも届くことがないような実力を見せられては誰だってそうなる。中にはそれに奮い立ち、やる気を起こす奴もいる。
現にオルスレッドと天蘭院がそうだった。
今見た攻撃をどう防ぐか、そこからどう反撃するか、自分ならどうしていたかを話し合っていた。傍から見れば仲のいい二人組だ。美永瀬が嫉妬していたぞ。
その美永瀬にいたってはあの人たちの実力はおかしいと決めつけて半ば諦めていた。
十二天族の血筋は異様な程に霊力が高い。
そして戦闘の資質も十分に備わっている。
ここまでくれば、一般の生徒からすれば目指す目標と言うより憧れる存在だな。憧れてしまえばそこで自分の可能性にストップをかけてしまうから、あまりいい存在ではないような気がする。
一日目の期末試験が無事に終わりを告げた。
それからはいつも通りの試験の日が続いた。
九時から試験が始まり、五時か六時頃に試験が終わる。ペア戦は一日に二試合しかしないから、試合間の時間が長すぎて暇以外のなにものでもない。
個人戦にいたっては今回、一日に一試合しかしないようだ。
しかも負けてしまえばそこで終了。敗者復活もない。そうそうに負けた生徒は後の試験の間は何もすることがなくなってしまう。そういう生徒に限っては時間制で別の施設を使う事が出来るようになっている。
五日目、六日目・・・となっていくにつれてそういう生徒が増えてきた。
試験会場の席にちらほらと空席が目立って来ているが、その分個人戦は白熱した試合にだんだんとなって来ている。
試験開始から一週間ほどで個人戦の予選トーナメントが終了した。
各学年六ブロックから一位、二位の計十二名が予選を潜り抜け、二日休んでからの決勝トーナメントが始まる。決勝トーナメントは今までのコートを二面分使うので、進むスピードは更に遅くなるし、ペア戦の進行にも支障を満たすのでこの二日間の間に出来るだけ多く試合が進められる。
中には一日に多くて四試合する組もある。
対戦ペアは抽選で決めるからこれはしかたがない。
期末試験もようやく半分を過ぎた。
オルスレッドの最初の発言通り、ひいてしまいそうな程大暴れだった。
相手が展開した障壁を破壊しながら巨剣を振るい、Sランクの障壁に阻まれるも、相手に大きなダメージを与え斬り飛ばしていた。
近接相手はもちろん、中距離も遠距離もオルスレッドには関係なかった。
巨剣を持っているのにも関わらず物凄い速さでフィールドを掛ける。スピードが物を言う戦いでも相手に後れを取らず、それよりも速いスピードで相手を斬りまくった―――障壁で塞がれるので直接斬ってはいないが。
最初こそはイカサマだの八百長だのと言われたが、直接戦い、その後の試合も見るにつれてそんな事を言う奴は減って来ていた。今や皆はどうして今まで実力を隠していたのかで頭がいっぱいなはずだ。
さらにはオルスレッドの能力が何なのかに興味を持っていた。
右にあったはずの剣が突然左から襲って来たり、防御が間に合うはずのない一撃を加えようとすれば、いつの間にか自分の剣とオルスレッドの間に攻撃を阻むようにオルスレッドの剣があったりと、奇妙なことばかりなのだ。
恐らく四年生の実力者と二年生の天津神辺りや、極数人の生徒はオルスレッドの能力がどういうものかを見抜いたはずだ。
最初にオルスレッドの能力を知った時は、どうしてそんな能力を使うのか疑問を持った。
そんな能力を使うメリットが最初分からなかったからだ。
一見すれば『瞬間移動』にも見えなくもないが、そこまで便利な能力ではない。使用範囲が限定されているし、使用制限もかなりある。
だが、その反面相手に能力を見破られにくい。
技発動の兆候が見えないし、発動時間はほんの一瞬。瞬きをする間に能力が発動し、終わっているくらいだ。注意して視ればわからないことも無いが、戦闘中にそんなことをしていれば攻撃を喰らってしまう。
しかも類似の霊術が多数あるのでさらに断定され難い。
そんな事もあって着々と試合を勝ち進んでいた。
本日の試合で俺達は総試合数の半分がやっと終わったところだ。
これで17勝。残るは3勝だけとなったのだが、注意ペアとして候補に挙がっていた7組の内、すでに6組を倒してしまった。しかも残っているのが今ペア戦の中でも最強―――いや、最凶と言われているペアだ。
関上 志岐と上津 春樹。
普段学園では大人しいこの二人は、期末試験になると文字通り人が変わったようになる。いわゆる学年一の問題児だ。
刀のように細く固い長剣を使う関上と、楔形の鎖を使う上津。
自分よりも明らかに弱い相手には手を抜き遊びながら戦い、自分たちと同等、もしくはそれ以上の相手には恐れることなく、攻撃を受けることも恐れず、護る事をせずに執拗に攻めてくるのだ。
それだけならば感心することだが、その目は完全に狂っている者の目なのだ。
ただ暴れることだけを目的とし、自らの快楽の為に相手をいたぶる。それがこの二人。
教師側もこの二人には散々悩まされているが、この期末試験以外は問題も起こさず大人しいので、ある程度は大目に見ているのだろう。
本当にヤバイ時は止めに入るが。
◇
「成績上残り三勝。残っている試合で要注意なのは35番の関上、上津ペアだね。この二人はかなり要注意だ。結構僕たちの情報を集めているみたいだしね」
今日の試験を終わらせて学園を出て西の城門に向かっていた。
「そうなっているのはいったい誰のせいだ」
期末試験も残りあと一週間となって来ていた。
今日の試合で目標の20勝を達成した。本来ならこれで役目が終わったので後は負けてもいいのだが、目立ちすぎてしまったので迂闊には負けられなくなっている。
「こうなったらいっそのこと全勝しようよ」
へらへらと返すが、俺は我慢が出来ずにここ最近思っていた疑問をぶつける。
「・・・おいオルスレッド。お前何を隠している」
「・・・・・・」
オルスレッドは答えなかった。
その顔には諦めと賞讃の表情が入り混じっていた。
20勝だけならば強敵を倒さずにすればいいだけの事。それなのにあえて避けず、しかも『雄絶の炎剣』を使ってまで勝たなければならないのには、成績以外に何か理由があるはずだ。
そこまでして勝たなければいけない理由となると、恐らく・・・、
「いつから気が付いてた?」
「最初に疑問に思ったのは最初の試合の時だ。あいつらに勝たなくても20勝は出来たはずだ。それなのに能力を、レーヴァティンを使った時だな」
「流石桜華。まさかそんな時から疑われていたとは」
「理由は・・・訊くまでもなくお前の師匠か」
「お察しの通り」
やはりか。
いったいこの前の中間試験中に何があったんだろうか。ここまでハードルの高い―――実力的には問題ないのだが、成績的にハードルが高い―――難題を押しつけるにはそこまでの理由がありそうだ。
「適齢期を過ぎた年増師匠のせいで今回の期末試験で全勝しなくちゃいけなくなったんだよ」
心底嫌そうに肩を落とす。
ここ最近オルスレッドの今までのイメージが完全に俺の中で崩れてきた。愚痴をなかなか言わないので俺的には結構新鮮だが、周りの奴にとってはショック事だろう。
「無視すればいいだろう」
「それもそうはいかないんだよ。強制的に制約させられて、出来なかったら裏事情を記録させられるんだよ。今の方が断然いい」
「・・・ご愁傷様」
だから必死なのか。
記録者にとっては裏事情を記録することは重要なのだが、こいつにとっては裏事情を記録するよりも俺を記録することに集中したいみたいだ。
あまり記録されるのには抵抗を感じるが、邪魔をしない限りいいことにしている。
「そう言う事だから、後の試合も付き合ってよね」
「俺まで巻き添えを食うのはごめんだから今回だけは付き合ってやる。その代わり、記録者が記録している情報を今度寄越せよ」
「もちろん」
とりあえず手伝う代わりに情報を貰うという交換条件を取り付けて本日はわかれた。
家に帰るとニーナが既に晩御飯を用意していてくれた。
晩御飯を食べながら、今日の期末試験の話をニーナに訊かれたので答える。ここ最近妙にこういう事に興味が引かれているらしかった。
それからは風呂に入り、明日の用意をしてベッドに転がった。
◇
次の日からオルスレッドの巻き添えを食らわないために、ペア戦全勝を目指して試合に挑んだ。
もしここで一回でも負ければ夏休みはあの人に時間を全て割かないといけなくなる。そんなことになれば生きて帰って来れるか分からなくなる。
下手をすれば帰れなくなるかもしれない。
ある程度の実力は出しているものの、苦戦を免れないことも多々あったが、どうにか最終日まで一敗もせずに来ることが出来た。
残る試合は一試合。
しかもどういう事かその残った相手が関上、上津ペアだ。何の因果だよまったく。
最終日。
学校に付いて第四実技棟に向かっているとオルスレッドと会い、一緒に行くことになった。別段話すことはないので黙って歩いていると、後ろから勢いよく近づいてくる気配を感じた。
「オ・ル・ス・レッドー!」
「はい・・・? ごふっ」
「おお?」
振り返ったオルスレッドは眼前に迫っていた蓮桜学園指定のブーツの裏に顔面を蹴られ、数メートル程蹴り飛ばされる。
振り向きかけていたので、目の前にあったオルスレッドの顔がブーツに蹴られた顔を見ていろいろといと意表を突かれた。
オルスレッドを蹴り飛ばした張本人―――黒髪セミロング。セットであろう髪型は猫耳に見えなくもないその髪は、今にもぴょこぴょこ動き出しそうな程リアルだ。この容姿は俺が知る限り一人しかいない。
「お前、いきなり酷いことするな・・・美永瀬」
「なによ天ヶ咲。あれくらい避けれると思ったのよ」
フンッと言いながら顔を背ける。
こいつも俺の最初の印象から段々と崩れてきている。ここまで活発な性格ではなかったような気がするが、人は変わるものなのだろう。
「か、加菜恵~。いきなりそんなことしちゃダメでしょ」
「綾香~、遅いよ」
天蘭院の注意も気にせず、呑気に手を振る。
俺は蹴り飛ばされたオルスレッドに近づき、生きているか確認する。
「おい、生きてるか?」
「なんとかね」
元気そうに答えながらピョンッと起き上がり、体に着いた土や埃を叩く。
「ごめんね、オルスレッド君。怪我とかない?」
「大丈夫だよ天蘭院さん。それより美永瀬さん・・・どうして僕を蹴り飛ばしたのか教えてくれるかな? もし理由もなしに蹴ったのならさすがの僕も怒るよ?」
どうやら結構頭に来ているらしい。顔は笑っているが、こめかみ辺りがピクピクとひくついている。口元も微妙に笑えていない。
しかも背後からドス黒い殺気が漏れている。こりゃ相当に怒ってるな。
そんなオルスレッドに臆することもせずに、高校生にしては微妙に物足りない胸を張る。
「この前言っていたあんたの霊術がどういう物なのか分かったのよ。名前までは分からないけどね」
「へ~。それは是非聞いてみたいね」
どうやらこの前の奢って貰うと言う約束を果たせると思ってテンションが上がっているらしい。
実技棟に向かいながらオルスレッドと美永瀬は霊術の能力に関して話し合っていた。
俺と天蘭院はその二人の後ろをトコトコと無言で付いて歩いていた。話のネタもないし、こちらから話す気は俺にはなかった。俺にはなかったが、天蘭院から話しかけて来た。
「天ヶ咲君、今日の試合・・・勝てる自信ある?」
「・・・どうだろうな」
「気を付けてね。関上君と上津君って普段は大人しいけど、こういう時だけ人が変わったようになるから。どんな手を使って来るかもわからないし」
「・・・・・・」
チラッと天蘭院の顔を見てみると、心底心配していると言わんばかりの顔だった。右手を胸の前で力強く握っていた。
どうしてそこまで心配されるのか、ちょっと本気で考えてみたが全く思い当たる節がなかった。それどころか嫌われてもおかしくない事しか思いだせなかった。
どうしてこいつが俺の事をここまで心配するのか訊いてみたい気もしたが、どうでもいいことだとすぐに気付き放っておいた。
再び黙って歩いていると、前の二人の話が終わったのかオルスレッドが肩を落として、美永瀬が嬉しそうにその場でジャンプしていた。
これはどうやら本当に見破られたようだな。
だがどういう霊術でどういうメリットとデメリットがあるかくらいだろう。あの霊術の核心に気が付けば、それよりも先の―――オルスレッドの真実に嫌でも気が付く。もし気づいていたら正気ではいられなくなるからな。
それに、誰もそんな事があるなんて想像もつかないだろうし。
「やったよ、綾香。当たってたよ」
「良かったね加菜恵」
嬉しそうに手を合わせる美永瀬。
だが天蘭院の表情は微妙に明るくはなかった。どこか罪悪感に囚われているような面持ちだった。
「・・・なるほど」
あることに気が付いた俺は美永瀬を目を細めて見る。その視線に気が付いたのか、美永瀬が言い返して来た。
「なによ天ヶ咲。何か言いたそうね」
「お前が見破ったんじゃなくて、天蘭院が見破ったんだなと思っただけだよ」
「うっ・・・気づいたか」
痛い所を突かれた美永瀬は渋い顔をする。オルスレッドはやっぱりなと言うような顔をしていた。
筆記試験の成績が五十番台のこいつにあの霊術の能力を見破れるはずがない。
となると、成績上位者の天蘭院が見破ったと考えるのが妥当だ。本人も苦笑していたし間違いないだろう。
だが美永瀬が見破るとは条件になかったので結局奢る羽目になったが、オルスレッドは別に奢ることくらい平気だと言っていた。
お前は平気かもしれないが巻き込まれた俺の身にもなりやがれ。
実技棟に到着し、いつもの席に着く。
後は最後の試合に呼ばれるのを待つだけだった。今回は意外と早く事が進んだのか、他の学年も個人戦、ペア戦と最終の試合しか残っていなかった。そう言う事もあって、最終の試合はフィールド全体を使って行われることになった。
まずはペア戦を一年生から四年生まで順番に行い、次に個人戦決勝を行い、閉会式をして終了となる。
司会の二人の挨拶から始まり、試合が開始される。
一年生、二年生の試合が結構白熱した試合となり、俺達の番になるまでに時間が掛かってしまった。
司会の人に呼ばれて席を立つと傍にいた天蘭院と美永瀬に「頑張ってね」と言われ、控室に行き先生にこれから試合であることを告げてフィールドに向かう。その時に今度は先生に後ろから「頑張って来い」と言われた。オルスレッドは「頑張ってきます」と元気よく答える。
俺は無言でフィールド内に入り、今試験最後の・・・ペア戦において最強にして最凶のペア―――関上、上津ペアと離れて向かい合った。
さあ、
期末試験も大詰めです
最後はドドォンと二話に亘ってペア戦最終試合を書きたいと思ってます
て言うか、
そうしないと詰め込み感がどうしても出ちゃうんですよね
(久々に本気の戦いも書いてみたいですし)
二話と言っても、
もしかしたら二話目の途中で終わったり本当に二話分書くかもしれないですけど
良いのを書きたいと思いますので楽しみにしていてください
がっかりさせないような作品を作りたいと思います
それではまた~




