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第二十九話「雄絶の炎剣」

「それじゃあ桜華。あれを頼むよ」

 こちらに向かって来る光大に恐れることもせずに、余裕の笑みを浮かべてこちらを見る。

「さっさと終わらせろよ・・・霊術陣―――展開」

―――ヴゥォン

 羽虫の羽のような音が鳴り、オルスレッドの右横、地面から2メートルの宙に紫色の複雑な模様が描かれた霊術陣が展開する。

「異空間ストレージより―――『雄絶の炎剣』を指定」

 霊術陣が淡く光り出し、その中心から鉄製の光沢を持つ何かの切っ先が下に向かって現れる。

 その切っ先が出て来るに至って、刀の部分の反対側、峰の部分と刀身の中ほどに紅いフレームを持った剣が現れる。

 小さくすればコンバットナイフやアサルトナイフにも見えるその独特の形を持つ剣の切っ先が地面にまで到達する。だが柄の部分―――正確には柄と断定していいか迷うような凹凸をもった部分―――はまだ途中までしか現れてない。

 最後に霊術陣が上に移動し、残った部分全てが現れる。

 刀身の長さ約1,5メートルに幅約35センチ。柄の長さ約40センチ。本来なら剣や刀の鍔がある部分には何もなく、刀身の部分に別の持ち手が一体化しており、反対側からナックルガードのように凸凹を持った金属部品が伸びていて柄の後端あたりで40センチほどの長さの刃がついていた。

「なっ・・・」

 剣を両手に持って向かって来ている光大の表情が凍りつく。

 無理もない。遠距離戦型のオルスレッドの横に自分の身長を超える巨剣が現れれば誰だって驚く。

「今回はあんな適当な補助霊術じゃなくて、ちゃんとしたのを掛けてよね」

「うるさい・・・対象―――オルスレッド=J・S=ヴェルを指定」

―――ヴゥン

 今度はオルスレッドの足元に藍色の霊術陣が広がり、オルスレッドの身体を藍色の光が薄っすらと包み込む。

「<身体機能及び感覚機能・・・強化&事情固定>」

 勧誘期間に使っていた他国語ではなく、俺達が使っている言葉で霊術を掛ける。これにより、他国語よりも効果や影響が倍増する。


 身の丈を超える巨剣を、オルスレッドは自分のタクティカルアーツ―――『雄絶の炎剣』の柄を握り、片手で地面から引き抜く。

 俺が補助霊術を掛けなくてもこいつなら簡単に持てるはずだ。

「それじゃあ、行くよ―――<雄絶の炎剣(レーヴァティン)!>」

 オルスレッドが叫ぶと紅く光り出す。それを確認してから光大に向かって走り出す。

 しかし光大は既に目の前までに迫っていたので、一歩踏み出すだけでお互いの距離が5メートルを切っていた。

「くっ・・・しかし!」

 思いもよらない展開に光大は驚くが、オルスレッドの持つ巨剣よりも自らが持つ両手用長剣の方が早く振れることが出来るので、避けることをせずにそのまま向かって来る。

 確かに、巨剣よりも両手用長剣の方が早く振れるが、その時間差を利用した先手はオルスレッドには通用しない。

 何故なら・・・。

「はああぁっ、セイッ!」

 自分と相手のスピードとお互いの距離を計算し、剣を振ればお互いの剣がぶつかるタイミングを見つけ出し、そうなる様に両足でしっかり踏ん張り巨剣を横なぎに振るう。

 その巨剣を振るう速さは光大の持つ両手用長剣と何ら変わらない速さだった。

「嘘だろ! ・・・っく」

 意表を突く速さの一撃を地面すれすれにまでしゃがむことで見事にかわして見せる。

 流石5組に所属する生徒。反射神経は見事な物だ。

「兄さん!」

 後衛の幸也から雷属性基本技の『電撃榴弾』が無数に放たれる。当たると体が麻痺して霊術を発動しにくくなる。

 恐らく誘導性がある程度効くのだろう。俺達三人を囲む広範囲で放たれている。

 俺は腰からH&K USP Matchを一丁抜き、放たれた『電撃榴弾』に向ける。

風色の弾丸(ウインド・ブレット)―――装填」

 銀色のスライドが白へと変化する。

 そして引き金を引いた。


「ここっ!」

 しゃがんで攻撃をかわした光大は全身のばねを効かせて姿勢を上げ、大ぶりな攻撃をしたオルスレッドに斜め下から剣を振り上げる。

 大ぶりな攻撃をし、それが当たらなければ巨剣の場合体制を崩してもおかしくはないが、オルスレッドは態勢を崩すどころか、空ぶったにも関わらず巨剣を振り続けていた。

 普通ならこのままオルスレッドはBランク以下の攻撃と判定されて光大の攻撃を生身で受けるか、Aランクと判定され、障壁で護られその分のダメージをくらい、戦闘続行不能にまでなるかだが・・・、

―――ヒュン

「な・・・? がはっ!」

 光大から見て右側に空ぶっていたはずの剣が光大を反対の左側面から襲い、『雄絶の炎剣』の一撃を喰らった光大はそのまま数メートル程吹き飛ばされる。

 Aランク攻撃と判定されたその一撃は、Sランクの障壁によって直撃を防御されたものの、ダメージを光大に与えそのまま気絶させた。

 光大自身が展開していた対物理障壁はガラスの如く破壊されていた。


「よくも兄さんを・・・え?」

 兄が薙ぎ倒されたのを見て新たな霊術を構成しようとした幸也は、自分が放ったはずの『電撃榴弾』が、こちらに向かって来ているのに気が付いた。

 しかも良く見ると風が一点に集まったようなものがそこら中にあり、それも向かって来ていた。

 風属性基本技の『風威榴弾』だ。

 風を圧縮して放つ空気弾だ。技の兆候も技自体もほとんど見えないので、発見、対処が難しい技だ。

 そう言えばさっき、天ヶ咲が腰から銃を取り出していたことを思い出す。


 桜華が撃った『風威榴弾』は一発も『電撃榴弾』に当たっていなかった。

 当たってはいなかったが、放たれた『風威榴弾』は大気の流れを変え、その影響を受けて『電撃榴弾』が幸也の下へと方向を変えたのだ。

「くっ」

 攻撃霊術から防御に切り替えたのか、幸也の足元から地面が盛り上がっていく。

 干渉霊術で土を無理やり盛り上げているのだ。いくら緊急だからとは言えこれでは負担が大きい。攻撃に転じれなくなる。

 だが・・・、

「な、地面が・・・」

 盛り上がっていた地面が氷で覆われ凍っていた。

 天ヶ咲を見るとその手にはもう一丁の銃が握られており、スライドが蒼白色をしていた。

 もはや防ぐ手段もそんな時間もなく、幸也は二つの霊術の直撃を受けた。

「が、あああぁぁぁぁああっ!」

 圧縮空気弾の直撃に電流が体を駆け、光大同様意識を失った。


『おぉっとぉ~? 早くも決着がついたぞ。三年ペア戦の第一回戦を勝ったのは、天ヶ咲とオルスレッドのペアだぁ!』

 宇津木先輩によって勝利宣言が報告される。

 観客席の生徒で俺達の試合を見ていた生徒が歓声を上げる。中には不思議な顔をしている奴もいた。恐らく、オルスレッドのあの事を考えているのだろう。

 その肝心のオルスレッドは、倒れている二人を起こしていた。

「大丈夫か? ほら」

「ああ、悪いな」

 オルスレッドの手を借りて光大が立ち上がった。続いて幸也を起こしてフィールドを出る。

 俺達が出ると同時に次のペアが入って行った。

 控室に行き、先ほどの先生に結果報告をして控室を出て行った。

「それよりオルスレッド。お前が前衛に来るとはな、驚いたぞ。それと、最後のあれは何だ? 俺から見て右にあったお前の剣が、反対の左から襲ってきたのは。一回転したにしては早すぎる」

「ああ、あれね」

 手をポンと叩いてしてやったりと言う笑みを浮かべる。

 ああ、これはこの後も使いまくるな。

「僕の領域干渉系の固有霊術と空間系霊術を組み合わせた術だよ。詳しいことはこの後の試合も使うから考えてみてよ」

「なるほど、固有霊術を使った融合霊術ないし複合霊術か。なら無理に訊かんさ。次戦う時も楽しみにしているぞ」

 最後に二人と握手をして別れる。

 その場の空気に押されてつい握手をしてしまった。これではいいライバルみたいじゃないか。こっちは全く本気を出していないと言うのに。

「それにしても、あの双子ペアに勝っちゃったね」

「いまさら気が付いたか」

 再び溜息が漏れる。

 あの双子ペアは今回のペア戦でもかなりの実力のある組だ。それを一瞬―――一分もかかっていない―――で倒してしまったのだ。

 これで他の実力者達から注視されるはそれより弱い組に負けると八百長扱いされかねない。

 無闇には負けられなくなってしまった。


 その後元いた場所に戻り、他の生徒の試合を見学した。

 個人戦は戦闘状況により変わるが、一日に多くて二試合しかしない。ペア戦は試合数が多いので途中で個人戦のフィールドも使って行われる。ペア戦は時間が押さない限り一日に二試合は確実に行うだろう。

 と言う事で次の試合に呼ばれるのを待つだけなのだが、先ほどから妙に向けられる視線が気になって仕方がない。男子からの異様な殺気地味た視線もあるが、女子からの視線が異様に多い。しかも全方位から俺とオルスレッドに浴びせられるので堪ったもんじゃない。

「やっぱりクラスの落ちこぼれ組が目立つとこうなっちゃうよね」

「・・・オルスレッド、黙れ」

 誰のせいでこうなっていると思っているんだ。お前のせいだぞ。

 見ているだけで声を掛けて来ないので別段気にすることはないのだが、こんな状況を知りつつも声を掛けてくる奴はいる。

 そう、例えば・・・、

「オルスレッド君、さっきの試合見たよ。びっくりしたよ。まさか近接戦が出来るなんて」

「今までの試合は全部手を抜いていたのかオルスレッドは。罪な奴だね~」

 周りの空気や俺達の心情を察しもせずに天蘭院と美永瀬が話しかけてくる。二人が話しかけてくることによって纏わりつく視線の数は減ったものの、未だに続く視線の感じが変わったのは気のせいだろうか。

 俺の反対側に二人は座る。

 それからはさっきの試合の話やオルスレッドのタクティカルアーツ―――『雄絶の炎剣』の事や光大も気にしていた霊術の話を三人がしていた。

 霊術に関してはこの二人にも明かさなかったが、どうして今まで実力を隠していたのかなどは話していた。

 本人曰く、師匠から本気を出すなと言われていたらしい。

 しかし今回は記録者としての仕事で中間試験が受けられなかったので、特別に力を出していいと了解を取ったらしい。オルスレッドの師匠は普段は厳しいが、内面では優しさも持っているので、完全なる鬼ではない。

 慈悲など何もない完全なる鬼は俺の師匠の方だ。鬼と表すのも不適切かもしれない。鬼が可愛く思える程酷いからな。しかも他人を弄るのが生き甲斐と来るからもっと悪い。


「オルスレッド、隠さずにあの霊術について教えなさいよ」

 どうやら余程気になるのか、美永瀬はしつこく訊いていた。

 天蘭院は訊くのを止めていたが、私も訊きたいと言う雰囲気が丸分かりだった。

「次からの試合も使う時があるかもしれないから、考えてみてよ」

「それじゃさ、もし私たちがあんたの霊術を当てられたら何か奢ってよ」

「ん~、それくらいならいいかな。桜華は別にいいよね」

 いきなり話を振って来る。

「お前が奢ることに何故俺の了承がいるんだ」

「え、まさか僕一人に奢らせる気かい?」

「どうして俺も奢ることにお前の頭は解釈してんだ」

 いろいろと反論はしてみたものの、最終的に断れない状況に三人で追い込まれてしまった。

 こいつらとはあまり仲良くする気はないのだが、最後に裏切られた時のこいつらの表情を見てみたくもあったので割り勘で奢ることにした。


 しばらくしてBブロック一回戦に天蘭院が、同じくEブロック一回戦に美永瀬が呼ばれた。

「あれ、美永瀬さんも個人戦に出てたの?」

「綾香がペア戦に出てくれないし、他にペア組人ももういなかったしね。それに丁度いいかなと思って」

「そうなんだ、頑張ってね」

「言われなくとも」

 いつの間に仲良くなっていた二人が親指を立てていた。

「仲のいいこと」

「嫉妬した?」

「・・・・・・」

 微妙にからかわれていそうなのでそれ以上は何も言わなかった。

 フィールドを見て見ると天蘭院と美永瀬が同時にフィールドに入っていた。相手は既に待機していて、すぐに試合が始まった。

「天蘭院さんはともかく、美永瀬さんって戦えるのかな?」

「知らん」

 オルスレッドは俺の答えを聞かずに試合を見ていた。

 天蘭院の方は一方的だった。

 炎と天属性を持つ天蘭院に対して相手は水属性の様だ。属性の優劣からして炎メインの天蘭院には相手の方が有利なのだが押されているのは相手の方だった。

 天属性で水の防御に穴を開け、その後に炎を風と共に放っていた。

 防御に徹していて攻撃が出来ない相手は押され続け、天蘭院が仕掛けていた罠にはまり、戦闘続行不能になって天蘭院は勝利した。

「相変わらず凄いね。さすが『炎天の女神』と言われるだけの事はあるね」

 天で炎を強化し、水属性に負けない程の熱量。よく使いこなしている。

 天属性と言っても扱うのは風だが、使役できる範囲が違うのだ。それこそ、天属性にとってはこの空の下は自分のテリトリーだ。

 だが、そこまで広範囲を使役するには膨大な霊力が必要になるのであまりおいそれと使う事は出来ない。主に一撃必殺などで使われる。


「美永瀬さんは結構苦戦して・・・そうに見えるけど、これは・・・」

「逆だな」

 一見すると攻撃を受け続けていそうに見えるが、ちゃんと防御している。

 それだけでなく、気づきにくいが罠を仕掛けている。注意して視ないと気づくことが出来ない程隠蔽効果の高い罠だ。

「大きな攻撃を誘ってるね」

 そう、美永瀬は相手の攻撃を防ぎ続け、相手が痺れを切らして大規模な攻撃をしてくるのを狙っているのだ。

 恐らく、美永瀬の対戦相手が規模の大きい攻撃を仕掛ければ負けることは確実だ。それを相手自身が気づいてるかどうかだが、どうやら気づいていなかったようだ。

 小規模の霊術を放つ片手間に規模の威力の大きい霊術を構成し、5メートル級の火の玉を数個放った。

 それを待っていたと言わんばかりに美永瀬は予め用意しておいた障壁―――『氷の水鏡』を発動して防ぐ。そして続けざまに仕掛けていた霊術を発動する。

 相手の周りに氷柱が三本地面から突き出る。

 慌てて防御障壁を発動しようとした相手は、その努力も空しく一瞬にして氷漬けにされてしまった。

 氷属性中級霊術―――『氷搭の墓フリーズン・グレイヴ

 氷柱が多ければ多い程、大きければ大きい程囚われると脱出できなくなる。

 今回は氷柱の数は三本で大きさも2メートル程だが、威力は十分だったらしく相手はそのまま戦闘続行不能になった。

「や~、やっぱりえげつないね」

「・・・・・・」

 今の美永瀬の戦いに少し違和感を覚えた。

「どうしたの?」

「あれがあいつの戦い方なのか?」

「と言うと?」

「あいつが防御に使用した障壁は物理障壁と霊術障壁の効果を兼ね備えた障壁だ。火を使う相手には霊術障壁だけで十分なはずだ。しかも、常時操作型じゃなくあれは自立型の障壁だった。自立型の障壁なんて普通今の試合で使うか?」

 他にも気になることはあったが、上手く言えなかった。

「それはつまり、美永瀬さんは何かを隠していると言う事?」

「断定はできないがな」

 オルスレッドが実力を隠していたのが罪な奴とか言っておきながら、自分も隠し事か。俺も人には言えないが、あいつも隠している事があるのはほぼ間違いないだろう。

 しかも、何か希少な能力だと俺は考えた。


オルスレッドの戦いどうでした?

満足していただけたら嬉しいです。


この後にも試合はありますので

どうかこれからも読んでいただけると嬉しいです

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