第二十八話「期末試験」
六月の四分の一が終わった頃、蓮桜学園の第一体育館に全校生徒が集められていた。
その面持ちは不安とやる気に満ちていた。そう、今日この日から六月が終わるまでの期間で期末試験が行われるのだ。
何故そんなに長い間、試験を行うのかと言うと、第一には内容が生徒同士の戦いだからだ。実力の差が殆どない者同士で戦うとある程度時間が掛かってしまう。時間制限がないと言うのも理由の一つだ。早々に終わる試合も中にはあるが。
次の理由は霊力およびスタミナの問題だ。
先ほどにも挙げた通り実力差が殆どない者同士、戦いが長引けばそれだけ消耗する。消耗すれば次の試合に影響がでてしまう。
学校側は出来るだけ精確な戦闘能力を見たいらしく、一日での試合数は限られている。さらに二対二の試合は総当たり戦なので余計に時間が掛かる。一対一の方は予選をやった後に決勝トーナメントをする。
しかも一年生から四年生まで同時進行で、同じ場所で行うからこれまた時間が掛かるのだ。
そんな訳で、期末試験中は通常授業がストップしてしまう。
ようやく先生方の話が終わったのか、壇上に学園長が・・・いつもなら立つはずなのだが、学園主任の菊池先生が立った。
「え~、新学期から行方がわからない学園長の代わりに、学園主任である私が、代わりに話をさせていただきます」
スーツを乱すことなくピシっと着た男の先生だ。
普段は学園長室で学園長の代わりに書類整理やらをやっている―――厳密にはやらされている人だ。
てか、おい。今なんて言った?
行方がわからない?
始業式の日に学園長が挨拶をしなかったのはあの日から既に行方不明なのか。何をやっているんだ学園長。適当だな。
まあ、あの性格だから、ふら~っと旅に出てそのまま旅先で酒でも飲んでるんだろう。
「二年生から上の生徒は既に知っているでしょうが、一年生の為に説明します」
そう言って何やら資料を取り出す。
ちょっと分厚過ぎじゃないか? まさかあれ全部読む気じゃないよな。
その資料をぱらぱらと捲り、目的のページを見つけたのかその手が止まる。どうやら他の資料も交ざっているらしい。分けておけよ。
「ええ、まずは使用霊術のランクについてですが、Aランクまでの霊術の使用を許可。並びに、タクティカルアーツのランクもAランクとします」
おいおい。
そんなことにしていいのか? 下手すりゃ死人が出るぞ。
「防護障壁はこれによりSランクの物を使用しますが、Bランク以下の攻撃に関してはこの障壁は機能しないので注意してください。続いて大会の進行についてですが、第四実技棟にて行います。各学年の試合を四つずつ行いますので詰まりのないように速やかに行ってください。それから・・・」
Sランクの防護障壁か・・・それなら大丈夫だろう。少なくともAランク霊術の直撃を受けることはないだろう。
それ以下については自分で対処しろと言う事だ。
そうして菊池先生の説明が続いた。
例年通り試合は一対一と二対二の試合がそれぞれ二つずつフィールドを使って行われる。ペア戦の方が試合数が多いから個人戦のフィールドを使う事もある。生徒はどちらか一方に参加する仕組みだ。
基本一対一の方には強い奴が自分の力を試す為に集まるので、必然的に二対二の方に固まってしまう。そちらの方が、パートナーがいて安心できると言う意味もあるが。
アイテムは回復用霊石が不可。相手を降参させるか、戦闘続行不可能にすれば勝ち。
採点基準は・・・たくさんある。
霊力の練り方。発動までの時間。場面に応じて適した霊術の使用。精確さに威力。
体術に関してはどれだけ霊術に持ちこたえれるかに避けれるか。攻撃を当てた回数など、ほかにもたくさんある。
それらを先生方が必死に見て点数をつける。
各分野ごとに一人を各フィールドに配置され、交代制になるのでかなりの先生が仕事に駆り出される。
まあ、一番点数を稼ぐには勝てばいいわけだ。
個人戦は予選トーナメントで参加人数の中から一位、二位を合わせて12人選ぶように組まれる。そしてその人数で決勝トーナメントを行う。
ペア戦は総当たりで、勝ち星が多ければ多い程点数が高い。
毎年三対七の割合で分かれる。
菊池先生の説明が終わり、現在はどちらの試合に参加するかのエントリーを受け付ける時間だ。ある程度の話は事前に聞かされており、この時間内にどちらかにエントリーしなければならない。
俺はいつもオルスレッドと組んで―――正確にはあいつが勝手に俺と組んでエントリーしたのだ。それからもずっと同じ感じだ。
もうそろそろ済ませて戻って来る頃だ。
「ええ~! 個人戦に出ちゃうの!?」
たくさんの生徒が話し合い、騒いでいる中でその声ははっきり耳に届いた。
声のした方を見れば美永瀬が天蘭院に詰め寄っていた。周りの生徒も何事かと二人の事を見ている。
「なんでなんで?」
「家からの命令でね。これからは個人戦に出ろって・・・」
申し訳なさそうに美永瀬に謝る。
今まで美永瀬とペア戦に出ていた分、そろそろ一人で戦えるようにしろと言う事か。
ペア戦も大事だが、個人で危険を乗り切る事もまた必要だ。どうやら天蘭院家はそろそろそれをあいつに要求する気なのだろう。結構今の三年には強いのがいるからな。良い経験になるはずだ。
「ほほう、天蘭院。ようやく個人戦に参加するのか」
天蘭院の後ろから、高校生とは到底思えない身長と身体つきの生徒が一人近づく。良く見ると顔立ちも高校生には見えない。
「あ、天月君。そろそろ・・・ね。いつまでも頼ってちゃ駄目だしね」
「そうか。では今度こそお前を倒し、そして今年こそ十二天族に入る」
「そう簡単には負けないよ」
他にも天蘭院が個人戦に参加すると聞いて嗅ぎ付けたのか、ぞろぞろと同学年の奴が集まって来た。
天月 圭悟。
性に『天』の文字を持つ十一の貴族。その三男に当たる奴だ。
得意属性は確か『炎』と『地』だ。毎回ベストスリーに入る実力者。現当主がちょっとした曲者なのでなかなか十二天族になれないでいる。
今年の個人戦は荒れると見た。
そんなやり取りを見ているとオルスレッドが戻ってきた。
「お待たせ。僕たちは21番だよ。はい、これ。登録証」
受け取り生徒手帳の登録証ページのポケットに入れる。
「へ~。今回は天蘭院さん個人戦に参加するんだ」
「・・・みたいだな」
「面白くなるね」
何が楽しいのか、オルスレッドは笑っていたが俺にはどうでもいいことだ。
あいつの戦闘力を知るにはいい機会だが面白みの欠片も感じなかった。
「生徒の皆さん、静かに」
マイクも使っていないのに体育館にいた生徒全員がその声を聞いて黙った。
前を見るとまた菊池先生が立っていた。
「全生徒のエントリーが終わりましたので、これで期末試験案内を終わらせていただきます。なお、本日の午後一時半より期末試験を始めますので、それまでに第四実技棟に集まっておくように。それと、午後一時より予選表及びトーナメント表をまとめた冊子をこの体育館で配布開始しますので取りに来るように」
今は九時半だから、始まるまで四時間ほどあるのか。
それまでに冊子は完成するのか? 微妙だな。
「それじゃあ僕達も行こうか」
「・・・どこへだ」
生徒たちが体育館から出て行くのを待っていようと思ったのだが、どうやらオルスレッドは俺を連れて行く気らしい。
「第三研究室の使用許可を取ってあるんだよ。十時から二時間ほどね。そこで最終チェックをしようかと思って」
「なるほど。それで俺に付き合えと」
「そういうこと」
満面の笑みだな。もしこれが本心からの笑みならどれだけいいことか。
そう思いながらも他にやる事が無いので付き合うことにした。勧誘期間の時に俺の戦闘スタイルが一つ露見してしまっているので、銃を使わざるを得ないから俺もメンテナンスをする必要がある。
第三研究室か。結構いい場所を取ったもんだ。
「あ、それと。ちょっと新しい機能を追加したいんだよ」
研究棟の校舎に入るとオルスレッドが振り返ってそんな事を言ってきた。
まったく話が読めない。
「それと俺が手伝うのになんの関係があるんだ」
「その機能を追加しちゃうと、今の僕の異空間ストレージだと容量オーバーになるから桜華のストレージにちょっとの間入れて置いて欲しいんだ」
「早く拡張しやがれ」
こいつの異空間ストレージは決して小さくなかったはずだ。だがこいつのタクティカルアーツ自体の容量は確かに大きいがまだ余裕はあるはずだ。
それなのに容量オーバーになるということは、かなりの機能を追加する気なのだろう。
目的の教室に着いて扉を開けると、そこは学園の研究室とは思えない程機材が揃った部屋だ。
普段は学生が使用するのだが、これほどの機材が必要なのだろうか。これだけあればCランクのタクティカルアーツも作れるぞ。
熔解炉に金属切断機。冷却機に研磨機。霊力検査機にステータス検査機など。しかもどれも高級機材だ。
よくもまあこれだけ揃えたもんだ。
しかも俺の家が製作したものまであった。父さんの名前入りで。
「それじゃあ、時間もないし始めようか」
オルスレッドが作業台に付いている霊石に霊力を流すと、部屋全体が明るくなり機材も動き始めた。
◇
「―――よし、完了だ」
作業開始からほぼ二時間かけてオルスレッドの機能追加および強化、それと俺の銃のメンテナンスが終わった。と言っても、俺の作業自体は比較的簡単に終わったのでほとんどがオルスレッドの武器に時間を使った。
それだけ時間を使ったおかげもあってか、ある程度は満足のいく結果になったらしい。
「たっく・・・こいつ単体でも十分脅威なのに、とんでもない機能を追加したもんだ。それにしても、この機能を追加するのにまさかこんな方法があるとは」
「意外でしょ」
「意外と言えば意外だがあまりにも強引過ぎる。これだとお前に負担が大きくないか?」
こいつが今回自分のタクティカルーツに追加した機能は強烈だが、あまりにも強引過ぎる。短時間使用するなら大丈夫だが、長時間使用するとなると覚悟が必要だな。
「そこん所は君に頼むよ。何かいい素材か、霊術陣があったら教えてね」
「って、最後は結局俺に頼んのかよ」
作業台の上にあるオルスレッドのタクティカルアーツに触れ、異空間ストレージへと転移させる。
すると一気にストレージが埋まってしまった。
どれだけの強化がされているんだ。
◇
その後は昼飯を食べ、適当に時間を潰すことにした。
屋上に上ると、学園の至る所で最終練習や精神統一、作戦などを考えている生徒が見えた。中には俺達と同様に休んでいる者や、遊んでいる者までいる。
ここからは第四実技棟が見えないので分からないが、今頃は管理委員会の連中が総出で検査装置や設備の設置などが行われているのだろう。
いったいこれから何戦しないといけないのか考えると気分が憂鬱になって来た。
それからどれくらいの時間ぼうっとしていたのか分からないが、オルスレッドが呼びに来た。その後第一体育館により、冊子を受け取って試験会場に向かった。
中に入ると既にかなりの数の生徒が来ていた。
三年生と陣取られた席の後ろの方に座る。
開始まであと五分程度。
貰った冊子を開いて中を見ると、三年生は丁度個人戦三十人。ペア戦七十人の計三十五組に分かれていた。
「おい、オルスレッド。それで結局お前は何戦勝利しなければいけないんだ」
「え~とね、ちょっと待ってね。今から計算するから」
計算してなかったのか。自分から頼んできたのにいい加減な奴だな。計算が終わるまで個人戦のトーナメント表を見て見ると、面白いことに実力者が殆ど個人戦に出ていた。
中にはペア戦に出ている実力者もいるが、これならあまり力を出さずともいけるだろう。
要注意すべきは2番と15番、それと17番に20番。あとは28番と33番にそれから・・・35番のペアか。他にもある程度の実力者はいるが、まあいいだろう。
今回は前衛をオルスレッドが担当するから俺は後ろでこの銃で中距離射撃をしていれば問題ないだろう。
さて、オルスレッドの攻撃を最大何発耐えられる奴がいるかちょっと楽しみだな。
「あ、出た出た。桜華わかったよ、何戦勝利すればいいか」
なんだか嫌な予感がするのは気のせいだろうか。
「・・・言って見ろ」
「20勝利」
「帰る」
「わ、ちょっと待った。これ本当なんだよ」
立ち上がると俺の腕を掴んで必死に帰らせまいとしてくる。
20勝利? ふざけるな。なんでそんなに勝たなきゃいけないんだ。さっき上げた注意ペア以外ほとんど勝たなければいけないんだぞ。面倒過ぎる。
「お前なぁ・・・いったいどれだけ勝たないといけな・・・」
理由を訊こうとした時、会場に大きな声が響き渡る。
『野郎ども、元気にしてたか!? 皆さんお待ちかね。蓮桜学園期末試験の時間が始まるぞぉ!』
―――ワァァァアアァ
何とも威勢のいいの司会者の呼びかけにノリの良い奴らが答える。あまりにも答えた人数が多いので鼓膜が破れるかと思った。
『本日司会をさせていただくのはこの俺、実行委員会委員長の四年一組、宇津木 恭弥と』
『同じく、実行委員会副委員長の四年一組、星草 菜々美です』
フィールドの中央にはいつの間にかマイクを持った、青いネクタイとリボンをした四年生が立っていた。
『いや~、それにしても菜々美。今日は一段と綺麗だね』
『ふふ、ありがとう恭弥君♪』
と思ったら全校生徒の目の前でいきなりいちゃつき始めた。
流石学園一のカップルと言われているだけのことはある。ここまでいくとバカップルか。どこでもお構いなしだな。
これには一瞬会場にいた全員が固まり、そのすぐ後特定の共通点を持った男子の大半が怒りを露わにしながら爆発した。
「お前らこんな時にまでいちゃつくな!」
「嫌がらせかっ、それは俺等に対する嫌がらせか!」
「くっそー! リア充全員滅びやがれっ!」
などなど。
悲しみに暮れる男子の叫びが飛び交った。
それを引き起こした張本人たちは気にも留めないで司会進行を続けた。
『さあさあ、何かほざいている外野は放っておいて、早速始めますか』
『始めましょうか♪』
二人が本部関に合図を送ると、会場中央に浮いていた霊石に霊力が送られ、モニターが映し出された。
そこには各フィールド番号が書かれていた。
『それではこれより、今年度最初の期末試験を始めるにあたって、早速ルーレットスタートだ!』
『ルーレットスタート♪』
お互いの手を握ってモニターに向ける。本当仲良いなこの二人。
モニター中央にある各学年の下の四角い枠が回転を始め、一年の所が先にストップすると個人戦枠には名前と顔写真が、ペア戦にはそれに番号が付いて映し出された。
『一年生個人戦、第一試合―――』
順番に第一試合の生徒が呼ばれていく。
呼ばれた生徒はすぐに控室に行き、自分の戦闘用服に着替えるなり装備を付けるなりして支持されフィールドに入る。
『―――続いて三年生ペア戦第一試合、15番、安土 光大、幸也の双子ペアと、21番、天ヶ咲 桜華とオルスレッド=J・S=ヴェルのペア』
「おし、行きますか」
「・・・最悪だ」
「何が?」
本気でわかっていないオルスレッドを無視して控室にいく。
別に俺等は着替えないし装備もここでしないので、控室にいる先生にクラスと出席番号に登録証を見せて支持されたフィールドに入った。
そこには既に双子組が立っていた。
パッと見どっちが光大でどっちが幸也かわからないな。
「来たよ光大兄さん。長距離を得意とするオルスレッドに、この間の模擬戦では中距離攻撃型の天ヶ咲だ。中、長距離線はあいつらの十八番だね」
「そうだな・・・オルスレッド、今度こそ本気で掛かって来い。天ヶ咲、お前もだ」
「もちろん、今回は本気で行かせてもらうよ」
「・・・・・・」
どうしてこいつらはこんなにもやる気があるのだろうか。
安土 光大と安土 幸也。
双子特有の意思疎通で接近戦と中距離に別れて絶妙のコンビネーションを誇る二人。
接近戦に気を取られていると中距離からの霊術が飛んでくるし、そっちに意識を集中すると前にいる奴が死角から攻撃してくる。非常に面倒な相手だ。
しかも二人が使う属性がバラバラと言うこともあって対処がこれまた面倒なのだ。
ようやく一回戦の生徒が配置に着いたのか、客席が静かになる。
司会の二人はフィールドに選手が入ったのを確認してから、開始の合図を告げる。
『それではこれより、一学期期末試験を始めます・・・試合開始っ!』
―――ビィィィィィイイイィィィィ!
開始を告げるブザーが鳴り響き、そこかしこで霊力が解放される。
「後ろは任せて、兄さん」
「それでは・・・行くぞ!」
幸也が後ろで霊術を構築し始め、光大が腰につけていた両手用長剣を抜き、突っ込んでくる。
中、長距離戦の俺達に近接戦闘に持ち込むのはいい考えだ・・・が、それは前回までの話。なぜなら今回、オルスレッドは長距離担当ではないのだから。
「さあ桜華。いっちょ一暴れと行きますか」
肩を回しながらオルスレッドは前に歩み出る。
「暴れるのはお前だけだ」
さてと・・・。
それじゃあ・・・お前のその一暴れを見させて貰おうか。
さあ、
ついに始まりました期末試験!
やっとここまで来ました
ていうか、二章始まってからここまでが長すぎましたねw
いったい何をやっていたんだろうって思いましたw
模擬戦の話は当初予定にはなかったんですけど、
もしかして・・・あとあと必要?!
と思い、
書くことになりました
他にも必要なことを書いているうちに長くなってしまいました
申し訳ないですm(__)m
それでは、
この物語の急展開(?)とまで行くかはわかりませんが
これからもお楽しみください
(急展開は期末の後かもw)
あ、
ちなみにですが、
期末試験が終わっても三章には入らないので悪しからず




