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第二十五話「気まぐれ」

 俺が出した検査装置を見た一年生は口を開いたまま固まってしまった。

 オルスレッドはともかく、天蘭院や隼美先輩、それに美永瀬は頭を押さえていた。その顔はやってくれたなと言っていた。

「で、どうする?」

「っく・・・し、失礼しますっ」

 そう言って部屋を出て行く。

 最後の生徒が出る前にそいつに向かって話しかける。

「あまり調子にのると痛い目を見るぞと伝えておけ」

 一瞬だけ肩をビクつかせて戻って行った。

 俺は本日何度目かの溜息を付いて残っていたドリンクを一気に飲み干す。

「・・・天ヶ咲」

「あ、隼美先輩。今回の事は見なかったことにしてください。そうしなかったらあとあと面倒そうなので」

「あ、ああ」

 戸惑いつつも了承してくれた。


 それからすぐに控室を出て皆自分の仕事ややるべきことに戻った。

 俺はもうやることは何もないので家に帰ることにした。

「おや、もう帰るのかい? 桜華」

「ああ、今日は疲れた」

「それじゃあ、また明日」

 校門でオルスレッドと別れて帰路に着く。

 俺の家は七年前に住んでいた、父さんが俺の療養の為にと買った別荘みたいな家だ。

 アトラントから南西に位置し、『迷いの森』を抜けた先にある。


『迷いの森』

 戀国に数多く存在する自然の中でも、一際危険度の高い森だ。

 普通の動物だけでなく、霊獣が当たり前のように生息しているし、自然に発生している霊力溜まりが人間や生き物の方向感覚や思考能力を狂わせたりする。

 ちゃんとした装備や、決められた道を通らないと二度と戻って来られないと言われている。

 だから『迷いの森』だ。

 子供が言う事を聞かない時に、迷いの森に置いて来るよ、と使われる程だ。


 家に帰るにはその迷いの森を抜けなければならない。

 しかもこの森、信じられないくらいに広い。

 戀国最大都市のアトラントの北以外を囲っているその森は、一直線で抜けるとするとその距離、実に150キロメートル程ある。

 森がデカすぎるのだ。

 しかも森の中ほどにはかなりデカい山がいくつもあるので、この森を抜けようと思えば比較的に高さの低い場所を通らなければならない。よって、移動距離がさらに伸びるので何日もかかることがある。

 北の方から出れば簡単で安全なので誰もこの森を抜けようなんて思う奴はそうそういない。

 それこそ自殺志願者くらいだ。

 俺からすればこんな森簡単に抜けられる。それこそ普通に道を歩くように簡単に、そして速くだ。

 だが、ここにはAランク以上の霊獣も生息しているので遭うとかなり面倒なことになる。

 下手をするとネックレスを取らなければならないことにもなる。

 霊獣のランクはFからSまであり、それぞれがA,AA、AAAと分けられている。一般的には三つ纏めてAランク、Bランク・・・、と呼ぶ。

 普通の学生が単独で相手に出来る霊獣はCランクまでだ。腕の立つ生徒でBランクだ。

 しかも独自の進化を遂げている生き物もいるので良い実戦向きの練習になる―――実戦そのものだが。


 アトラント西部にある大きな門に行き、学生手帳を見せて外に出る。

 辺りはすっかり夕日色に染まっており急がないと家に着く前に日が暮れてしまいそうだった。

 十分ほど移動して、辺りに誰も居ない事を確認してから飛行霊術を発動する。

「〈六角系統(ヘキサゴナル・システム)〉―――起動」

―――ヴゥン

 羽虫の羽のような音がして、背中に大きさの違う六角形のパネルのようなものが少し間隔をあけ、重なって現れる。

 それに霊力を送り込むと俺の体から重力が消えた。

 地面から足が離れ、完全に体が宙に浮く。

 そして家に向かって全速力で飛行していった。


                 ◇


 あれから―――新学期そうそうの部活勧誘期間の騒動から一カ月程が経ち、今日はちょうど中間試験が終わった次の日だ。

 学園内の一番大きな掲示板には各学年の上位百名の名前が順位付きで張り出されていた。

 その掲示板の前は朝から生徒でごった返していた。

 一年生の一位は意外なことにあの紅快天だった。二位との差は数点だったが頭は良いらしい。二年一位は天津神。三年一位は僅差でだが俺で二位が天蘭院だ。四年一位は天上院だった。

 美永瀬は五十位くらいで、隼美先輩は勉強が苦手なのか結構下の方だ。

 オルスレッドは・・・今回あいつの名前は載っていなかった。

 いつもなら二位のところにあいつの名前があるのだが、今回は何処にも―――文字通り百位以下にもあいつの名前は載っていな。

 何故なら・・・。


 放課後。

 中間テストも終わって普通なら浮かれ出す生徒がいるはずなのだが、どの生徒も中間テスト時よりもピリピリしていた。

 それもそのはず。

 あと三週間もすれば期末試験が始まるのだ。

 蓮桜学園のテストは少し特殊で、中間で筆記試験を行い、期末で実技試験を行うのだ。

 しかも、その期末試験で行うのは各学年による実戦式トーナメント型試験で、予選を勝ち進み、決勝トーナメントに進むと言うシンプル且つ物凄い試験なのだ。

 ここでいい成績をとれば名が知られて、大学から推薦くるかもしれない等という理由もあって皆燃えているのだ。

 実技が苦手な生徒の為に、筆記試験でそこそこの点数と平常点を取っていれば一学期分の単位が取れるのだ。


 だから俺も、実技が苦手ということにしているので筆記試験で点数を稼いでいるのだ。

 オルスレッドも同様に、実技では本気を出せないから筆記で稼いでいるのだが、今回あいつはその筆記試験を受けていないのだ。

 自業自得というものなのだが・・・。

「頼むよ桜華、この通り」

「・・・・・・」

 ようやく帰って来たオルスレッドは、帰って来るなり俺に頭を下げだす。

「このままじゃ一学期の単位が取れないんだよ。だから、期末手伝って」

「自業自得だろ」

「師匠のせいだよ。なんでか再試の機会を与えてくれないんだよ」

 こいつの愚痴を初めて聞いた気がする。

 師匠に対してはこいつは性格が変わるのか。良いことを知った。

 何故こいつがこんなにも必死なっているのか、どうして中間テストを受けなかったのか。それはこいつの本職にある。

 『記録者』としてこいつはテスト試験中に師匠に呼ばれ、少しの間戀国を離れていたのだ。

 そのためテストを受けられなかったのだが、学校側からの再試の旨をオルスレッドの師匠が断ったのだ。

 理由は至って単純。

 そんな甘えさせてはいけない、と言う事らしい。

 弟子に対しては厳しい人で、何度かあったことがあるので良く分かる。あの人ならこうするだろうと納得できる。

「頼むよ桜華~。単位が取れないなんてことになったら他の同朋に笑われるよ」

 左腕にしがみつきながら必死に頼んでくるオルスレッド。

 こいつのこんな姿はなかなかお目に掛かれないが、こうもくっつかれると暑苦しくなる。しかも教室には数人生徒がいるので視線が痛い。

「わかった。必要最低限分の単位をとれるようには手伝ってやるから離れろ、暑苦しい」

「さすが桜華。持つべきものは親友だ」

 さっきまでの必死さが嘘のように元気になる。

 この野郎、さっきのは演技か。

 どうやら自分一人がしんどい思いをするのが気に食わないと思って俺を巻き込んだようだ。どうせ前に出て戦うのはオルスレッドなのだから何も変わらんと思うのだが。


              ◇


 オルスレッドが泣きながら―――演技だったが―――単位獲得の為に俺を巻き込んでから一週間ほどが経った。

 期末試験二週間前と言う事だけあって、実習室や練習室、はたまたグラウンドでは先生や上級生が一年生や少ないが二年生に霊術や戦闘に関して教えていた。

 特に、名を挙げている生徒の所にはたくさんの後輩たちが群がっていた。

 さっきも、放課後になるやいなや一年生共が天蘭院を連れて実習室に走って行った。取り残された美永瀬が物凄い殺気を放ちながら追いかけていったが、一年生共は無事でいられてのだろうか。

 とまあ、実戦に不向きあるいはどうしても勝ちあがれないという生徒は早々に帰っていく。俺もその中の一人だ。

 今日は少し早めに学校が終わったので、すぐに西の門に向かうのではなく、南の方にある商店街に足を運ばせていた。特にここに来る理由はなかったのだが、何となく来てしまった。

 南にある商店街は比較的に主婦の方が多く、ちらほら買い食いをしに食べ物を買いに来る学生がいるくらいだ。

 だがこの場に相応しくない声が俺の耳に届いた。

「おらっ、こっち来いや!」

「いや、止めてください。痛いです」

「ギャァギャァ喚くな!」

「誰か、誰か助けてください!」

 黒い制服に身を包んだ体のごつい男五人程が小さな子供の腕を無理やり掴んで引っ張っていた。そしてそのまま路地裏へと入って行った。

 その様子を見ていた周りの人たちはただその光景を見ているだけで誰一人助けに行ったり、呼ぼうともしなかった。

 何故なら、連れて行かれた子供―――遠目からだが女の子だったが―――は、見た目は人だったが頭から何かの動物の耳が生えていて、おまけに汚れた服の下からは尻尾まで付いていた。

 半妖。

 それがあの女の子を一言で表す言葉だ。


 半妖とは、字の通りだ。

 妖怪と人間の血が混ざった生き物。

 妖怪と言ってもこの世界では悪霊や怨霊、そしてそのままの妖怪の事を指し。

 自分の正体を隠し、人間と子を生した女の霊から生まれた子供は人間としての血と霊としての血が混ざっているので、さっきの子供のように人にはない物が現れるのだ。

 そんな理由から半妖は人から避けられ、怨まれたりしている。

 だが、このところ半妖の数が増えて来ているのだ。理由はわからないが確実に増加してきている。

 噂には半妖が集まって暮らしていると言う場所がどこかに存在しているらしい。


 女の子が路地裏に連れて行かれたと言うのにも関わらず、周りに人間は何もなかったように歩きはじめる。彼らには何かをしようと言う気がまったくないのだ。

 霊を嫌い、霊を悪とみなしているこいつらには半妖だろうそれが子供であろうと同じことなのだ。

 そんな光景を見ていると無性に腹が立ちここら一帯の奴を全て殺してやろうかと思ったが、今暴れるのは後々面倒だ。

 本来なら俺も無視すれば良かったことなのだが、頭の中にはさっきの女の子の言葉が繰り返されていた。

 気づいた時には俺は女の子が連れ込まれた路地裏へと入って行った。


「きゃっ」

 暗い路地裏に連れ込まれた私は乱暴に投げられて地面に転がる。

「へ、半妖がこんなところに来るんじゃねえよ」

 誰かが私に近づいてくるのが分かって這いずりながら逃げようと試みるが、頭を脚で踏みつけられる。

「は、離して・・・ください」

「駄目だね。これから俺達がお前に罰を与えるんだよ」

 そう言って腰から小さなナイフを取り出す。

「ひっ」

 それを見た瞬間体が恐怖で怯えるのが分かった。

 何をされるのかを悟った私は必死に暴れまわるが押さえつけている男の力に敵うはずがなかった。

「さあ! 裁きの時間だ!」

 男が手に持ったナイフを大きく振り上げ、振り下ろすとした瞬間・・・、


「なんの時間だって?」


 冷めたような、冷たい声が路地裏に響く。

「あぁ・・・ごぶっ!」

 一番後ろにいた男が振り向こうと瞬間、男の横顔に裏拳が叩き込まれ、壁に頭がめり込む。

「な、何だてめえはっ」

 四人が同時に振り返り、突然の乱入者を見る。

 どうにか目を動かしてその誰かを私も見る。

 紅い、朱色のコートに身を包んだ痩せ型の男の人。見た目はそんなに強くなさそうなのに殴られて男の人は壁に頭がめり込んでいた。


「てめぇ、俺等に喧嘩を売ろうってのか。いい度胸じゃねえか」

 顔のいかつい一人が近づいてくる。

 耳だけでなく鼻にも舌にもピアスを付けている。痛くないのか、あれ。しかも全員がハゲ―――正確にはスキンヘッドだ―――だ。笑いそうになる。

 その衝動を抑えて全員を睨む。

 その内の一人が怯えたように声を出す。

「あ、兄貴。こいつ、蓮桜学園の生徒だ。あの紋章・・・間違いない」

「は、蓮桜学園だろうがなんだろうが一人だ。お前らやっちまうぞ」

 リーダーらしき男に従って四人が一斉に襲って来る。

「裁きの時間って言ったな・・・」

「それが、どうしたぁぁ!」

「裁かれるのは・・・お前らの方だ」

 迫り来る相手に首をコキコキと鳴らして迎え撃つ。

 その後からは、男達の悲鳴しか聞こえてこなかった。


              ◇


「雑魚が。調子に乗るな」

 服を叩いて埃を払う。向かってきた男達は皆壁に頭をめり込ませていた。

 俺は振り返り未だに地面に座ったままの半妖の女の子を見る。

 歳はやはり12歳くらいで、服はボロキレのような布を繋いだだけの服だった。髪は綺麗な白色で、服が汚いせいかより一層輝いて見える。

 瞳の色も銀色だった。

 ゆっくり近づくとギュッっと体を強ばらせる。その目には未だに恐怖の色が浮かんでいた。

 手を出すと固く目を瞑る。

 俺はその女の子の腰に手を回し、抱き上げる。

「え、え?」

「大丈夫だ、何もしない」

 ポーチからハンカチを出して顔の汚れを拭き取る。汚れていてもわかったがこの子は結構綺麗だ。

「お前、名前は? 家は何処だ」

「え、えっと・・・名前は、ないです。家には戻りたくないです」

 それだけでこの子が今までどんな扱いを受けて来たのか理解した。

 名前も与えられず、辛い日々が嫌になって逃げだしたのだ。そして今さっきの奴らに捕まったのだ。

「母親は?」

「お母さんは・・・猫又の、霊です」

 そこまで言って目から涙が零れる。この反応からすると、死んだか殺されたのか。

 腕の中で泣きじゃくる女の子の頭に会い手で優しく撫でる。

 そんな姿を見ると、昔の記憶が呼び起こされる。この子と同じく、泣いていた女の子の事を。

「なら、俺の家に来ないか?」

「ヒック、ングッ・・・え?」

 泣きじゃくりながら顔を上げる。

 その顔は驚きの表情だった。無理もない。いきなり家に来ないかと言われれば誰だってそうなる。

「俺はあいつらみたいな霊否定派じゃない。どちらかと言うとお前らの味方だ」

「いいん、ですか?」

 女の子は大きな瞳をキラキラさせる。

 自分でも何を言っているのかと突っ込みたくなったが、口が勝手に動いていた。

「俺は構わないさ。そうなると名前がいるな。そうだな・・・ニーナ、なんてのはどうだ?」

 再び女の子を見るとこっちを見ながらまた涙を流していた。

「あ、ありがとうございます」

「謝る事はない。これからよろしく・・・ニーナ」

 久々に微笑んでみるが、なかなかうまく出来たような気がした。


 この出会いがどういう意味を表すのかはわからない。だが、わかることが一つだけある。放ってはおけなかったのだ。

 助けを求める声を。

 かつて俺は助けを求める人を、大切な人を護りきることが出来なかった。

 その償いとは言わない。でも、俺の手で救える命があるのなら極力救ってきた。昔も、今も。復讐に囚われてはいるが、これだけは怠ったことがない。

 だから今回もいつもと同じ・・・そう思っていた。

 だが今回ばかりは少し違った。

 俺の心に現れたものは何なのか分からないが、この子を家に連れて行くことにしたのはそういう理由なのかもしれなかった。

 失った物を求めているのか。それとも単なる気まぐれなのか。

 それをわかる奴は誰一人としているはずもなかった。


なんだか、

詰め込んだのでめちゃくちゃになってしまいました

(特に最後の方が)


さて、

そろそろ期末試験です!

オルスレッドの猛攻撃が始まりますw

はてさて、

いったいどんなスタイルにしようかな♪

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