第二十四話「不正」
勝利を喜ぶのでもなく、たんたんとその場を去ろうとすると後ろから呼び止められる。
「ちょっと待ちなさいよ。あなた、なんで属性霊術を使えるのよ」
振り向くと紅快天は納得のいかない顔をしていた。
しつこく訊かれるのも嫌なので答える。
「・・・やるよ」
コートの下、後ろ腰に手を回して H&K USP Match を抜き、弾倉から弾丸を一つ取り出し紅快天に投げ渡す。
それをあたふたしながら受け取った紅快天は摘まんで見る。
「これは・・・霊石?」
紅快天が見つめているのは薬莢の先に付いている蒼白色の霊石だ。小さく加工されて付いている霊石の表面には霊術陣が刻まれている。
「属性効果を持つ霊石に霊術陣を刻み、霊力を流すだけで霊術が発動するようにしてある・・・だから俺でも使える」
「こんな・・・こんなものにワタシは負けたの?」
弾丸を握りしめ俯く。
両手を強く握りしめ、体を小さく震わせている。
どうやら補助道具を使って戦うような相手に負けたのが相当悔しいようだ。だが紅快天のような相手を見下すような奴には、これくらいがいい薬だ。
しかし、このままでいられるのは少し後味が悪いと思ったのか、俺はついつい口を出してしまった。
「そこまで落ち込む必要はない。俺の個人戦闘情報が知られるのは今日が初だ」
本来ならば干渉霊術だけで戦い、死闘の末に勝つ予定だったのだが、まさかこいつの姿とあいつの姿が重なるとは思いもよらなかった。
しかもそれだけで平静を保てなくなり、戦闘スタイルを一つ披露してしまった。
「それに、お前と俺には本格的な経験の差が二年もある。いくら十二天族といっても、家よりこの学園で学ぶことの方が多いし、ためになる。これについては他の十二天族も言っている。そう悔やむことはない」
「・・・・・・」
言い終わって自分がいつの間にか話していたことに気づき、すぐに黙る。
紅快天は黙ったままだった。
これ以上付き合っていられないので、壁にいくつも開いてある小さな穴の内、入口近くにある一つに向かって歩き出す。
「次こそは・・・絶対に勝ってみせる」
そう聞こえた気がしたが、俺は振り返らなかった。
控え室に戻った俺は椅子にドカッ、と腰を下ろし、大きく息をついた。
「ふ~・・・」
「や、ご苦労様」
「どこから入って来やがった・・・オルスレッド」
声を掛けられ、顔を上げるとそこにはいつの間にかオルスレッドが立っていた。
相変わらず喜んでそうで喜んでない笑みでオルスレッドが答える。
「僕に壁や扉といったものが意味を成さない事を君は知ってるだろう?」
「・・・テレポート、か」
「だから、何度言えばわかるんだい?」
オルスレッドは肩を竦める。
「僕のはテレポート程便利じゃなくて、空間をちゃんと認識して・・・て、この説明いったい何回目だろ」
「知るか」
備え付けの冷蔵庫からスポーツドリンクを一本出す。
それを一気に半分ほど飲んで蓋をする。
「それにしても、意外だったな」
「何が」
迎いに椅子を持って来て座っていたオルスレッドは腰のポーチから本を取り出しながら聞いてくる。
「君があの子に説教とまではいかないけれど、助言みたいなことを言っていたからね。てっきり無視するのかと思ってたからビックリしたよ」
スタンドから俺達がいた所までそれなりに距離はあった。さらに絶叫する生徒の声で俺達の声は普通なら聞こえないはずなのだが、オルスレッドには聞こえたらしい。
いや、もしかしたら口の動きで俺たちが何を言っているか見ていたのかもしれない。
その手のことをこいつは得意だったはずだ。
「俺にもわからん。どうしてあんなことを言ったのか」
「もしかして、あの子に惚れた・・・とか?」
「殺すぞ」
殺気を放ち、かなりドスの効いた声でオルスレッドを睨みつける。
数秒ほど睨んでいたが、オルスレッドはいつもの笑顔を崩すことはなかった。
「冗談だって。君が好きなのは彼女でしょ。それはわかってるよ」
「・・・・・・」
「それにしても銃スタイルか。いったいどんな戦い方をするのか気になったけど、まあまあいいんじゃないかな?」
何か言いたげだったが、これ以上は何も言わなかった。
何故なら、ここに向かって来る気配が三つあったからだ。しかも、その三つとも会いたくない奴だった。
「どうしたの?」
「・・・面倒なのが来た」
言い終わった後に、扉が勢いよく開かれ、隼美先輩に天蘭院、そして天蘭院に引き摺られて美永瀬が入って来た。
「天ヶ咲。さっきの試合見たぞ。よくやった」
「おめでとう、天ヶ咲君」
入って来ていきなり褒められたが、別に嬉しくはなかった。
「何しに来たんですか、隼美先輩」
入って来るなり誉めて、さらには選手用の冷蔵庫からスポーツドリンクを四つ取り出して皆に配る先輩を軽く睨む。
だが先輩は気にもしないで飲みだした。
「ぷは~」
乙女にはあるまじき声と動作で一気に飲み干す。
「千慧さん。はしたないですよ」
「別に減るもんじゃないんだから気にするな」
「私達だけならともかく、男子がいるんだから気にして下さい」
そう言って天蘭院は戸棚からコップを五つ出してくる。
・・・ん? 五つ?
何か疑問に思った時には、手に持っていたスポーツドリンクを天蘭院はヒョイ、と奪い取り、コップに注ぐ。
そして俺にスポーツドリンク入りのコップを渡してきた。
「天ヶ咲君も、そのまま飲まないの」
「・・・俺は関係ないだろ」
それでもコップをつき出したままの天蘭院は諦めようとしなかったので、素直に受け取る。
他の奴のドリンクもコップに注いで渡していた。
どこまで世話焼きなのだろうか。
「ねえ。さっきから気になってるんだけど、美永瀬さんは何をしているの?」
オルスレッドは床に座り込み、プライベート霊石と通信交換霊石、さらに生徒手帳に組み込まれている霊石をさっきから操作している美永瀬を指す。
自分の名を呼ばれたのにも関わらず、美永瀬は答えなかった。
「加菜恵。何をやってるの」
「・・・・・・」
天蘭院の呼び掛けにも答えなかった。
それから少しの間、美永瀬の意識がこちらに向くのを黙って見ていたが、一向にその気配はなかった。
三つの霊石を交互に捜査してはプライベート霊石に何やらデータを送り込んでいるようだ。
何をしているのか気になる所だが、プライベート霊石は最初に登録した所有者以外にはなにも見えないので、何をやっているのかわからない。
ただわかるのは、結構な金額が使われていることは確かだった。
「まったく。加菜恵ったら・・・」
見かねたのか、天蘭院は立ち上がり美永瀬の肩を叩こうとしたその瞬間・・・、
「よっし! 高級ブランド品のバックゲット!」
いきなり立ち上がり、拳を強く握りしめた美永瀬は振り向いて側にいた天蘭院の肩を揺する。
「綾香、 見て見て。高級ブランド店、〈セルス〉の一級品バックを苦戦したけどオークションで落札したよ」
そう言って薄型長方形のプライベート霊石を他人にも見えるように設定して天蘭院に見せる。
そこには、紺色の布地に赤の刺繍が入ったバックを『美永瀬 加菜恵様、落札おめでとうございます』と書かれていた。いったいどれくらいの値段がしたのか見て見ると、一瞬俺は我が目を疑った。
どうやらそれは天蘭院も同じだったようだ。
「ちょっと綾香。この金額いったいどこから出したの!?」
「どこからって・・・さっきの試合の賭けで勝ったお金に決まってるじゃない」
美永瀬はさも当たり前のように答える。
なるほど、さっきの俺の試合の賭けに参加して見事に賭けた方が勝ち、賭けた金額×試合勝率のオッズで得た金を早速使ってオークションに参加したのか。
そして目当ての商品をゲットしたと言うわけか。
「ちょっと待て美永瀬。お前賭けに参加したのか。」
俺は思わず訊いてしまった。
「当たり前じゃん。おかげで稼がせて貰ったよ、天ヶ咲。あ、ちなみに他の三人も参加したから」
「他の三人って、お前らも参加したのか」
オルスレッド達を見ると皆視線を反らした。
天蘭院だけは申し訳なさそうな顔をしていた。その後ろに美永瀬は移動して両肩を掴む。
「ちなみに、綾香はあんたが勝つのに一番金賭けたのよ。あたしは20Lだけど、綾香は7T賭けてたのよね」
「ちょっ、ちょっと加菜恵。勝手に言わないでよ」
知られたくないことを勝手に言われたのか、天蘭院は慌てて振り返り美永瀬の口を塞いだが、少しばかり遅かったようだ。
「7T!?」
あまりの馬鹿げた金額に驚いてしまった。
戀国の金銭は銅、銀、金の三硬貨あり、大きさがそれぞれ三つある。銅はS。銀はL。金はTと表す。
一応十進法を仕様しており、1000Sで1L。1000Lで1Tだ。7T。つまり、天蘭院は一般人が普段使う硬貨のSにして700万Sを賭けたことになる。
美永瀬の20Lでさえ学生が持つには多すぎる金額だ。
それなのに天蘭院は7Tも賭けた。
一般人なら度が過ぎない限りは二年は仕事をしなくてもいい金額だ。十二天族とはいえ一人が持つにはやはり大した金額だ。
しかも、あまりにも紅快天に賭けた数が多かったせいで俺が勝った場合、賭けた金額の57、8倍の金額が手に入る事になっていたはずだ。
美永瀬が手に入れた金額は1156L。
対して天蘭院が得た金額は404、6Tだ。下手をすると小さな国一つの政治が狂う金額だ。
と言うか、それ以上の金額がたった一回の模擬戦で動いたということが信じられない。ここに来る学生はそこそこ金は持ってはいるが、少しばかり―――いや、かなり金が動きすぎだ。
もしかすると学生以外も何らかの形で参加していたかもしれない。
しかも、あの人も参加しているはずだ。ていうか、参加していないはずがない。天蘭院の金額が笑えるような金額を賭けただろう。
早い内に何らかの手を打たないと面倒な事になる気がだんだんとしてきた。
「それで? そのお金はどうする気?」
「えっ? と、取り敢えずあれのために貯めておく。」
「ふ~ん」
天蘭院は何やら照れながら顔を少し染める。
そんな天蘭院を生温い視線で美永瀬は見ていた。そのあとに美永瀬に睨まれてしまったのはいったい何故だ?
「そうだ天ヶ咲。ちょっといいか」
ドリンクだけでなくいつの間にかつまみまで食べていた隼美先輩が食べ終わり訊いてきた。
「何ですか?」
「すまないがさっきの試合で使った銃を見せてくれないか。」
いきなりな何を言い出すのかと思ったが、すぐに質問の意図を理解した。
黙って腰に巻き付けていたホルスター付きのベルトを外し、机の上にのせる。黒地のホルスターには同じく黒と銀のスライドを持った銃が納められていた。
それを一丁手に取り調べるように見る。
「天ヶ咲。これはレギュレーションオーバーじゃないか? 同型の物より少し大きいような気がするが」
やはりか。
風紀委員長だけのことはある。見ただけである程度はわかるのだろう。だがこんなことは予想範囲内だ。
「それなら問題ありません。実弾を使えば確かにレギュレーションオーバーになりますけど、弾丸は実弾ではなく霊石です。レギュレーションは技のランクに該当します」
もう一つの銃の弾倉から弾丸を取り出し、四人に投げる。四人はしげしげとそれを眺める。
「まあ、銃事態は確かにレギュレーションオーバーですが。それと、相手の事は知りませんけど」
「そうだ、それだ。限界突破―――〈リミテイション・ブレイク〉 いくら神獣が子供だからと言ってもあれはAランク霊術だ。告知がされなかったのは明らかにおかしい」
「それに関しては向こうが教えてくれるでしょう」
そう言って入り口の方に視線を向ける。
「向こう?」
四人が扉を見た時、扉が開かれ数人の生徒が入ってきた。
だが、この学園の朱色のコートを着ていなかった。代わりにカッターシャツの左胸には何やらプレートが付けられていた。
そこには、『蓮桜学園・公共施設管理委員会』と、書かれていた。
彼らの仕事は字の通り学園内の施設管理またはそれに伴う仕事だ。
緑のネクタイを着けた生徒の一人が前に出る。
「天ヶ咲 桜華先輩。誠にすみませんが先程使われた銃を二丁、御貸しいただけますでしょうか」
入って来るなりいきなりそんなことを言い出した。
あまりいい態度ではないが、管理委員会に入っている生徒は皆頭の良い奴、もしくは学校側からいい評価を受けている者ばかりだ。必然的に上から目線になりがちなのだ。
恐らく、今の言葉の裏には言う事を聞かないと実力行使に出るぞと言う意味があるのだろう。
こういう連中は今でもいるのか。
そして本当にそういう理由だけならまだいいのだが、今回ばかりはそうではないだろう。
「いきなり入って来ていったい何なんだ君たちは」
隼美先輩は立ち上がり俺達の間に入って来る。
「貸さなければいけない理由は見当たらないはずだが」
「先ほど、もしかしたら先輩が使っている銃がレギュレーションオーバーではないかと言う報告がありましたので、確かめに来たと言う訳です」
もっともな理由に隼美先輩は黙る。
このままこいつらの思い通りになるのは面白くないのでこちらから仕掛けることにした。
「別に持って行ってもいいぞ」
「な、天ヶ咲?!」
「天ヶ咲君?!」
隼美先輩と天蘭院を目を大きく開きながらこちらを見る。
俺はホルスターに銃を戻して前に出てきている生徒に向けて差し出す。
「では、拝借します」
両手で受け取ろうとしたその時、俺はそいつを睨んだ。
「持って行ってもいいが、それでレギュレーションオーバーだと発覚したら困るのはお前らだぞ?」
「・・・どういう事でしょうか」
一瞬、ほんの一瞬だが頬が引き攣るのが見えた。
やはりそういう事か。
「言葉通りだ。バレてないとでも思ったか」
「いったい何の事、天ヶ咲君」
「どうやって霊術のランクオーバー、補助道具やタクティカルアーツのレギュレーションオーバーを検査しているか知っているか?」
戸惑う連中をほってこの場にいる誰かに問う。
「学校が仕切る戦闘の場合、試合前に厳密な検査を行い、霊術に関して両方ともはフィールドや闘技場に設置されている検査装置で検査している」
隼美先輩が答える。
「その通り」
それが何なのかという様な視線が集まる。
「もし俺の銃がレギュレーションオーバーなら、試合中に検査装置に引っ掛かっていたはずだ。だが引っ掛からなかった。これがどういう事か、わかるな?」
「・・・・・・っ」
管理委員の生徒が息を呑む。
つまり、試合中に装置が作動していなかったか、もしくはわざと告知されなかったのだ。
試合中に検査装置が作動していることは確認済みだった。
なら残るは後者。
管理委員の誰かによって意図的に告知されなかったのだ。それも、指定ランクをBからAに変更していたのだろう。
要するにこいつらは不正をしていたのだ。
「持って行きたければ持って行けばいい。その代り、お前らと、お前らが従っている者にも手が及ぶわけだが・・・どうする?」
「・・・・・・」
立ち尽くす一年生を睨みつけるが、しばらくして薄気味悪い笑みをしながら顔を上げた。
この様子じゃ開き直ったな。
「我々が不正をしたという証拠がどこかにあるんですか?」
やはりそう来たか。
もし不正をしていたとしても試合が終わってすぐに設定をもとに戻しているはずだ。
だがこれも予想範囲内だ。
「確かに、装置の設定を変えるのはお前らにすれば簡単だろう」
「それなら・・・」
「・・・だが」
安堵の色を浮かべる一年生の言葉を遮り、腰のポーチから拳大の機械を取り出す。
立方体で、中心に一センチ程度の霊石が嵌め込まれており、管が繋がれている。それはカメラのようなレンズが付いた部分へと繋がっている。
他には細かな機械部品や電子部品が詰め込まれている。
レンズの反対側にはどこかに接続するようの凹凸があった。
「その不正がされた検査装置が一つ、設定を戻されずにここにあるとしたらどうする?」
「なっ!」
それを見た瞬間、一年生共の顔が完全に驚愕へと変わった。
大変長らくお待たせしました
これから再び執筆&掲載を再開します
そろそろ二章の本番に入りたいと思っているので、
これからもよろしくお願いします




