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第二十三話「模擬戦」

 それから紅快天は先に第三実技棟に向かって行った。

 俺は溜息を吐きながら時間をどう潰そうかと悩んでいると、どこから現れたのか知らないがオルスレッドが話しかけて来た。

「やあ桜華。なんだか面白そうなことになってるね」

「お前のその目玉は腐ってるのか? それとも脳が腐ってるのか?」

「十二天族同士のバトルが見られるのか。これはちょっと興味が湧くね」

「・・・・・・」

 俺の話を無視して楽しそうに笑う。楽しみにしても俺は本気を出さないことをこいつは知っているはずだから面白くないはずだ。

 それから適当にオルスレッドと時間を潰して第三実技棟に向かう。

 入り口から中に入り控室には行かず観覧席に向かい、観覧席に入って俺は絶句した。


『レディースアーンドジェントルマン! 会場の皆さん盛り上がってますか?』

―――ワァァアアァア

 司会人らしき人の呼びかけに会場の生徒は盛大に盛り上がっていた。

『本日は急な呼びかけにお集まりいただいて感謝します。これより行われるのは、一年、十二天族の紅快天 朱雀と、三年、属性外霊術の使い手の天ヶ咲 桜華による模擬戦だ!』

 良く見ると一年だけではなく、今日は来ているはずがない二年生から四年生の生徒も来ていた。

「これって、もしかして・・・」

 オルスレッドが呆れ半分で周りを見ている。

「とりあえず控室に行く」

 来た道を戻って控室に向かった。


 控室に行くと中には隼美先輩と天蘭院 綾香、それに美永瀬 加菜恵が何故かいた。

「ちょっと天ヶ咲君。これはいったいどういう事!?」

 入るなり天蘭院は詰め寄って来る。

「俺が知るか。訊くなら隼美先輩に訊け」

 俺達四人が視線を向けると先輩は申し訳ないような顔をする。

「いや~、どうも紅快天とその取り巻き共が呼んだらしくてな。気づいた時にはもう遅かったんだよ」

「遅かったって・・・たかが模擬戦でしょ!?」

「それがどうも向うは本気で天ヶ咲を自分のサポーターにしたいらしい」

「サポーター!? どういうこと」

 依然として詰め寄って来る天蘭院を美永瀬が静止しつつ俺は今回の出来事の発端を掻い摘んで説明した。


「要するに、あっちが勝手に天ヶ咲君を引き抜きたがってるだけってこと?」

「要約するとそういうことだ」

 説明を終えると天蘭院は少し気の毒そうな顔をして、美永瀬は腹を押さえて笑いを必死にこらえていた。

 隼美先輩は外の様子を見に出て行っている。

「くっ、だ、ダメ・・・あはははははっ」

 美永瀬はとうとう我慢できず笑い出す。

「ははははっ・・・さすがお嬢様だね。でも天ヶ咲を専属サポーターにしようって、どういう頭してんだろ」

「・・・お前、何気に酷いことを言うな」

「そうだよ加菜恵。・・・私だって専属サポーターにしたいのに・・・」

「何か言ったか?」

 天蘭院がぶつぶつと何か言ったような気がしてつい訊いてしまった。

「え、ううん。何も言ってないよ」

「・・・・・・」

 訊いてしまった自分に反省を言い聞かせる。


 あと数分ほどで模擬戦の開始時間になる時、隼美先輩が戻ってきた。

 その顔には出て行った時よりも申し訳なさが浮かんでいた。

「どうしたんですか、隼美さん」

 天蘭院が近づいて行く。

 美永瀬は笑い過ぎたのか目には涙がうかんでいるし、オルスレッドに関しては持って来ていた本を読んでいた。

「天ヶ咲、すまんな。ちょっと予想外なことが起こった」

「予想外なこと?」

「なんて言ったらいいんだろうな。まあ、なんだ。簡単に言うとだな・・・賭けが行われてる」

「「・・・は?」」

 俺と天蘭院が揃えて声をだす。

 よりにもよって賭け事までしだすとは。これは終わってもただでは終わりそうにないな。

「おっと、そろそろ時間だな。行って来い天ヶ咲」

 先輩に背中を叩かれてフィールドへと向かった。


『さあ、いよいよ時間になりました。それでは、両者入場です!』

 第三実技棟は簡単に言えばコロセウムのような作りで、フィールドの周りを観客席が囲っていると言う簡単な作りだ。

 フィールドと観客席との間にはAランクの防御障壁が展開されているので、観客席に被害が出ることはまずない。Aランクの中でもかなり上位の防御障壁なので、意外と安全だ。

 フィールド内に入ると向かいには既に紅快天が立っていた。

「あら、逃げなかった」

「・・・・・・」

 いったい何を考えていたのか問い正したいところだが、もうその気も失せてきた。

 視線を上に向けると、映像霊石から四方にウインドウが開いていて、俺と紅快天の賭けの数値が書かれていた。

 来客者数の七割から八割が紅快天の勝利に賭けている。

「わかる? みんな私が勝つ方に賭けてるの。当然、ワタシが勝つけどね」

「どうでもいいから早く始めろ」

「いいわ」

 お互いの距離が十メートルの開始位置に立つ。

 観客席はさっきまでとは逆で静かだ。司会人は俺達の様子を見た後、マイクを持ち手に力を入れ、高らかに叫んだ。

『ルールは至って簡単。Bランクまでの霊術を使用、先に相手を戦闘不能にするか降参させた方を勝ちとする。準備はいいですね・・・それでは、戦闘開始!』

 開始の発言と共にブザーが鳴り響く。

 Bランクって・・・いったいどんな戦いを望んでるんだ

「最初からいくわよ・・・〈炎の不死鳥(フェニックス)!〉」

 右手を前に出し、中指に嵌っていた赤色の宝石のようなものが付いた指輪から炎が噴き出し、その中から体が炎に包まれた鳥のようなものが現れる。

―――キュルルルルル~~

 奇妙な鳴き声を上げ、顕現したそれは紅快天の肩に乗る。

「精霊・・・しかも神獣か」

「あら、良く分かったわね」

 誇らしげに胸を張る。


 精霊。

 それは、この世界―――霊を否定する世の中において人間が認めた霊で、人間と契約し力を与え、ともに戦う霊。

 精霊には大きく分けて二つの種類がある。動物型の精霊と、人型の精霊だ。

 動物型の精霊が最も多く、ほとんどの精霊持ちが動物型精霊を持っている。特徴を簡単に説明すると、動物に霊術が使えるようになったようなものだ。

 ただし、中には霊獣のような生き物もいる。

 霊獣とは、自然の中にある霊力が異常に濃い場所にいると突然変異をお越し、ありえない生き物へと変わった動物を指す。また、どう言う訳か霊力を持って生まれた動物の事も霊獣と呼ぶ。

 次に人型の精霊だが、こちらは発見されている数が少ない。

 動物型と違って人型は主を選ぶのだ。自分に相応しい主が現れるのを迷宮の奥で待っている。

 大体は迷宮を攻略し、もしそこに人型の精霊がいて、その精霊が出す試練をクリアすることが出来れば、その精霊と契約することが出来る。


 今目の前にいる紅快天と契約している精霊は、神獣と言われる精霊だ。

 神獣とは、簡単に言えば空想上の生き物などが精霊になったものだ。

 竜、不死鳥、一角獣、キメラ―――など、他にもさまざまな個体が存在し、他の精霊の上に位置する言わば上位種だ。


 その神獣と契約しているということは、必然的にかなりの腕ということになる。

 しかもその神獣が伝説の生き物―――『不死鳥』や『火の鳥』と名高い『フェニックス』だ。死ぬ時には自らの体を燃やし、その灰の中から再び幼鳥となって生き返る伝説の鳥。

 ランクで言えばAランク―――下手をすればSランクの神獣だ。

「一昨年に迷宮で見つけたの。まだほんの子供だけど、油断してると痛い目を見るわよ」

―――キュルル

 一人と一匹が俺を睨む。

 その目は完全に得物を狩る眼だった。

「フェニックス―――〈火炎榴弾!〉」

 火属性の基本技が俺目掛けて放たれる。その数―――フェニックスが一回に出した数は十数個だ。

 それを何度も放つので目の前は火の玉だらけになり、紅快天の姿は見えなくなっていた。

 だが俺は焦らず補助・強化霊術を発動する。

「burst velocity rise / an effect」

 水色の光が俺を一瞬包む。

 迫りくる火の玉に意識を集中させ、全てを避ける。

「な、全部避けたっていうの?」

「・・・・・・」

 今の術を避けるのに俺は最初の位置から半径二メートル以上動いていなかった。

「なら、これならどう! フェニックス―――〈飛翔炎舞!〉」

―――キュ~ルルルルル~

 より一層甲高い声で鳴いたフェニックスは紅快天の肩から飛び立ち、その身体がさらに炎に包まれる。

 そして、炎の鳥が分裂する。次々と分裂したフェニックスは先ほど同様、俺からは既に紅快天の姿が見えなくなっている。

 そして、数百体はいる炎の鳥は本体である一匹だけを残して一斉に飛んでくる。

 さっきの『火炎榴弾』と何ら変わらないように思えたが、俺が避けて後ろに飛んで行った炎の鳥は、旋回して左右前後から襲い掛かって来る。絶え間ない突撃は普通の人なら避けきれず、一匹に当たった後はその隙を付かれてたちまち炎の鳥に焼かれるだろう。

 だが、攻撃パターンが単調すぎる。一定のパターンで襲ってくるそれは、相手に避けてくださいと言っているようなものだ。

 俺はそのパターンを早々に見つけ、ステップを踏むように避けて後はその動きを繰り返すだけだった。

「なんで・・・なんで当たらないのよ!」

 絶え間なく襲い掛かる攻撃を全て避けている俺を見て紅快天はだんだんとイライラしてきているようだ。加えて不安も感じているはず。

 なら・・・今がチャンス。

 襲い来る炎の鳥を避ける時に、本の一瞬だけ触れて支配権を奪い取る。奪い取った炎の鳥は全ての鳥の支配権を奪うまで同じ動きをさせておく。

 そして全ての支配権を奪い取った俺は、全部を紅快天向けて放つ。

「え・・・な、ちょっと・・・きゃっ」

 いきなり襲ってきた鳥に恐れたのか顔を手で庇う。

 しかし、何時になっても炎の鳥は紅快天に当たることはなかった。

「当たってない・・・いったいどういう・・・っ」

 顔を上げ、周りを見ると紅快天を囲むように炎の鳥が空中で停止していた。

「フェニックス、いったいどうしたの。襲うのはワタシじゃなくてあっちよ」

―――キュルル~

 今度は鳴き声のようなしょぼくれた声で鳴く。

「え、支配権を奪われたって、どういう・・・」

「その言葉通りだ。その炎の鳥の支配権を俺が奪った。だから今そうやってお前は囲まれてるんだ」

「そんなこと、出来るわけ・・・」

 信じられないのか首を左右に振る。

「干渉霊術―――『干渉支配(インタフィエンス・コントロール)』 相手が支配または操っている物質及び霊術にこの術をプログラムとして侵入させ、支配権を奪う術だ。今回はお前がかなり動揺してくれたおかげで簡単に支配出来た」

「簡単に・・・って。純粋な干渉霊術は最高クラスの霊術じゃないの」

「さて、どうする。俺としてはこのまま降参してもらい所なんだが・・・」

 右手を前に付きだし、開いた手をゆっくり握ると炎の鳥が少し紅快天に近づく。

「冗談でしょう? これくらい、危機でも何でもないわ」

「そうか・・・なら、多少は手荒な真似をさせてもらう」

「・・・っ! フェニックス!」

 俺が右手に力を入れるのを感じたのか、紅快天は右手を上に上げる。その右手にフェニックスが止まり、翼を大きく広げる。

「無駄だ」

 躊躇わず右手を握るが・・・紅快天は怪しげな笑みを浮かべた。

「どうかしら・・・フェニックス―――〈限界突破(リミテイション・ブレイク)!〉」

「・・・なっ」

 今度は俺が驚いてしまった。

 紅快天の手の上に乗っていたフェニックスの翼から炎が拡大し、今にも紅快天に襲い掛かろうとしていた炎の鳥を包み込み、飲み込んでいく。

 全てを飲み込んだ炎は一つの塊となって空中に浮かぶ。それはまるで炎の雫のようだ。

 そして、炎の雫から左右に大きな翼が広げられる。肩翼だけで五メートルはあるだろう。

 次に、下の部分からは鳥の足と、ひし形の炎がいくつも連なったような長い紐状のものが三本生える。よく見るとそれは尾だった。

 最後に、折りたたまれていた長い首がゆっくり持ち上げられる。

 その容姿は先ほどの小さな姿と殆ど同じだったが、威圧感が違う。これで子供だというのならやはり化物だ。

―――キィエエェェェェェェエエエエェェェ!

 大きく鳴いたその声で大気が震えた。

「これがワタシの切り札よ!」

 降り立ったフェニックスの前で腕を組んで紅快天が立っていた。


『限界突破』―――リミテイション・ブレイク。

 精霊や神獣の能力を一時的に底上げし、文字通り限界を突破する霊術。

 本来ならAランクの霊術なのだが、元の神獣が子供なのでAランクにはならないのだろうか。フィールドの壁に備え付けられているランク検査器は反応していない。

「あまり長くは続かないから、さっさと終わらせるわよ。フェニックス―――〈炎の爆矢!〉」

 紅快天は右手を前に突き出す。

―――キィェェエエェェ!

 巨大化したフェニックスは俺を睨んだ後、翼を広げ一度だけ羽ばたかせる。

 両翼から勢いよく『炎の爆矢』が放たれる。

「!」

 その姿が―――正確には右手を上げ、『炎の爆矢』を放っているその姿が俺の記憶を呼び起こす。

 巫女装束を着た、長身の女性。

 その冷徹な眼差しは見る者を凍らせそうなほど冷たく、底が見えないような瞳を持った女性。

 七年前。

 俺の大事な人を滅したあいつとその姿が一瞬被り、俺の頭から『平静』という言葉が消え失せた。

 左足を半歩後ろに引き、相手に対して少し斜めに構え、右手をコートの下、後ろ腰に潜らせてホルスターに入っている物を―――H&K USP Matchを抜き出す。

 銃自体は黒色がベースだがスライドの部分が銀色。

 普通のH&K USP Matchよりほんの一回り程大きく、普通のですら大人が持っても少し大きいのに、それを高校生が持つと更に大きく見える。

蒼白の弾丸(ペイル・ブレット)―――装填」

 黒色だったところが蒼白色に変わる。

 そして、迫りくる矢に向けて―――引き金を引く。

―――パァン、パンパァン、パァン・・・。

 乾いた発砲音が響く。

 本来なら鉛などの弾が発射されるのだが、発射されたのは鉛などの弾ではなく、氷の矢だった。しかも、五冠属性の一つ―――氷属性基本技の『氷の凍矢』だ。

 触れた物をまるで蝕むように氷らせるそれは炎の矢とぶつかると、先に炎の矢が爆発する。だが、その爆炎を氷の矢が凍らせる。

「な・・・五冠属性ですって?!」

 紅快天は驚きの色を浮かべ、フェニックスに更に攻撃の命令をだすが、迫りくる炎の矢を次々と凍らせていく。

 弾倉が尽きて排出すると紫色の霊術陣が現れ、そこから新たな蒼白色の弾倉が現れる。

 本来ならフェニックスの手数の方が多いはずなのに押されているのはフェニックスの方だった。

 もう何も考えず、俺は何の躊躇いもなく開いている左腕をコートに中、後ろ腰に潜らせ、全く同じH&K USP Matchをもう一丁取り出す。

「え、ちょっと・・・嘘でしょう・・・」

 紅快天の顔が今度は完全に絶望の色に変わる。一丁だけでも押されているのに、もう一丁を出されたらどうなるかは予想がついたのだろう。

だが・・・。

青の弾丸(ブルー・ブレット)―――装填」

 左手に持つ銃は蒼白色ではなく、青色に染まる。そして、それから放たれたのは・・・。

「水冷榴弾!?」

 放たれたのは『氷の凍矢』でなく五源属性の水属性基本技の『水冷榴弾』だった。

 『炎の爆矢』とぶつかったそれは、高温で熱せられて水蒸気へと変化する。

 それを何度も何度も繰り返す内に辺りは一時的な霧に似たものに覆われて、一メートル先も見えなくなる。

 そんな視界の中俺は気配を殺し、足音も消して紅快天に向かって走り出す。


「ちょっと、何も見えないじゃないの。フェニックス、相手は何処?」

 紅快天は手を振って霧を振り張ろうとしながら辺りを見回す。

―――キィェェェ

「近づいてるの!? ならやっておしまい。それで終わ・・・」

「ああ、終わりだ」

―――カチャリ

 金属音が紅快天の頭のすぐ後ろで鳴る。

「・・・っ?!」

 二人の動きが止まる。

 霧がだんだんと晴れ、そこに見えたのは・・・。


 紅快天の後ろから頭に向けて銃を付けつけている桜華の姿だった。


「どうする・・・まだやるか?」

「くっ・・・ワタシの負けよ」

―――ビィィィィィィィィィー

 紅快天の降参の言葉と同時に、試合終了の合図を付けるブザーが鳴り響く。

『ななななんと! 試合を征したのは・・・三年、天ヶ咲 桜華だぁぁぁああぁぁ!』

―――ワァァァァァアアァァァァ!

 一斉に観客の声が発せられる。

 中には頭を抱えている者もいればそれよりは少ないが喜んでいる者もいた。

 俺は二丁の銃をホルスターに戻し、軽く礼をしてから控室へと向かった。


昨日更新だったはずの話です

最近期限通りに更新出来てないことをお詫びします


プチバトルのつもりが、

いつの間にか本格バトルになってましたw


それでは、

次回もお楽しみです

と言っても、

次回は用事があるので更新出来ないので

ご了承ください

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