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第二十二話「勘違い」

 教室棟の屋上からは勧誘に勤しんでいる先輩や同級生の姿が一望出来る。

 ここからでも勧誘の声や新入生の笑い声、部活のオリエンテーションの掛け声などが聞こえてくる。

 一応見つからないように隠蔽効果の霊術は掛けてあるが、見つからないと決まった訳ではないので、何時でも逃げれるようにしておく。

 それにしてもそこまで活気になって部活をする意味があるのだろうか。

 もしかしたら俺が知らないだけで、何か面白さがあるのかもしれない。

 だが、長年復讐心に囚われ続けた俺には、他の奴と助け合ったり、ライバルと競い合ったりといったことに興味が湧かないのだ。

 俺も高校生だから、他の奴と競い合いたいと思うのが普通なのだが、俺の中にあるのは冷めた冷徹な心だった。恐らく、天蘭院を殺す時には躊躇う事はないだろう。

 そこまで俺の心は冷め切っていた。

「・・・・・・」

 フェンスに前かがみでもたれ、下の様子を見る。

 しばらく見てから腰につけているポーチから幾重にもロックの掛かった小さな箱を取り出す。

 黒色の、両手で覆いつくせそうな大きさの簡素な箱。

 目には見えない霊術でロックが掛かっているので、馴れた手つきで、加えて丁寧に解除していく。

 全ての解除が完了し、中を開くとそこには―――。

 かつて彼女が付けていた、半分だけ細長いひし形の水晶が三つ付いた藍色のイヤリングが一つだけ入っていた。

 それは昔のように、俺が持っている銀のネックレスを近づけても光ることはもうない。


 七年前の夏。

 何故か俺の家に来ていた天蘭院 志恵那は霊である彼女―――ユエラを滅した。

 その場所にこれだけが残っていた。光を失った、契約の証のイヤリング。

 いつかこれに光が再び戻ることし信じて、実はユエラがどこかで生きていることを願い続けてきた。その願いを、この七年間ずっと俺の霊力と一緒に込めてきた。

 無尽蔵の霊力貯蔵が出来るのか、どれだけ溜め込んでも充満する気配はしない。


 しばらく眺めてからイヤリングを箱に戻し、霊術を掛けロックしてポーチに戻す。

 気づけば少し騒がしくなっていた。

 下を覗くと緑のネクタイをした生徒―――一年生同士が言い合いしていた。良く見ると一か所ではなく所々で起きていた。

 大抵は周りの奴が治めるのだが、それでも収まりきれない所は実際に手が出、しまいには霊術まで使う事態に陥っていた。

 そうなれば風紀委員の出番である。

 発動された霊術を見事に捌いて無効化し、態度と殺気で威圧する。これで大抵の奴は大人しくなるのだが、中にはさらに喰いつく者も少なからず存在する。

 例えば、グラウンドで現在行われている騒動がいい例だ。


 三年生の風紀委員が止めに入ったが、人相の悪い一年生は三年生目掛けて霊術を放っている。その霊術を被害が出ないように見事に三年生は捌き、一年生が抵抗できなくなるように組伏す。

 俺の霊術で身体・感覚機能に加えて霊力増大と効率のよい運用、加えて効果の上昇の補助・強化霊術が掛けられているので、負けることはないだろう。

 一年生は腕に自信があったのか、どうして負けたのかどうしても腑に落ちないらしかった。

 一日目にして数件も騒動が起こったが、それ以外は問題なく事が進み、初日は何事もなく終わった。


 それからも騒動は時々起ったが、無事順調に行われた。

 しかし、やはり今年の一年は優秀なのか三日目あたりで俺の存在がバレテしまっていた。

 どこから入手したかはわからないが、三年生に凄腕の属性外霊術使いがいる、などという情報が一年全員に知れ渡り、索敵能力に優れた一年に見つかってしまった。

 それからはもう大変だった。

 いろんな意味で大変だった。

 風紀委員や上級生の元の強さもさることながら、俺の補助・強化霊術の出来を狙って一年生に追い掛け回された。

 自分にも霊術を掛けろ、上級生ばかりずるいやら叫びまくっていた。

 どんなに逃げても、隠れても、隠蔽霊術を使ってもすぐに見つかってしまう。

 どうやら今年の一年の中には索敵能力と追跡能力に優れている生徒がいるらしい。

 先にそいつらを落すか―――などと考えたが、これ以上目立ってはこの後が面倒なので逃げ続けることにした。

 上級生とはいえ人ひとり捕まえることが出来ないのに苛立って来たのか、四日目には威力こそ最低ランクのFランクではあるが束縛系霊術が放たれた。光の紐のようなものが数人から伸び、俺を捉えようと近づいてくる。

「ほっ、はっ・・・よっと」

 俺を捉えようと近づいてくる紐を体術だけでかわし、逃げる。

 普段は目立たないようにあまり力を出していないので、こういう状況なのに久しぶりに少しだが楽しくなってきた。だが、いくらなんでも一日中逃げるのは面倒なので、時々風紀委員に任せることもあった。


 そんなこんなで無事―――と言っても騒動は起こった―――に事は進み、入院するほどの怪我人を出さずに部活動勧誘期間が終わった。

 太陽が傾き、綺麗な夕日色が学園全体を包む。

 グラウンドや広場、校舎内では後片付けをしている生徒とまだ残っている生徒が数人いる。

 俺はこの期間内の活動報告書を書き、帰るために校門に向かっていた。

「・・・・・・」

 向かっていたのだが・・・。

「どうして付いて来るんですか・・・隼美先輩」

 俺の横で歩いている先輩に尋ねる。

 報告書を生徒会室まで届けに行き、提出した後帰ろうとすると、それを待っていたかのように先輩が現れたのだ。

「たまには一緒に帰ろうと思ってな」

「あの人の傍にいなくていいんですか」

「・・・確かに、咲恵の傍にいなくちゃいけないんだが・・・」

 そこで先輩は言葉を濁す。

 どうやらそれ相応の理由があってここにいるみたいだ。と言っても、この人からすればそこまで大した理由ではなさそうだ。

 主の命令だからか、主の為にここにいると言った方が良いかもしれないな。

「今ここにいるのはその咲恵の命令なんだ」

「・・・は?」

 俺は訳が分からずつい声をあげる。

 どうしてあの人がそんな命令をだしたのか見当もつかない。

 説明を求める視線を送ると、先輩は溜息を付きながら答える。

「いや~、三日目辺りからお前が一年生に追い掛け回されてたこと話したら咲恵の奴が血相変えて駆けだそうとしてな。仕事放り出すな、て止めたら私がお前を護れと言われたんだよ」

「・・・・・・」

 呆れてものも言えなくなった。

 俺が一年生如きに負けるはずがないのはあの人は十分わかりきっているはずだ。それなのに血相を変え、仕事を放りだして駆けだそうとしたって、どれだけ心配症なのか。

 というかそもそも、あの人が俺の事を心配なんかするのだろうか。

 なんか裏がありそうな気がする。

「まあ、そういう理由もあるんだが他にも理由があるんだよ」

「他の理由・・・?」

「ああ、それはな・・・」

 そろそろ校門を出るという時、横から俺達の進路上に誰かが腕を組んで立ちはだかった。

「見つけたわよ。天ヶ咲 桜華」

 その声に先輩は言葉を中断し、声の主を確認して俺は溜息を付いた。

 金髪ツインテール。それを見事な縦巻きロールにセットし、赤いリボンで留めていて立ち姿はどこか毅然としている。その容姿は誰がどう見てもお嬢様そのもの。

 そう、目の前に立っているのは根っからのお嬢様―――紅快天 朱雀だ。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 俺と先輩はいきなりのその登場にどう反応したらいいのかわからなかった。

「やっと、やっと見つけた・・・」

 一人で何かいっているようだが、この距離では何を言っているのかは俺には聞き取れなかった。

 良く見ると周りにはいつの間にか野次馬が集まっていた。

 紅快天の後ろにいる生徒は恐らく野次馬ではなく、付添いや友達―――この場合は紅快天の従者的存在だろう―――がいる。

「あなたが天ヶ咲 桜華で間違いないわね」

「・・・それがどうした」

 先輩に対して敬語を使わないその度胸は素直に誉めたいところだが、俺も時々使わないので似たり寄ったりだ。

 だが、このあからさまな上から目線の物言いには多少イラッとくる。

「聞けばあなた、凄腕の属性外霊術の使い手なんですって? そんなあなたにお願いがあって来たの」

 お願い。恐らくそれはお願いではなく・・・、


「あなた、ワタシの専属サポーターになりなさい」


 人差し指をビシッと俺に向け宣言する。

 やはり来たか。そしてそれはお願いではなく命令だ。

「・・・・・・」

 俺は無言で回れ右をし、裏門へ向けて歩き出す。

「な、ちょっとあなた! 何処へ行く気?!」

 そんな声も無視して歩き出すが、目の前に無駄にごつい体格の生徒が数人行く手を阻む。緑のネクタイをしているので一年生だ。

「・・・先輩の行く手を阻むとはいい度胸だが、そこをどけ」

「それは出来ません」

「・・・・・・」

 どうやらこいつらは紅快天に正式ではないが、本気で仕えている生徒だろう。

 後ろを見ると、紅快天は何故か満足そうな顔をしていた。

「このワタシの事を無視したのはこの際置いておくわ。それで、答えは『イエス』か『はい』で答えなさい」

 『イエス』か『はい』・・・って、要するに結果は一つじゃねぇか。

 こいつ、ふざけてるのか。

 横目で隼美先輩を見ると、やれやれと肩を竦めている。

「答えは決まったかしら?」

「・・・・・・」

 これ以上付き合っていられないので、行く手を阻んでいた生徒の合間を縫って歩き出す。

「同じ十二天族だから大人しく交渉で済まそうと思ったけど。そっちがその気ならいいわ。あなたたち、取り押さえなさい」

「「ハッ」」

 軍隊のように敬礼して従者の二人が俺を捕まえようと手を伸ばす・・・が。

「よっと」

「「え・・・ガハッ」」

 俺と従者の間に隼美先輩が一瞬で割って入り、今にも俺の肩を掴みそうだった二つの手の手首を握り、外側に捻る様に腕を回し脚を掛けて二人の体を投げ飛ばす。

 何が起こったのかわからなかったのか、投げ飛ばされた二人は受け身を取ることが出来ず、地面に強く背中を打ち付け、そのまま気絶した。

「風紀委員長として、今のは見過ごせないな」

「な、風紀委員長ですって? ということはあなたが隼美 千慧ね」

「先輩に対しては敬語だぞ、紅快天 朱雀。それとだな・・・」

「なによ」

 敬語を使うのが余程嫌なのか、風紀委員長に言われてもなお直す気はないようだ。

 それに対してなのか、それとも何回も説明するのが面倒になってきたのか、一つ溜息をする。

「こいつは十二天族ではないぞ」

「・・・え?」

「まあ確かにそう思うのは無理ない。なんせ同姓同名だからな。だがこいつは十二天族の天ヶ咲 桜華ではない」

 その言葉に紅快天だけではなく、周りの生徒も驚いていた。

「嘘よそんなの」

「嘘じゃないぞ。エクソシスト教育第三高校の紘矢谷学園に本物の天ヶ咲 桜華がいる。これについてはその親である隆二さんにも確認を取ってある」

「え、じゃあワタシ・・・もしかして」

「こいつを十二天族と思ってサポーターに抜こうとしたのなら、盛大な勘違いをしていたようだな」

 その言葉に紅快天は夕日も顔負けに顔を真っ赤に染める。

 周りの生徒は小声でヒソヒソと話し合っている。

 無理もない。俺を十二天族だと思い込み、尚且つこんな人目が集まる中で盛大に間違えたのだから。

 しばらく俯いていたが、やっと顔を上げる。これで諦めてくれた俺としてはありがたい。

「まったく、紛らわしいわね。まあいいわ。それでもあなたのその能力は欲しいの。わかった?」

「何が」

「だから、あなたのその能力をワタシが買うって言ってるの」

「俺は売り物じゃない」

「そんなの知らないわ。ワタシが欲しいと思うものは何でも手に入れるの。それだけよ」

 ここまで来るとこいつがどうやって育って来たのか大体は想像がつく。

 唯我独尊・・・とまではいかないにしろ、傲慢かつ自分勝手な奴だな。あれから結構経っているけどマシになるどころか一層酷くなってやがる。

 さらには人を物のように扱っているとなるとなおさらだ。

「勝手に言ってろ」

「ちょっと、待ちなさいよ」

 黙って歩き出すと、後ろから追いかけてくる足音が聞こえてくる。

「待ちなさいって・・・いってるでしょ!」

―――ドォン

 大きな声と共に後ろで爆発音のような音がし、熱波が辺りを襲う。

 振り返ると紅快天の周りに炎の渦が逆巻いていた。

「天ヶ咲、面倒だ。相手してやれ」

「相手?」

 隼美先輩はこれ以上面倒事を増やしたくないらしいが、俺にとっては面倒な事が始まるような気がした。

「紅快天 朱雀。今から正式にこいつと一対一の模擬戦をやらせてやる。それでお前が勝てたらしばらくこいつを好きに使え。こいつが勝ったら今回の事は諦めろ。いいな?」

「ちょ、いきなり何を・・・」

「いいわ。その案、乗ったわ」

「よし、それなら三十分後に第三実技棟に来い」

 それだけ言って隼美先輩は模擬戦の手続きをしに生徒会室へと向かった。


すいません

昨日は更新することが出来ませんでした


できれば次話の今日中に更新したいと思います

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