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第二十一話「イベント」

「次は、天蘭院さんね」

 その言葉に、天蘭院という言葉に俺は少なからず反応してしまった。

 長年怨み続けてきたせいか。

「はい」

 透き通るように凛々しく大人びた、それでいて優しさを忘れない声が教室に響く。

 それまで小声で話していた他の生徒も話を止めていた。

「天蘭院 綾香といいます。得意属性は炎と天です。母がこの学園の理事長をしていますけど、変な気を使わずに接して欲しいです」

 そう言って軽く頭を下げる。

 高校生でここまで礼儀正しい奴はそうそういないだろう。やはり十二天族の中でも一番礼儀作法に力を入れているだけはある。

「学生の内に五冠属性だけでも凄いのに五臨属性も使えるの!?」

 メアーユ先生が心底驚きの声をあげる。

 他の生徒も目を点にさせていた。

「メアーユ先生ってもしかして新任教師なのかな」

 オルスレッドが身を乗り出し小声で聞いて来る。

「・・・ここまで知らないことを考えるとそうだろうな」

 いちいち先生のリアクションが派手なような気はするが、資料からしか得られない情報しか知らないとこを見るとそうだろう。

 この学園にもともといる教師ならば、記録者であるオルスレッドや理事長の娘のことは知っているはずだからな。


 それから順調に自己紹介が進んでいたのだが・・・、

「続いて次の方~」

「は~い」

 手をあげ、呑気な声で返事をして女子が立ち上がる。

「皆さんはじめまして。()永瀬(ながせ) 加菜(かな)()と言います。よろしく~」

 黒髪セミロング、瞳の色は鮮やかな翡翠色。髪型はセットなのかそうでないのかわからないが、見方によっては猫の耳に見えてしまう。

 ていうか、どう見ても猫耳な髪型だ。その内ぴょこぴょこと動き出しそうだ。

 大人しそうな雰囲気だったのに話すと能天気なのか、軽いのか―――まるでオルスレッドみたいな奴だ。

 これがこいつの本性だったらどれだけよかったことか。

 その挨拶を聞いてメアーユ先生は「こちらこそよろしく~」なんて返していたけど、天蘭院は頭を押さえてため息をつき、オルスレッドはこれから起こることに対して楽しそうに笑っていた。

「得意属性は氷です。あと~、これ一番重要なんですけど・・・」

 明るい雰囲気から急に暗い雰囲気に変わる。

 さて、今回は誰が止めるのだろうか。

「綾香の友達は、一番の親友は・・・このあたしだからね! どんなに綾香と仲良くなったとしても、一番を名乗れるのはこのあたしだけだから! そこのところ間違えないでね!」

 誰に向かってか指を指して叫ぶ。

 このクラスにもこいつ―――美永瀬の事を知っている奴が他にもいるが、恐らくそいつらも含めて驚いているだろう。なんせこれで三年連続同じような発言をしているのだから。

 しかも年々激しくなっている。

「それから野郎ども」

 美永瀬がクラスの男子を物凄い目つきで睨みつける。

 その視線と合った男子は目を逸らしたり縮こまったりしている。

 オルスレッドは相変わらず笑顔で見ている。俺はどうでもいいので見ていなかった。

「綾香は絶対にやらないからね! もし綾香が欲しいのならまずこのあたしを倒して了承を得てからにするんだね。ていうかあたしに勝っても了承しな・・・」

「いい加減黙りなさい」

「デッ!」

 天蘭院がいつものように暴走した美永瀬の頭を叩いて黙らせる。

 不満の顔をして美永瀬が天蘭院の顔を見るが、右手をグーにして見た目は満面の笑みを浮かべている天蘭院を見てしぶしぶ席に着いた。

「お騒がせしてすみません」

「なかなか個性的でいいですよ。天蘭院さんのことを大事に思っているのね」

 呑気すぎるぞこの先生。


 美永瀬 加菜恵。

 天蘭院家に昔から仕える、美永瀬家の長女だ。

 本来なら主である天蘭院を影から支えたり、邪魔になるものを排除する役割をするのだが、この二人には主従関係がもはや存在しない。

 美永瀬のあまりの懐きっぷりは常軌を逸している。

 天蘭院に近づく男は大抵こいつによって病院送りにさせられている。しかも氷漬けにされてだ。

 でもちゃんと他の友達とも仲良くやっているので、天蘭院に関して無理に追求しなければ大丈夫だ。


 それから全員の自己紹介が終わり、明日からの部活勧誘期間についての連絡を聞いて終わった。

 明日から五日ほど、勧誘期間に入るので関係のない生徒は基本的に休みだ。

 俺は部活には入っていないので休めるはずなのだが、よりにもよって補助をすることになってしまい、登校する羽目になってしまった。

 理由は他にもあるのだが・・・。

 さらには前日の準備にまで駆り出されるという始末だ。

 しかも・・・。

「それじゃあ行こっか。天ヶ咲君」

「・・・・・・」

 HMが終わり、席を立とうとした時に後ろから話しかけられる。

 黙って振り返るとそこには天蘭院がいつの間にか立っていた。

「これから明日の準備だっけ?」

 カバンを背負いながらオルスレッドが立ち上がる。

「そうよ。今年は結構優秀な生徒が入って来たってどこの部活も気合が入ってて、忙しいのよ。それに、どうしても補助霊術が必要になることが多いから天ヶ咲君にも頑張ってもらわないといけなくて。ごめんなさいね」

「・・・・・・」

 すまなさそうにする天蘭院を無視して集合場所へと向かおうと歩きはじめると、突然目の前に人が立ちふさがる。

 俺より背が低く、前を向いていたせいで頭の部分―――髪の毛しか見えなかった。

 しかもその髪が猫の耳に見えてしまうような髪型だ。

「ちょっと天ヶ咲。綾香が話しかけてるのに返事くらいしなさいよ」

 ビシッ、と指を指しながら美永瀬が睨んでくる。

 それも無視して俺は教室を出て行く。

「な、ちょ・・・こら! 無視するなー!」

 後ろで美永瀬が叫んでいたが振り返ることはなかった。


「いつもごめんね、天蘭院さん」

「オルスレッド君は気にしなくていいよ。私、なんか嫌われてるみたいだし」

 桜華がいなくなった後、オルスレッドは桜華の無礼に対して謝っていた。

「まったくよ。何? あいつの態度。綾香がせっかく話しかけてくれてるのに無視してくれちゃって」

「美永瀬さん。さっき自分で天蘭院さんに男は近づくな的なこと言ってなかった?」

 珍しくオルスレッドが呆れ顔をする。

「男から話しかけるのに対してはあたしは抗議するけど、綾香から話しかけたのなら別。ちゃんと返事してくれないと」

 言っていることが無茶苦茶だ。

「それより綾香。早くいかないと送れちゃうよ」

「あ、本当だ。それじゃあね、オルスレッド君」

 そう言って二人は教室を出て行った。

 教室にはもうオルスレッドしか残っていなかった。

「あんなに優しい子を殺そうとするなんて、桜華はどうかしてるよ」

 静かな教室に小さな声が響く。

 耳を澄ませば外の声が聞こえそうな程の静かさだ。

「でも、そう簡単にはいかないよ桜華。この学園がエクソシスト教育学校ということを忘れちゃいけない。骨のある奴はいくらでもいるからね」

 そう言ってオルスレッドの姿が消える。

 もうそこには誰一人として残っていなかった。


                   ◇


 蓮桜学園第二体育館。

 体育館と言っても大半が倉庫のようなもので、ここでは道具を使った実習が行われることが多い。

 そこに各部活と各委員会の部長と副部長達が集まっていた。

 皆椅子に座っていた。先ほど明日の事に関する連絡が終わって、渡された資料を呼んでいる所だった。

 説明が終わったのならばすぐにでも出て行けばいいのだが、そうはせずに待っているのだ。

 何を待っているのか―――それは、今日の分の補助霊術を掛けてくれるのをだ。

 奥の部屋では最初の数人が霊術を掛けてもらっている。

 数分で終わるので、全員が終わるまでこの人数だと三十分といったところだ。


「rise・amplification / an effect」

 無詠唱の短い霊術が発動して俺の前の数人の体が光に包まれる。

 今俺が使ったのは身体機能と、霊力の効果を向上させる霊術だ。普通なら一つ一つ別々にするのだが、俺は一度に三つ発動した。

 掛けられた生徒はそれぞれ礼を言って部屋を出て行く。

 そして新しい生徒が入ってきて、また霊術を掛ける。

 同じ事を十数回ほど繰り返すとようやく本日の仕事が終了した。

「お疲れさん」

 一息ついて体の力を抜くと、後ろから話しかけられる。

 振り向きそこにいたのは、女子にしては背が高く、目つきは少し鋭い。髪はショートで体格は他の女子が恨みを籠めそうな程スラッとしている。腕は細くて一見ひ弱に見えなくもないが、力はかなりある。

「・・・何しに来たんですか、隼美先輩」

「何しに来たとは酷いな。折角様子を見に来てやったのに」

「見回りに行かなくていいんですか」

「私が行かなくても他の連中が頑張ってくれるさ」

 そう言って彼女は俺の向かいに椅子を出して腰を下ろす。


 彼女の名前は(はや)() ()(さと)

 蓮桜学園風紀委員会の委員長だ。

 そして、四年生の生徒理事会会長の天上院に仕える人だ。

 その腕はこの学園のトップ3に入る実力だ。

 四年、『氷の女王』の異名を持つ天上院。同じく四年、風紀委員会委員長の隼美 千慧。また同じく四年、部活長の天城(てんき)(しん) 重次郎(じゅうじろう)だ。

 十二天族落ちとされた天城臣家だが、誰もその事を罵ったり嘲たりしなかった。

 天城臣家は戀国の為に他国と戦い、その最中に当時の十二天族だった朗天橋の策略にあい責任を押し付けられ、十二天族の称号を剥奪されたのだ。

 後から俺の父さんが事の真実を突き止め、朗天橋を十二天族から永久落ちにさせた。

 本来ならそこで十二天族に戻れたのだが、天城臣家は十二天族選抜会議で正当に戻ると言い張ったのだ。

 しかし、それから天城臣家は何故かその会議に出席していない。


 この三人が蓮桜学園トップ3で、三年間、十二校対抗戦で負けなしだ。

 三強や三神などと呼ばれている。

「用事がないなら俺は帰りますよ」

「まったく釣れない奴だな。少しは世間話でもと思って来たんだがな」

「そんなこと必要ありません。それでは」

 立ち上がり、軽く礼をして部屋を出て行こうとすると、

「ああ、そうそう。咲恵がお前に会いたがってたぞ。今なら理事会室でお茶でもしてるんじゃないか?」

 その言葉に一瞬動きが止まる。

 あの人が俺に会いたがっているのは毎日の事なので今回も無視していいだろう。

「隼美先輩、言わなかったことにしてください」

「聞かなかったじゃなくて、私が言わなかったことにするのか!?」

「よろしく」

 今度こそ体育館を出て、家へと帰ることにした。


 翌日。

 部活動などに入っていない生徒は基本的に休みなのだが、俺は朝早くから学校に来ていた。

 今日は朝から最終確認と準備を行い、不足がないか確認して万全にするためだ。

 俺はと言うと、その後に全員に補助霊術を掛けなければいけないので、他の連中が来るまでに大規模な霊術の準備をしなければいけない。

 昨日集まった第二体育館へ行き、入り口付近で立っていた風紀委員に来たことを告げ、ついでにこれから準備をするので三十分くらいで完了することを伝えてもらい、体育館裏にある少し空けている広場に行く。


 裏に回り込むと、直径三十メートルくらいの丸の形をした広場が現れる。

 その周りに等間隔に切り株が残っており、それらは地面に描かれた円の上にある。

 ここは俺が今回のような大規模な霊術をするために作らせた場所だ。

 いくら霊核剥離で規格外の存在だからと言っても、苦手分野の霊術を発動するのにそれなりの準備がいる。

 カバンから小さなケースを取り出す。

 中には色取り取りの霊石が入っており、その中から五つ取り出す。

 それを切り株の上に載せて行く。赤、青、黄、白、黒色の霊石が置かれると宙に浮かび、光り出す。

 そして光の線で結ばれる。上から見ると丸い光の円の中に五つ星が見えるはずだ。

 この後何十人―――いや、下手すれば百人以上の生徒に掛けなければいけないので、来るまでにこの陣の中に霊術陣を組み込んで、無駄を削ぎ落とさなければならない。いくら俺でも疲れることは疲れる。

 時間が無いので早速作業に取り掛かった。


 それから三十分きっかりに隼美先輩に連れられて第一陣がやってきた。

 去年とはやり方が少し違うので、全員が驚いていた。

「ほらお前達。天ヶ咲が疲れるだろ。さっさと円の中に入れ」

 隼美先輩に急かされて全員が円の中にはいる。

 全員が入ったのを確認して発動する。

「W rise・amplification / an effect」

 霊石が光だし、それにつれて中の生徒の体も光に包まれる。

 時間にして数秒で身体・感覚機能及び霊力の運用、効果の増幅が完了する。

 皆あの短い間で補助と強化がされたのか不思議そうな顔をしていたが、霊力を練ったり飛び跳ねたりして確かめるとあまりの違いに驚愕していた。


 それから一時間ほどで全員に霊術を掛け終わった。

 さすがに今回は疲れた。

「・・・ふぅ~」

「今回もご苦労さん」

「・・・・・・」

 そう言ってタオルを投げてくる。

 俺は黙って受け取り、汗を拭く。

「礼もなしか。まあ、いつものことだけどな」

「・・・隼美先輩はいいんですか」

 一応先輩なので敬語は使っておく。まあ、あの人の仕える人なのもあるのでこちらも一応敬意は払っておく。と言っても、時々敬語を使わない時があるが。

 霊石を見ていた先輩は話しかけられて振り返る。

「ああ、構わないよ。いくら君の補助と強化霊術で強くなっているからと言って、あれ位を抑えられないなんてことはない」

 今回は何故か自棄になったので結構大幅に強化させたのだが、どうやらそれでもまだまだらしい。

 対象者があまり強くなかったと言うのもあるが、やはり三神の名は伊達じゃないということか。

 俺が卒業する時には四年の実力者達はいなくなっているので、邪魔をされることはないと思うが、用心するに越したことはない。

 それに、三年や二年にも腕の立つ奴はいる。

 噂だが、天蘭院には隠れ親衛隊が形成されていると風の噂で聞いたことがある。

 そいつらの実力がどれだけのものかは知らないが、俺の邪魔をする奴は容赦しない。

「ほら、集めておいてやったぞ」

 そう言って俺に五つの霊石を渡す。

「ありがとうございます」

 霊石を受け取り、ケースにしまう。

 その様子を先輩は興味深そうに見ていた。

「いったい幾つ霊石を持っているんだ?」

「・・・さあ。数えたことはないですね。でも各属性を数個ずつは持ってます」

「よく手に入るもんだ」

「この手の物を扱っている人が知り合いにいるので、安く売ってもらっているんです」

「・・・咲恵か」

 先輩はどうしようもないな、というような顔をして溜息をつく。

 霊石は製造方法が難しく、採取場所、発掘難易度が高いのでなかなか手に入らないのだ。中には祓魔師などの資格がないと入れない場所もある。

 そんな貴重な霊石を一般人と思い込んでいる俺に売るのはどうかしているらしい。

 まあ、これはあの人自ら採りに行った物だから、誰も文句は言えないのだが。

「それじゃあ私はそろそろ戻るとするか。君はしばらく休むと言い」

「・・・お言葉に甘えさせていただきたいところなんですけど、生憎そうはいかないので」

「ははは、また咲恵か。ま、頑張れ」

 そう言って手を振りながら先輩は警備に戻って行った。

 委員長は基本本部でいるのが普通なのだが、あの人はお祭り(騒動や喧嘩)が好きなので、自分からトラブルを見つけては飛び込んでいくのだ。

 俺は一息ついてから、後はあの人に見つからないように勧誘期間が終わるまで逃げ続けることが俺の最優先事項となった。

 ちなみに、勧誘期間中に学校から逃げ出せば、速攻で捕まってしまう(あの人に)ので、学園内を逃げ回るしかないのだ。

 そんな訳で、今年最初のイベントが始まった。


昨日は忙しくて更新できませんでした。

もうしわけありません。


今回は特別に更新します。

次からは今まで通り、土・日曜日に更新しますので、

よろしくお願いします。



よく考えてるんですが、

もしかしたら二章、

案外早く終わるかもです。

いや、長くなるのかな?

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