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第二十話「不安な始まり」

 蓮桜学園には体育館が五つほどある。

 そのうち、学年集会や全校集会になどに使われるのはここ、第一体育館だ。

 全校生徒四百人が入ることが出来、さらに保護者までも入ることが出来る。と言うか余裕で千人以上入れそうな馬鹿でかい体育館だ。俺達が来た時にはまだらだった椅子が、ちゃくちゃくと埋まっていく。

「そういえばオルスレッド。お前はなんで一組になれるんだ?」

「ん?」

 ここに来るまでの話で俺が一組にいても不思議ではないことが、多分わかった。でもこいつが一組にいることはわかっていなかった。

「ああ、そのことか。簡単な話だよ。僕の立場を利用させてもらっただけだ」

「お前の立場・・・なるほど。『記録者』か」

「その通り。ちょっと一組に気になる人がいるから、記録させて欲しいって頼んだんだよ」

「ご苦労なことで」

「ちなみに、その記録対象は君なんだけどね」

「・・・・・・」

 俺はいつも作り物の笑顔を絶やさないオルスレッドを半眼で睨む。


『記録者』

 世界中の表裏の事情や社会と言ったものを記録する一族―――と言っても、記録者達は血が繋がっていない。まったくの赤の他人だ。

 彼らに共通するのは、皆並外れた観察眼と記憶力だ。観察眼の方はどんな些細なことでも見逃さず、記憶力は見たもの聞いたものを決して忘れないと言う完全記憶が必要となる。

 記録者は記録対象もしくは観察対象について必要な記録が終わるまではそこに留まるが、彼らは基本的に放浪していなければならない。世界に干渉せず、傍観者であり続けながら世界の出来事を記録していく。それが彼ら『記録者』だ。


 その『記録者』であるオルスレッドは、『霊核剥離』である俺を記録するためにこの学園に留まり、世界に干渉することをお偉いさんから言い渡されたそうだ。

 もっとも、命令がなくても自分の意思で留まったそうだが。

 俺としては邪魔をされないのならば何をしても構わないので、そのままにしている。

「お前も物好きだな。俺なんかを記録して楽しいか?」

「他の人はともかく僕は楽しいよ。今までの霊核剥離は発見されればすぐに結界の中心核として幽閉されて終わりは決まっていたからね。でも君は違う。原理は知らないけどそのネックレスが霊心の殻を作り、霊核剥離だとは誰も気づかない。だから君はここにいる。そして君は普通の人とは外れた道を歩んでいる。それを記録するのが僕は楽しいね。僕の趣味は他者の人生の収集だから」

「・・・相変わらず変わった奴」

 またもや笑顔を返すだけだった。


 そんなことを話しているうちに、全校生徒が集まったみたいだ。

 ついさっきまで騒がしかった体育館内は耳が痛くなるほどの静けさを始める。これから小さくても私語をしようものなら名指しで注意される。

 四百人以上いる中で、名指しで注意されるわけがないと普通の人なら思うが、今壇上に登り、鏡台の後ろに立つ彼女には朝飯前だ。

 属性外霊術の一つ、空間霊術のおかげでこの体育館内の事が手に取る様にわかるのだ。


 生徒会長が代々受け継ぐ霊術―――『区域視覚(エリアビジョン)


 古代霊術であるその術は、初代生徒会長が得意としていた空間霊術で、伝統のように受け継がれているのだ。

 指定した区域を3Dで捉え、異次元感覚で視ることが出来る。これにより、この体育館内で彼女にわからないことはないのだ。

『それではこれより、第五十二回蓮桜流蘭学園の入学式および始業式を始めます。まず初めに、私は蓮桜学園三年生徒会長の天蘭院 綾香といいます。新入生の皆さんよろしくね』

―――ザワザワ

 天蘭院のあいさつに新入生がざわめく。

「三年生が生徒会長!?」

「四年生じゃないのかよ」

「天蘭院ということは・・・十二天族か!」

「それに綾香って言ったら『炎天の女神』の天蘭院 綾香?!」

「マジかよ・・・」

「綺麗・・・」

 と、新入生がいろいろな意見や感想を抱く。

 無理もない。

 蓮桜学園の生徒会長は普通、後期の生徒会長選挙で決まり、基本的に三年生がなり、翌年の四年生の後期までするのが今までだった。

 天蘭院は二年生で三年生に勝って生徒会長になったのだ。入学当初から生徒会入りしていればこんなものだろう。

『お静かに。それではまず、新入生代表の方お願いします』

 壇上に金髪の髪をツインテールにして、その髪を見事なカールにした女子生徒が上がり、毅然とした姿でマイクの置いてある鏡台に向う。

 というか、どこからどう見ても・・・、

(お嬢様だね)

 俺の考えを呼んでいたのか、オルスレッドが念話で話しかけてくる。

(しかも典型的な我が儘お嬢様だ)

(・・・確かにな。そう言えばどっかで見たな)

(そうなの?)

 あの手のお嬢様は俺は嫌いなので覚えることはないが、やはりどこかで見たような気がする。

 そんな事を考えていると、新入生代表が礼をして用意していた紙を広げる。

『暖かな陽光がふりそそぐ春の訪れとともに、ワタシたち四百十名はようやく入学の時を迎えました。本日はワタシたち新入生のために、このような盛大な式を挙げて頂き、誠にありがとうございます』

 自信に満ちた声が体育館に響き渡る。

 容姿から想像は出来たが、やはり声もお嬢様っぽく少し甲高く、それでいて子供のような声だった。

 あれが新入生代表でいいのか。ほかの新入生は何をしているんだ。あんなのに代表の座を取られたら後で何が起こるか分かったもんじゃないぞ。

『―――新入生代表、一年一組、(べに)快天(こうてん) 朱雀(すざく)

 新入生の宣誓が終わり、拍手が送られる。

(ねえ、桜華。あの子、今『紅快天』って言ったよね。もしかして・・・)

 そこでようやく思い出す。

(思い出した。十二天族の一つ―――紅快天家の末っ子だ。一度だけ出た十二天族のパーティーで見たことあるな)

(これで十二天族が一つの学園に五つ・・・か。一年の紅快天。二年の神童と言われている天津神。三年の天蘭院と天ヶ咲。四年、『氷の女王』の異名を持つ生徒理事会会長の天上院。これは何かあるね)

 物思いに耽る様に宙を見つめながら念話を送って来る。

 確かに、一つの学園にここまで十二天族が集まるのは珍しいが、天ヶ咲家以外は兄弟姉妹が結構いるので集まっても不思議ではないと思う。なんせ一夫多妻制を認めているのだからな。

 それに、一年生はまだ知らないだろうが、二年から四年には俺が十二天族ではないという嘘が知られている。

 中には知らない奴もいるが。

(それより、あの容姿や髪型から見てやっぱり・・・)

(ああ、超が付くほどの我が儘お嬢様だ。出された料理にケチつけてたからな。おかげで俺の家の料理長の首が飛ぶところだった)

(・・・何をやったのさ)

 隣でオルスレッドが片手で額を抑えて呆れている。

 あれを思い出すだけで俺も呆れてしまいそうになる。

(別に何も。あのお嬢様の舌に合わなかっただけだろ。それより・・・)

(それより、何だい?)

(・・・面倒なことになるな)

(?)

 これから先に恐らく起こるであろう事を考え、自然に溜息が漏れる。


 その後も式は順調に進み、ようやく退場となった。

 一年生はこの後、明日のオリエンテーションの説明を受け、二年生から四年生は明日の準備に取り掛かる。関係のない生徒は自由下校になる。

「桜華はこの後どうするんだい?」

 教室に戻るなりオルスレッドは帰る用意を始める。

「帰りたいが・・・帰れない」

「ああ、あれか」

「ちっ、めんどくさい」

 今からでもばっくれてやろうかと思った時に、教室の扉が開き、先生が入ってくる。

「みんな~、席に着いてね~」

 そんな事を言いながら入って来たのはどう見ても先生とは思えなかった。

 サイドに結んだ髪型と身長、そして童顔のせいだろうか、見た目が俺達と同世代・・・もしくはそれより下に見える。

『・・・・・・』

 その・・・あまりにも幼児っぽい姿に、クラスの全員が言葉を忘れ立ち尽くしていた。


―――えっと、先生・・・だよな?


 この時のクラスメイトの意思が一致したことは言うまでもなく皆が感じた。


「それでは、この後オリエンテーションの準備がある人もいると思うので、簡単な自己紹介と連絡だけで終わりにします。自己紹介は自分の名前と今後のクラスでの関係の為に得意属性、あと何かあればそれもお願いしますね。じゃあ、名前の順から行こうかな」

「まずは先生からの自己紹介じゃないんですか~」

 クラスメイトが茶化しながら先生の自己紹介を促す。

 こいつら、見た目があれなんで遊んでやがる。

「そ、そうね。それじゃあまずは先生からね」

 そう言って大きく深呼吸をその場で二回する。駄目だ、どう見ても子供にしか見えない。

「今年、この三年一組を担任として受け持つことになりました、メアーユ・アル=ラナサです。得意属性は水属性と、少しですけど治癒霊術を使えます。あと、呼ぶときはメアーユ先生と呼んでください」

「え~、メアーユちゃんでいいじゃん。それかいっそのこと、ラナサちゃんとか」

 先ほどの生徒が他の生徒と笑いながら言っている。完全にふざけてるな。

 横目で見ていると、前から静かなる怒りのようなものを感じたので視線を前に向けると、そこには鬼の様なオーラを漂わせたメアーユ先生が満面の笑みでふざけている生徒を見ていた。

「メアーユ・先・生です。分かったかな? そこの君」

「だから、堅苦しいのはなしで・・・」


―――ポンッ


「イデッ!」

 何かが破裂するような音の後に、その生徒は急に腕を抑えて倒れ込む。

 周りの生徒が声を掛けながら近寄ると、彼の右腕から血が出ていた。直径一センチほどに陥没したような跡があり、そこから血が出ているのだ。

「あんまりおいたが過ぎると、今度はもっと酷いことになるからね♪」

『・・・・・・』

 全員が言葉を失った。

 この学園では、言う事を聞かない生徒に対して、先生は少なからず手を出していいと言う教師らしからぬ許しがあるとはいえ、実際に手を出す先生は殆どいない。

 まあ、実技担当の先生なんかは容赦なく手を出しているが。

 しかし、今この先生は霊術を用いたぞ。いいのか、先生として。

 この学園のこの先が不安になって来た。

 せめて卒業式までこの学園があるといいが。

「楽しくするのはいいですけど、切り替える所と、生徒と教師と言う事を弁えてくださいね」

 そう言って指を振るうと、そこから淡いピンクの光が先ほどの少年の所まで伸び、腕に纏わりつき傷を治した。

「さ、それでは皆さん席に着いて・・・。それじゃあ、名前の順からお願いね。まずは、天ヶ咲君からね」

 名簿見ながら名前と顔を確認している。

 俺は立ち上がり、さっさと終わらすことにした。

「天ヶ咲 桜華。得意属性はなしで主に属性外霊術を使います。それと、知っている奴もいると思うが、俺は十二天族の天ヶ咲 桜華ではなく同姓同名なだけの赤の他人なので。以上」

 必要事項だけを言って座る。

「あれ、十二天族じゃないんだ。十二天族が二人もいるって思っちゃった。でもこんな偶然ってあるのね」

 この先生、俺の情報資料を呼んでいないのか。備考欄にちゃんと書いていたはずだが。

 エクソシスト教育第三高校には一応本物の天ヶ咲 桜華がいることにしてあるから、先生なら知っているはずだ。

 まさか、知らないなんてことは・・・ないよな?

「じゃあ、次の方どうぞ」

「どうも、オルスレッド=J・S=ヴェルといいます。基本的に全属性を使えるんですけど、遠距離霊術が得意です。あとは、固有霊術として領域干渉系の霊術を使えます。それと一応僕は立場上記録者なので、何か面白い話や奇妙な話があったら遠慮なく教えて欲しいな」

「君が記録者だったんだ。その歳で一人で記録者を名乗れるなんて凄いね。それに、もう固有霊術を習得しているなんて、流石というところね」

「それほどでもないですよ。僕以上の同朋はたくさんいますよ。それよりメアーユ先生、さっきのどうやったんですか?」

 オルスレッドが聞いているのは恐らく、先生から被害にあった生徒の腕の傷についてだろう。

 確かに、あれはなかなかお目に掛かれない霊術だ。

 だが、相手の霊術に関してどのような物なのかを詮索するのは基本的に御法度だ。

「残念だけど、いくら記録者でもそれは教えられないかな。それじゃ、続いて行きましょう」

 そんな感じで自己紹介が続いて行く。

 席に着いたオルスレッドは小声で話しかけて来た。

「ね、桜華。さっきのどうやってたの?」

「・・・他の奴の霊術、特に公に明かされていない霊術に関して詮索するのは御法度なのはお前も知っているだろう」

「そうだけど、気になるんだよ。水属性が得意って言っていたけど、水属性ではあんなことは出来ないと思ってさ」

 確かに、水属性の特性からすれば不思議に思うのも頷ける。

 だが水属性の特性―――援護能力と言うのは、半分しか当たっていない。

「・・・水属性の特性を言ってみろ」

「援護能力・・・?」

「それじゃあ、半分しか正解してない。援護能力と言うのは、水事態に攻撃的要素が見出せない事からそう言われただけだ。そもそも五源属性に特性を付ける時点で間違っている。もともと五源属性に一つの特性なんてない。あるのはその属性を使役すると言う『特徴』だ。それを、霊術を研究する中で、最も表に現れているのを特性としただけ」

「と言うことは、あの先生は水本来の特徴を使ったってわけ?」

 黒板の前で元気よく生徒の自己紹介を聞き、何かコメントを言っている先生をオルスレッドは見る。

 今思ったけど、あの人はいったい何歳なのだろうか。

 誰か勇気のある奴―――いや、この場合はアホなやつか。誰でもいいから聞かないかな。

「それでそれで、水本来の特徴って何?」

「そのままだ。霊力を使って水を操れるという特徴―――水を使役する力だ。先生の場合は水を水として見るのではなく、もっと身近に、それこそ友達感覚で水を操ったんだろう。今回は対象者の肉体の水分を凝縮し、発散させたと見ていい。しかも、威力を上げる為に極小規模の空間系霊術も使っていたから・・・おそらく、水を無理やり状態変化させてる。得意霊術は水蒸気爆発系と見て間違いないだろう」

「へ~、なるほど。見た目に反して案外恐ろしいことするね。メアーユ先生って」

「あれなら人を簡単に殺せるな・・・うん、あれもありか」

「・・・物騒なこと考えてないよね」

 オルスレッドがジト目で見据えてくる。

「物騒なこと・・・ね。別に、考えてない」

 どうやれば俺の憎しみや怒りが収まるのかなんて考えてない。おそらく、この感情は一生消えることはないだろう。

 あいつを絶望に落とすために、あいつの最愛の娘をどうやって殺すか。

 炎で火炙りにしたり、水で窒息死させたり、電撃で感電死させたりとか。地面の中に生き埋めにしようとか、空から落すか、極寒の寒さで凍結死さそようとか、骨を一本一本死なない程度に折ってやろうとか、先生の術を使って、体の中の水分を凝縮して爆発させようとか・・・。

 そんなことは一切思ってない・・・はず。

 復讐はするが、どうするかはまだ決めていない。あと二年程あるのだからゆっくり考えることにするか。

「今、かなり物騒なことを考えていただろ」

「・・・・・・」

 返答に困り、いつものように無視して自己紹介がどこまで進んだのか確認すると、半分ほどが終わっていた。


この調子だと、

二章はどれくらい長くなるのでしょうw

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