第十九話「桜舞う季節」
雪がなくなり、寒かった日々が終わりを告げて少しずつ暖かな日が増えてきた。
季節で言うなら―――そう、春だ。
所々に見える木は小さな蕾を付けているのもあれば、桜のように満開に咲き誇っているものもある。
町には春物の商品が並んであったり、冬を越してからしか手に入らない物も出ていた。
行きかう人々は和やかな表情をしている人もいれば、真新しい制服を着て友達と楽しそうに話しながら歩いている人もそこかしこで見かける。
そんな―――この春から新しい学園生活や新たな年度の始まりで賑わっている中で、新入生よりも、町の光景よりも人目を集めている学生がいた。しかも一人ではなく、それも、全員に決まって共通点があるのだ。
白色のカッターシャツに紺色の制服用ズボン。ここまでは他にも同じような服装の学生がいるのだが、その上からはブレザーや学ランを着るのではなく、朱色のコートのようなものを着ている。
足首まで長く、後ろ腰からは下に裂けていて、前のボタンを付けても拳二つ分くらい開いており、下のシャツやズボンが見えている。
しかも、同じ服装の学生に限ってどこかに金色の鎖をつけている。
手首から垂れていたり、腰回りにゆるくつけられていたり、後ろ腰から分かれている下の方でそれぞれを繋ぐようにつけられていたりと、さまざまなつけ方がされている。
彼らは皆俗に言う不良などでもなんでもない。
なぜなら彼ら彼女らを見る人は皆、尊敬や羨ましさ、憧れといった眼差しで見ているからだ。
そして、もっとも特徴的なのは校章である。
朱色のコートなのに、その存在は目立っている。
ピンク色の桜と、紺色の蓮の花のイラストが重なり、その上からは少し暗い黄色い字で『蓮桜』と書かれている校章。
彼らは皆、この町―――戀国最大にして戀国の中心都市、『アトラント』にあるいくつもの高校の中で唯一、祓魔師や悪魔祓い師といったエクソシストを目指す者を教育、育成している高校の生徒なのだ。
高校のカテゴリで分けると、エクソシスト教育高校になり、戀国内で十二校設立し、その中でもアトラントにある第一校に彼らは向かっている最中だった。
アトラントの中心に大きくそびえ立つ、一本の樹。
その近くに彼らが通う学園―――私立蓮桜流蘭学園高等学校がある。
毎年優秀な生徒を送り出していることが有名で、受験者数は軽く十万人を突破する。よって、試験は筆記試験と実技試験を計十回ほど受けなければならない。それで受かるのが百人程。千人に一人受かるか受からないかという確率だ。
四年制を採用している私立蓮桜流蘭学園―――通称、蓮桜学園は全学年を合わせると四百人ちょっとしかいない。もっと増やした方が良いと思うのだが、教師不足なのだ。しかし敷地はかなり広い。生徒約四百人に対して敷地がデカすぎるのだ。おかげで毎年新入生が少なからず迷子になり、上級生が探索に駆り出される。
しかも卒業してエクソシスト専門大学に行く人数は、各学年で二十人いるかいないかだ。
そんな蓮桜学園の校門から校舎までの道のりは、両サイド桜の木が等間隔で埋まっており、入学式兼始業式のこの日に満開に咲き誇っている。
校門には『新入生御入学おめでとう』と、大々的に書いてある看板が立っている。
新入生はこれからの学園生活に心躍らせ、在校生はそんな新入生を笑いながら見ていた。
そんな中、一人で桜道を歩いている生徒がいた。ネクタイの色は赤で三年生を表している。身長は他の学生よりは少し高めで、百八十五センチ程。目つきは少しきつく、大人びた顔立ちをしている。体格は周りから見る限り痩せ型。そしてその少年は、首から銀色に輝く複雑な形をしたネックレスをつけていた。
◇
いつものように学園に登校すると、何故かいつもより騒がしく、真新しい制服着た同じ学園の生徒が、横を通り過ぎていた。
そういえば今日は始業式に加え入学式もすると言っていたことを思い出す。また忙しい日々が始めるのかと思うと、溜息が漏れそうだ。
そんな事を思いつつ、クラス発表の掲示板を見に行く。
普段より早く来たと言うのに掲示板の前は同学年の生徒でいっぱいだった。そんな中に割って入る気は当然起こらず、少し離れた所から見ることにする。幸いにも紙が後ろからでも全部見れる位置まで上げられていた。
「さて、今年は何組かな・・・」
自分の名前を探す。これまた幸いに、俺の苗字は『天ヶ咲』で、『あ』から始まるので大概は一番目に来る。
そして、探し始めて五秒も経たないうちに自分の名前を見つける。
「また一組か。どうして俺がいつも一組なんかになれるんだ?」
これで三年連続一組だ。
蓮桜学園は各クラス二十人程でクラス分けされており、一学年五クラスある。
そんなクラス分けの中、一組と五組には成績優秀者が集まる事が多いのだ。
確かに俺は十二天族の人間だが、学校側にはその事は隠してある。理由はいくつかあるが、一番の理由は―――復讐のためだ。
―――七年前。
俺の大切な人を殺した天蘭院 志恵那が、この蓮桜学園の理事長をやっているのだ。
何があったのかわからないが、天蘭院はあの日から少しして急にエクソシストを止めてこの学園の理事長になったのだ。しかもほとんど外には出て来なくなった。
復讐を果たすためにこの学園に入学し、卒業式の日まで大人しくしていることにした。
卒業式の日には何故か天蘭院は現れるのだ。
そのため、俺は十二天族であることを隠し、留年しない程度にやって来たのだ。学園には同姓同名の他人ということにしている。これには父さんにも協力してもらった。
さらにどう言う訳かこの三年間、一組から外れたことがない。いったいどういう訳なんだろうか。
そんな事を考えながら教室へ向かおうとすると、後ろから誰かが俺を呼ぶ声がした。
「や、桜華。相変わらず早いんだね」
その声に振り向くと、会いたくない奴がいつの間にか後ろに立っていた。
金髪で金色の瞳を持ち、髪の毛は後ろで少し括っている。俺と同じ赤色のネクタイを絞め、誰が見ても軽い奴と言う風な男子生徒が笑顔を向けていた。
「・・・・・・」
「ってちょっと。何で無視するの!?」
黙って歩きはじめるとそいつは横の並んできた。
「お前みたいな能天気で、常にふざけてて、しかも相手の事を勝手に調べ上げるような変人さんのことなんか俺は知らない」
「うわ。何とも酷いお言葉で。て言うか、がっつり僕の事知ってるじゃんか」
「・・・ちっ」
「なに、そのあからさまな嫌そうな舌打ちは・・・って、また無視ですか」
「・・・煩いな。何か用でもあるのか、オルスレッド=J・S=ヴェル」
しつこくついてくるオルスレッドに迷惑感をたっぷり含んだ言葉を放つ。
オルスレッド=J・S=ヴェル。それがこいつの名前だ。
一年の頃から妙に付きまとって来て、ほっておいたらこんな状態だ。一見何を考えているのかわからず、いつもぬらりくらりと面倒事を避けているのに、ここぞと言うときには普段では考えられない行動をする。
「一緒に教室まで行こうと思ってね」
「・・・何? まさか、お前も一組なのか」
「そうだよ。掲示板見なかったの?」
「自分の名前しか見ていない」
「だと思った」
いくら言っても諦めない事はこの二年間で嫌と言うほど身に染みているので、諦める。
それより、また今年もこいつと同じクラスなのか。ここまで来れば誰かが意図的にやっているとしか思えないな。
「・・・なあ、オルスレッド」
「おっと。桜華から話しかけて来るなんて珍しいじゃん。どうしたの?」
「大したことじゃないんだが・・・、どうして俺らが三年間も一組だと思う?」
その質問にオルスレッドは少し驚いていた。
「なんで驚いてるんだよ」
「なんでって・・・それ本気で言ってるの?」
「?」
オルスレッドは額に手を当てながら溜息をつく。
なんだか俺が一組にいるのが当たり前と思っているようだ。だが、十二天族ではないと偽り、筆記試験は進級の都合上、毎回一位を取っているが、実技試験は下から数えた方が早いはずだ。
成績やクラス分けをするうえで一番重視されるのは実技試験だ。
その実技で、表向きに成績の悪い俺達が一組にいるのはどう考えたっておかしいはずだ。
「あのねえ、桜華。君は十二天族でしょ?」
「学園には隠してある。お前も知っているだろ」
「確かにそうだけど・・・」
無駄に大きなグラウンドの端を歩きながら、教室棟を目指す。
俺達の他にも教室棟を目指している者や、グラウンドで朝早くから部活をしている者もいる。
「たとえ君が十二天族だということが知られていなくても、一組にいるのは不思議ではないと僕は思うよ」
「どういうことだ?」
「なんせ属性外霊術を使いこなすことが出来、しかもその一つ―――補助霊術の使い手となれば、その存在は貴重だからね」
「・・・・・・」
なるほど。そういう理由もあるな。
属性外霊術とは、五源属性なんかの火、水、雷、土、風や、稀属性の光に闇と違って、基本的に属性がない霊術の事を指し、中には無属性と言う奴もいるが微妙にニュアンスが違う。
無属性は単純に霊力を攻撃手段として使用するが、属性外霊術は基本的にバックアップや後衛での援護などに使われる。
そして、この属性外霊術を使うもの―――特にその使い手は稀属性以上にレアなのだ。なんせ基本属性が殆ど使えない代わりに、属性外霊術だけが持つ特殊な効果を存分に、しかも強力に使うことが出来る。
この二つは属性持ちでも使う事が出来るが、使い手よりは格段に劣る。
例えば俺が使う補助霊術。身体機能や感覚機能、さらには霊術の威力や効果、霊力の運用能力などを向上させることができる。
他には精神干渉霊術に幻影霊術、領域干渉霊術など他にもある。
まあ俺は属性霊術をがっつり使えるが。
「確かに、この学園でもなかなかいないな」
「そういうこと」
「・・・ちっ。なら五源属性にしとけばよかったな」
「桜華・・・それ、もし君の正体を知っている人が聞いたら絶対に怒ると思うよ」
校舎に入り、俺達のクラスの場所を確かめる。
三階、中央棟か。
階段を上って教室を目指す。
俺の正体ね。それを知っているのはこの学園では二人だけ。その内の一人が・・・、
「まったく。桜華にとって苦手な霊術が、僕達一般人から見れば凄腕の使い手だなんて・・・本当に『霊核剥離』って規格外なんだから」
こいつ―――オルスレッド=J・S=ヴェルだ。
「悪かったな、規格外の存在で」
「ははは、そんなに怒らなくても・・・あ、着いたよ。僕たちの教室に」
プレートを確認して扉に手を掛ける。
「人の気も知らないで・・・」
独り言を言いながら扉を開けた瞬間、
「おはよう、天ヶ咲君。オルスレッド君」
まるで待ち伏せしていたかのようにあいさつに、動きが止まる。
「・・・・・・」
黙って声のした方を向くと、そこにいたのは・・・、
「やあ、天蘭院さん。おはよう」
そう、そこにいたのは・・・俺の復讐相手である天蘭院 志恵那の娘―――天蘭院 綾香が立っていた。
燃えるように真っ赤な髪をポニーテールにして、瞳は闇を思わせるような純黒。目つきは少し釣り目で見た目はきつそうに見えるが、意外に面倒見が良く優しいと言う出来過ぎた女子だ。
その姿を見ると、あいつにそっくりなので沸々と怒りと憎しみが湧き出て来る。
「・・・・・・」
俺はあいさつをせず、黙って黒板に書かれている自分の席に向かう。名前の順なので最前列。しかも窓際と言う何とも言えない席だった。
「ごめんね、天蘭院さん」
「いいのよ。いつもの事だから」
苦笑いを浮かべる。
本人は気にしていないようにしているようだが、誰が見ても無理しているとしか思えない。
「綾香~」
「は~い、今行く。じゃあね、オルスレッド君。それと、今年も一年間よろしくね」
「こちらこそよろしく」
そう言って綾香は友達の所へと戻っていく。
オルスレッドも自分の席を確認する。まあ、名前の順なので必然的に桜華の後ろの席だ。
「あいさつをされたらちゃんと返さないといけないよ」
「俺がどうしようと俺の勝手だ」
「君の復讐相手は理事長のはずでしょ。天蘭院さんは関係ないはずだ」
「俺が誰に対して怒り、憎しみ、怨みを持とうと俺の勝手だ。それに、確かに復讐相手は天蘭院 志恵那だが俺はあいつを殺す気は全くない」
俺の言葉が意外だったのか、オルスレッドは少し目を開く。
俺の昔の出来事を知っていて、この学園に入学した理由まで知っているだけに、その言葉は信じがたいものだったのだろう。
「じゃあ、どうする気?」
「俺がされたように、奪ってやる。大切な人を、愛しい人を、守りたい人を目の前で・・・あいつの目の前で奪ってやる。そして、絶望のどん底に突き落としてやる」
拳を強く握りしめる。あまりにも強く握りしめたせいで爪が肌に食い込むが気にしない。
「じゃあ、君が卒業式でやろうとしているのは、もしかして・・・」
「ああ、その通りだ。あいつには悪いが・・・俺の復讐の為に卒業式で死んでもらう」
俺は教室の真ん中辺りで友達と楽しそうに話している、赤髪ポニーテールの少女・・・天蘭院 綾香を見る。
そうして笑っていられるのも今の内だから、精々楽しんでおくんだな。
「相変わらず考えることがえげつないね、君は」
「そんな俺に付きまとっているお前も十分えげつないと思うぞ」
その言葉にオルスレッドは笑顔を返すだけだった。
それからしばらく教室にいると、アナウンスが流れる。
―――ピンポンパンポ~ン。
『全校生徒に連絡します。これより入学式兼始業式を始めますので、生徒は第一体育館までお集まりください。繰り返します・・・』
「よし、それじゃあ僕達もそろそろ行こうか」
俺は無言で立ち上がり、第一体育館へと向かった。
長らくお待たせしました。
テストが終わったので、土曜日、日曜日ではないですけど更新しました。
え~、
ここまで読んでいただいて分かったと思いますが、
桜華の性格をかなり怖い性格にしました。
まあ、
これが当初考えていた設定なんですけどね。
本当にこのまま書いていいのか迷っていたんですけど、
ここまで来たらいっそこのまま書いちゃえというようなノリで書きました。
納得いかない人もいると思いますが、
これからも読んでください。よろしくお願いします。
明日から連休なので、もしかしたら四日連続更新するかもです。
明日と明後日は必ず更新します。
それでは、
第二章もよろしくお願いします。




