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第十五話「対面」

 翌日の朝。

 僕は玄関先で不機嫌な顔をしながら目の前に立つ人を見上げていた。視線の先にあるのは少し申し訳なさそうな顔をしているお父さんの顔だった。

 僕はその顔をもう一度睨みつける。

 別にお父さんに対して怒っているわけではない。ただ、納得がいかないだけだった。

「そんなに怒るな桜華。夕方には帰って来るし、お前の好きなケーキをもう一個買って来てやるから」

「別に怒ってないもん」

 プイッ、と顔を横に逸らす。

 確かにお父さんには怒ってはいないが、今日お父さんを呼びつけた人には心の底から怒っていた。

 どうしてこうなったのかは今日の朝、つまりつい先ほどに理由がある。

 今日の朝は久しぶりにユエラとリルによる過激な起こし方をされ、すこし不機嫌ながら朝ご飯を食べるべく食堂へ行くと、そこには何故かスーツ姿のお父さんが椅子に座っていたのだ。

「あれ、お父さんどこか行っちゃうの?」

「ああ、すまんな。今朝急に呼び出されてな。悪いが少し出かけることになった」

 この言葉が僕を苛立たせる原因になった。


 何もこんな日に呼び出さなくても。僕はずっと心の中でそんな言葉を繰り返していた。

 今日は八月二十一日。僕の誕生日だ。

 いつもなら朝から家族三人で遊んでいたのだが、今回に限ってお父さんが呼び出され誕生日会は夕方に持ち越しになってしまった。

 そんな僕の考えが分かったのか、お父さんは少し微笑みながら腰を低くする。

「帰ってきたら遊んでやるから」

「うー。絶対だよ?」

「ああ、約束だ」

 僕の頭に手を乗せて数回軽く叩くと、お母さんと僕に「いってきます」と言って、車に乗って行ってしまった。

 車が見えなくなるとお母さんが話しかけてきた。

「それじゃあお母さんはケーキを作るから、お父さんが帰って来るまで大人しくしていてね」

 そう言ってお母さんも台所へと行ってしまう。

 僕は家へと戻ると自分の部屋まで向かう。

 扉を開けて中に入るとユエラとリルは何故かいなかった。

「あれ、どこいったんだろ」

 部屋の中で隠れることが出来そうな所を探すが見つからなかった。どこに行ったのか考えながら、ふと窓の外から中庭を見ると噴水の近くにユエラとリルの姿を見つけた。

 なんだか楽しそうだったので部屋を出て急いで中庭へと走って行った。

 それから昼過ぎまで遊び、お昼ごはんを食べた後はいつものように書斎で本を読むことにした。


 お昼を少し過ぎた頃に、天ヶ咲家に一台の車が静かに停車する。

 黒塗りで隠密性が非常に高い車だ。

 それもそのはず。この車は十二天族の当主の一人である天ヶ咲 隆二が自ら手掛けた車で、エンジンを動かすためのエネルギーは操縦者の霊力で動く。車体には周りの景色と同化する機能も備わっている。

 さらに、一時的に速度を加速することが出来、音速とまではいかないが亜音速での走行が可能なのだ。

 そんな車を運転できる者は創った本人くらいのものだ。現にこの車は世に未だに出ていない実験車。ということは、必然的に乗って入るのは天ヶ咲 隆二本人となる。

 運転座席の扉が開き、中から出て来たのはやはりそうだった。

 朝方家を出た時と何ら変わりない服装だが、少しだけ手荷物が増えているくらいしか変わりはなかった。

 夕方頃に帰って来ると言っていたが、今はまだお昼を少し過ぎたあたり。まだ帰ってくるまでかなり時間がある。

 いったいどうしてこんなにも早く帰って来たのだろうか。

 隆二が車の扉を閉めていると、玄関の門が開く。

 その傍には隆二の妻である天ヶ咲 静奈が立っていた。まるで、帰って来るのを知っていたかのようだ。

「桜華は家にいるか?」

「ええ、いますよ」

 静奈に荷物を預け、家の中へと入って行く。

「どこにいるかわかるか?」

「あなたの書斎にいるみたいよ」

「・・・書斎か」

「どうします?」

 受け取った服を綺麗にハンガーにかけて静奈は向き直る。隆二はというと、腕を組みながら直立不動で目を閉じていた。

 その姿を見て静奈は少し微笑む。

 やはりこの癖はいつみても可笑しいと思う。

 隆二はいつも考え事をする時目を瞑って、考え事が終わるまで動くことが無い。しかもその間話しかけたことまでも覚えているくらいだ。

 時間にして僅か五分ほどで考えが纏まったのか、ゆっくり目を開ける。

「桜華とは二人で話がしたい」

「わかったわ。それじゃあ私は晩御飯の用意でもしてましょうか」

「ああ、そうしてくれ」

 話が終わったのか、静奈が部屋から出ようとした時、隆二が呼び止める。

「それと静奈」

「はい?」

「今夜のご飯だけどな、悪いが五人分用意しておいてくれ」

「五人分・・・ですか? 私とあなた。桜華にリルはわかりますけど、後の一人は誰ですか?」

「じきに分かる」

 少し意地の悪い笑みをしながら隆二は静奈を置いて書斎へと向かった。

 隆二たちの寝室や部屋があるのは三階で、桜華が使っている部屋の丁度真向かいにある。そして書斎は二回にあり、寝室の真下だ。

 静まり返った廊下を隆二は足音を立てずに歩いている。良く見ると、頭が常に同じ高さにあるのだ。

 普通なら歩くと同時に頭の位置が少し上下するのだが、まるで立っているように動かない。

 ある程度の武道家が歩くと同じような事が出来る。すなわちこれは、隆二がある程度武道の心得があることを意味している。

 その歩みが止まる。

 横を向くと、普段自分が仕事をする時に使う部屋の前だ。

 中には桜華がいる。ということはリルもいるだろう。そして、霊も。

 平静を装ってはいるが、内心は不安だらけだ。もし桜華の傍にいる霊が悪質なものならば排除しなければならない。そうすれば桜華は怒るだろう。それは力の開放に繋がる恐れがある。霊核剥離の力を制御出来ていない状態で暴走されれば、流石に手に負えなくなる。

 どうかそんなことにはならないように、どうか桜華の選択が、自分の選択が正しいことを願って隆二はノブに手を掛けた。


                    ◇


 お昼ご飯を食べた後はいつものように書斎で本を読むことにしたのだが、本を手に取って読んでみるものの、まったく内容が頭に入ってこなかった。

 というか、読むごとにイライラが増してきているような気がする。

 原因は分かっている。

 朝の出来事だ。

 物凄く楽しみにしていたのに、誕生日会が夕方からになってしまった。お父さんはお土産を買って来てくれると言っていたけど、お土産より皆でいる方が僕は嬉しい。

 そんなわけで、読む気が無かった僕はただ単に本を眺めていた。リルは相変わらず頭の上で寝ているし、ユエラは何か気になる事が書いてあったのか本を睨むように読み続けていた。

 どれくらい時間がたったのか分からないが、そろそろユエラが読み終わりそうだったので、この後の事を考えようとした時、

―――ガチャッ

 部屋の扉のノブが回される音がして慌てて振り向くと、そこには朝から出て行き夕方まで戻らないと言っていたはずのお父さんが部屋に入ってくるところだった。

「お、父さん?」

「桜華」

 お互い名前を呼んで確かめ合う。

 確かに目の前にいるのはお父さんだった。どうして今ここにいるのかという疑問で頭がいっぱいになる。

 隣ではユエラが気まずそうに僕たちの顔を交互に見ている。なんだか今にも泣き出しそうな顔だ。

「どう、して。夕方まで帰って来ないって・・・」

「ああ、やらなければいけない用事があったのでな。帰って来たのだ」

 そういって、僕の隣に視線を移す。

 その目はなにかを捉えたように一瞬輝き、小さく頷いた。

「用事って?」

「桜華。お前に話がある」

「・・・僕に?」

「そうだ。それと、そちらの女の子にもだ」

「・・・え?」

 今、なんて言った?

 お父さんはさも当たり前のように、自然と言い放った。


『そうだ。それと、そちらの女の子にもだ』と。


 ということはお父さんにはユエラが見えていることになる。

「ちょ、・・・ちょっと、お父さん」

「なんだ」

「お父さんには、霊が・・・ユエラが見えているの?」

「そうか、ユエラと言うのか。見えていても不思議ではないだろう。これでも私は十二天族なのだから。私には桜華が今まで気が付かなかったことが不思議だ」

 確かに霊が見えていても不思議ではない。むしろ見えていて当たり前だ。

 いくら知性があるからと言って、力のない者が十二天族なれる訳がない。どうして今まで気が付かなかったのだろう。本当に注意すべき人はお母さんではなくお父さんだった。

 自分の注意力のなさを悔やんでいると、お父さんが話を続ける。

「とりあえず二人とも椅子に座りなさい。床に座るなんていくらなんでもはしたないぞ。話はそれからだ」

「・・・・・・」

 僕とユエラは黙って椅子に座る。

 机を挟んで向かい側にお父さんが腰を下ろした。


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