第十四話「父親の決意」
『いただきます』
僕とお父さん、それにお母さんの声が同時に響く。
家族三人で晩御飯を食べるのってやっぱりいいな、と思ってしまう。
このところお父さんが仕事で忙しくて三人で晩御飯を食べるということがなかなか無かったのでテーブルの上はちょっと豪華だった。
お母さんを見るとちょっと・・・いや、結構ご機嫌だった。よほど嬉しいのだろう。お父さんも久しぶりに家族三人で食べるご飯は美味いと言っていた。
僕はというと、今日はいつもより霊力を使ったのでお腹がかなり減っていた。
いくら霊核剥離で普通の人より多く霊力を持っているからといっても、霊力を使えば使った分だけお腹は減るし、睡眠も必要だ。今回は五源属性を全て試してみたし、その前にマテリアルクリエイトの練習もした。結局マテリアルクリエイトは出来なかったけど。
「そういえば桜華」
黙々とご飯を食べていると、お父さんとの会話が終わったのかお母さんが話しかけてくる。
「・・・なに、お母さん」
返事に少し間があったのは少し嫌な予感がしたからだ。
お母さんはナイフとフォークを置いて両手を膝の上に置いている。こういう時にお母さんは結構僕の痛い所を突いてくる。
そのせいで少し身構えてしまいそうになる。
「桜華、あなた最近変よ。庭でリルと遊んでいるのかと思ったら誰も居ない方を向いて独り言を言っているし、夜も声が聞こえるわ。まるで誰かと話しているみたいに」
「・・・・・・」
言葉が出なかった。
お母さんにはユエラが・・・霊が見えていない。
もし僕が霊と一緒にいるといったらどうなるのだろう。外の人みたいに霊を嫌がるのだろうか。もしそうならエクソシストを呼ばれることになる。
そういう思いが僕の中に浮き上って来て、本当の事を言えなかった。
「お父さんも何か言ってやってください。私、最近心配で心配で」
「そうだな。桜華、なにか隠してるのか?」
「・・・別に、何も」
そうは言ったものの、二人の視線はこっちを向いたままだった。
居心地が悪くなった僕は急いでご飯を食べると食堂から出て行くことにした。
「・・・ご馳走様。もう部屋に戻るね」
「あ、待ちなさい桜華」
お母さんの言葉を聞こえなかったフリをして走り出した。
食堂を出てから三階まで駆け上がり自分の部屋を目指す。
あれ以上話していたら確実にばれていただろう。お母さんは妙に感が鋭いし、お父さんは考えるのが得意で直ぐにばれてしまう。
自分の部屋の前まで行くと荒れる息を整える為に深呼吸をして扉を開ける。
―――ガチャ・・・ギィ
「戻ったよ~」
自分の部屋の扉を開けて中に入る。
すると、中にいた一人と一匹がこちらを向く。
ユエラはいつものちょっと変わった服ではなく、薄いピンク色のワンピースを着ている。最近寝る時にはこの服を着ているらしい。
着ている服がワンピースなので、腕や脚が見えてしまう。白くて細い腕や脚は少し触れてしまうだけで簡単に折れてしまいそうだが、実際はかなり強い。
そういえば何時ごろからこの服を着てたっけ?
僕と会ってからたくさん遊んで、さらには霊力も使っているので霊力回復の為に疑似睡眠をとっているようだ。その際にいつもの服は邪魔になるようだ。
「おかえり。遅かったね」
「今日はお父さんがいたから長話しちゃった」
本当はお父さんとお母さんに最近の僕のおかしな行動について迫られてたのだが、そんなことは言えるはずもない。
「ウォン」
「リル~、起きてたか」
走り寄って来たリルを抱き上げる。ペロペロと顔を舐められてくすぐったかった。
リルを抱いてベッドに腰掛けているユエラの隣まで行き僕も座る。
それから僕たちは眠たくなるまで楽しく話をした。
◇
桜華達が寝静まった頃、家にはまだ明かりがついている部屋があった。
そこは、桜華のお父さんが使っている書斎だ。
中には二人の人がいた。
一人は回転式の椅子に座った男性で天ヶ咲家現当主の天ヶ咲 隆二。知力だけで十二天族になったと言われているが、容姿からはまったくそうとは思えない程体の肉付きはよく、風格があった。
ソファーに座っている女性はその妻である天ヶ咲 静奈。真っ白なゆったりとした服を着て髪は後ろで軽く結っている。どうやらこの服装は寝間着のようだ。
基本的に書斎は隆二が仕事をする以外では利用しない。なので、この二人がここにいるということは何かしらの用事があるのだろう。
しかもこの部屋には防音式の霊術がかけられており部屋の外に会話が漏れることも、誰かが盗み聞きすることも出来なくなっている。
「あなた、最近の桜華をどう思います?」
「すまない、最近仕事が忙しくてよく見れなかったので詳しく聞かせてくれないか」
「そうですね、最初におかしいと思ったのは・・・」
静奈は静かに話し始める。
その間、隆二は目を閉じて静かに静奈の話を聞いていた。
引っ越して来た初日に誰もいないのに、まるでそこに誰かいるようにお昼を誘っていたこと。独り言の回数が増えたこと。時々リルが浮いているように見えたこと。夕方過ぎには姿が見えない事など、不思議に思ったことを話す。
「・・・こんな感じかな」
「確かに、それは不自然だな」
「そうでしょ? それに何だか、薄くだけどあの子の周りに別の気配みたいなものを感じるのよね」
「気配・・・か」
物思いに耽るように俯く。
まさか・・・。
静奈は霊を見ることが出来ないが、気配を敏感に感じ取ることが出来る。おそらく、感知系霊術を使って感知できないものまでも感じることが出来るはずだ。
その静奈が感じるというのならいるのだろう。気配を持つ何かが。
「それに、最近あの子発作が起きてないのよ。前は結構頻繁に起きていたのにここ数日でピタッと止まったみたいで。こんなに急に治るものなの?」
「発作がなくなった・・・か」
なにか思いつくことがあったのか、隆二は小さく頷いた。
「わかった。今度桜華と話してみる。今日はもう遅いから静奈も寝なさい」
「わかりました。それではあなた、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
静奈は書斎から出て行き、部屋には一人だけになる。
「まさか、気が付いたか」
小さな独り言が漏れる。本人は気付いていないようだ。
隆二は立ち上がり、本棚の前まで移動する。
丁度中間辺りに置いてある本を並び替えていく。
「破りし錠」
並べ終えた本を端から撫でながら霊術を発動すると、本が光だし瞬く間に本棚全体に広がる。するといくつかの本棚が奥へと移動する。
そして各本棚が前後左右、複雑に移動し終わると本棚の奥に、同じ大きさ、同じ形の二つの箱が宙に浮いていた。
箱の周りに掛けられている霊術を一つ一つ解除していく。
全てを解除し終えると、その内一つを取ると箱を開け中身を確かめる。
中には白みがかった宝石のような石が入っていた。宝石と言っても加工されていない原石のようなもので、大きさは大人の手の平で握り持つことが出来るぐらいの大きさだ。
手に取った箱を元に戻しもう一つ別の箱を取る。中には先程と同じ石が入っていた。形が少し違うだけで大きさも色も同じだ。
「とうとう、これを渡す時が来たのか」
箱の中の石を見つめる。
本当ならこれを渡すことが無いことを祈っていたのだが、どうやらそれは無理だったらしい。母さんが気配を感じているといったのなら間違いないだろう。となると、桜華は気付いたはずだ。自分の事に。
なら傍に・・・いるはずだ。
霊が。
桜華が本気で決めているのなら、桜華が決めた道を進んでもらおう。霊核剥離として生まれてしまった、私から出来るせめてもの贈り物として。
箱を元の位置に戻すと厳重に結界霊術をかけ、本棚も元の状態に戻す。最後に中央の本をばらばらに並び替えれば終了だ。
「明日・・・だな。早いに越したことはない」
桜華と話すことを決め、隆二は寝室へと向かった。
土曜日と日曜日に更新することにしました。
更新日時を次々変えていますが、大体はこれで行こうと思っています。
ただ、
どうしても書けなかった場合は、土曜日だけの更新になってしまいますのでご了承ください。




