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第十二話「約束」

―――チュン、チュンチュン

 カーテンが少し開かれた窓から太陽の光が差し込み部屋を明るく照らす。窓の外では鳥が鳴いている。

 時刻は午前八時頃。

―――コツ、コツ、コツ、

 天ヶ咲家三階の廊下にヒール音のような足音が小さく響き渡る。

―――ガチャッ、キィー

 その足音はある部屋の前で止まるとノックもせずに扉を開ける。

「桜華、いい加減に起きなさい。もう朝よ」

「う、ん~~」

 お母さんに呼ばれ意識が徐々に覚醒する。

 ベッドの上で寝返りを何度かして顔を上げると、扉の近くにお母さんが立っていた。

「おはよ~ございます」

「おはよう。早く着替えて下りてきなさいよ」

「は~い」

 そう言ってお母さんは下へと降りて行った。

 少ししてから体をあげ、ベッドに腰掛ける。

「・・・・・・」

 何かとても重要で忘れてはいけない夢を見たような気がするけど、何を見ていたのかさっぱり思い出せない。

「う~~ん」

「どうしたの?」

「ちょっと考え事・・・って、ユエラ!?」

 どうにかして思い出そうと考えていると、いきなり話しかけられる。

 声のした方を見ると、そこには扉が開く音もなかったのにいつの間にかユエラが座っていた。

「どうしたの、そんなに驚いて」

「そりゃあ扉が開く音もなかったのに誰かが隣にいたら驚くよ」

「ごめんなさい。壁を通り抜けて来たから」

「へ? 壁を通り抜けて来た?」

「うん」

 そう言ってユエラは壁まで歩いて行くと、壁に手を突き深呼吸をしてから前に進み壁を通り抜けた。

「・・・っ!」

 その光景に一瞬驚く。

 ユエラが幽霊だということを考えると納得できるが、やはり目の前で壁を通り抜ける所を見ると驚いてします。

「どう、わかった?」

「わ! びっくりした」

 ユエラが通り抜けた壁を見ていると、今度は反対側から声が聞こえ振り向く。

「え、今あっちに行ったよね」

「下を通って回り込んじゃった」

「脅かさないでよ」

「ごめんごめん」

 ユエラは悪戯が成功した子供のような意地悪い笑みをする。

 まあ実際に子供なのだが、ユエラがこんなことをするとは思わなかった。

 でも、こういうユエラも可愛い・・・はっ、僕はいったい何を考えているんだ。そんな事を考える前に聞かなきゃいけない事があったんだ。

「ねえ、ユエラ」

「ん? なに?」

「えっと、昨日の事なんだけど。返事を聞かせて欲しいな」

「・・・・・」

 その言葉にユエラは黙ってしまう。

 やっぱり断られるのだろうか。そう思って目を瞑り、ユエラの返事を待つ。

 そして、

「いいよ」

「・・・・・・へ?」

 間抜けな声を出して目を開く。

「いいよ、って言ったの」

「そ、それじゃあ・・・」

「よろしくね、桜華」

 微笑むユエラ。

 その笑顔は窓から差し込む太陽の光を浴びてさらに輝く。

 言葉は出なかった。でも、嬉しさでいっぱいだった。

「ユエラ!」

「きゅっ」

 気が付けば僕はユエラに抱き着いていた。自分でもどうして抱き着いたのか分からなかったが、考える前に体が勝手に動いていた。

 抱き着いた腕に力が入り、ユエラを強く抱きしめる。

「よかった。断られるんじゃないかと思ったけど、本当に・・・よかった」

 嬉しさのあまり、目の涙が溜まるがどうにか泣かないようにこらえる。すると、僕の背中にユエラが手を回しユエラも僕の事を抱きしめる。

「私も、桜華が言ってくれた時は嬉しかった。ごめんね、すぐに返事が出来なくて」

「ううん、気にしないで。昨日ユエラが言った通り考える時間は必要だったし。それに、今は嬉しくてしかたないしさ」

 ようやく落ち着きを取り戻したのでユエラから離れる。

 ユエラはまだ名残惜しそうだったが、これ以上抱き着いていたらこっちが離れたくなくなるので我慢してもらう。

「・・・にん、―――よね」

 名残惜しそうにしていたと思ったら、今度は頬を紅く染めて上目使いで僕を見る。

「え? 何か言った?」

「だから、私が新しい命を持てたら・・・責任、取ってよね」

「・・・・・・っ」

 ユエラは今度も頬を染めながら上目づかいで、さらに少し涙目になりながら言う。

 やばい、可愛すぎる。

 こんなユエラを見たらたとえ断ろうと思っても断れない。というか断る気は一切ないのだが。

 なら僕がやることは・・・言う事はただ一つ。ユエラを安心させてやること。それが今、僕がやる事であり、やらなければいけない事。

「僕でよければ、どんな責任だってとるよ」

「桜華じゃなきゃ・・・やだ」

「・・・ユエラ」

 この時僕はもう一度心に誓った。

 ユエラに新しい命を与え、その責任を取ることを。

「約束だよ、桜華」

「うん。約束だ」

 お互いの小指を絡ませ、指切りをする。



 これが僕とユエラの、最初で最後の約束になるとはこの時、思いもよらなかった。



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