第十話「それぞれの思い」
テストが終わったので今日は特別に更新しました。
次話は予定通り、二日か三日に更新します。
それからすぐに晩御飯だとお母さんに呼ばれた。どうやら書斎でかなりの時間本を読んでいたらしい。
窓の外を見てみると、書斎に入る前はお昼を少し過ぎていたころなのに、今は太陽が完全に沈もうとしていた。
晩御飯を食べた後は何をするでもなくお風呂に入ってすぐに寝ることにした。
今日はお互いに落ち着いて考えた方がいいとユエラがいいだしたからだ。僕としてはユエラと話をしたかったのだけど、考える時間は確かに必要だと思った。
ユエラにどこで寝るのかと聞くと、
「・・・桜華の隣の部屋でいい」
と、頬を少し赤らめながらそう言ったのでユエラを僕の隣の部屋に案内する。
一応どの部屋にも机と本棚にベッドが用意されている。
たかが三人家族なのに何故こんなにも揃える必要があるのかというと、時々お父さんの友達などが泊まりに来るからだ。
そのため常に用意されている。
ユエラにお休みの挨拶をしたあと、僕も自分の部屋に戻ってベッドに寝転び今日一日の事を思い返す。
今日というたった一日でいろいろなことがあった。
引っ越して来た矢先にユエラと出会い、しかもユエラが霊だと知って、そこに追い打ちを掛けるように僕も霊核剥離だと知る。
どこを探してもこんなサプライズが一日で訪れるなんて絶対にない。
正直言って未だに信じることが出来ない。
でも、現に隣の部屋に霊であるユエラがいる。
そして、ここに霊に触ることが出来る僕がいる。
もう何がなんだか分からなくなってきたが一つだけ、確実に分かっていることがある。
あの時は恥ずかしすぎて誤魔化したけど、新たな命をあげたいというのは口実だ。本音はユエラと一緒にいたい、ただそれだけ。
でも、霊と人間が一緒にいることは認められるのだろうか。
お父さんの話では、今現在霊は全て人間に害をもたらすという考え方が外の世界の人に定着してきているらしい。中には見境なく霊を消している人もいるとか。
もし、もしもユエラがそんな奴らに襲われたのなら僕が護ってあげなくちゃ。一緒にいたいと言い出したのだから、それ相応の責任は取るつもりだ。
たとえそれが肉体を持った後であっても。
「・・・ユエラ」
そう心に決め今日一日のことを思い出しては整理していると、僕の意識は暗い闇の中へと次第に落ちていった。
夜。
皆が寝静まり虫や鳥の囀りが聞こえる頃、私は寝ずにベッドの上から窓の向こうで空に浮かぶ月を見ていた。
基本、霊は寝なくてもよい。
というより霊は寝る必要がない。
寝ると言う行為はもともと肉体の疲労を癒すための行為なので、肉体を持たない霊にとって睡眠というのは無駄なことなのだ。
だが、霊力を使い過ぎればそれを回復するために睡眠とよく似た疑似睡眠をすることがある。
霊力は基本なにもしなければ自然に回復するのだが、疑似睡眠をすれば自然回復よりもはるかに早く回復することが出来る。
疑似睡眠中は一見寝ているように見えるが、実際は目を瞑って心を落ち着かせているだけなので起きているのだ。
心と言っても、第二の心臓である霊心のことをさす。
だから霊力を使っていない私は疑似睡眠をとることも無く起きていた。
本当なら長い夜を寝ずに過ごすのは退屈で仕方ないのだが、私の頭の中はあの少年と、その少年の言葉でいっぱいだった。
人にして人ならざる存在である霊核剥離。皮肉にも彼はその霊核剥離だった。
なぜ私が彼の事を霊核剥離だと分かったのかというと、霊になってからの知識もあるが、今まで見てきた人とは明らかに霊心の状態が違ったからだ。
他の人の霊心はその人の心や有様、命を表した炎が何かに包まれているのだ。それは殻や檻であったり、はたまた何かの器であったりする。
だが彼の霊心にはそれがなかった。心や有様、命といったものを表す炎があるけれどそれを包むものがなかったのだ。
しかもその炎の大きさが桁違いだった。
普通の人は心臓と同じくらいの大きさしか霊心がないが、彼の霊心は体を丸々包み込んでいたのだ。
それを一目見た瞬間に私は確信した。彼が、あの少年こそが霊核剥離なのだと。
そんな彼と出会ってしまった私。これは偶然なのか。それとも必然なのか。だが、そんなことを考えても分かるはずもなく意識を切り替える。
あのとき、彼が言った言葉を思い返す。
『それでね、僕・・・ユエラに、もう一度新しい命をあげたいんだ。僕ができる・・・ううん、僕にしかできないこの霊核剥離の力で』
正直あの時私は心から嬉しかった。
でも、それを受け入れていいのかその時の私にはわからなかった。
受け入れてしまえば、なにか取り返しのつかない事が起こるかもしれないとあの時なぜか思ったのだ。
霊である私が肉体を持ち、新たな命を持ってこの世に誕生するのにはそれなりに対価が必要になるはずだ。しかし、今の私にはその対価が何なのか分からなかった。
「私は・・・」
出来ることなら彼と一緒にいたい。それは紛れもない事実だ。
会ってからたった一日しか経っていないが、私の心は彼のことでいっぱいだった。彼の事を考えるだけで、その思いで心が潰されそうになる。
「私も、一緒にいたいよ・・・桜華」
一筋のしずくが頬を伝う。
シーツを握る手に力が入る。この先何があろうと、どんな事が待っていようと私は桜華と一緒にいることを強く、強く心に決めたのだ。




