42_お嬢様、襲来
エリックに「久しぶりに眠る前に夜の散歩をしよう」と提案すると、「素晴らしい提案だな」と賛同してくれた。王都に行く時に私が渡したランタンはタウンハウスに置いてきたとのことなので、私が部屋で使用している物を使おうと話していると何やら別荘の外が騒がさしいことに気がついた。
「殿下が実は帰ってなかったとか?」
「いや、さすがにそれはない」
私とエリックは玄関ホールに向かったが、直ぐに後悔することとなった。何故ならお嬢様がそこにいたからだ。慌てて2人して来た道を引き返し、壁から顔だけを出して玄関ホールに視線を向けた。
「え、エリックの手紙の厄介なヤツってお嬢様だったの?」
「そんなわけあるか!」
存在に気付かれないように小さな声で話す。
セバスチャンさんに「来訪の知らせは受けておりません。お帰りください」と扉から先の侵入を阻まれているのに、「私とエリック様の間に言葉などいりませんわっ」とセバスチャンさんを押し退けて別荘内に侵入してきた。
お嬢様が壁から顔だけを出しているエリックに気がついてしまったらしく、「まぁ!私に会うのが恥ずかしくて隠れてしまっているのかしらっ」とエリック目掛けて歩いてくる。
見付かったら厄介だぞ!と瞬時に悟った私はエリックを生け贄に逃走をはかろうとした。が、殿下がいる間は作業着ではなく、きちんとドレスを着ていたことが仇になった。ズボンに慣れてしまっていた私は踵を返そうとしドレスの裾を踏んでしまったのだ。「あっ 」転ぶと思った時、エリックが私の腰を掴み支えてくれたため、転倒は回避できた。
「ありがとうエリック」
エリックに礼を言い、逃げたいからエリックの手を剥がそうと、エリックの手の上に私の手を重ねた時だった。
「まぁーー!!!!」
甲高くうるさいほどの大声を出したお嬢様が直ぐそこに立っていた。
「まぁ!まぁ!まぁ!!なんて破廉恥なっ!!」
はたから見ればエリックは私の腰に手を回し、その回された手の上に私の手を重ねているもんだから逢い引きに見えなくもない。エリックは「うるさいっ!!喚くなっ!!」と、これまたお嬢様に負けず劣らずの大声で言い返した。
「殿下がエリック様と一緒に別荘へ行かれたとお聞きしたから、エリック様の婚約者である私が殿下をおもてなししようと訪れてみれば!浮気ですのっ!!??」
「貴様なんぞ婚約者でもないし、別荘に勝手に来るなと散々言っただろう!学園でも嫌に絡まれいるのに、なぜ休みまで貴様の顔など見ないといけないのだっ!!」
「まぁ!そこの泥棒猫に誑かされたのですわねっ!?」
お嬢様は手に持っていた扇子を私にビシッと向けてきた。
「エリック様がお優しいからこの別荘に居れますのよっ!どこの家の者かは存じませんが勘違いなさらないことよっ!!」
「マリについて貴様に言う権利はない。黙れっ!」
エリックとお嬢様が私の頭上で大きな声で言い合いをしていても、私にはその声は届いていなかった。
勘違いなんて、していないよ。エリックの優しさで別荘に置いて貰っているのなんて重々承知だよ。言われなくても分かってる。そのうち、エリックとお別れをして出ていかなければならないことも理解している。殿下の件もあるし、この国に留まるか魔塔に行くかはまだ決めれないけども。
胸の中でモヤモヤと消化しきれていない感情が湧き出してきた。そんな時、お嬢様が「話を聞いていますのっ!?」と扇子を振り上げた。
あ、ま た 殴 ら れ る━━━━━━━━━━
振り上げられた扇子がアイツの拳に重なって見えた。私は咄嗟に両腕で頭を庇い両目を固く瞑った。が、いつまでたっても衝撃は来ない。両目を開けるとエリックが扇子を掴んで私が叩かれるのを防いでいてくれた。
「ジェット!!!コイツを馬車に押し込めろっ!!!━」
エリックが今までに見たこともないくらい怖い顔をして言う。何処からともなくジェットさんが現れて「俺の恩人に対する態度、ゆるせねぇ」とお嬢様を簡単に俵を担ぐように肩に乗せ扉から出ていく。
「放しなさいっ!!無礼ですわよっ!!」
お嬢様がジェットさんの肩の上で暴れるが敵うはずもなく。
「私の父から正式に抗議文を送らせてもらう!」
エリックは運ばれていくお嬢様にそう告げた。




