41_久しぶりの二人きり
朝が早く、朝食がまだだったためダイニングルームへ移動し朝食をとった。その後は再び応接室へ移動し、私が新しく準備したカードゲームやオセロ等で遊んだ。殿下が黒ひげのおじさんが飛び出すゲームをいたく気に入ったため、そのままプレゼントをした。
昼食のあとは殿下が工房を見学したいと申し出をしてきたが「礼儀を知らない筋肉が殿下に不敬を働くかも知れない」とエリックが断っていた。それでも殿下が食い下がってきたので「関係者以外は立入禁止にしている」と、改めて私からお断りをした。ケガなんかされたら、たまったもんじゃないし。
夕食をたべ終え、それぞれ自室で過ごした。エリックと久しぶりに夜の散歩をしたかったが、殿下もいるし、なんとなくエリックを誘いにくかった。殿下に「私も行く」とか言われ、エリックとの時間を邪魔されたくなかったし。
当たり障りのない日を次の日も過ごし、殿下は「そろそろ私も帰らなくては。エリック、また学園でな。マリ、次は私が勝つからな」と別荘での滞在期間を2泊3日で帰って行った。カードゲームは私が勝ち続けていたのが悔しかったらしい。当然のことだ。歴が違うのだよ、歴が。
殿下が居なくなり、セバスチャンさんを初め別荘で働く皆は緊張の糸が切れたようで、深い深い安堵のため息をついていた。そりゃ、王族がいたら何か粗相をしてしまわないか不安にもなる。
エリックが「筋肉バカを絶対に殿下と鉢合うことのないように」と通達したため、ジェットさんを工房に閉じ込めていたこともあり、殿下が帰ったあとのジェットさんは「筋肉が泣いている!」と筋トレに励んでいた。この暑苦しい光景を見せずに済んで安心した。
殿下が帰ったあとの午後、私とエリックは応接室にいた。魔塔の主からのプレゼントを渡しそびれていたから、エリックに「魔塔の主から」と託されていた箱を渡した。エリックは「どうせ大したものではないだろう」と箱を開けたとたん、中から蛇のオモチャが飛び出してきた。
一緒に箱の中身を見ようと隣に座っていた私でさえ驚いたのだ。当事者のエリックはもっと驚いたに違いない。「……あのくそじじぃ」と呟きながら飛び出してきた蛇を握り潰していた。
やっとで2人きりになれた私は改めてエリックに「おかえりなさい」と言った。エリックは優しい笑みを浮かべ「ただいま」と私の頭を撫でてくれた。
手紙でお互いの近況を報告しあってはいたが、手紙では書ききれないこと、文字では伝えにくいことをお互いに話をした。
「エリックには改めて工房を案内するね。あと、アンナさんも紹介するよ!」
「そのアンナという物書きが書いた本を、学園に持っていっても構わないか?」
「いいけど……エリックが読むの?一応、女性向けだよ?」
「まぁ、考えがあってね」
「?」
まぁ、エリックのことだから悪いようにはしないだろう。それより!「殿下がくるならちゃんと手紙に書いて欲しかった」と抗議した。
「あれ?書いていなかったか?すまない、書いた気になっていた。マリを殿下に紹介したかったのもあって」
「……私を紹介する意味ってあるの?」
エリックは「私の下心だ」と理解できないことを言ってきた。その気持ちが私の顔に出ていたのだろう。エリックは「眉間に皺が寄っているぞ」と笑いながら親指で私の眉間の皺を伸ばしてきた。
私はその手を払いのけ、「エリックはあと10日程で王都に戻るんだっけ?」と確認をすると、「あぁ、戻りたくはないがな」と返事が返ってきた。
2度目の人生でいう夏休みにあたる今回の帰省。大人になると夏休みなんて存在しない。今だけの子供の特権なのだ。
「エリック!残り10日間はグータラのんびり楽しく過ごそう!」
私は握りこぶしをつくった。エリックは微笑みながら「あぁ、のんびり過ごそう」と私の頭を撫でてきた。
しかし私は気付かない。のんびりを妨害する「まぁー!」と甲高い声を発するお嬢様が、この別荘に向かってきていることを。




