37_暫しの別れ2
エリックのお見送りに本宅からエリック父とエリック母も別荘へやってきた。お見送りといっても、数日後にはエリック夫婦もエリックの学園の入学の関係で王都へ向かうらしい。エリック母はハニーブラウンの髪に灰色の瞳をもったご婦人だ。
エリックと出会ってこの別荘で過ごしている間、数回はお会いしている。セバスチャンさんでは教えれない淑女教育をするために、月に一回は一週間の滞在をし、私に色々と教えてくれている。
「マリちゃんはもう既に完璧ね☆」と及第点を頂いているが、エリック母は娘が欲しかったらしく、私を本当の娘のように思ってくれており、月に一度の滞在では私と一緒にお茶をしたり、刺繍をしたりしている。その間エリックは仲間外れになるのが納得いかないらしく、お茶を一緒にしたり、刺繍の間は私の隣で本を読んだりしていた。その様子を見ては「ふふふ、仲良しさんね!」と微笑んでいた。
エリックを見送るべく、使用人たち皆も外に出ている。必要な荷物は既に馬車に積んである。みんな一言ずつエリックに激励の言葉をかけ、エリック父、エリック母と抱擁を交わし終えたエリックは私の前へと立った。
「エリック、体調には気を付けてね」
「マリこそ」
「……行ってらっしゃい」
「……行ってくるよ」
エリックは私を優しく抱き締めてくれた。私も両腕をエリックの背中に回し、抱きつき返す。
「さぁ、御者の人を待たせたら申し訳ないよ」
私はそう言ってエリックから離る。いよいよ本当にお別れの時だ。エリックは最後に私の頭を撫でてから馬車に乗り込んだ。護衛の人達も馬に騎乗し、同行の準備をする。エリック父は護衛の人達に「息子を頼む」とお願いしていた。
エリックは馬車の窓から「では、いってくる」と言って、馬車が進み出した。護衛の人達もそれに続いた。その姿が見えなくなるまで目で追っていたが、とうとう姿が見えなくなり、「中に入りましょうか」とエリック母が言ったことで、別荘の中に戻った。
エリックの父母はこの後に予定が入っているそうで「マリちゃん、私たちも本宅に戻っちゃうけれど、何かあったらセバスチャンでもいいし、誰にでもいいから直ぐに相談するのよ」とエリック母は言ってくれた。
エリック父はセバスチャンさんをはじめ、他の皆に「この別荘の管理を頼んだぞ。あと、うちの末っ子も頼む」と、私の頭にポンと手をのせて言った。エリック父母も数人の護衛を引き連れ本宅に戻っていった。
セバスチャンさんは手をパンと叩き「さぁ、通常業務に戻りますよ」と言い、各々自分の持ち場へ戻って行った。
私も皆に紛れて出来上がったばかりの工房に行こうとしたらセバスチャンさんに「マリ様は私と一緒に勉強です」と執務室へ連行されてしまった。
午前中は勉強をして、一人で寂しく昼食をとり、午後はジェットさんと出来てての工房で魔道具や便利道具の制作に勤しみ、気付けば夕食の時間でサラさんが呼びにきて夕食も一人で食べ、今まではエリックと一緒に過ごしていた時間に翻訳作業をすすめた。
「……独りは寂しいな」
今まではエリックがいた時間に一人で過ごすことに物凄い違和感があった。しかし、これが日常になっていくのかと思うと寂しくなった。
「……手紙、は書くの早いよね」
翻訳を進める手が止まる。やる気が起きないのである。今日は少し早いけれど眠ろうと思いベッドへ横になる。エリックは今、どうしているのだろうか。そう思いながら、私は両目を閉じ、夢の世界へ旅立った。




