35_そばにいる
魔塔の主は「私はこうみえて子供がいてもおかしくない年齢だぞ」と言ってきた。
「え、何歳なんですか?」
私が質問すると意外な答えが返ってきた。
「85歳だ」
いや、それなら娘より孫の方が正しいじゃんとか、そもそもなんでそんなに若く見えるの?とか衝撃すぎて言葉が出なかった。しかしエリックは違ったみたいだった。
「魔塔主はよほどの若作りなんだな」
「なんだとクソガキ」
また2人の間に火花が散ってみえる。なぜエリックは魔塔の主に噛みつきにいくのか。
私は「エリック、言葉遣いが悪いよ」と言うと、魔塔の主にではなくなぜか私に「すまない」と謝ってきた。なぜ、私なのだ。
「てっきり二十代くらいかと思っていました」
「まぁ、私くらいの魔力もちになると色々あるんだ」
魔力がありすぎて寿命が長くなる的なものかな?と勝手に邪推してみるが、言いたくなさそうな雰囲気を感じとったため話題をそらす。
「ちなみに、今日の用事はなんです?まだ翻訳は終わってませんけど」
「魔塔にいると私付きのアホがうるさくてな。逃げてきた」
"私付きのアホ"とはガイナスさんのことだ。ガイナスさんもたまに私のところに顔を出してくれる。もちろん、事前に連絡をくれてから。
「ガイナスさん泣いてますよ、きっと」
「泣かせておけばいい……が、ちょっと用事が出来たから帰る。またな、マリ」
魔塔の主は私の頭をポンポンと撫でてから、その場をあとにした。
「本当に突然なんだな」
「事前連絡がほしいって何回言ってもダメだから諦めた。その点はお嬢様と同じだね」
私が苦笑いすると「どちらも厄介なタイプだな」とエリックは深いため息をついた。
「エリック、私のことはいいから執務室に行かないと。セバスチャンさんが待ってるよ?」
「今日はマリのそばにいよう。一度、執務室に行ってくる。良い子で待っているんだぞ」
エリックは私の頭を撫でて椅子から立ち上がり、部屋から出ていった。私は座っていたベッドから立ち上がり、ソファーへと移動した。しばらくするとエリックが戻ってきて、私の隣に座った。それからは他愛もない会話をした。
「学園に通いだしたら毎日お嬢様と顔を会わせるね」
エリックは「せめてクラスが違うことを祈る」と心底嫌そうな顔で言った。
「学園に通いだしたら、私以外にも友達を作るチャンスだよ」
「友達というより、家同士の繋がりのための付き合いだよ」
「冷めてるね」
「事実だからな」
「……エリック、……私の話をきいてくれてありがとう」
「いつでも聞くぞ」
エリックは優しく私に笑いかけてくれた。本当に、本当にエリックと出会えて良かった。私は泣きそうな気持ちになってしまうのを誤魔化すため「エリック、トランプしよう!」と言っていた。エリックが王都にいくまで残り僅かなのだ。その残された時間を大切にしたい。
昼食まで一緒にトランプをして、午後も散歩をしたりして一緒に過ごした。夜は夜空を一緒に見て、そのあとは私が眠るまでエリックはベッドの横にある椅子に座り、私の手を握りしめてくれていた。
「寝顔を見られるの恥ずかしいよ。よだれが出たらどうしよう」と冗談目かしていったら「大丈夫だ。よだれを含めマリなんだから」と斜め上の返答が返ってきた。それもそうなんだが、なんか言い方がいやだ。
「おやすみ、エリック」
「あぁ、おやすみ」
気づけば私は眠っており、起きた時には朝で、もちろんエリックは部屋からいなくなっていた。
寂しい……
そんな感情が胸の中を占める。その後はいつもの日常を過ごし、とうとう明日、エリックが王都に行く日となった。




