33_嫌な記憶
エリックに送る餞別は何がいいか考えていた。とりあえず、オセロとトランプは新しく作ってプレゼントするとして他に何がいいだろうか。アンティーク調のおしゃれなランタンにしようかな?ガラスはジェットさんに相談すればいいし、魔石を利用するとしても、エリックなら魔力が切れたら自分で魔石に魔力を込めれるし。うん、そうしよう。私は早速デザインをメモ用紙に書き起こし、ジェットさんに相談する。
ジェットさんは街の知り合いであるガラス細工さんや、金物屋に依頼してくれると言ってくれた。金物屋さんから仕入れた金属板で、ジェットさんが私のデザインに加工してくれるという。
エリックへのプレゼントを準備しながら、毎日を過ごしていく。
ある日の朝食のあと、日課となってしまったエリックとの勉強をすべく応接室へ向かおうとしたら、忘れたころの「エリック様ー!学園に通う前に必要な物をお揃いで準備しますわよ!」と、お嬢様アタックをくらってしまった。「またアイツは!事前連絡もなしに!」と怒りで顔を歪めるエリック。
「マリすまない。アイツを追い返してくるから先に応接室へ向かっていて欲しい」
「うん、そうする」
幸い、声は外から聞こえるから見付かる前に私は逃げさせてもらう。もし見付かってしまったら、またあの甲高い「まー!」を聞くはめになる。別荘でお世話になっていることが知られたら余計な面倒事が起きそうでこわい。
私は応接室についてソファーに座ろうとしたが、執務机の上にある本が目に入った。普段ならエリックが一緒にいるから気にせずソファーに座っているところだが、なぜか無性に今日はその本が気になってしまった。
近付き題名を確認すると、"貴族名鑑"と書いてあった。執務机にあるということは最新版なのだろう。あるページにメモ用紙が挟まれていたので気になってしまい、貴族名鑑だから中を見ても問題ないだろうと思いそのページを開く。そのページは侯爵家のページだった。挟まれていたメモ用紙には"第一候補"と書かれていた。
そこで本を閉じ、ソファーに座っていればいいものを、なにを血迷ったか私の手はページをめくり続ける。
そして見つけてしまった。
1度目の人生で私を不幸のドン底に叩き落としたヤツを。
罵詈雑言を浴びながら暴言を受ける忌々しいアイツとの記憶が一瞬にてよみがえってしまった。
私は反射でその場に頭をおさえながらうずくまってしまった。先ほど食べた朝食が胃から食道をあがってきてしまいそうな不快感に襲われる。全身に嫌な汗をかきはじめ、呼吸が苦しくなってきたその時だった。
「マリっ!」
エリックの声がした。バタバタと走る足音が聞こえ、背中をさすられた。「マリ!ゆっくり息を吸うんだ!」
「……エリック?」
「あぁ私だ。エリックだ」
あぁ、そうだ。ここはエリックの別荘なんだ。アイツはいないし、殴られる心配もない。私は安心して力が抜けてしまい、全体重をエリックに預けて寄りかかってしまった。
「ごめんね、重いよね」
私は寄りかかってしまっているエリックからはなれようとしたが、身体にうまく力が入らない。
「重くなんかない」
エリックは私を背後からギュッと力強く抱き締めてくれたあと、「今日はゆっくり休んでくれ」と私を横抱きしてくれて「部屋まで運ぶ」と立ち上がった。
「エリック力持ちだね」
重い空気にしたくなくて、少し茶化した言い方をした。
「もちろんだ。毎日身体を鍛えてるからな」
「頼もしいね」
「あぁ、だから。だからマリの中の不安を全て私にぶつけてくれたって、私はへっちゃらだ。それだけは覚えておいてほしい」
「……ありがとう」
私の"ありがとう"がエリックにうまく届いたか分からない。だって、涙を堪えるのに必死で、震えそうな声になってしまったから。




