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魔道具と娯楽品の作成に勤しむ転生令嬢は、囲われていることに気がつかない  作者: 成瀬川 透


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32/71

32_残された時間

深刻そうな顔をしたエリックに私は「どうしたの?」と聞いた。


「12歳になる年に貴族の子たちは学園に通わなければならないんだ。その学園は王都にある。王都からこのリリーム地方には馬車で10日ほどかかる。そのため私はタウンハウスで暮らすことになる」


「あ、うん」

一体どんな話をされるかと思ったら、そんなことかと拍子抜けしてしまった。だがエリックは違うらしく「寂しい思いをさせてしまうが、長期休みには帰ってくるから」と、私の両手をエリック自身の両手で包みながら眉を下げ、悲哀たっぷりの顔をして言ってきた。


「寂しくなるけど待ってるよ」

トランプの相手がいなくなるのは寂しくなるが、エリックと一緒にやっていた勉強の時間がなくなると思うと、心の中では小さな私が小躍りをして喜んでいた。


「……マリも一緒に王都に行くか?」

エリックがとんでもない事を提案してきた。


「私はここに残るよ!エリックは勉強のため、将来のために学園に行くんだもん。邪魔なんてできないよ!私のことは気にしないで、エリックがやらなきゃいけないことを成し遂げて」

実際は魔道具や便利道具、はては娯楽品を作りたいから王都になんて行ってられないが正しいが。嘘も方便である。


それに魔塔の主に催促されている翻訳作業を進めないといけない。まだ魔塔に行って選別された五冊のうち三冊しか終わっていないのだ。終わった三冊は魔塔の主が持って帰り、新たな本を三冊置かれていったが。


エリックが用意してくれた水晶で、魔力を込める実験が芳しくないため早く残りの二冊の翻訳を終わらせて、魔塔の主からきちんと魔力を込めれる水晶について聞き出したいのだ。エリックが王都に行くなら、午前中にあてていた勉強時間を翻訳する時間に費やせる。そんな私の胸中を知らないエリックは「私のことをそんなに考えてくれるなんて、なんて良い子なんだ!」と抱き着かれてしまった。


私はエリックの背中を2、3回ポンポンと軽く叩いたあとエリックの両肩を軽く押して離れる。


「いつから王都に行くの?」

なにか餞別をエリックに送りたくて、残された時間を確認する。


「向こうに行ってから準備とかもあるからな。あと一月くらいでここを出る」


一月もあるなら大丈夫だろう。ジェットさんに相談しながら私ならではの餞別を用意しようと決めた。


「あと一月、目一杯遊ぼうね!向こうに行ったら手紙も書くから、エリックが手隙の時にでも返事ちょうだいね」


「いや、マリへの手紙は第一優先で書くよ」


「ありがとう」

きっとエリックなら本当に私への手紙を優先しそうだから、手紙の頻度は考えて書こうと決めた。


「よし、残された時間は短いんだから遊ぼう!今日は何をする?ババ抜き?はやぶさ?神経衰弱?」

私はトランプをケースから取り出し、カードを切りながらエリックに何をやりたいかを聞いた。


「ババ抜きをやろう。マリは顔に出て弱いからな」


「え、自分が勝てると分かってるゲームなんかして楽しい?男なら負けるかもしれない戦いに挑んで勝ちに行こうよ。と、いうことではやぶさをしまーす」

私はソファーから立ち上がり、テーブルを挟んだ反対側のソファーに座り、エリックと対面になる。そしてトランプを配り始めた。


「マリこそ自分が得意なゲームをやろうとするなんて卑怯だぞ!」


「卑怯ではありません。エリックを鍛えているのです」


「屁理屈だ!」


なんだかんだ言ってもエリックは一緒にはやぶさを楽しんだ。「もう一度だ!」と負ける度にエリックが私に再戦を挑んできた。まぁ、私が全勝したんですけどね。歴が違うので、歴が。

セバスチャンさんが「就寝の時間です」と声をかけてくるまでエリックとトランプで楽しんだ。


この時間もあと一月か。ベッドの中に入ると急激に寂しくなった。



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