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魔道具と娯楽品の作成に勤しむ転生令嬢は、囲われていることに気がつかない  作者: 成瀬川 透


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30/71

30_ただいま

「マリ!」

部屋に戻ったらエリックがいた。私が持っている本をかわり持ってくれ、テーブルに置いてくれた。


「翻訳する本を選ぶだけと聞いていたのに、昼になっても戻ってこないし心配したんだぞ」


「え?」

私は窓の外を見た。空はオレンジ色に染まりはじめていた。


「え、もう夕方なの?」


「このまま帰ってこないのではないかと不安だったんだぞ」

エリックは声を震わせ、私の背中に腕を回して抱き着いてきた。私もエリックの背中に腕を回し、落ち着かせるように背中を軽くポンポンと叩く。


「私はここにいるよ。ちゃんと帰ってきたよ」


どのくらいの時間エリックの背中を軽く叩いていたのかわからないが、「もう大丈夫だ」とエリックが私の背中に回していた腕を離したので、私もそれに倣い腕を離しエリックからはなれた。


「ただいま」

私はエリックに笑いながら帰宅の挨拶をした。エリックは「おかえり」と言ってくれた。


私とエリックはソファーに並んで座り、今日の出来事を報告しあった。


「筋肉バカが私を羽交い締めにして、逃げ出そうにもびくともしなかった。だから私は決めた。身体を鍛えると」


「エリックがジェットさん並の筋肉つくのが想像できないよ」

私は声を出して笑った。こんなに儚げな美少年の顔の下がボディービルみたいな身体なんてギャグマンガだ。


「マリ笑い事ではないぞ!あのゴツゴツした身体に長時間拘束されたんだぞ!今日は絶対に悪夢にうなされる自信がある」

エリックは下を向いて「もう二度とごめんだ」としょげてしまったので、頭を優しく撫でておいた。

エリックは顔をあげ、テーブルに置いてある本を手にとり、パラパラとめくりだした。


「マリには何がかいてあるのかわかるんだもんな。私にはさっぱりだ」


「だから大変だったんだよ。本棚にある題名を全部読み上げさせられたし。魔塔の主が気になった題名の本は最初の数ページを更に読まされたし」


「……私も勉強したら読めるようになるだろうか」


「うーん、どうだろう」

平仮名とカタカナはともかく、漢字は難しいだろう。万が一、読めたとしても理解はできないと思う。パソコンとかテレビとか電車とか、"あちら"にあって"こちら"に無いものがあるから。さらには英語が出てくるものもある。


「ダメ元で時間がある時に私に教えてくれないか?」


「いいけど難しいよ?」


「大丈夫だ。任せてくれ。かわりに、今日私に心配をかけさせたマリには今後、私が勉強する時は一緒に同席して勉強してもらう」


「えっ!」


「早速だが明日から一緒に頑張ろうな」

エリックは私の頭を優しく撫でながら言ってきた。


「私が勉強する意味ってある?」


「あぁ、あるぞ!」

そんな満面の笑みで言われたら嫌だなんて言えないじゃないか。お世話になっている身だし、おそらくエリックは私のためを思って言ってきたのだろうし。

あぁ、やりたい事だけに時間を割きたいのに。翻訳もあるのに……!私は思い出した。そうだ、水晶だ。


「エリック!私、水晶がほしい!」


「宝石なら水晶だけでなく色々揃えてやろう」


「そうじゃなくて!魔石の代替え品に水晶がなるっぽいんだよね。魔力を込めれる水晶があるみたい」


エリックは眉を潜め「どういうことだ」と聞いてきた。そこで私は魔獣からとれる魔石のかわりに魔力を込めれる石なり宝石がないか魔塔の主に聞いたところ、翻訳を終わらせたら教えると言われたこと。だがその時に魔塔の主が"魔力を込めれる水晶"とポロっと口から出たことを伝えた。


「もし本当に水晶に魔力が込めれたら凄いことだぞ」


「今ある魔石の価値が落ちないように、誤魔化して使うつもり」

希少だからこそ価値があるのだ。その市場を崩すつもりはない。だから魔道具を作るとき、パッとみて水晶だとわからない加工は施すつもりだ。


「ただ、水晶ってだけで、どのような条件下でできた水晶かはわかっていないんだよね」


エリックは顎に手をあて考えこみ「とりあえず水晶を取り揃えよう」と言ってくれた。ジェットさんの工房はどうなりそうかとかエリックに聞いていると扉がノックされ、エリックが「入れ」というとセバスチャンさんが入室してきた。私をみて「おもどりになられてましたか」と驚いた顔をした。

今思った。帰ってきたことを伝えにいっていなかったことを。また、部屋の扉を開けていなかったことに。

私はソファーから立ち上がり「戻りました」と今更ながら報告した。

セバスチャンさんは「マリ様がおらず、お坊っちゃまが荒れて大変だったのですよ。お帰りなさいませ」と笑いながら言った。

「別に私は荒れてなどいない」とエリックは拗ねたように反論した。


「マリ様もいらっしゃるならちょうどよかったですね。お食事の準備ができました」

セバスチャンさんの言葉をうけ、エリックもソファーから立ち上がった。エリックは私の左手と手を繋ぎ、ダイニングルームへと一緒に移動をした。



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