29_魔塔
昼食を呼びにきたサラさんに連れられダイニングルームへ行くとエリックとエリック父がいた。その2人に魔塔の主が来たこと、明日には魔塔に行くことを伝えると「私も行く!」と騒ぐエリック。そんなエリックをエリック父と一緒に宥めた。
夕食時にはエリック父はおらず、本宅に帰ったと聞かされた。ストッパーがいなくなったエリックは「マリだけでは行かせれない!私も行く!!」と言い続け、どうしようかと悩んでいたらセバスチャンさんに「旦那様からお坊っちゃまを拘束する許可は頂いております」と耳打ちされた。拘束までは行き過ぎなんじゃないかと思いながらその日は眠りにつき、朝を迎えた。
朝食はサラさんが部屋に運んでくれた。エリックの様子を聞いたら「ジェットさんが拘束してくれております」だって。どういうことか聞いたら、ジェットさんがエリックを後ろから抱きしめているらしい。もちろん"放せ"と騒ぐエリック。しかし、エリック父から許可をもらっているジェットさん。今、相当にカオスらしい。私は両手を合わせ、エリックに対し合掌した。
そんな事があったが、今、魔塔の主がくるのを部屋で待っている。どうやって魔塔に行くのだろう。私は転移魔法は使えない。
しばらくすると、魔塔の主が音もなくいきなり現れ「行くぞ」と、私の腕を掴んできた。どうやって?と聞く間もなく、気づけば知らない部屋にいた。
「え、ここは?」
「魔塔だ」
瞬きの瞬間くらい、本当の一瞬の出来事だった。思わず「すごい」と口から出た。
「マリ、ここにある本が全て古代語で書かれたものだ。題名や冒頭を読んでくれ。それで私が翻訳を優先してほしいものを選別する」
私は部屋を見渡す。2度目の人生でいうところの八畳くらいの部屋に、壁一面が全て本棚になっており、隙間なく本が並んでいる。本棚に入りきらない本は、テーブルや椅子の上に積み重ねられており、ちょっとした振動で崩れ落ちそうにみえる。
「えっと、最終的にはここにある全ての本の翻訳が目標ということですか?」
「当たり前だろ」
まーじーかー。え、本気?本気なの?どのくらいの期間かかるの、この量は。
私が言葉を失っていると、魔塔の主は呑気に「さ、右上から順に読み上げろ」と言ってきやがった。横暴だが、逆らえない自分がいる。私は素直に右上から順に題名を読み上げた。魔塔の主が気になった題名の本は、最初の数ページを更に読み上げる。そうやって翻訳を優先すべき本を選定していった。
なかには物語があった。私が興味を示したら魔塔の主が「持っていっていいぞ」と言ってくれた。私は遠慮なく持ち帰ることにした。
翻訳を優先する選抜された五冊。タイプライターがいつ出来上がるかもわからないため、手書きになる。私の全ての時間を翻訳に費やすわけでもないため、魔塔の主には「一冊に一月かかると思ってください」と言っておいた。すると魔塔の主は「なにっ!?そんなにか!?」と言ったあと、顎に手を当て何かを考えたと思ったら、「ひとまず、ここにある五冊の翻訳が終わったら、魔獣からとれる魔石以外。魔力を込めれる水晶について教えよう」と言ってきた。
「なっ!ずるい!」
「ずるくない!」
早く情報が欲しがったら、私は翻訳を急ぐしかない。でも、魔塔の主は口を滑らせた。魔力を込めれる水晶だと。
エリックにコッソリ水晶の入手をお願いしよう。どこどこ産の水晶でなければダメだよ、とかないことを祈る。
「……翻訳が早く終わった場合とかに、魔塔の主に連絡をとる方法を教えてください」
本来、魔塔の魔法使いに連絡をとれるのは、各国の魔法使いの代表だけだが、魔塔の主直々に依頼を受けているのだ。連絡手段くらい教えろと思う。
魔塔の主は私に、手紙を封蝋する時に燭部分に押し当てる封蝋印を渡してきた。
「これで封蝋した手紙を暖炉か何かで燃やせ」
「それで連絡がとれるんですか?」
「あぁ」
私は封蝋印を受けとった。普通の封蝋印にしか見えないが、何かしらの魔法がかかっているのだろう。
「では、何かあったら連絡します」
私は翻訳する五冊と、自分が読むための本を抱えもつ。重くて両腕がプルプル震え出す。
魔塔の主は「では、またな」と私の頭を掴んだかと思ったら、自分の部屋に戻ってきていた。




