27_厨房
厨房を目指して歩きながら途中にある窓から外をのぞくと馬車が一台停まっている。
「あの馬車はエリックのお父さんがのってきたやつかな?それとも、お嬢様がのるやつかな?」
エリックは私の言葉を聞いて窓をのぞく。
「あれは……うちの馬車だ。さすがのアイツも帰ったのだろう」
「それなら良かった」
これで心置きなくジェットさんを捜せる。
厨房に近づくにつれ、ジェットさんの声が聞こえてくる。私は「ジェットさんいたね」と思わず笑ってしまった。エリックは「本当に声もでかいな」と呆れてつつ「まぁ、見つかったし良しとしよう」と言った。
厨房に顔を出して「ジェットさーん!」と呼びかけた。ジェットさんは厨房にある椅子に座りご飯を食べていた。なにか見たことあるのを食べているなと思ったら、私たちが食べていた朝食の食べ残しを食べているようだった。そういえば、お嬢様のせいで朝食が中断されたことを思いだした。そう意識したとたんにお腹が減ってきた。ジェットさんは「どうした!」と食べる手はとめない。
「父上が雇用の関係で簡単な面談をしたいと言っている。応接室に向かってほしい」
「応接室?場所わからないぞ」
「私が案内する」
ジェットさんは「ありがとよっ」と、残りを口にほうりこみ、飲み込んだあとに立ち上がり、こちらに向かってくる。その時、私のお腹が鳴った。エリックはじめ、バレットさんにリザさん、ジェットさんまでが私に注目する。そんなに見ないでほしい。恥ずかしいから。
「エリザベス様の乱入で朝食が途中だったものね。今簡単に何か作るから待っててちょうだい。エリック坊っちゃんも何か召し上がれます?」
バレットさんはそう言って、昼食の仕込みをしていただろう手を中断し、パンを準備しはじめた。リザさんは「エリザベス様、いつもいきなりですもんねー」と食器を洗い続ける。
「あぁ、私のぶんも頼みたい。マリの腹の虫の鳴き声をきいたら、私までお腹がすいてしまった。筋肉バカを応接室まで案内したら戻ってくる。せっかく朝食を準備してくれたのに残してしまって悪かった」
ジェットさんは「筋肉バカって俺か!?」とエリックに問いかけるが、エリックはそれには答えず「マリ、私も戻ってくるからここで食べておいて」と厨房をあとにした。ジェットさんは「待ってくれよ」とエリックを追いかけていった。
「マリちゃん、サンドイッチ作っちゃうから座って待ってちょうだい」
バレットさんにそう言われたので、先ほどまでジェットさんが座っていた椅子に座る。リザさんは食器洗いの一区切りがついたのか「今片付けますね」と、目の前にあるジェットさんが食べいた食器を片付けはじめた。
「せっかくの朝食、食べきれなくてスミマセン」
私はバレットさんとリザさんに頭を下げた。早起きして作ってくれているのに、残してしまって申し訳なかった。
「気にしてないわよ。いつも完食してくれてるし、こちらこそありがとう」
「そうですよ。他の屋敷だったら残されるの当たり前ですからね」
バレットさんとリザさんはそう言ってくれた。
「さぁ、マリちゃん!サンドイッチを召し上がれ」
バレットさんは私の前にハムとサラダのサンドイッチを置いてくれた。なんと、オレンジというデザートつきである。
「ありがとうございます」
私はサンドイッチにかぶりついた。リザさんはお茶を「これもどうぞ」と置いてくれた。私は「ありがとうございます」と一口飲んだ。
「それにしても、エリザベス様は諦めませんね」
リザさんがバレットさんが食べ終えた食器を洗いながら言い出した。それにバレットさんが相づちをうつ。
「本当よね。あのしぶとさ、見習いたいくらいだわ。マリちゃん、きっと恋敵認定されただろうから気をつけるのよ」
「……あはは」
なんと迷惑な話だろう。私は乾いた笑いしかでなかった。私は話題をかえたくなり、ジェットさんのことを聞いてみた。
「ちなみに、ジェットさんはどうでしたか?新しく鍛冶士として働く予定なんですけど」
「あはは!あの新しい人、バレットさんに『その筋肉はどう鍛えたんだ』って、すっごい詰め寄ったんですよ」
リザさんが笑いながら話してくれた。反対にバレットさんは苦虫を噛み潰したような顔をして「絡まれて大変だったよ。でも、単純に男手が増えることは嬉しいわ」と言った。
「やっぱり、エリックが言うように筋肉バカなんですかね?」
「私がなんだって?」
ここにはいない筈の声がして振り向いたら「今戻った」とエリックが立っていた。バレットさんはもう一脚、私の横に椅子を並べ、その前に私と同じサンドイッチとオレンジをおいた。リザさんは食器洗いを中断し、コーヒーをいれはじめる。エリックは「ありがとう」と椅子に座った。
「ジェットさんの話をしてたの。バレットさんに筋肉について聞いてたみたい」
「やはり筋肉バカだったか」
「ジェットさん、面談大丈夫そう?」
「多分大丈夫だろう。今回主としてみるのは人柄だからな。父上のことだから、人を街に派遣して身辺調査はしているだろうから。あの性格だ、悪さなんてできんさ」
「それなら大丈夫なのかな?あぁ、早く昨日買ってもらった素材を一緒に、ジェットさんと色々やりたいな」
私の夢は広がりんぐ。現在進行形だ。早く便利道具たちを作って、娯楽品にも着手したい。タイプライターができたら翻訳もだけど、恋愛小説も書いてみようかな?本当は他の誰かが書いたものを読みたいが、今は我が儘は言っていられない。
「工房ができるのはまだ先だぞ」
「うん、それは分かっているんだけど、やりたい事がありすぎて」
私は頭の中で恋愛小説の構想を練りながら、デザートのオレンジを食べた。




