page 85 : フレンド
2年3組──朝の教室では、真二の席を取り囲むように何人かの男子生徒が集まっている。
「おい、真二……お前、その顔の傷。どうした?」
「それにしても、派手にやったな。何したんだよ」
顔を歪めるオーディエンスに、真二は笑う。
「猫に──引っ掻かれた。まあ、それも俺が悪くて」
「猫だあ?人間様に爪を立てるなんて、身の程知らずな野郎だな!剥製にしてやろうぜ」
シャーッ!と猫の威嚇のマネをする男子に、頬の爪痕を撫でる真二は言う。
「──いいんだ。それに俺、猫は嫌いじゃないから」
「ふーん。ま、男は傷ついてなんぼだもんな!」
「いつの時代だよ」
ケラケラと楽しそうに笑い合う真二たちを見つめる、猫好きAと蛇遣い。
「ボス、良かったのか?治してやらなくて。こう見ると、流石に痛々しいよな」
苦笑いを浮かべる蛇遣いの隣で、猫好きAは指に黒い髪を巻き付けて遊んでいる。
「治そうとしたさ。でも、本人がそのままでいいって言うんだから」
視線を感じたのか、真二は男子生徒の輪の中からふと、こちらを見る。
ふたりと目が合った彼は、照れくさそうに口元を緩めた。
──放課後、百合亭。
チリンチリン──
夕方の賑わう喫茶に一人、色白の青年が入店する。
それと同時に、席に座る大柄な青年が手を挙げた。
「待夜、こっち」
──テーブルを挟む、梨人と真二。
とりあえず何かをと、ふたりは揃ってホットチョコレートを注文した。
温かいマグカップを手で包み、暖をとる二人。
少しの沈黙の後、真二は口を開いた。
「ごめんな……急に呼び出して。俺と二人なんて、そりゃ嫌だよな」
「えっ?あ、ううん。僕なら大丈夫だよ」
そういう梨人だが、正直な彼の目線は微妙に泳いでいる。
そんな梨人に、真二は何かを決心したように頷くとマグカップから離した手を両膝に置いた。
「MINE……読んでくれたよな?」
「うん」
「俺、待夜のことを誤解……してたんだ。二年の初めの頃、俺の誘いを片っ端から断る待夜に、どうしても腹が立った。俺を拒絶されている感じがして、むしゃくしゃしてた。でも、それが間違いだったんだ。俺は──待夜、お前のことを知ろうとしなかった。可哀想なんて思って自分の偽善を押しつけたあげく、お前をスカした奴だって勝手に決めつけて──」
俯いていた真二は、しっかりと顔を上げると梨人と目を合わせる。
「今まで……酷いこと言って、傷つけて。反省してる。本当に、ごめん」
そう言うと、真二は勢いよく頭を下げた。
彼の頭はそのままテーブルに激突し、ゴチンと鈍い音を立てる。
静まり返った二人の間に、カップの中のホットチョコレートがゆるやかに波を打つ。
「ええと……岩倉、大丈夫?」
梨人の心配する声に、真二はパッと顔を上げる。
「だ、大丈夫。悪い、加減を間違った」
おでこの中心を真っ赤にした真二に、梨人はつい笑ってしまった。
「フフッ……岩倉には、もちろん怒ってることもあるよ。この前だって、結構痛かったし」
「ご、ごめん……」
「でもさ。岩倉って多分、不器用だよね。それは僕もなんだけど」
そう言う梨人は、ホットチョコレートを一口啜る。
「だけど、今の岩倉の話聞いてたら、僕にも非があるんじゃないかって──」
「そんなこと無い!!」
テーブルに拳を立てる真二に、眼鏡をかけた店長が咳払いをする。
反省するように俯く真二に、梨人は話を続ける。
「僕ね、人付き合いが苦手なんだ、昔から。他を信じきれないところがあって。ダメだよね」
「……何も、ダメじゃねえだろ。慎重になって何が悪い」
いつの間にか、自分のために怒る真二に梨人は笑みを溢した。
「岩倉──僕たち、こうしてちゃんと話すべきだったね。今日が無ければ、僕たちはこのまま誤解し合ったままだったと思う。言葉にするって、大事だね」
梨人の言葉に、真二は勇気を振り絞る。
「お、俺……待夜と、もっと喋りたい」
言い終えた真二は、チラリと向かい側を見た。
「あ、本当?でも、今日はもう日が暮れるからMINEで──」
「あ、違う。そうじゃなくて……えっと」
真二は制服のポケットからスマートフォンを急いで取り出すと、アプリを起動させた。
「俺も、このゲームやりはじめてさ。もし、待夜が嫌でなければ──フレンドにならないか?今更かもしれないけど、これから一緒にできたら……なんて」
驚く梨人は、たちまち笑顔になった。
「いいね。僕もね、ちょうど最近、マルチプレイの立ち回りを掴めてきたところだったんだよ」
二人は、テーブルから身を乗り出すとスマホゲーム『ナイツパレット』のIDを交換した。
嬉しそうに画面を眺める真二に、梨人は言う。
「岩倉──これで僕たち、フレンドだね」




