↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/93

page 79 : 失恋エイリアン

「ごめんなさい、お家(うち)まで押しかけてしまって。この前のお詫びと、その……コルクさんに、どうしても伝えたいことがあって。」


目を泳がせる彼女の前には、大柄な男が立っている。


「梨人の友達の、お姉さん──だったんですね。俺、知らなくて。それに、なんていうか驚きました。あの日と、外見も少し変わったような気がして。違ったんなら悪いですけど。」


「はあっ、覚えていてくれたんですね……髪、黒に戻したんです。この方が、誠意が伝わるかなと思って。」


待夜家の庭先で話す、英里(エイリ)と蛇遣いを恵が窓から気にかけている。


「英里ちゃん、久しぶりに顔を見たけど……何かあったのかしら。」


セーヤはガラス越しに覗く恵に近づくと、背後から尋ねた。


「来客ですか?」


「えっ、ええ。コルクに用事みたいね。」


(いつの間に!?)


恵は、突然気配を現したセーヤに驚きを隠せない。


「……あちらの方は?」


「ああ──鈴央くんのお姉さんで、英里ちゃんよ。あ、鈴央くんは梨人の同級生ね。それにしても、ふたり……いつの間に知り合ったのかしら。」


ふたりに見守られる中、英里と蛇遣いの会話は進む。


「コ、コルク様──」


「ちょっと待ってくれ。どうして、様……?」


俺はいつから偉くなったんだと目をぱちくりさせる蛇遣いに、英里は頭を下げる。


「この間は、本当にごめんなさい!許可なく触れてコルク様を怖がらせてしまったこと、勝手に写真を隠し撮ったこと……深く、深く反省しています。」


言葉通り深々と謝罪する英里の前、蛇遣いは腕を組む。


「頭を上げてください。触れられたことについては俺、怒ってなければ傷ついてもいませんから。なんなら忘れてたくらいですし。」


「本当、ですか?」


パッと顔を上げた英里に、蛇遣いは付け加える。


「ただ、隠し撮りは許し難いです。冗談じゃなくて、俺の情報は高く付くんですよ。」


その一言で、一瞬にして英里の顔は曇る。


「まあ──百歩譲って。この場で、撮った写真全て消してくれるのならば水に流しますけど。どうしますか?」


「はいっ、すぐに消します!いや──信用が無ければ、コルクさんの手で直接消してください。」


英里が、スマートフォンを取り出そうとした時。


「ほら、消してだってよマスター。それとも、私が殺ろうか?」


嫌な顔をした蛇遣いが軽口の聞こえた方向を見ると、買い物袋を手から下げた猫好きAが立っていた。


「消すのは、人間じゃなくてスマホのデータ!俺の客人だ、余計な口を挟まないでくれ。」


「フフフ、済まないねえ。どうぞ、ごゆっくり。」


蛇遣いに向けられた猫好きAの目は、笑っていない。

人間との過度な接触を、良く思っていないのだ。


彼は英里にも、舐め回すように視線を這わすと玄関の奥へ消えていった。


「んだよ、あの態度──」


蛇遣いは英里の手からスマートフォンを取り上げると、その表示内容に目を見開いた。


「いや、いくつ撮ったんだよ……多すぎだろ。」


「すみません……気づいたら、こんなにたくさん……」


蛇遣いの見る画面には、色んなアングルから撮られた自分の姿が大量に保存されていた。

はあ、とため息をつくと彼は自分の映る写真の全てを消去した。


「これで、全部ですか?」


「はい、もうありません。あ、あともう一つ……」


少し不機嫌な蛇遣いの前に、英里は持参した紙袋を差し出した。


「これ、私の気持ちを込めて作ったんです。コルクさんに、贈りたくて。」


手渡された紙袋を覗くと、そこには手作りのマフィンが入っていた。

苫男が考案した『手作りお菓子で素直になろう計画』で一緒に作った"心尽くしの品"である。


「これを、俺に?お詫びだって言うなら、いただけませんよ。俺、言いましたよね。怒ってないって。」


「いえ、違うんです。お詫びだけじゃ、ないんです!」


(ま、まさか……コレで私の物になって欲しいとか言い出すんじゃないよな……)


蛇遣いは、英里との接触を思い出す。


"顔にカラダに……この男、結構良いかも。"


"私のモノにできたら──"


あの日、脳内に伝わってきた英里の私欲……


彼はまったく、忘れてなどいなかった。


「謝った後で、おかしいと思うかもしれませんけど──これが、私の素直な気持ちです。」


英里は、まっすぐに蛇遣いを見つめた。


「あなたのことが好きです、コルクさん。」


「好きになったら、好きばかりで。おかしいことにも自分一人では気づくこともできなかったんです。ブレーキが効かなくなっちゃったんです。それくらい、好きなんです。隣にいたいと思ったんです。」


彼女の潤む瞳から、蛇遣いは目を逸らせなかった。

どうして──こんなにも不器用なんだ。


俺も不器用。


猫好きA(ボス)も不器用。


たぶん、梨人も不器用。


皆、それぞれの想いを抱えて生きている。


不器用って……こういうことなんだろうな。


どうしようもない感情にもがいて、狂って、派手にあるいは、地味に間違えて。


でもだからって、不器用がダメなわけじゃない。


彼女は──たくさんの間違いの果てに、素直な自分の気持ちを見つけることができた。

そして、それを俺への謝罪と告白という形で行動に移した。


自分が不器用な存在だからこそ、誰かの不器用が分かることって、ある。


だからこそ、そんな不器用を受け止めてくれる誰かが居てもいい。


蛇遣いは、英里から受け取った紙袋を太い腕で確かに抱えると少し悲し気に、それでも精一杯、微笑んでみせた。


「──ありがとう。俺は隣にいてあげられないけど、英里さんの、その気持ちは大切です。俺を想ってくれたことに変わりはないんだから。」


英里は、蛇遣いの最後の優しさに涙を流す。

手で顔を覆い震える彼女──ガラス越しに佇むセーヤは、リビングの猫好きAに言った。


「──たった今、終わったみたいです。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。