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page 70 : 反逆組織

「うわ!やっぱりそうか……どっかで見た奴だと思ったんだよな。」


「姑息だよね、梨人を囮に私たちをおびき寄せる作戦だったみたい。」


──ここは、高校の屋上。


猫好きAと蛇遣いは、足元で冷たくなった六本足の屍を傍観するように立っている。

猫好きAは、遺体になったスイーパーの近くに薄いハンカチを敷き広げると、あぐらをかいた。


「彼ね、忘国を裏切ったんだって。馬鹿だよね──今更、怪しい組織に加担してさ。モネジスタの5番席を捨ててまで、何をしたかったのやら。」


──スタッ。


ふたりの視界に、ふわりと黒い外套の裾が舞う。


「お待たせしました、猫好きさん、マスター。」


屋上に、セーヤが到着した。


「セーヤさん……!」


「セーヤくん。ごめんね、呼び出して。」


「いえ。それで……彼ですか。猫好きさんを襲ったというのは。」


セーヤは、スイーパーの遺体を冷ややかな目で見下ろしている。


「まあ……正しくは梨人を、だね。」


「梨人くんを!?彼は、無事なんですか?」


「うん、とりあえずは。」


猫好きAはあぐらの姿勢で、だるまのようにユラユラと揺れている。


「セーヤさん、梨人──ちゃんと避けていたんですよ、攻撃を!見た目によらず、案外動ける方みたいで。」


「ええ、本当ですか?それは驚きですね。」


セーヤは、話しながらグローブの手でスイーパーの顔に掛かる髪を除けた。


「──なんです?このマーク。」


遺体の頬に刻まれた、下矢印。

セーヤは髪を耳に掛けると、目の前のマークをまじまじと観察し始めた。


「……見覚えのないものですね。おふたりは、これについてご存知ですか?」


「知ってるような、知らないような。どこかの組織だとは思うんだけど。」


「うーん、俺も見たことないですね……あ!でも、似たのだったら……!」


蛇遣いは自分のこめかみに指を二本立てると、その指で地面をサラサラとなぞる。


ゴツゴツとした指先が、彼の記憶を形にしていく。


彼が指を離すと、そこには下矢印ではなく──上矢印を基盤としたマークが記されていた。


「確か、使者のマークってこんなんだったよな?ボス。」


蛇遣いが描いた、"使者のマーク"──

これは天空睡郷(てんくうすいきょう)に属する『天空使者』が持つ、紋様。

その天空睡郷とは、上空都市のまた上層部。天幕を越えた先にある"リヒターたちが行き着く国"である。


「ああ、それだ!既視感の正体。」


猫好きAは立ち上がると、蛇遣いの描いた使者のマークとスイーパーの頬の印を交互に見比べる。


「あの、すみません。話が見えないのですが、その……"睡郷"っていうのは──」


猫好きAは、セーヤの方をくるりと振り返った。


「あれ、もしかして知らない?セーヤくん。」


「え、ええ……恥ずかしながら。」 


猫好きAは、この展開を待っていたかのように指を勢いよくパチンと鳴らした。


「マスター!」

「あいよっ、ボス!」


蛇遣いは再び指を地面に走らせると、思い浮かべたイメージを具現化した。


「おお……さすがはマスターですね。これなら、僕にも分かりやすい。」


そう言うセーヤの目の前には、天空・上空・中空──そして、人間界の位置関係を表した図が出来上がっていた。


コホン、と改まった制服姿の猫好きAは、いつの間にか召喚した導きの横笛(リードパイプ)で、縦に描かれた階層図を指しながら説明を始めた。


「いいかい、セーヤくん。

私たちの巡影が属する、『上空圏』。その上にはね、天幕という一つの区切りが存在している。

その天幕を抜けた先、天空──ここにある、唯一の国それが、天空睡郷。通称『睡郷』。

リヒターの本山であり、リヒターの教育機関。そこには、"天空使者"と呼ばれる族が居てね──」


説明途中の猫好きAは、横笛をパッと近くの電柱に向ける。

ピチチチチ……

呼び掛けに応じたかのように電線から飛び立ち、一匹の丸々と太った雀が猫好きAの肩に止まった。


「──その彼らは、元はリヒターだった存在でもれなく全員が故人。

使者は、私やマスターのような現リヒターに1人ずつ付くルールでね。

リヒターとして指名された者にしか使者は見えないから、仮に使者が巡影に降りてきていたとしても、セーヤくんたちや一般のニンゲン含む他とは関係を持つことはできない。──どう?何も楽しく無いでしょ?」


猫好きAの肩に居た雀が、次は頭に飛び移る。

雀に気がついた蛇遣いが、構って欲しさにるーるーるーと呼ぶも、尾っぽを向けられてしまった。


一方のセーヤは顎に手を置き、猫好きAの話に頷いている。


「なるほど……リヒターにとって残酷なシステムだということは分かりました。」


蛇遣いが後ろに回り込み雀の顔を覗き込むと、雀は猫好きAの頭から飛び立ってしまった。

しょぼくれる蛇遣いに猫好きAは横笛を差し出すと、静かにスイーパーの遺体の真横に立った。


「そこで、クエスチョン。スイーパーの頬にあるのは下矢印。そして、天空使者が持つのは上矢印──ここから見る、下矢印に隠された意味は、何か。」


セーヤは、真剣な猫好きAの顔を見つめる。


「上と下……対の意味を持つ印……まさか──」


猫好きAは、セーヤに応えた。


「睡郷の反逆組織──ってことになるね。」


セーヤの外套が冷たい冬の風に吹かれ、踊る。

考察するふたりの背後では、蛇遣いが横笛を抱えて地面に座っていた。


「はあ。堕ちた次は敵対って。トラブル続きで嫌になるな……なあ?ハトメ2号。」


彼と同じ目線に在る、黒いつぶらな瞳──

横笛に誘われて蛇遣いの元にやってきたのは、雀ではなくカラスだった。

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