表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/41

第38話 窮地を乗り切る即興劇

「逃げちゃダメですよ!」

「ひいぃぃぃっ!?」


 忍び足で背後から近づけば、眼前の女性が甲高い悲鳴を上げた。

 ディスティさまとゼルスさんの騒動に乗じて隠れていた女魔道士──フローラさんだ。

 拘束されながらも、這いつくばって瓦礫の後ろに移動していたらしい。


「ななな、なによ!? さっきの報復でもしに来たっての!? おお、落ち着きましょ? あ、あ、あの時は、あたしも焦ってて。それでうっかり、気を急いたっていうか……」

「そうですね。落ち着いて、話し合いをしましょうか」

「そう、そうよ! ……へ……?」


 目をきょどらせるフローラさんと向き合って、わたしは伝える。


「あなたにお願いしたいことがあります」

「お……おねがい……??」

「手伝ってくださるなら拘束を解いてさしあげますし、そのまま、あなたの逃走も手伝いますよ」

「へっ?」


 またまた、彼女は素っ頓狂な声を上げた。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「──フローラ!? それにフィナまで!?」


 わたし達のことに最初に気がついたのは、リオさんだった。


「く……! 来るんじゃないわよ!!」


 ナイフをわたしの胸元に突きつけて、フローラさんが叫ぶ。

 右手にナイフ、左手でわたしを捕らえる彼女の姿は、人質を盾にする悪人そのものだ。


 まあ、そうするよう頼んだのは他ならぬわたしなのだけど……。



「フローラ! アンタ、この緊急時に何をやってんのよ!?」

「ううう、うるさいっ! リオは黙ってなさい!! い……いい!? こ、この娘の命が惜しいなら、じっとしてなさい! リオは勿論、そっちの神官とか、ドラゴンもよ!!」


 事態に気がついたのか、ゼルスさんとディスティさまも動きを止めた──が、



 びゅんっ!



 間髪入れず。ディスティさまが手中の短剣をこちらに投じた!


「≪ファイア≫ッ!」


 どぉん!


 リオさんの魔法が、投擲された剣をあらぬ方へ弾き飛ばす。

 流石のリオさんだ。反応速度は勿論、こんな状況でもコントロール精度がぶれない。


 ディスティさまについては、正直この方ならやるだろうとは思っていた。

 けどここまで迷いがない点については、そろそろ驚きを越えて感心を覚えるな……。


「なぜ、邪魔をされるのです?」

「当たり前でしょ! アナタには人質が見えていないわけ!?」

「馬鹿馬鹿しい……。あんなの、狂言でしょう」


 黒衣から次の凶器を取り出しながら、彼が冷たく言い放つ。


「この混乱に乗じれば、逃げるのはたやすいはずです。なのに彼女は人質なんて下策を取った。なんらかの目論見があると勘繰るのが普通ですよ」

「……そうね。アタシもそれは思った。けど、そんなの関係ないわ。凶器を突きつけられた人質が居ることに変わりないなら、それを(ないがし)ろに出来るわけがないでしょうが!」


 リオさん……。

 人命を重んじる彼女の発言に、胸がざわつく。

 ……厚かましいとは思う。そんな彼女の良心を利用しているのは、他ならぬわたしなのだから。

 それでも……リオさんのことを思わずには居られなかった。


「それにフローラは超一級の癇癪(かんしゃく)持ちよ。下手な刺激を与えようものなら本当にやりかねないわ……!」


 確かに。

 フローラさんのナイフを持つ手は、異常なほどに震えている。

 フリだと分かっていても、この距離の剥き出しナイフは中々のヒヤヒヤものだ。


「ひっ、ひひひっ! ああああいつ! 攻撃してきたわよ!? 教会のやつらってやっぱ普通じゃないわあっ!?」


 そこはかとなく、アブナイ雰囲気。

 元々緊張しい様子だったところに、ディスティさまからの攻撃を受けて軽度のパニック状態になっているらしい。

 くれぐれも、ものの弾みでナイフを振り下ろしたりはしないで欲しいなあ……。


「落ち着いてください。リオさんが睨みを利かせている今がチャンスですよ」


 わたしは小声で彼女に次の行動を促した。

 フローラさんに連れられる形でゼルスさんに近づく。

 これを警戒して、ゼルスさんが低く唸る。


「フローラさんは、ここからどうする気なんですか」

「えっ……と……っ決まってるでしょ! このドラゴンに乗って逃げるのよ!」


 しらじしい会話だけど、今はこれぐらいあからさまでいい。

 ぴく、とゼルスさんの瞳孔が細長く伸縮する。

 こちらをまじまじと見ていたので、わたしは唇の動きだけで伝える。



 も・う・だ・い・じょ・う・ぶ・で・す──と。



「────……」



 ふ、と。

 ゼルスさんの表情が和らぎ、こちらに向けられていた敵意が薄まった。



「っ! 待ちなさい!」


 それとほぼ同時に、ディスティさまが駆け出した!


 もはや一刻の猶予がないと察してなのだろう。睨み合いを一方的に破った神官をリオさんが魔法で止めようとするも、相手は圧倒的に早い。


 彼の刃は、もうわたし達の後ろにまで迫っている──!



「ひっ!」



 ガキィンッ!



 ──フローラさんの悲鳴とあわせて、鈍い剣戟(けんげき)が鳴り響いた。



「……剣の矛先が違うのでは? なんて、野暮なツッコミですかね」

「そりゃーね。仲間を何度も斬ろうとした奴の動向に気をはらわないわけ、なくね?」

「はっ。随分と悪いイメージを持たれてしまったものですね──」


 そう言うと、ガーラさんは剣ごと相手を打ち払い、その胴に足蹴りを入れる!

 地面に背を打ちつけながらもディスティさまは受け身を取り、すぐに体を起こした。


 ガーラさんはそこから踏み込まない。

 追撃が目的ではないから、という以上に、嫌な予感があったからだろう。

 なにせ今のディスティさまの表情には──不敵な笑みが浮かんでいたのだから。



「≪エアロ・ブラスト≫」


 ばしゅぅっ!


「ふぎゃ!?」


 そこで突然、フローラさんが後ろに倒れた。

 今のは──風の魔法による攻撃!?

 魔法が飛んできた先に目をやると、鋭い眼光でこちらを見据えるシスターが一人。


 しまった。シルフィールさん、もう回復を終えていたんだ──!

 まずい。フローラさんが倒れたとなれば、リオさんも動き出す!


 案の定、片や剣を片手に走り出し、片やすかさず魔法の詠唱に移っていた。

 ディスティさまのほうはガーラさんが止めに入れても、リオさんのほうまでは手が回らない。そもそもリオさんへ対抗するのはここまでの茶番を台無しにする。


 仕方ない。この手は使いたくなかったけど……!


 わたしはフローラさんを助け起こしながら、大きく叫んだ。



「助けてください、ゼルスさんッ!」



 ──リオさんの詠唱が止まった。


 その隙でゼルスさんの手指がわたしとフローラさんを掴み、翼をはためかせる!



 ばさあっ!



 離陸はすぐに成された。

 どんどんと地面が遠くなっていく。人や建物が小さくなっていく。


「──! ────!」


 誰かが何かを叫んでいけど、この距離ではもう聞き取れない。

 もはやわたし達は、お空の上の人だった。


 ……飛んでいる。


 ドラゴンにつかまって、なんて形だけど……それでも圧巻の光景だ──。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ